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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
10.みっつめの地 大武闘大会(商品は船)
71/161

第一回戦 「ねえもう攻撃しちゃっていーのーっ!?」

『それではこれより! 第五三回! 大陸一武闘会! 第一回戦、第三試合を開始いたします!』


 ぽん、ぽん、と、青い空に花火が打ちあがる。

 俺たちは石組みの武舞台の上にいた。


 マイク(?)のような魔道具を持って、司会進行を務めるのは、バニー姿の美少女で――これは大変よろしい趣向であった。

 マイクは風魔法の一種か。増幅された声が、大きな会場のすべてに届いている。


 観衆はコロシアムの客席を埋め尽くすほど。ざわめきだけで騒々しいほどだ。

 観客席がガラガラだと俺の士気に関わってしまう。だがこれだけの超満員ならなんの文句もない。


『第三回戦の組み合わせは、オリオン・チーム、対、サラテガ・チームっ!』


 俺たちの第一回戦の出番がやってきた。

 今日は朝から、開会式やら、第一回戦やら第二回戦やらをやってたはずだが、俺たちが会場に来たのは、自分たちの試合の始まるその時間だ。


 他の参加者たちは、特別に確保された最前列の観覧席にいたりする。

 どの試合でも、勝ち残ったほうは、いずれ自分たちと当たるかもしれない相手なわけだ。よって研究に余念がない。


 だが俺たちは、そのあたりにまったく〝関心〟がない。

 遅めに起きて、ゆっくりと朝食をとり、ゆったりと準備をして、のんびりと歩いて会場にやってきた。


『オリオン・チームは、今回が初出場です! 対するサラテガ・チームは、なんと連続三回目の出場という強豪です! 高名な冒険者であるサラテガ選手は、今回、どんなメンバーを率いているのでしょう!?』


 アナウンサーのバニー嬢が説明をしてくれる。

 へー。そうなんだ。高名な冒険者とな。……知らんなぁ。


 眉を二ミリほど上げて、モーリンに聞いてみたが、首を横に振ってくる。

 冒険者ギルドの重鎮が「知らん」とゆーてるから、きっとたいした冒険者ではないのだろう。

 てゆうか。冒険者なら冒険してろ。なぜ大会なんかに出る?


 まあ、あまり人のことは言えないが……。


『ニューフェイスのオリオンチームの真価が、この一線で問われます! ――試合開始の前に、ちょっとオリオン選手にインタビューをしてみましょう!』


 バニー嬢が、俺のところにやってきた。


『オリオン選手! ズバリお聞きします! この大会に出た目的は――!?』

「船」


 俺は簡潔に答えた。


『おおっと!? オリオン選手は、優勝賞品の魔法艇が目当てだったもようです! すごいです! これは優勝宣言と受け取ってよいのでしょうかぁ!?』


 会場中が、どっと沸いた。

 おや? 俺が冗談を言ったように思われたっぽい。


『今武闘会における目標をお聞きします! どこまで勝ち抜いていけると思われていますか――!?』


 またマイクが向けられる。

 聞いてくるのが、可愛くて美人のバニー嬢なので、俺は笑顔で答える。


「優勝」

「おおっと!? やはり優勝宣言でしたーっ!?」


 また会場が、どっと沸いた。

 明らかにギャグ扱いされてるな。――どうでもいいけど。


『さてここで本武闘会のルールをもう一度おさらいしておきます。両チーム6名までのチームによる団体戦です。相手の選手を石舞台から落とすか、あるいは〝まいった〟と言わせるか、戦闘不能に追いこめば、その選手を倒したことになります。ただし相手を殺してしまった場合には、反則負けになります。注意してください』


 ルールも昔と変わってないな。

 てゆうか。このルール。俺、前世でもよく知ってた。天下一武闘会(、、、、、、)と同じだわ。これ。


『皆様お待たせしました! ――それでは! そろそろ試合開始と――』


 バニー嬢の声をよそに、俺たちは六人で集まっていた。

 アレイダ、スケルティア、クザク、ミーティア、俺とモーリンの六人でもって――。


『――って、オリオン選手? オリオン・チーム? なにをされているのでしょうかー?」

「じゃんけんだ」

『はい?』

「いいから。試合。はじめてろ。すぐ済むから」

『ええと……、じゃあ、試合開始……! って、ほら、本当にはじまっちゃってますよ? もう?』


 最初はグー! じゃんけんぽん!

 あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょ、あいこで……じゃなかったっ!?


「勝ちいーーっ!」


 アレイダがVサインをあげている。

 ちっ。しかたねえな。


 俺を含めて、じゃんけんに負けた五人の側は、片手を小さく挙げて――。


「まいった」

「まいた。よ。」

「降参でぇす」

「棄権します」

「まいりました」


『おおっと!? オリオン選手側!? 一人を除いて五人がいきなり〝まいった〟宣言です!?』


 俺たちは石舞台を下りた。

 完全な観戦モードになって、試合を見る。


 一人、残ったアレイダは、腕を左に引っぱり、右に引っぱり、準備運動をしている。

 対戦相手の六人は、ぽかーんとした顔で突っ立ったまま。


『えーと! もう試合は始まっております! 両チームの選手! ファイッ!』


 アナウンサー兼レフェリーのバニー嬢は、石舞台を下りて、俺たちのところに駆け寄ってきた。


『オリオン選手に質問です! これはいったいどのような作戦なのでしょうかっ!?』


 作戦もなにも……。単に、俺たち全員でかかったら、単なるイジメというだけの話だ。

 まあ、一言で説明するならば……。


「ハンデだ」

『ハンデ発言が出ました! 一人で戦う作戦は、どうやら、相手チームに対する〝ハンデ〟だった模様です!』


 これまでと違って、会場は沸かなかった。シーンと静まり返っている。

 ジョークやギャグではなくて、俺たちが本気だったことが、だんだんと伝わってきたようだ。

 だが本気度は伝わっても、どう解釈していいのか、理解できていないようだった。


 しかし……。静かなのはいかんな。

 せっかくのお祭りだ。賑やかにいこうや。


 俺はマイクを握った。

 会場を再び盛り上げるために、アレイダに言う。


『アレイダ――見せてやれ』

「いいのーっ!?」

『ああ。やっていいぞ』

「やったーっ!?」


 アレイダは、ぴょんと飛び跳ねた。全身と赤い毛先まですべてで、喜びを表現する。


 アレイダは立ったまま両肩を抱き、祈るように目を閉じた。

 彼女の周囲、地面から頭の先まで、大小様々な魔法陣が何層にも取り巻いた。積層魔法陣は半透明に輝きながら、アレイダの周囲を回る。


 高位クラスチェンジ――。その現象だ。


 アレイダはしばらく前に、クロウナイトのLvをカンストしていた。

 さらに悪魔も調伏して従えていた。

 ナイト系の上級職――〝聖戦士クルセイダー〟への転職条件が、すべて満たされたことになる。


『おおっと――!? これは――これはもしかして!? 解説のオリオン先生っ!?』


 予備のマイクを取り出して、バニー嬢が叫ぶ。

 俺は解説役に就任したらしい。


『解説のオリオンだ。……そう。その通り。あれは〝高位クラスチェンジ〟だな』


 勇者業界的には、聖戦士クルセイダーは、とてもとても、上級職だの高位職だのいえるものではないのだが――。

 単なる入口。あるいは通過点。勇者の仲間のパーティとして、ぎりぎり、いてもおかしくないというランク。ただしヒヨッコのパワーレベリング中のぺーぺーとして。


『それで――!? 転職先は――なんなんでしょうかっ!?』

聖戦士クルセイダーだな』

『おおっとぉ!? なんという高位転職! 手元の資料によりますとぉ! 聖戦士クルセイダーはッ! なんとこの20年! 誰も転職したことのないという高位職でありますっ!』


