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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
10.みっつめの地 大武闘大会(商品は船)
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第四回戦 準決勝・その夜 「ちぇっ、クソしてセックスして寝よ~っ」

 準決勝が終わったその夜。

 夕食も早々に片付けて、俺たちは、ワクワク、テカテカして、待ち受けていた。


 今日はいったい、なにが来るかなー。なにが来るかなー。

 だが待てど暮らせど、なにも来ない。なにも起きない。


 ジョドー君が真っ青な顔で献上品を持ってくることもなければ、窓をぶち破って、昨夜を数倍する規模の襲撃が起きたりもしない。


 あっれー? いいのかよ? おい? このままだと、俺たち、明日、優勝しちまうぞ?

 まあ、来たってどうせ優勝するけどな。


「ふわー、オリオン……、わたし、眠い」


 アレイダが大あくびをする。スケルティアなんて、アレイダの膝を枕にして、もう寝てる。

 モーリンは起きてるが、コモーリンのほうは、やっぱりモーリンの膝を枕にして寝てる。片方寝てて、片方起きてるって、どんな気分なのだろう。


 さらにもうちょっと待ったところで――。


「しかたねえな……」


 俺はついに諦めることにした。


 ちっ。根性なしめ。


「あー、つまんねー。クソしてセックスして、寝よーっ!」

「ちょ――! クソおぉ!? そこ一緒おぉっ!?」


 アレイダがなんか騒いでる。


「なんだ。嫌なのか?」

「い――嫌よ! そういうのと同じなんて、絶対いや! いやに決まってるでしょ!!」

「でも今日は、おまえの番じゃねえし」

「え?」


 俺は本日の功労者であるミーティアの手を取った。


「今日はじっくり――おまえ一人だけを抱いてやる」

「まあ。うれしいですわ」


「ちょ! ちょぉーっ!?」


 ミーティアの手を取って寝室に向かおうとすると、駄犬が背後で騒いでいる。


「なんだ? 抱いてほしいのか?」

「ちがうもん!」

「じゃ黙ってろ」


 ミーティアの腰を抱き直して、寝室に行こうとすると――。


「あーっ!!」


 俺は笑って振り返った。


「あーもー、うるさいよ、おまえ」

「だって! だってだって!」

「こいよ」


 俺は手を差し伸べた。

 ぴょん、と跳ねて、アレイダが手を取った。


「ほかにも、来たいやつ、こいよ」


 当然、全員がついてきた。除くクザク。

 あいつ、ほんとに、覗いてるの好きだなー。


 今夜も結局、全員総出で乱交になった。

 ミーティアは約束通り、いちばん可愛がってやった。


    ◇


「パパーッ!!」


 どたどた。ばったん。

 ドアが急に開かれて、薄暗い部屋に光が差しこむ。


「こ――これ! 急に入ってくるでない! パパはいま重要なお仕事を――!」

「パパーっ! ボク本当に勝てるのーっ!!」


 せっかくの整った容貌を、ぐずぐずに泣き崩して――青年は、老人の膝にすがりついていった。


「あ、安心しろ。エイティ……。おまえは勇者への道を約束された者。お前の歩む道はどこまでも勝利で彩られておる……。これまでだってそうだったろう?」

「うん。パパ。ずっと勝ってきたよ。ボク」


 オリオンたちとブロック違いで、まだ一度も対戦はしていないが……。

 彼――〝マイティ・エイティ〟は、一回戦から順当に勝ち進んできていた。


 一回戦。相手が棄権により、エイティが不戦勝。

 二回戦。はじめ相手が攻勢だったが、その後、急に調子を崩して、エイティが勝利。

 三回戦。相手はこれまでの強さをまるで発揮できず、開始から一方的に攻めたエイティが勝利。

 四回戦。相手は下痢で人数が足りず、エイティが勝利。


 そして明日が決勝戦であるわけだが……。

 決勝戦の相手となるオリオンチームの強さを見たエイティが、不安になって、〝パパ〟のところに泣きついてきたわけである。


 〝パパ〟は豪商人であった。代々、この街を支配してきた有力者であった。

 三代前の頭首は、なんとあの〝勇者〟に、次の大陸を渡るための〝船〟を与えた者だった。トーナメントの主催者でもある。


 勇者が世界を救った後――。トーナメントは毎年行事となって恒例化した。

 その優勝賞品は、勇者が出場した第一回と同じく〝船〟である。


 ……が。〝パパ〟は毎年毎年、船をくれてやることを〝無駄〟と考えるようになってきていた。

 今年は可愛い息子のエイティが出場する。八番目の息子ではあるが――なんとエイティは、勇者系の低級職にクラスチェンジできた天才なのだった。


 エイティをなんとしても優勝させようと、あの手この手を使って、すべての難敵を引きずり下ろしてきた。

 そのことについては、なんの感慨も抱いていない。商売の世界で戦う商人にとっては、権謀術数、なんでもこいである。〝正々堂々〟などという世迷い言は、商人の世界にはない。

 ただし買収においては〝誠実〟を心がけてきた。トーナメントの勝利を手放すのに充分な〝対価〟を、相手に対して払ってきた。


 ……だのに。

 あの男だけは、一切の買収に応じなかった。

 ジョドーに命じて〝最後の手段〟にも訴えたが、聞けば、雇った手練れは、二十人全てが〝花瓶〟にさせられていたという。

 くっそジョドーめが……。使えない。


「パパ。ボク……、次の試合、勝てる? パパの期待にこたえられる?」

「心配いらない。心配いらないよ……。エイティ。パパがとっておきのアイテムを取り寄せてあげたからね」


 息子の美しい髪を撫でながら、〝パパ〟は言った。

 本当にこの息子は、容姿だけは美しい……。もっとも愛した八番目の妻の面影を色濃く残している。


 もう残される手段は、一つしかない。


「おまえに、あるアイテムを託そう。そのアイテムを相手に投げれば、お前の勝利は間違いない……。くくくっ……、勝てる。必ずや勝てる。なにしろ、〝それ〟は、誰にも倒すことができないのだからな……」


「パパ……?」


 息子は顔をあげ、〝パパ〟の顔を見あげた。

 パパのその視線を追っていって、近くのテーブルの上に、黒紫の不気味な物体が置かれているのを見つける。

 ボールくらいの大きさのその物体は、びくびくと動いていた……。まるで生きているかのように……。


「〝あれ〟は使ってはならない……、決して使ってはならぬのだ……」

「パパ? なら使っちゃいけないんじゃないの?」


 息子は顔を戻し、当然のことを、パパに聞く。


「だが〝あれ〟を使えば……、勝てる……、絶対に勝てる……」

「そっかぁ。勝てるんだね。――パパ!!」


「よいか……、エイティよ……、よく聞くのだ。〝あれ〟を相手に投げるのだぞ?」

「うん……、わかったパパ……、ボク、ずっと持ってる(、、、、)よ……」


 決勝戦の前夜は、こうして更けてゆく……。

クッソ足手まといお坊ちゃんですが、向こう側にいるぶんには、安全、安心です。

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