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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
10.みっつめの地 大武闘大会(商品は船)
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第三回戦・その夜 「さーて、今夜はなにが来るかなーっ?」

 暗いその部屋のなかで、男と侍従は二人きりでいた。


「あの者……、三回戦も勝ち上がってきたようだな……?」

「は……、で、ですが……、心配ありません……、必ずや……、必ずや……次こそは買収しまして……!」


「ジョドー……、もう手段を選んでいる場合ではなくなったのだよ」


 あるじの言葉に、侍従は、びくっと身をすくめた。


「わかっているな? ジョドー……?」


 意味深なその言葉に、侍従は、「はっ」と直立不動で答えるしかなかった。


    ◇


「今夜はなにかなー、なにかなー、なにが来るかなー?」


 夜。夕食も終わった頃合い。

 俺はすこしワクワクしながら、使者がやってくるのを待っていた。


 二回目までは「またか」とうんざりだったが、三回目ともなると不思議なもので、待ち遠しくなってきてしまう。


 ああいう手合いには気を使わないことにしている。

 よって、なにも気にする必要がなく、ストレス解消が存分に行える。


「今夜は遅いわねえ」


 アレイダが爪をヤスリで磨きながら、そんなことを言う。

 最近、なんかこいつ、〝おしゃれ〟とか覚えはじめた。駄犬がなにやったって無駄だっつーの。ばーか。ばーか。ばーか。


 しかし、ほんと遅い。

 俺がワクワクしながら待っているというのに、ジョドーのやつは、一向に現れない。

 今度はいったいどんな笑える提案を持って、俺を買収してくれるのか、彼にはずいぶんと期待してくれいるのだが。


 スケルティアは、下半身を出したりしまったりしていた。何度もただ繰り返している。

 人の脚から蜘蛛ボディまで、展開と収納とが、一秒を切るようになってきた。


 出したりしまったり、出したりしまったり――。と、その動きが、不意に止まる。

 ぴくんと、首が動いて見上げたのは、窓の外。

 ちなみに人間のほうの首と目のほかに、蜘蛛ボディのほうの頭についてる目でも見ている感じがする。スケルティアには、いま頭が二つある。蜘蛛しゅごい。アラクネしゅごい。


 ミーティアあたりを除いた、それ以外の全員が、だいたい窓の上のほうに目を向け終わったあたりで――。


 がしゃーん! ――と、窓のガラスを打ち破って、外側から何者かが、多数、侵入してくる。


「なんなの?」


 アレイダが言う。自動展開された聖戦士クルセイダーの防御結界が、何人か跳ね飛ばす。

 夜の空に落ちていった者たちを除いて、侵入成功してきた者たちは、合わせて十数名。


 ふむ。侵入ルートは屋上からか。最上階っていうのも考え物だな。


「たぶんこいつらは、暗殺部隊だな」

「暗殺? なんで?」


 本当にわかっていないらしいアレイダに、俺は説明してやった。


「買収に二回続けて失敗したろ。それで明日はもう準決勝だろ。だから消しちまえ――って、なったんじゃないのか?」


 あくまで他人事のように、俺は言った。

 実際、ほとんど他人事だった。

 どこかの誰かが俺を暗殺しようとしていて……、だからどうした? という感じだ。


 前々世で勇者やってたときには、凄腕の暗殺者を一ダースぐらい随行させて旅をしていた。

 暗殺者はすべて魔王軍側の手の者かと思いきや、人類側も半数ぐらい混じっていたりする。なんか各国の思惑なんかで、勇者を脅威と捉えた連中も大勢いたっぽい。


「――で、どうすんの? 殺しに来たから、こいつら、もう敵ってことでいいの?」


 ソファーで脚を組んで、アレイダが言う。まだヤスリで爪を磨いている。

 ミニスカから伸びた太腿が健康的で、俺はつい、そこに欲情した。

 いっぱい殺したあとのアレイダは、ちょっと狂気に染まっていて、その後のセックスは、すげぇキモチいいのではあるが……。


