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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
10.みっつめの地 大武闘大会(商品は船)
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第二回戦・その夜 「買収に失敗したようだな」「つ、つぎこそはッ!!」

「買収に、失敗したようだな……? ジョドー」


 薄暗い部屋の中。

 ガウンを着てソファーでくつろぐ男が、執事にそう言った。

 ジョドーと呼ばれた男は、畏まって、直立不動の姿勢となった。


 男の手にはワイングラスがある。年代物の最高級なワインの、だがその芳醇な香りも、ささくれ立った不愉快な気分を癒やしはしない。


「つ……、つぎこそは、必ず。かの男の性癖を調査しましたところ、金よりも〝女〟ということがわかりましたので……。つぎこそは……、かならず……」

「ふっ……」


 男は笑った。


 傍らのベッドで寝そべる女の、美しい背中から臀部にかけての曲線を眺める。


 なるほどな。と思う。

 世のほとんどの人間は金で動く。だがまれに金では動かない人間もいる。そういう手合いは〝色〟のほうだ。

 巨額の財産を持つ男にとって、それは真実であり真理であった。


「よし、まかせたぞ、ジョドー……?」

「はっ。このジョドーめに、おまかせあれ!」


    ◇


「先日は大変失礼を致しました」


 夜――。

 またもや例のやつが、使者として、俺たちの元に訪れていた。


「私。ジョドーと申しまして――」


 おまえの名前なんか、聞いてねえ。


「――さる高貴な財産家の方の元に務めております」


 すんげー嫌なものを観る目をしている俺たちをよそに、まるで空気を読めないかのように、男はニコニコと笑顔を浮かべている。


 例によってテーブルの上には、ぎっしりと金貨袋。

 前回よりも量が何倍かに増えている。机が重さに耐えかねて、みしみしといっている。


 ったく、もー。

 スケルティアの進化祝いの真っ最中だってゆーのに。早く帰ってくんねーかなー……?

 なんで空気読まないのかなー? 読めないのかなー?


 床にこぼれて落ちた金貨を、スケルティアがつんつんと、爪の先でつついている。

 スケルティアは膝を抱えて座りこんでいるが、じつはそれはすごいこと。

 あの蜘蛛ボディの胴体と脚部とが、折り畳まれて、人間の二本のすらりとした細脚になっているのだ。

 パーティションラインが薄く見えている以外は、まったく普通の脚だった。


 擬態すごい。変形ギミックすごい。

 あそこ(、、、)のほうはどうなっているのか。早く試したい。


「……で? 金を積み増せば、俺が応じるとでも?」

「次はもう第三回戦となりますし、棄権ですと目立ってしまいますので、相手チームに不自然のない形で負けていただきたい」

「あのな」


 俺はこみかみを揉みこんだ。


 あー、ぶぅち殺してぇ。

 いますぐこいつ、金棒で床の染みに変えたらすっきりするかなー? するんじゃないかなー?


 まあ、気に入らないから程度でぶち殺していると、世の中の結構な人数をぶち殺すはめになるので、そこはすこし自制を働かせる。


 俺が容赦せずぶち殺すのは、敵になったやつだけだ。そういう〝ルール〟を決めている。

 俺の敵――。そして俺の女たちの敵――。どちらに対しても、容赦はしてやらない。ただのひとかけらも。


 ……と、そう決めているわけだから、明確に敵対するまでは、殺すのはやめにしておこう。床の染みを掃除するのも大変だし。掃除させる人に申し訳ないし。

 金貨袋と一緒に、窓から放り出すぐらいにしておくか。

 ここは四階だったか五階だったかなので、運が良ければ、生きてるだろう。


 と、そう決めた(、、、)俺が、ずいっと前に出たところで――。


「お――お待ちを!」


 男が手をかざして、そう叫んだ。


「こ、今夜は他のものもご用意しております! ――聞けば、オリオン様は、女性に大変目がないとのこと! ――こちらに、この街でご用意できる最高の美女たちをご用意しました!」


 男――ジョドーの合図で、部屋に女たちが何人も入ってきた。


「ほほう」


 どれも極上の女たちだった。


「いい女だな」


 俺は言った。


「そうでしょう? そうでしょう?」


 ジョドーが顔を近づけてくる。俺たちは顔を近づけあって、うなずいている形になる。


 ちら、と、後ろに目をやると――。


 アレイダが、しらーっという顔をしていて――。

 スケルティアはきょとんとしていて――。ミーティアはにこにこと天上界の笑みを浮かべていて――。クザクは天井裏なので見えやしない。そしてモーリンとコモーリンは、いつものように完璧な無表情――。


