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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
10.みっつめの地 大武闘大会(商品は船)
79/161

決勝戦 「おいあれは邪神細胞……」

 決勝戦の日がやってきた。


『さあ皆さま! ついに決勝戦の日がやってまいりましたーっ!』


 バニー師匠の声が元気に響く。

 たぶんあの人、どんなに凄まじいセックスをやって、どんなに凄まじいアクメを極めた翌日でも、朝からあんなふうに元気なんだろうと思ってみたり。


『本日対戦するのは、皆さまもおなじみ、オリオン・チームと――! 優勝候補と名高いマイティ・エイティ――ッ!!』


 アイドル的な扱いであるエイティ君には、それなりのファンがついているようだった。

 客席の全部が、俺を応援していない。

 エイティ君を応援する――おもに女の子も、一定数は存在する。


 そこから歓声があがる。

 エイティ君はそれに応えるかのように、手を振って、笑顔を振りまいた。

 白い歯を覗かせると、「きらっ☆」とか、光が放たれた気がする。


 なんだあのビーム? スキルかなにかか?

 直撃されたファンの女子が、失神して倒れている。


『さあオリオンチーム――、じゃんけんしますかー?』


 バニー師匠が言う。


「決勝戦くらい、俺が出よう」


 俺は前に出た。

 まだ戦っていない者はモーリンもいるが、こくりと俺にうなずいてくる。

 ここは譲ってもらうとしよう。


 ずっと娘たちばかりを戦わせていたということもある。最後くらいは俺が締めないとな。

 ――というのは建前で。

 本音のほうは――。


 イケメンばくはつしろ。


 ――と、そうした感じだ。


「顔だけは、いいのよねえ」


 アレイダなんか、ほうっとため息などをついている。

 おいこら。色目なんか使ってんじゃねえぞ。ひっくり返って裏返るぐらい犯すぞ。


「あ――。ちがうちがう。そんなんじゃないから。心配しないで」


 俺の視線に気がつくと、アレイダは慌ててそう言ってきた。

 ふん。どうだか。


『それでは決勝戦を』


「オリオン君! 君に恨みはないが! ボクは勇者道を歩まなくてはならない! ボクはこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ!」


 勇者道ってなんだよ? さんざん歩かされてきたが?

 英霊召喚されて、赤ん坊のときから選択肢なしで歩かされたヤツならよく知っているが。

 そんなもん、好んで望んで歩く酔狂なやつなんて、見たことねえな。


『おーっと! オリオン選手! エイティ選手に! ライバル宣言かーっ!?』


 なんでやねん。

 なんでこんなチンチクリンの偽勇者なんかと、ライバルにならねばならんのか。


 ああもう。早く終わらせよう。

 プチっとやって、優勝したら、そしたらもうこのことは忘れよう。

 優勝賞品の〝船〟で出航して、洋上でクルーズしながら、アレイダからコモーリンまではべらせてセックスしまくろう。ちなみにコモーリンは見ているだけな。参加はなしな。ロリ向けエロ水着ぐらいは着ていてもいいが、参加はなしな。


「こいよ。おらが村の勇者の小倅こせがれ


 俺はなんとかモチベーションをかき集めると、牙を剥きだして、獰猛に笑ってみせた。


 偽勇者なんかに、本物の勇者が負けてやるわけにはいかない。

 実力で負けるはずは、もちろんないのだが……。

 なんか調子が狂う。このイケメン。


「勇者たる者が、たった一人に大勢でかかるわけにはいかない。一対一でお相手しよう」


 ――とか。エイティ君はおっしゃられた。


 ばか? ばかなの?


『おおっと――!? どうやら一対一の対決となる模様です! 常に一人で勝ち抜いてきたオリオン・チームに対する――これは挑戦状なのかーっ!?』


 せめて六人全員で、一斉にかかってくりゃいいものを――。

 エイティ君一人を残して、他の五人は、石舞台を下りていってしまう。


 くそう。俺らがやると痛快なのに、相手にやられると、死ぬほどムカつくな。


「ここに勝利を宣言する!」


 いきなり勝利宣言してるし。


『おや? エイティ選手――なにかをポケットから取り出したーっ! あれはなにかーっ!? ――はい、当大会は、限りなく実戦に近い想定を行っておりますので、アイテム類の使用に制限は設けておりません! ――ですが、あのアイテムは――なんでしょう? 情報……も、すいません! 手元に情報が届いておりません!』


