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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
9.仲間の増えてゆく旅の途中
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ミーティアのいる毎日 「悪……覚えます」

ミーティア出てきたので、ミーティア回っすー。

「さあ。たーんと召しあがれー」

「あっ。はい」


 ミーティアにそう言われて、アレイダがしゃんと背筋を伸ばす。


 いつもの食堂。いつもとは違う夕食。

 モーリンとミーティアが料理を並べ、俺とスケルティアと駄犬とは、座ったまんまだった。

 駄犬が畏まって、姿勢を良くしている。それが、ひどくおかしい。


 ミーティアは、手足があって動いて働けるということが、本当に楽しげだった。――本当に楽しいのだろう。だいぶ長いこと「馬」をやっていたようだったからな。


「そのポテトサラダは、私が作ったんです」

「はっ。はいっ」


 アレイダがポテトサラダを取ろうとすると、ミーティアが言う。

 駄犬は、またキョドる。


「このザワークラウトも、私が漬けたんですよー。はい、スケさん、どうぞー」

「ん。たべるよ。」


 スケルティアは放っておくと肉しか食べない。だが、よそってやれば、野菜でもなんでも食べる。特に文句も言わない。好き嫌いもない。


「こっちのドレッシングも、私が作ったんですよ。どのくらいかけます? いっぱいかけます?」

「えっあっはい。……い、いっぱいで」


 駄犬のほうは、さっきからキョドりまくりだ。

 すこし前の「じつは料理できなかった事件」のあと、心を入れ替えて、「料理をできるようになる!」とか大口叩いていたくせに、やはり駄犬は駄犬。

 あいかわらずの食っちゃ寝生活。料理のなにがしかが、身につくはずもなし。


「しかし……、いい子がうちに来てくれたなぁ」


 俺はこれみよがしに、大きな声でそう言った。


「ちがいます。オリオン様」

「ん?」


 ミーティアは人差し指を一本立てて、いたずらっぽい顔をした。


「私が――。いい人のところに貰っていただけたんですよ」


 くー……。

 奥ゆかしい、いい娘であった。

 どこかの駄犬に、蹄の垢でも煎じて飲ませてやりたいくらいであった。


「なぁ。なんか言うべきことはないのか? ――どこかの駄犬」

「ポテトサラダ……。おいしいです……。……あ、お肉は大盛りでお願いします」

 ローストビーフの塊が、どてっ、と、皿に置かれる。駄犬は駄犬らしく、がふがふと食いはじめた。


「私、もっともっと、お役に立てるように頑張らないと」

「おまえは充分、役に立ってくれているよ」


 殊勝なことを言うミーティアの腰を、ひょいと抱き寄せて俺は膝の上に座らせると、頭を撫でてやった。


 肉を食っていた駄犬が、はっ、と顔をあげた。

 いいなー、という顔をする。

 だから駄犬なんだぞ。

 おまえはとにかく、口のまわりについてる肉汁を、まず拭え。


「だけど私。ちっともオリオン様のお役に立てておりません」

「いやいや。充分に役に立っているって」


 控えめにみても、充分だろう。


「いえ、私がしていることなんて……、モーリン様のお手伝いでお夕食の支度と、お掃除のお手伝いと、お洗濯のお手伝いと、あと馬車を牽いているくらいで――。肝心なことは、なにひとつ――」


 それで「なにもやっていない」というなら、駄犬はいったいなんなんだろうか?

 さすがに少々、駄犬がかわいそうになってきたので、俺は少々、フォローを入れてやることにした。


 まずは咳払いをひとつ――。


「うん……んっ! おまえたちの最も大切な仕事は、夜、俺とベッドを共にすることだ。おまえは充分、役に立っているぞ」


 ちら、と、駄犬を見てみる。

 そっちのほうなら、駄犬も充分に役立っている。


 だいたい、3:2:2:2:1――くらいの比率であった。

 アレイダ:スケルティア:モーリン:ミーティア:クザク――と、そんな比率だ。

 3のところがアレイダだから、一番、役に立っているといえるだろう。


 ――と、せっかく「役に立つところ」を発見してやったというのに。


 この駄犬めが。

 ものすご~く、いやなものを見るような目で、俺のことを見ている。

 よし。今週だけ、5:1:1:1:1――としよう。お仕置きをしてやらねば。


「い……、いやあのその……、ご寵愛をいただけることは、それは……、嬉しいのですけど……。あの、もっと大事なことのほうで……」


 ミーティアが恥じらいながら言う。


 ん? ほかに大事なこと?

 それ以上に大事なことなど……?

 ちょっと思いつかないのだが……?