 たとえば俺が、ここで美女たちを受け取る選択をしたところで、文句を言うのはアレイダ一人というわけだな。


「たしかに、いい女であるし、抱きたいとも思うが……」

「は? ……が?」


 絶対の確信でもどこかにあったのだろうか? ジョドーは、「は?」と口を開いたままで、固まっていた。


「だが俺の主義に反する。――施しは受けん。お引き取り願おうか」


 俺はドアでなく、窓を指差した。


 ジョドーが首をふるふると頼りなく横に振り続けて、しかたがないので――。


 金貨の載ったテーブルを引っつかみ、一挙動で、窓から放りだした。


 今回はアレイダとスケルティアが、窓を開け放っていたので――。窓ごとぶち破るようなことはなく、金貨だけが、きらきらと撒き散らされながら、窓の外に落ちていった。


 そして次にジョドーを指差し、次に窓を指差す。

 おまえは窓から放り出されたいか、それとも自分で歩いて出てゆくか、どっちなのかと聞いたつもりだが、これは正しく伝わったようで――。


 ジョドーは美女たちを連れて、部屋を出て行った。


「あーら、ざ~んねんっ♡ 美女の一山いくら、もらい損ねちゃったわね~♡」


 アレイダがからかう口調で言ってくる。

 ん? そう思うのか?


 俺は時間を計った。彼女たちが四階から下りていって、一階ロビーに到着する時間を見計らって……。

 ……いまぐらいかな?


「よっと」

「ちょ――オリオンっ!」


 俺は窓を越えて、ベランダから宙に身を躍らせた。

 ここは四階だったか五階だった。隠密系の「軽身功」というスキルがあれば、その程度の高さから落ちても、軽やかに着地できる。


 タイミングぴったり。着地した俺が後ろを振り返ると、ジョドーと美女たちの姿があった。

 最上階から落ちてきた俺に、だいたいは驚いた顔を向けている。


「お……? おおっ!? 考え直していただけましたか!?」

「どけよ」


 俺はジョドーを、ぽいっと脇に放り投げた。やつは縦回転して、十メートルぐらい吹き飛んでいった。


「君たちは、プロだろう? ……あいつに幾らで雇われた?」


 美女たちのうちの一人を除いた全員に、俺はそう聞いた。

 女たちは顔を見合わせる。成り行きがまだわかっていない、という顔だ。


 俺にはわかっていた。女たちは娼婦だろう。――それも超高級な。

 今夜は買い切られていたのに、仕事にならないのでは可哀想だ。


「……まあ。いくらであったって構わない。その10倍出そう。今夜、めいっぱい愉しまないか?」


 娼婦たちの反応は、わかりやすいものだった。

 皆、嬌声を上げ、俺の首に抱きつき、濃厚なキスをしてくる。


「じゃ――先に上に行っててくれ」


 娼婦たちを見送って、俺は、残った一人に顔を向けた。


「――で、娼婦でない君は、なんでいる?」


 娼婦でない一人は、バニーさんだった。

 ここのところ毎日顔を合わせている。試合で審判兼アナウンサーを務める、彼女である。


「そりゃぁ、簡単ですよ。わたし、《あそびにん》ですからー」

「は?」

「そういうジョブ、御存知じゃないです?」


 いや知らないこともないが。某ゲームのジョブで見たことはあるが。あそびにんを極めることが、賢者へへの転職条件だったっけ?


「君は……娼婦なのか? なんでレフェリーをやってる?」

「娼婦じゃないです。《あそびにん》です。そりゃ、楽しいことなら、なんだってやりますよー? 《あそびにん》ですから」


 バニー嬢は、お尻のふさふさの白シッポをふりふり。楽しくてたまらない、という顔をする。


「まあ、それはいいが……。なぜ女たちのなかに混じって来てたんだ?」

「抱かれに来たんですよ。――触りかたが上手だったので」


 俺の反応は、ひどくわかりやすいものだったに違いない。


「じゃ――! いくか!」

「はい! いきましょう!」


 俺はバニー嬢のお尻を撫で回しながら、建物の入口をくぐった。

 このヒップにぶちこめる。ぶーちこめーる♪


    ◇


 その夜は、滅茶滅茶セックスした。

 娼婦たちとバニー嬢と、あとスケルティアとミーティアとモーリンと、全員でくんずほぐれつで、まぐわった。


 いっぱいヤッた。

 よかった。すごく、いがった。とくに《あそびにん》がスゴかった。

バニー嬢とヤレー! という声が聞こえてまいりましたので、ヤリました。

鑑定持ちの謎のお嬢さんのジョブは、「あそびにん」だった模様です。

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