 バニー師匠が鑑定失敗している。

 エイティ君は、なにかを握りしめていた。ボールぐらいの大きさの物体だ。

 遠目でよくわからないが――、なにか、不気味な色をした肉塊みたいなものを握りしめているようだ。


 俺はその肉塊の色と模様に、いやーな覚えがあった。


 あの紫と黄色の斑の感じ……。あれはたしか……。前々世で倒した……。


「……邪神?」


 前々世での勇者行において、中盤のどこか――。はじめて「中ボス」に相当するやつが出てきたときがあった。

 そのときの中ボスが、たしか、あんな色の斑模様の体表をしていて……。


「――! ……――! ……!? ――……!」


 なんか貴賓席のほうで、でっぷりと太った男が立ち上がっていた。

 こちらに向かってなにかを叫んでいる。


「えー? パパー!? なにー――!? 聞こえなーい!?」


 俺に死ねとか言ってきているのかと思いきや――ちがった。どうもエイティ君に叫んでいたようである。


 しかし……。パパだって?

 おまえ? いくつだ?

 ぷー。くすくす。


 そして家庭内の幼児語が、はみだしているが……。

 ぷー。くすくす。


 貴賓席の〝パパ〟が、なにを叫んでいるのかわからないが――。

 エイティ君は肉塊ボールを握りしめたまま、手を耳にあてて、〝パパ〟の声を聞こうとしている。


「……、……、はや……、投げ……、……それ……、投げ…ろ……」

「えー!? パパ、聞こえないよー!」


 傍で見てると親子漫才にしか見えない。

 俺はエイティ君に言ってやることにした。


「おい。なんか投げろって言ってるようだぞ?」

「え? なにを?」


「それじゃないか? その手に握っている……、邪神細胞」

「え?」


 エイティ君は、目をぱちくりとさせている。その手は、邪神細胞をぎゅーっと握りつぶし――いや、握り潰しているのではない。

 手からはみだしているのだ。


 握りしめられたままの邪神細胞は、どくどくと脈打って――増殖をはじめていた。

 あれは凄い生命力だからなー。ほうっておいても増殖して、そのうち復活するだろうし。近くに手近な〝有機物〟でもあれば、それを取りこんで一挙に増殖することも――。


「おーい。それ。手放したほうがいいぞー」

「でも……、パパが持っていろって……」

「いやだから、そのパパがな……。あっ」


 俺は説得の途中で諦めて、言葉を止めた。

 もう手遅れだった。


「あーあ」


 手から溢れた邪神の細胞は、どんどん増殖しながら、エイティ君の体を飲みこんでしまった。

 そこから一気に増殖速度があがり――。


「おー、でっけー」


 みるみるうちに、見上げるほどの大きさに成長した。

 ただし本来の形態には戻っていない。なんとか手足と見分けられる程度の造形を持った、単なる肉の塊だ。


 しかしそれでも邪神細胞。

 こんなのを世に解き放ったら、七日くらいで、この大陸くらいは壊滅してしまうだろうか?

 俺が始末を付けるしかないか。


『さあエイティ選手、なにかアイテムを使いましたが――その結果! ご覧ください! 巨大な変身をしました! なお当大会はアイテム使用に制限はございませんので、エイティ選手の変身も、当然! 認められます!』


