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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
9.仲間の増えてゆく旅の途中
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ハムスター 「ハムスターでも勇者だからな」

 いつもの昼まえ。いつものリビング……ではなくて、いつもとは違う、庭の片隅。


 俺はハムスターの姿となって、庭にいた。

 庭に生えてる草の丈が、なんと、俺の身長よりもある。

 ハムスターの視点から眺めると、なにもかも巨大サイズだった。


 このあいだ、モーリンの呪術で俺は「馬」になった。

 馬以外にも、どんな動物にでもできるそうだ。

 それでアレイダの馬鹿が「ハムスターにしたらオリオンもカワイくなるんじゃない?」とか言い出して――。


 アレイダ一人が言ってるだけなら、無視して終わりとなるところであったが――。

 スケルティアもモーリンも期待の熱い眼差しを向けてくるものだから、俺はリクエストに答えて「ハムスターの呪い」に掛かってやることにした。


 「カワイー! カワイー」「かわいい。」「小さくてもふもふでぴくぴくしているマスターは本当に愛らしゅうございます」


 ――だとか。

 皆の手の上で弄ばれて「可愛がり」を受けて、「おいもうちょっと手厚く扱え」と言いたくても、「チチチ、キキキキッ」としか鳴けなくて、そしたらますます女どもをエキサイトさせるだけで――。


 俺は〝自由〟を得るために逃亡をはかったわけだった。


「もー! どこいったのー! オリオンちゃーん! ちゅちゅー!」


 屋敷の中をどたばた走っているアレイダの声が聞こえる。

 ふふふ。ばかめ。

 やつら屋敷の中を探している。庭に出ているとは思うまい。


 しかしなんなんだ? その「オリオンちゃん」っつーのは? あとハムスターは「ちゅちゅー」とは鳴かんぞ。それはネズミだ。


 適当に時間を潰して、

 この前と同じなら、一時間かそこらで術者であるモーリンの身にも呪いが降り掛かる。あっちもハムスター化するはずだ。

 そしたら戻ろう。


 なにをするのかって?

 我は牡なり。彼女は牝なり。

 することは一つだろう。


 滅茶苦茶、交尾するのだ。


 人間以外の交尾もなかなかオツなものだと、このあいだ馬になってみてわかった。まるで初めてのときような新鮮味があって、思わずハッスルしてしまった。

 ハムスター同士の交尾はどんな感じなのか。試してみるのも一興だ。


 そんなことを考えながら、俺が庭をウロついていると、何者かの気配を感じた。


 庭の外――。門の外あたりから、歩いてくる人間の気配が、4名ないし5名。

 どっちかっつーと、「音」よりも、「ヒゲ」を通して伝わる地面の振動として感知している。ハムスターの五感は、おもろい。


 まあそれはともかくとして……。何者だ?


 この庭は亜空間に隔離されている。出入口は馬車の幌の内側に、「瞳」の形の時空の裂け目として開く。

 合い言葉を言って出入口を開け閉めすれば、第三者は絶対に入ってこれないはずなのだが……。


 最後に通ったやつが、きっと閉め忘れてきたのだろう。

 ったく……。誰だ?