 手元にはべつに資料なんてないのだが。上手いな。このバニー嬢。


 あと20年、いないんか。

 なんとまあ……。平和な世の中になったもんだな。

 50年前の大戦期には、すくなくとも魔王軍に刃向かおうなんていう気概のあるやつは、すくなくとも聖戦士クルセイダー以上の格のジョブについてたもんだがな。

 魔王城に最も近い前線の国では、城の単なる衛兵が聖戦士クルセイダーをやってたりしたもんなんだが。


 アレイダの周囲を魔法陣が回っている。積層された魔法陣は、神々なのか造物主なのか、なんなのかはわからないが、この世界を作った者の遺したシステムだ。

 ステータスとスキルツリーを改変してゆく。それは魂の次元においても作用する。生物的には細胞レベルで再構築が行われる。

 魔法が使えなかったジョブが、魔法を使えるように魂のレベルで書き換えられる。それが〝階級転移〟――クラスチェンジである。


 高位職のクラスチェンジはそれなりの時間がかかる。

 相手のチームは、そのあいだ――。


『ああ。……相手は紳士だな。わざわざ〝変身〟が完了するまで待ってくれるようだ』

『変身? なんの話でしょう? オリオン先生』

『ああ失礼。クラスチェンジだったな』


『サラテガ・チーム、一歩も動けません! ――どうやら眼前で繰り広げられるクラスチェンジに度肝を抜かれた様子! さあこうなると先ほどの1対6がハンデという発言も、あながちブラフではないと思えるようになってきました! なにしろ伝説の聖戦士クルセイダーであります! ――どうでしょう解説のオリオン先生!』


『まあ。やってみればわかることだ。――ところで君? 今夜はヒマかい?』

『おおっと! 不詳この私! 口説かれております! 手元の資料によりますと、オリオン選手は希代の種馬との評判も高く――』


 だから手元の資料なんてないって。

 わがままボディのバニー姿に、ちょっと欲情したのでとりあえず口説いてみたが、あまり見込みはなかったようだ。


『ほら。――終わるぞ』


 俺はバニー娘の尻を追うのをやめて、石舞台の上を見た。

 いまにもクラスチェンジが終わろうとしている。


 積層魔法陣が解け――、そしてアレイダは正面を見据えて立っていた。


『見かけは特になにも変わるところがありません。――しかし! 手元の鑑定石のデータによりますと――!!」


 鑑定石。手元にないじゃん。てことは、このバニー嬢は、鑑定持ちか。

 しばらくアレイダに目を凝らしていたバニー嬢は、マイクを高々と振りあげると、おもむろに口を開いた。


ジョブ聖戦士クルセイダー!! Lvは1! たしかにクラスチェンジ成功でありまーす!!』


 うおー! どんどん!

 観衆から歓声があがる。太鼓が打ち鳴らされる。


 たしか相手チームの……、なんとかテガ?