 ここは街中だし。正当防衛主張しても、取り調べくらいはあるだろうし。明日の準決勝に出られないと癪だし。

 あと――。


 俺は黒ずくめの連中の目を見た。顔は隠してあるが、目だけはマスクから露出している。


 野盗みたいな、腐った目をした連中だと、肉塊に変えてゆくのに躊躇いはないんだが……。

 こういう、命令で動いているだけの忠義ある連中を潰すと、後味が悪いんだよなー。


 敵対しているとはいえ、情状酌量を計ることにした。

 よって、結論は――。


「晒し者にしてやれ」

「了解」


 アレイダはようやく――爪ヤスリを置いて、立ち上がった。


「ほらスケさん。やるわよ」

「ころす? ころす?」

「殺しちゃだめよ。――花瓶(、、)ね」

「かびん。とくいだよ?」


 アレイダとスケルティアは、作業(、、)に取りかかった。

 戦闘ではない。単なる作業だ。


「ひとつ。ふたつ」


 武器も持たず、アレイダは手刀を首筋に打ちこんで、襲撃者たちの意識を刈り取っていった。

 スケルティアはアラクネの本性を出して、八本脚でどすどすと床を刺し、足裏と床の摩擦とでは絶対不可能な機動をして、男たちの前に回りこんでいた。

 後ろから不意打ちするのではなく、わざわざ前に回って、「いくよ?」と声をかけてから、どすっと、一撃で昏倒させている。

 「いくよ?」と宣言してから攻撃しても、避けられないのが、彼我の実力差というものである。


「みっ……つ。よっ……つ。」

「いつーつ、むーっつ」

「……たくさん。……たくさん。」


 つぎつぎと男たちが倒されてゆく。


 あー、しかしー、絨毯に穴が空いちまったなー。まー。弁償すればいっかー。

 ここのホテルのスタッフはプロいから、ちょっと外出しているあいだに、部屋の内装がすべて換装されている。もちろんその分、必要以上に多額に支払いをしている。


 モーリンとコモーリンは、二人仲良く、お茶の準備をしていた。紅茶の蒸らし時間は3分だ。

 時間はたくさん余ってしまいそうな気配だ。


 男たちの残りは、あともう二~三人しかいない。


「逃がさないわよ」

「にげるの。だめ。」


 アレイダとスケルティアとに挟まれて、男たちは追い詰められていた。

 任務の続行は不可能ともはや諦めて、逃亡にかかっているみたいだが、そっちも当然、実行不能だ。


 人外のスケルティアよりも、まだしも生身の女であるアレイダのほうが、与しやすしと思ったか――。男たちは、一斉にアレイダのほうに向かったが――。


「だから逃げられないって」


 腕組みしたままのアレイダは、手を動かすこともなく、男たちを捕まえた。


 聖戦士クルセイダーの微弱な防御結界の応用技か――。

 防御結界の発動を一瞬遅くして、男たちが充分に近づいてきてから発動。

 コンクリート強度の微弱(、、)な結界のなかに閉じ込められた男たちは、空気のゼリーに封じ込められた果物みたいな格好で、走ってる最中のポーズのまま固められていた。


 勇者業界基準でいえば、コンクリート強度のなかに埋めこまれても、だからなに? ――という感じなのだが。

 世間一般レベルでは、コンクリ詰めは行動不能を意味するだろう。


「じゃ、お花を活けてくるわねー」


 男たちを全員持ち運んで、アレイダたちは表の通りまで下りていった。


 〝花瓶の刑〟――というものは、不埒者を裸にひん剥いたのちに、逆さまにして道路に立て、肛門に花を活けて花瓶にするという、過酷な刑であって――。


 ちなみに考案者はアレイダだ。

 そんな怖ろしい刑、よく思いつくよなー。俺よりワルだなー。


「お茶が入りました」


 モーリンが言う。


「おお。そうか」


 もう三分経ったか。

 花瓶に花を活けてきたアレイダたちも、戻ってきて――。


 俺たちはトーナメント三日目の夜を、ゆったりとした気分で、まったりと過ごした。

クルセイダーの微弱な防御結界、というのは、つまり、ATフィールドです。


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