 アレイダだったら「おしおき」だな。スケルティアとミーティアだったら「めっ」とやって許してやるが。

 ちなみに「おしおき」というのは、それはそれは厳しい罰である。泣いて謝っても許してやらない。激しく激しく責め立ててやる。もちろんベッドの中でだが。


 俺は草の根元をかきわけて、庭の外へと向かった。

 おお。塀に穴が空いてた。便利だが。あとで直しておかないとな。


 むさい感じの男たちがいた。数は5名。

 全員、武装してはいるが、手にしている刃物は、鉈だの斧だの、武器というよりは生活の道具という感じ。ひとりだけ剣を手にしているが、それも刃こぼれして錆だらけ。

 鎧のほうはどれもよれよれで、部品の足りてない、ちぐはぐな有様だ。


 典型的な「野盗」だった。


「なぁ、おい? 本当にこんなとこに女がいたのか?」

「ぜったいまちがいねえって。この馬車に入ってゆくところを見たんだ」

「しかしなんで馬車のなかがこんなに広いんだ?」

「どうだっていいだろ。馬鹿めが。それより女だ。あと金だ」

「いいオンナだったぜー……、いい服も着てた」

「へっ……、へっへっへっ……、ひさしぶりの女だあぁ……」


 野盗どもはアイデンティティーといったものが希薄なのか、どこの野盗どもも、区別のつかないことを言う。

 それともアイデンティティーがこうだから野盗になるのだろうか。

 まあ、どうでもいいのだが。


「女三人とメスガキ一人だった。歳のいった美人と、肉付きのいい赤毛の女と、細っこい娘と――」

「俺! いちばん年上の美人にするぜ!」

「ああ馬鹿野郎! 俺が見つけたんだから俺が――」

「うるせえ」


 ざしゅ、と、剣が振るわれた。

 5人だった野盗は4人になった。

 ……やれやれだ。


 俺はやつらが庭に入ってくる前に、門の前に立ち塞がった。

 俺の家をあんな連中の小汚い血で汚すのはげんなりとする。

 せめて塀の外で始末しよう。


 俺が門の前に立ち塞がっているのだが――。

 やつらは一向に気づかず、ずんずんと進んでくる。

 そうか見えないか。


「――チチチチチ!」


 俺が鳴き声をあげてやると、やつらはようやく気がついて足を止めた。


「なんだ? ネズミか?」


 ネズミちゃうわ。ハムスターだ。


「ほっとけ。食ってもたいした量になんねえ」


 食うのかよ。


「なんだこいつ? 門でも守ってるつもりか? はっはっは――、ネズミが?」


 男たちは薄ら笑いを浮かべている。完全にナメている。


 だが、俺は種族こそネズミ……じゃなくて、ハムスターになってはいるものの、ジョブとLv自体は、変わっていない。


 ジョブは……、勇者。

 そしてLvは……、すごくたくさん。


 ハムスターであっても〝勇者〟であるわけだ。

 それがどういう意味を持つのか――。


「死ね――、クソネズミ――」


 男の一人が、鉈を振り下ろしてきた。

 俺はひらりと躱すと、ジャンプして、その鉈に飛び乗った。


「わっ、わっわっわっ――こいつ!」


 男の腕を駆け上がる。肘を越えて肩を越えて、そして――。


「うぎゃああ――っ!!」


 狙ったのは首筋。

 むき出しの肌に齧歯類の鋭い牙を一閃。


 頸動脈を皮膚の下から掘り出して、ぐにゅーんと引っぱって、じゃっきん、と切断してやった。


「うわ!! うわ! 血ィ――俺の血いぃぃ!?」


 噴水みたいに真紅の動脈血を噴きあげて、男はしばらく騒いでいたが、やがて出血多量で意識を失った。


 続く三人を、俺はそれぞれ別々の方法で仕留めていった。

 一人は目を潰してから、脊髄を噛んで噛んでぐずぐずにしてやった。


 そのへんで、なにもハムスターっぽく戦わなくてもいいことに気がついた。

 一人は振り下ろしてくる斧を受け止めてから、にやりと笑ってやり――それから腕を掴んで石壁に投げ飛ばした。〝壁の染み〟にしてやった。


 ジョブの差――。そしてLvの差――。

 俺ほどにもなると、「種族差」なんて誤差みたいなもので――。

 ステータスだけで圧倒してしまえる。


「か……、怪物だあぁぁ……!?」


 最後の四人目は逃げてゆくところを、後ろから襲った。


 戦意を喪失したら許してやるなんていう慈悲は、俺にはない。

 こいつらは俺の女を犯す算段をしていた。

 女が逃げても許してやったりはしないのだろう。

 だから俺も許してやらない。


 思いっきり足に力をこめて、そして大きくジャンプ。

 砲弾のような勢いですっ飛んでいった俺の体は、最後のやつの頭蓋を爆裂四散させた。


 死体の始末もやっておくことにする。

 ゴミムシどもが紛れ込んできて、不快な思いをするのは、俺一人でいい。


 五つの死体を、引っぱってきて重ねて山にする。

 魔界から大食いの魔物を召喚させる。魔法陣の内側にある〝肉〟は、なんであろうとこいつらの胃袋に収まる。


 よし。始末完了。


 俺は噴水の水で、体の血を落としてから、屋敷に戻った。

 そろそろモーリンが呪いの反作用でハムスターになっているはずだ。きっと毛並みも艶々の美人ハムスターになってるはずだ。


 今日は滅茶苦茶交尾するぞー!!

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