 バニー師匠は動じない。

 まだ試合続行なのか。


 ちら――っと見たら、ばちこーん、と、ウィンクが返ってきた。

 あれはすべてわかっていて、やっているという顔だ。


 しかし、できそこないとはいっても邪神の一部。

 素手で相手をするには、いまの俺でも、少々、荷が重い。

 俺は、ちょいちょいと、手招きをした。


 呼ばれて動いたのはコモーリンが、石舞台の上によじのぼってくる。


『あー、ちょっとちょっとー。降参した選手は上がってきちゃだめですよー!』

「私は選手登録をしておりませんので。部外者です」


 しれっと言って、コモーリンは俺のところまで、とことこと歩いてくる。


「マスター。武器を」

「こっちからでも、出せるのか?」

「試してみられては?」


 そう言うので、俺は試してみることにした。


 コモーリンが胸の前で印を切り、魔術を使う。亜空間の入口を胸に開く。

 俺はコモーリンの小さな胸に押しあて――そのまま、ずぶずぶと肘まで突き込んだ。


 傍目には少女の胸を串刺しにしているように見えるはずだ。だが背中側から腕は抜けていない。

 俺はコモーリンの胸に開いた亜空間の中で――その武器を、しっかりと掴んだ。


 引きずり出してきたそれは――途方もなく巨大な、金属の塊としか表現できない物体だった。


 人のために作られた武器ではない。魔神の武器である。

 あまり振るってよいものではないので、普段はモーリンの体内亜空間にしまいこんでいる。


 だが邪神クラスを倒すとなれば――必要だった。


「マスターはお優しいですね」

「あん?」

「ただ倒すだけなら、必要ないものですのに」


 コモーリンにはすっかりバレているようである。

 ただ倒すだけなら、素手でも倒せる。今度こそ邪神細胞が一片も残らないように足さなくてはならないが、それもできる。

 魔神の武器がなければ、さすがにできないのが……。


「オラオラオラオラぁ――ッ!」


 俺は頭上に掲げた金棒を、ぐるんぐるんと振り回しはじめた。

 どんどん回す。

 際限なく回転数を引き上げてゆく――。


 一定回転数を過ぎたところで、俺の頭上に巨大な竜巻が生じた。

 俺はさらに金棒を振り回す。竜巻はますます巨大に成長して――邪神よりも大きなものとなってから、一気に――襲いかかった。


 物凄い暴風のなか、邪神の肉がちぎれてゆく。

 あの竜巻は単なる風ではない。俺の魔力を、ごっそりと持っていった――いわば魔力の風であった。

 あの竜巻の内部にいるかぎり、強烈な風魔法を受け続けることになる。

 そして竜巻は、敵を倒すまで、決して解除されることはない。


 本物の勇者の魔法竜巻の味は、どうだ?

 すでに一度倒された再生邪神などに使ってやるには、勿体ない技なんだがな。


 剥ぎ取られた肉は、その場で分解されてゆく。細胞一つさえも残さない。

 こんどは不始末は犯さない。


 前回、前々世で、俺がやらかした不始末だった。肉塊一つ、残してしまった。


 邪神の肉体を、細胞の一片まで消滅させきると――。

 その途端に、魔法竜巻は消失した。


 その差は一秒でも計れないほどの短い時間だ。

 こちらの世界には、それほど短い時間単位は存在しないのだが――魔法竜巻は、邪神の消滅のあと、ミリ秒以下で消失するように調整しておいた。


 なぜならば――。


 裸の男が、倒れていた。

 一度、邪神に取りこまれはしたものの、取りこまれたのは服と装備だけで済んでいた。


 救出が早かったせいだ。――っとと、べつに救出なんてしていない。俺が男など助けるはずがない。

 俺が倒すべきなのは邪神だけであったから、たまたま、こいつだけ残ったというだけの話だ。


『――おおーっと! オリオン選手の竜巻攻撃に、ついに変身を維持できなくなったかー! 倒れております! エイティ選手! 倒れております! ――さあ! それでは皆さん! ご一緒にーっ! ――(ワン)

「――(ワン)


 会場中の全員が――あいつの親衛隊の女子までもが、声を揃えて、カウントを告げる。

 カウントはひとつずつ上がってゆき、そして――。


『――10(テン)!』

「――10(テン)!」


 俺たちの勝利が、確定した。


 タンカが運ばれてくる。治療班のプリースト部隊も駆けつけてくる。

 エイティ君は――おや、意識を取り戻しているようだ。タフだな。一時的にとはいえ、邪神に取り憑かれていて、精神的に廃人になっていてもおかしくないのに。

 偽でもへっこぽこでも、いちおうは「勇者」の肩書きを持っているということか。


「た、たのみが……、あ……、あります……」


 地面に倒れたままのエイティ君は、俺の目をまっすぐに見上げて、そう言った。


「言ってみろ」

「ぼ、ボクを……、で……、弟子に……、してくださいっ」

「断る」


 俺は当然のように断ってやった。


「そ、そんなぁ……」


 エイティ君は、がっくりと気落ちした。

 そのまま死んでしまいそうだったので、俺は寛大にも、もう一言だけ、付け加えてやった。


「俺は男の弟子に取らん。美少女に生まれ変わって、出直してくるんだな」


 言ってやった。

 つまり絶対に取らんということだ。


 エイティ君は、複雑な顔をしていた。そのまま気絶してゆく。


『さあ優勝されたオリオン・チーム――リーダーのオリオン選手に、インタビューです! 初出場! 初優勝のご感想は!』

「退屈だったな」


 俺は思ったままを口にした。


『どの敵がいちばん強敵だったでしょうか!?』

「バニー師匠」


 特に夜の攻撃が凄まじかった。俺が師匠と認めたほどに。


『優勝されましたが、今後のご予定は!?』

「夕陽の沈む方角へ――」


 俺は、沈みつつある夕陽を指差した。

 優勝賞品の〝船〟で、さあ――次の大陸に、旅立ちだ!

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