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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
10.みっつめの地 大武闘大会(商品は船)
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第三回戦 「ふっふっふ……、ドロドロとした鬱憤をぶつけさせていただきます」

 第三回戦がやってきた。


 今回、試合場に立つのはクザク。


 飾り羽根を風に揺らせて、六人パーティを睨むように立っている。


 じゃんけんもなしで、出場選手がクザクに決まったのには、ちょっとした理由がある。

 昨夜が激しすぎた。

 俺を含めて、全員がちょっと、腰が半分抜けてしまっている状態だ。


 無事なのは、むくれて参加しなかったアレイダのやつと、天井裏で盗み見していたクザクの二人だけ。

 アレイダは一回戦目に出ているから、二度は出せない。よって自動的にクザクの出番となったわけだった。


 まあ、ルール上、べつに同じ選手で戦っちゃいけないなんてことはないし、そもそも一人で戦わなければならない、なんてこともないわけだが……。


 まあそこに関しては、俺個人のこだわりだ。

 元勇者とそのお仲間ともあろう者が、一般人相手に六人がかりで戦うわけにはいかんだろう。


 ちなみに、俺まで腰を抜かしている状態になっているのは、スケルティアの擬態下半身の〝なか〟が存外に良かったということと――。

 あと、バニー嬢が、なんつーか、まー、ものすごい性獣だったということがあった。

 凶暴さでは、はじまりの街の冒険者ギルド受付嬢――リズも相当なものであるわけだが……。あちらはパワーにまかせた飢えた獣というだけだ。こちらは同等のパワーを備えたうえにテクニックまで上乗せされた、まさに高次元の存在であり――。ちょっと心のなかで〝師匠〟とか呼びたくなってしまったほどだ。

 あそびにん。マジ凄かった。伊達にあそんでない。


 そのあそびにんは、いまマイクを振って、石舞台の上で、元気に司会をやっている。


『さあ――。第三回戦、第二試合の開始です。本日はオリオン・チームは、じゃんけん大会はなし。クザク選手以外は、はじめから棄権しております――理由は、ふふふ……ご想像におまかせします♡』


 バニー嬢は、ぴょんと石舞台を下りると、俺の隣に跳んできた。


『さあ解説のオリオン先生――。クザク選手なのですが、なにか黒いものが体からにじみ出しているように見えますが? あれはいったい何なのでしょう?」

『呪いだな』


 俺はそう答えた。


『彼女のジョブは――『インヴォーカー』だ。負の感情を溜めこむことで、呪いと病を呼びこむことを得意とする』


 たしか最初に会って、俺のモノにしたときには、レンジャー/シャーマン系の上位職の、健全なジョブだったはずなのだが……。

 天井裏生活がそんなに堪えたか、あるいはわざと焦らし寸止めプレイに興じることで、それで高速怨念増殖炉を稼動させてんのか。

 特に昨夜、乱交騒ぎに参加せずにいたことは、強烈な怨念を呼び起こした様子で――。

 だから混ざれ、っつーの。(笑)


「貴方がたに恨みはないですが、ドロドロとした鬱憤をぶつけさせていただきます」


 クザクは言った。彼女が腕を振ると、周囲を旋回していた呪力が、すべて、相手チームに向かっていった。


 六人それぞれの体に巻きついてゆき――濃密な瘴気のような呪力が、相手の皮膚に触れると、その箇所が爛れ、ぼこぼこと歪に膨らんだ。

 呪いが侵食する。病に冒してゆく。


 六人はそれでも手を付き、這いずってでも、戦うために前に出ようとしていたが――、ずるっと皮膚ごと手の皮が滑り取れて、前のめりに倒れた。


 腐ったような肉汁の合間で、人型の肉塊が、ぴくぴくとしていて――。


『はい! 戦闘不能とみなします! 勝者――オリオン・チームーっ!』


 バニー嬢の声が響き渡るが――。観客席から歓声はまったく上がってこない。

 皆。絶句。皆。無言。


 テンションはダダ下がりだった。


「私。地味な女なので。――すいません」

「あー……、うん、まあ……べつに構わん。勝ったしな」


 石舞台から下りてきて、謝ってくるクザクに、俺はそう言った。

 たまには抱いてやろう。天井裏に引きこもりたがっていても、引きずりおろして、ちゃんと混ぜよう。

 ――と、こころに決める。


 相手チームの連中は災難だった。皮膚がえらいことになっている。

 見ているだけで、こちらまで痒くなってしまいそうだ。


 治療チームの僧侶プリースト部隊も駆けつけてる。皮膚をかきむしりつづける患者たちを、まず止めようとするのだが――。

 司祭ハイプリーストならともかく、単なる僧侶プリーストたちでは、あの呪いを解くには苦労するだろう。


「手伝ってやれ。――聖女」

「はい」


 俺が命じると、ミーティアがしずしずと歩み出していった。治療をしている僧侶プリーストと患者たちのもとに歩いてゆく。


 聖女――という存在は、長らく遺伝あるいは先天的なものとされていた。

 その定説を打ち破ったのが、ミーティアだった。

 魔法系の後衛職として育成していたのだが、なぜか、ある時――転職可能(ジョブ)一覧に、『聖女』が出現したのだ。


 PL(パワーレベリング)効率がいいからといって、アンデッドの巣窟に放りこんだせいなのか、アンデッドと悪霊たちを倒すかわりに、その慈愛で成仏させていたからなのか――。

 どんな転職条件があったのか、まだ特定できてはいなかったが――。


 いまミーティアは、王国の姫と同じジョブについていた。

 聖女は神聖系の呪文のマスターであるというだけでなく、そこに立っているだけで「仲間」のすべての効果を及ぼす全体効果――「オーラ」を発する。

 オーラの効果は、防御力向上、攻撃力向上、自動回復リジェネ(弱)など、多岐に渡る。確率変動もそのひとつで、本来なら成功しないようなことに成功したりするようになる。


 聖女ミーティア――が、静々と歩んでゆくと、「仲間」と認識された、総力プリーストチームと、患者たちに効果が及んだ。

 単なる回復魔法が数倍の効果を生み、およそ成功するはずのなかった解呪ディスペルが、あっさりと成功してしまう。


「聖女様あぁぁ……! 聖女さまあぁぁ!! ありがとうございます! ありがとうございますうぅぅ!!」


 綺麗な体に戻った六人は、ミーティアの脚にすがりついていた。

 その頭を、ミーティアは、いいこ、いいこ、と、撫でている。

 なんつーか、もう、対戦相手とかいう雰囲気じゃないな。信者だな。


 聖女のオーラの支配する会場で、心が洗われるような後光が差す雰囲気のなか……。

 俺たちは第三回戦を突破した。

本日も2~3更新の予定です。

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