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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
9.仲間の増えてゆく旅の途中
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転職近づく 「悪魔調伏が必要らしいな」

 いつものリビング。いつもの昼すぎ。

 俺は足をテーブルに投げ出してソファーに座り、リズから渡された資料を読んでいた。


「もー、オリオン。足。お行儀わるいわよー。足」

「うるせえ駄犬」


 俺の家で俺が俺の足をどうしていようと俺の勝手だ。


「俺の勝手だ、とか言うんでしょうけど。そういうことじゃなくて。普段の行いが外でも出るのよ。家の中でやっていることは、家の外でもつい出ちゃうの。だからついうっかり出ちゃって失敗しないように、いつでもきちんとしていなさい。……って、わたしはそう族長に教わったのよね」


「ふむ」


 一理ある。もうこの世にいないアレイダの部族の族長の智慧ちえに敬意を表して、俺は足をテーブルから下ろした。


「なに読んでるの?」

「なんでもいいだろ」

「えっちなやつでしょ?」


 おいおいおいおい。その決めつけはなんだ。俺がポルノ小説でも読んでいると? そんなに不自由していると?


 俺の沽券と名誉に関わることなので、俺は読んでいたものを、ぴらっとアレイダに見せた。


「リズから貰った資料だ。クルセイダーへの転職条件。ジョブ条件以外にも、いまいち不明だった部分があったんだが……、そこが判明して、解明されて、確定されたという報告だ」

「え? それって……、わたしのため……?」


「ま。飼い主として当然の責務だが……」

「それって……、わたしのため……?」


 は? いまそう言っただろうに。

 なぜ、おなじことを二回も聞きやがる?


「そっか……、わたしのためにやってくれてるんだー」


 この駄犬はなにか勘違いをしているようだ。

 嬉しそうな顔をしている。目を潤ませちゃっている。胸に手をあてて、「はぁー」とかため息をついちゃっている。

 本当に勘違いはなはだしい。

 飼い主として当然の責務を果たしているだけであって、おまえが勘違いしているようなことでは、全然ないわけだが……。


「犯すぞ。このアマ」

「犯して」


 潤んだ目でそう言ってくる。だめだこりゃ。


「判明した転職条件の一つに、必要な儀式がある。――付き合え」

「はい!」


 いつになく素直にアレイダは従った。


    ◇


「ちょ……、ちょっ――ちょおおっ! 儀式って、なに!? なんなの!」


 馬車を出て、近くに適当な廃墟を見つけて、そこで〝儀式〟の準備を整えていた。

 せっかくの閉じている亜空間に〝道〟を開くわけにいかないので、わざわざ外に出てやっている。

 家畜を一匹。断頭して、その血でもって魔法陣を描く。


「なんか、おどろおどろしいんですけど……、ちょ……、なにか危ない感じしない? やめよ? やめましょ? もーおうちかえるーっ!!」


 さっきから、駄犬がひゃんひゃんと人語で鳴きっぱなしだ。うるさいったらかなわない。


「もー! 聞いてよ! 聞きなさいよ! オリオンってば! さっきからなにやってんのよ!」

「なにって? 召喚の儀式だろうが?」

「召喚ってどんな儀式? てゆうか召喚ってそもそもなに!?」


「クロウナイトは闇に落ちたナイトだから、悪魔の一匹も調伏して従えて、それでようやく一人前なのだと。冒険者ギルドの数少ないクルセイダーへの転職記録では、クルセイダーになれたクロウナイトは、ほぼ例外なく悪魔を手下として持っていたんだそうだ。だから転職条件に〝悪魔の調伏〟は確定でいいと、そうした報告だ。リズからのな」


「そ、そ、そ、それって――〝ほぼ〟っていうだけでしょ? だけよね? つまり確定ってことじゃないわよね?」

「悪魔を調伏していないクロウナイトは、Lvをカンストしてもクルセイダーに転職できなかったそうだ」


「でも例外はあるわけでしょ? ほぼってことなら?」

「その唯一の例外っていうのが、クロウナイトが先でナイトが後で、そしてナイト時代に悪魔を調伏して、改心させて弟子に取っていたという、奇特なやつで――」


「やっぱり……、やらないと……、だめ?」

「クルセイダーになんなかったら、おまえ、転職ツリーの袋小路で、詰んでるぞ?」

「えっ? そうなの?」

「ずっとクロウナイトのままだぞ? もうこれ以上強くなれないぞ?」


 そうなの? ――とか来やがった。この駄犬が。

 もう字だって読めるようになってるのに、資料はリビングのテーブルの上に出しているのに、読みやしねえ。

 だから飼い主の俺がこんなに苦労するはめになる。


「わかったら。邪魔するな。もうすぐ魔法陣書き終わるから、そこでおとなしくしていろ」


「悪魔とか……、あんまり詳しくないけど……」

「そういう言いかただと、すこしは詳しいように聞こえるが」

「ぜ……、ぜんぜん詳しくないけど……。なんか簡単に喚べちゃうみたいよね?」


 俺が足下に書いているのは異次元とのチャンネルを開く図形。

 魔法文字が並ぶのは、接続先の座標。覚えている者ならそらでも描ける。なにかで図面を手に入れれば、素人だって描くことは可能だろう。


「ああ。やつらはいつでもこちらに来たがっているからな。描きさえすれば、あとは勝手に向こうから魔力供給して接続してくれる。ただ問題なのは――」


 俺は最後の一文字を書く前に手を止めた。


「適切な防護を施しておかないと、現れた瞬間、食い殺されてしまうからな。大変なのはそこだ。やつらから身を守り、契約を終えて従えるまで、やつらを封じておかなければならない。そっちの防御結界だの封印結界だの、二重三重に張りめぐらせるためには、それは高度な修行が必要となるだろうさ」