「オリオン様は〝悪〟――でいらっしゃいますので。私も〝悪〟のほうでお役に立ちたいと……」


 俺が腕組みをして考えこんでいると、ミーティアはそう言った。


「いやべつに悪ではないが」

「いーや! こいつ悪! ぜったい悪!」


 アレイダがびしっと俺に指を突きつける。

 こいつ。この駄犬。元勇者つかまえて、ひでえな。

 世界救ったんだぞ。一回は。


「どこが悪だ」

「ええっ? 自覚なかったの信じらんない。あんたみたい勝手気ままにやってんのは、他人からみれば、悪! ――なわけ」

「俺がなにを勝手してるっていうんだ?」


 俺は本当にわからず、アレイダにそう聞いた。


「お姫様! レイプしたし!」

「いやあれはそもそもレイプではないし。姫の純潔を奪ってやったのは確かだが……。本人も国も臣下たちも、WINWINで、ハッピーラッキーなんだから、結果オーライで、べつにいいだろ?」


 本当は奪って連れ去ってやりたかった。――悪い魔法使いや魔王のように。

 だが自制した。姫が望んでいなかったから。俺に奪われることが姫の幸せではなかったから。

 俺はやりたいことは自重せずになんでもやることにしているが、WINWINにならないことは自制する主義だ。


「奴隷娘! 買ったし!」

「買ったがどうした」


 おまえ、あのまま売られて、誰か他のスケベオヤジに買われていったほうがよかったのか? あるいはまったく売れないまま、不良在庫として〝処分〟でもされたかったのか?


「盗賊娘! 成敗したし!」

「成敗したがどうした」


 スケルティアは、あのまま街の片隅で、盗賊として生きていたほうが幸せだったか? たった一人で?


「困ってる女の子! 手込めにしたし!」

「おい。クザク。――なんか言われてるぞ」


 天井に向けて声をかけると、ひらり――と、一枚の紙が落ちてきた。

 キャッチして読む。


あるじに出会って真の主従を得ました。――とさ。手込めにされて、文句はないそうだ」


「あとは――ええと!」


 アレイダは、まだ俺の罪状を探そうとしている。


「そう! こいつに鍛えられると、大変なんだから! 死んじゃいそうになるんだから!」

「私。なにやら魔法の才能があるとかで……。オリオン様のお役に立てることが楽しみです。私の力が至らず、もし修行の途中で倒れるようなことがあったとしても、それは私の不徳の致すところで、オリオン様を恨むなんて、まったくありませんわ」

「うっ……」


 一分の隙もなく論破される。

 まだ諦めてないアレイダは――。


「そ――そう! こいつに鍛えられると! 人殺しとかもやらされるんだから!」


 ふむ……?

 アレイダの言い分にも、一理あったな。

 俺はそのことをまだミーティアに訊ねていなかった。


「野盗どもが、おまえを取り囲んでいる。何十人もいる。俺はいない。助けもこない。おまえ一人だ。野盗どもはおまえは犯そうとしている。――どうする?」

「自害します」

「俺はお前が死ぬことを喜ばない。――そしておまえは俺の〝育成済み〟となっている。おまえは強い。野盗どもはお前の敵ではない。――それならば、どうする?」

「殺します」


 ミーティアの答えは――即答だった。

 俺はさらに質問を続けた。


「彼我の実力差は明白だ。殺さずとも無力化することができる」

「それでも、殺すと思います。――その野盗? とかいう方々が、物取りや金銭を盗むだけのもつもりであったなら、命までは取りません。……ですが」

「……ですが?」

「たぶん……。確信はないのですけど……。オリオン様は、私を汚そうとしてきた相手を許すことを、よしとしない気が……しますので」

「うむ。その通り。もしお前が許したとしても、俺が許さん。そのあとで全員、見つけ出して、ぶっ殺す。……うん。間違いないな。うん。殺そう」


 俺はうなずいた。

 俺は自制はするが、自重はしない主義なのだ。


「ほらー……、悪よー……、悪でしょー……? 悪じゃないのー? これー?」

「私。悪も覚えますので。どうかよろしくご指導ご鞭撻、お願いいたします」


 ミーティアは深々とお辞儀をした。

 座礼であれば、三つ指でもついていたところだった。


    ◇


 後日――。

 ミーティアの〝覚悟〟を確認したので〝育成〟を開始した。

 まずは、ギルドに連れていって計測と登録。

 やはり魔法使いへの「物凄い」適性があった。特に魔法耐性がえらく高い。動物化の呪いを半分弾いていたのも、素のスペックだったらしい。


 気になるのは、ちょっとばかり「運」が低かったことだが……。いや……。ちょっと、というのでは、言葉が足りないというか……。

 マイナスって、なんなの? ステータスにマイナスってあったの?

 元勇者もびっくりだ。


 まあそれはそれとして――。


 久々の初心者向けダンジョンにいって、まずは軽く「魔法使い」からスタートした。


 鍛えかたはいつもの「元勇者式」。

 駄犬と違って、泣き言の一つも言わなかった。接近戦のできるジョブと違って、魔法使いのソロは、相当、しんどかったはずだが――。


 その日のうちには、魔法使いをカンストして、魔女ウィッチへと転職していた。

 まだまだ伸ばせそうではあったが、育成はいったんそこで終了することにした。

 一度とはいえ、転職済みであれば、二度の転職/進化を経ているアレイダとスケルティアと組ませても、足を引っぱるようなこともない。後衛なのでサポート専門だ。

 魔法職のジョブツリーは複雑怪奇で、どういう育成方針にするか、固め切らないうちは、あまり転職を重ねないほうがよいという判断だ。


 うちのパーティに、魔法使いが参入した。

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