女人泉 「もし万が一俺の弟子になれる可能性があれば、どうする?」
「さて。ここが地図にあった場所なわけだが……」
島に入って、森に分け入り、斜面をすこし登って、すこし開けた場所に出た。
そこは湧き水が溜まってできた泉だった。小さな池ほどのサイズがある。
地図といっても手書きのものだし。現在地点の確認方法についても、高空から見下ろしたわけでもないので、正確性は欠けている。
だが地図の示すこの付近に、ほかになにか目を引くものがあるかといえば、なにもない。
よって、この泉が、目的地で間違いないわけだが……。
「ね? お宝! どこっ? どこにあるのかなー?」
アレイダのやつが、ぴょんぴょんしている。
この駄犬は、古びた人形の中から出てきた紙片が、宝の地図だと決めつけているわけだが――。
俺のほうはべつに、本物の宝の地図だなどと思っていない。
ただ、わざわざあんな仕掛けをして隠してあった以上、なにか特別な場所を記したものだろうとは思っている。
エイティのやたらと高いLUK値があるから、ひょっとすると、もしかして……ぐらいは考えているが。
まあ、ただ単に、子供のイタズラとか、そういうことなのかもしれないが……。
あー、そういえば、作ったなー。ガキの頃。
宝の地図! ――とかいって、デタラメ書いて、それっぽい入れ物に隠したりとか。
………。
やはり、この地図も、そういった類いのものなのか?
だとしたら……、マジになって探索しにきた俺たちって……、とんだマヌケ?
「――クザク。近くになにか、地下への入口とかはあるか? あるいは祠だの、そういったものは?」
俺はクザクにそう言った。
この手のことは、レンジャー系の職であるクザクの領分だ。
「いえ。なにも」
彼女は肩をすくめて返してきた。
改めて調べるまでもなく、すでに探索済みらしい。
「だとすると、なにかあるなら、やはり、この泉ってことになるわけだが……」
俺は泉の水面を見つめた。見たところ、なんの変哲もない、ただの泉だ。
「なんらかの魔力を帯びているようですね」
モーリンが言う。泉の水面を凝視している。
ふむ。やはりただの泉ではないらしい。
「鑑定してみるか」
俺は鑑定スキルを使ってみた。すると――。
――『女人泉』。
泉の名前が判明した。
ついでに手元の地図も鑑定してみる。
こちらは『女人泉の地図』と出た。
まあ、そうだろうな。
だが名前がわかっただけ。女人泉という名の泉の、詳細については出てこない。スキルLvの問題だな。対人に対するスキルとステータス確認のためにしか使っていないので、あまり上げていない。
大賢者であるモーリンに鑑定させるか。カンストしてるし。――とも思ったが、それよりも、もっと良い方法があることに気がついた。
「おい。ハチ」
「なんでしょうか師匠! でもボクはハチじゃなくてエイティなんですけど」
エイティのやつはすぐに返事してきたが、同時に口答えもしてきた。
だったらなぜ返事をしてくる。
「うるせえ。口答えすんな。てめえなんかハチで充分だ」
「ひどいですよ~。ハチってなんなんですか~」
「あ、それ、わたしも昔、ゆった」
アレイダがハチに声をかける。
「――わけわかんないけど、わたし、カクっていわれてる。スケさんとカクさんなんだってさ」
「その話は、いまはどーでもいい」
「どうでもいいなら、ヘンな名前で呼ばないでよ」
「だが断る」
アレイダにそう言って、ハチに向き直る。
こいつには、いま、大事な役目があるのだ。
「あのな。ハチ。もしかしたらひょっとするとだが。万に一つよりは高い確率で、おまえ、俺の弟子になれる可能性があるんだが……。どうする?」
「やります!」
はい。即答。いただきましたー。
「じゃあ、おまえ、そこに立て」
俺はエイティを泉の縁に立たせる。
「えっ? あの……、師匠? なにをするんでしょうか?」
「いいから。向こうむいて、まっすぐに立ってろ」
「は、はひいぃぃ~……」
そして俺は、エイティのケツに――ヤクザキックをかました。
エイティのやつは、ざぼーん、と、泉に落っこちた。
がぼごぼげぼがぼ。
溺れている。
「あぶ――! わぶ――! し、ししょおぉぉ――! なにするんですかあぁぁ――!」
「泉に突き落とした」
「なんで突き落とすんですかあぁぁ!」
「この泉の名は、なんだ?」
「え――えと! えとえとっ!! た――たしか『女人泉』ですっ!!」
「うむ。そうだな」
地図によると、この島には、ほかにもいくつも泉があるようだ。
きっとどの泉にも、それぞれ名前がついているに違いない。
エイティは異様に高いLUK値を持っていた。邪神細胞に取りこまれたやつを分離するのは、十中八九、無理だろうと思っていた。
しかしやつは生還した。
前、ゴブ鍋から蘇生したモモタロウもLUK値が異様に高かったが、村勇者エイティ君のLUK値は、それさえも上回っているのだ。
そのエイティは、いま俺に性別を理由に弟子入りを断られている。
そしてあの地図は、そのエイティが〝偶然〟手にした木彫り人形の中に隠されていた。
その二つの事実が意味するところは――。
「もー、ひどいですよー、師匠ーっ……」
エイティが岸に上がってくる。
全身、ずぶ濡れで、ジャバジャバと体中から水を滴らせている。
濡れた服は体に張りつき、長い金髪の毛先から一連なりとなって水が流れる。
おおっ……。
こ、これはっ……。
水も滴る……。
俺はほとんど無意識のうちに、手を伸ばしていた。
その胸を、ぎゅむっ、と、鷲掴む。
「えっ?」
エイティのやつは、驚いた目で、俺の手を見ていた。
そして自分の〝胸〟に目を下ろして――。
「いっ!? いいいぃ~~~~っ!!」
「うむ。Eだな。美乳だな。おまえ」
大きさ、張り、弾力、すべてにおいて、申し分ない。
普通の女よりも肩幅があるので、その大きさでも巨乳ではなく、美乳としてバランスしている。
「よし! 弟子入りを認めるッ!!」
俺は大声で宣言した。
「えっ!? ほんとですか師匠! ――って! わっ! きゃあ!?」
俺はエイティを肩に担いだ。がっちりと捕獲だ。お持ち帰りだ。
「いや……、あのね、オリオン? ねえちょっと? わたしたち、ついていけてないんだけど……」
アレイダがなにか言ってる。
「みろ! 美少女だろう!」
俺はエイティをアレイダに見せた。
整った顔立ち。長く美しい金髪。均整が取れて引き締まった体つき。
こいつ、女だったらなー、と、何度、そう思ったことか……。
そしたらこいつ、女だった!
「うん。美人さんよね。……あのね? でもね? わたしの記憶が間違っていなければ、ついさっきまで……、ほんの三〇秒くらい? ――前には、彼、男の子だったような気がするんだけど……?」
「細かいことは! 気にするな!」
俺は言った。
どーでもいいじゃん。そんなこと。
俺がそんな、美少女の〝過去〟なんて気にするような、器の小さい男だと思っているのか。
「あーもー!! 辛抱ならん!! よし! ここでヤるかーっ!!」
俺は抱えていた美少女を、草むらに投げ出した。
「せ――せめてベッドでえぇぇっ! 師匠おぉーっ!!」
「だが断る!」
青姦だった。
めちゃくちゃセックスした。