「も、もちろん……? そ、それはやっているのよね……? 防御の結果? あと封印の結界?」

「そこまでは俺の手に負えん。本職じゃないからな」

「ちょっとちょっとちょっとおぉぉぉ――! それで喚んじゃだめでしょおぉぉーっ!」


 駄犬がうるさい。


「じゃ、喚ぶぞ」


 俺は最後の一文字を書いた。

 魔法陣が発行する。闇の光――というのは矛盾しているのだが、闇よりもなお暗い〝光〟が魔法陣の図案と文字に沿って輝いている。


 やがて魔法陣の下面を抜けて、悪魔がその姿を現してくる。


「我を喚んだのは――お前か」


 悪魔が――、言った。


「こりゃまた小物が現れてきたな」


 俺はため息とともに、そう言った。


「えっ? ……あら? 女の子?」


 悪魔は女の姿をしていた。アレイダやミーティアよりはすこし上に見える女の姿だ。もちろん悪魔なんて、何万年生きているかわかったものではないのだが……。


「公爵とまではいわないが、爵位くらい持ってるやつを期待したんだが……」


 出てきた瞬間、いきなりこちらの人間の言葉を話していたところをみると、かなり年若い悪魔だろう。何百年しか生きていないのかもしれない。

 悪魔の中でも貴族連中は、人間の言葉なんて使わない。人間語、それ自体は理解しているくせに、下位魔神語あるいは上位魔神語で話しかけなければ、返事を返さない。そのくらいプライドが高い。


 つまり人語を使ってきた時点で、悪魔のなかの平民あるいは奴隷階級であることが確定している。


「ま。いっか。転職条件は悪魔の〝調伏〟であって、上位魔神を支配しろとかいうわけでもないし。小物でも悪魔は悪魔だ」


「なにを言う。我は高貴なる血筋に連なる、由緒正しき――」

「ああ。いいからいいから。名前なんぞ名乗らなくていいぞ」


 ちなみに俺の愛用している金棒があるが――。あれは上位魔神をボコって奪い取った戦利品だ。

 ぶっ倒してやったら、しもべにしろとか、うるさかったのだが、金棒だけぶんどって、追い返してやった。

 勇者が悪魔なんぞ従えていたら世間体に悪いしな。

 いまなら勇者じゃないから使ってやってもよいの。ま。機会があればだが。


「に、人間……なにを言っている? たかが人間風情が? 見れば結界もなく、おまえを食い殺すことなど、わけもないことなのだぞ?」

「ちょちょちょ――ちょっ! 調伏って、いったいどうすればいいのよ? こ、これっ! どうするのっ! どうすればいいの?」


「どんな方法でもいいから。まいった――と、言わせてやればいいんだ」


 アレイダに戦わせて、倒して調伏させようと思っていたが……。

 俺はちょっと気が変わった。


「ちょちょちょおぉぉ――っ!? なんで脱ぐの! なんでオリオン! 服を脱ぎ始めているのっ!?」

「おまえの思っている通りの理由だ」


 俺はアレイダにそう答えた。


 見れば、美しい悪魔だった。いかにもそそる(、、、)肉体をしている。たぶん下級悪魔のサキュバスだろう。

 サキュバスとは初めてだ。


「ふんっ――人間風情が、このサキュバスと、こともあろうに〝性〟で勝負だと? よかろう……。その思い上がりを後悔させてやろうぞ」


 さっきまでちょっと弱腰で、ちょっと虚勢を張っていた悪魔子は、セックス勝負と聞いて、急に自信を取り戻した。


 しかし。おお……。やはりサキュバスだったか。

 それはそれは――すごい楽しみ。


「ふふっ……、人たる身が味わったことも内容な快楽を与えてやろう……」


 サキュバスは、いやらしく舌なめずりをした。赤い唇を舐める。それは〝食欲〟を感じさせる仕草だった。サキュバスにとって、セックスは食事と等しい。


 そして自分の胸を揉みはじめる。さすがサキュバス。色欲の悪魔。男を誘惑してくる仕草も堂に入ったものだった。


「おい。おまえも混ざれ。俺だけでヤッたんじゃ意味がない」


 俺はアレイダに言った。


「混ざるってなに――っ!? なんなのーっ!?」


 しぶしぶ服を脱ぎはじめたアレイダも混ざって――3Pをやった。

 滅茶苦茶セックスをした。


 もう堪忍してと懇願してくるまで、悪魔子を責めたてた。屈服して服従して、忠誠を誓うまで、アレイダと二人で可愛がった。

 なんか攻めている最中「ベリアル様! お助けください!」なんて、悪魔子が叫んでいたが――。なんか聞いた覚えがあると思ったら、俺の金棒の持ち主だった。


 悪魔子を調伏した。

 いったん異次元に還したが、アレイダ(と俺)の呼びかけには、いついかなるときにも応じて喚ばれてくることになった。

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