 そんな名前の連中の応援陣営からも、アレイダのクラスチェンジに対して、大歓声が沸き起こっていた。


「さあ……? かかってらっしゃーい?」


 アレイダが手招きをする。

 敵チーム六人は、顔を見合わせると……。

 はっと我に返ったような顔になって――一斉に、飛びかかってきた。


 重戦士が巨大なメイスを振り回す。暗殺者アサシンがダガーを振るう。格闘家グラップラーが目にも止まらない連撃を繰り返し、魔射手サジタリウスが数本ずつ矢を撃ち出す。

 魔術師マジシャンがファイアボールを投射して、司祭ハイプリーストが全員に強化と防御の祝福を投げかける。


 全員で一斉に、アレイダにかかってゆく。


 さすがにトーナメントに出るだけあって、一応は腕自慢の連中らしい。

 全員が基本職から一回はクラスチェンジしているようだ。


 ちなみに順番に――


 重戦士クラッシャーは、戦士の上位職。

 暗殺者アサシンは、盗賊の上位職。

 格闘家グラップラーは、拳士の上位職。

 魔射手サジタリウスは、射手の上位職。

 魔術師マジシャンは、魔法使い《ソーサラー》の上位職。

 司祭ハイプリースト僧侶プリーストの上位職。


 ――である。


 俺が転生した最初の街の冒険者ギルドでは、転職者は一人もいなかったようだから――。

 彼らのチームは、世間一般的にいって、かなり強い部類なのではないだろうか。


 だが相手が悪すぎた。


 一応は、勇者業界入口のジョブ――。

 聖戦士クルセイダーは、なにも意識していなくても、常に〝微弱〟な防御結界を周囲に自動発動している。


 その自動的かつ無意識的で、〝微弱〟な防御結界の強度は――。だいたい、コンクリート1メートル分くらいの厚みに相当している。


 重戦士クラッシャーのメイスの一撃も――。

 暗殺者アサシンの鋭いダガーも――。

 格闘家グラップラー

 魔射手サジタリウスの魔弾と呼ばれる矢の連射も――。

 魔術師マジシャンのファイアボールも、


 〝微弱〟な防御結界を抜けてくるには、少々、威力が足りなかった。


『おおーっと! 効きません! まったく効いていません! ――ていうか、そもそも攻撃は一切届いていません! 恐るべき聖戦士クルセイダーの防御力ッ!』


「……? なにかしてる?」


 アレイダは無風状態のなか、首を傾げる。

 メイスもダガーも拳も矢も魔法も、彼女には届かない。


 あたかも空中に透明な立方体が生まれたかのように、すべての攻撃は〝微弱〟な防御結界に呑みこまれていった。


「ねー? そろそろー、こっちから攻撃しても、いーいー?」


 腕をぶんぶんと振り回して、アレイダは聞く。

 すべての攻撃が一切通用しなかった、相手チームの――なんて名前だっけ? なんとかチームは、ぶるぶると首を横に振っている。


「いっくよー!」


 アレイダはようやく剣を抜いた。頭上に構える。

 相手チーム六人は、ぶるぶるぶるぶる――と、激しく首を横に振っている。


「せいっ! や――っ!」


 高々と掲げていた剣を、アレイダが――振り抜いた。


 衝撃波が生まれた。

 剣の軌跡に沿って発生した膨大なエネルギーは、剣を何千倍も巨大にした形となって、天空から大地に降り注ぐ。

 物凄い暴流となって、石の地面を打ち砕いた。


 なんつーか、もう、個人の攻撃というよりは、攻城兵器の威力であった。


 聖戦士クルセイダーになると自動的に取得するスキル――「範囲爆撃」を、あれは、無自覚で使ってんなー。


『おおーっと! なにも見えません』


 もうもうと立ちこめる土煙に、なにも見えない。

 ようやく煙が晴れてくると――。


 向こうチームの六人が、すべて倒れているのが見えた。

 大小さまざまな大きさの石が、あたりには散乱している。

 縦横何十メートルもある石舞台には、Vの字が大きく刻まれ、真っ二つになってしまっている。


『サラテガ・チームの生死が心配です……!』


 バニー嬢が石舞台に駆けあがった。

 尻を撫で回していた俺の手から逃げ出したわけでは、決してなくて――。むしろ率先して自分から、尻とふさふさ尻尾を俺の手に預けてきていたくらいだったが――。


 彼女は、倒れている六人の生死を確認しにいったわけだ。

 殺してしまったら反則負けというルールである。


 アレイダは、自分の振るった技の威力に呆然として、ぽかんと突っ立っていた。


 それ以上に、ぽかんとしているのが、観客たちだろう。

 会場は、しーん、と、静まり返っていた。

 みんなどうリアクションしていいのか、わからないでいる。


 バニー嬢は六人の首筋に、順に手を触れていった。そして――。


『生存確認です! しかし戦闘不能と見なします!』


 その報告に、アレイダが――あと会場中の観客が、ほうっと、息を吐き出した。

 本当に「ほうっ」という声が聞こえた。会場中がハモっていた。


『――よって!! 勝者! ――オリオン・チームっ!!』


 大歓声が沸き起こった。

 抑えていた感情がすべて噴き出して、それは壮絶なまでの大歓声だった。


「いぇい♪」


 アレイダが、ぴょんと飛び跳ねた。


 俺たちは第1回戦を突破した。

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