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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
9.仲間の増えてゆく旅の途中
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ハンコ 「これなに? 作って作ってー、あたしにも!」

 いつもの午前。いつもの屋敷の庭。

 俺は薪割りの途中で休憩していた。

 切り株に腰を下ろして、そこらの木材と小刀を使って、ふと思いついた、〝ちょっとしたもの〟を彫っていた。

 木の断片を数センチサイズに細長くして、先端を細かく加工してゆく。先端に彫り込んでいるのは〝文字〟だ。


「オリオン、なにしてるの?」


 うちの娘たちの駄馬なほうが、ぴょこぴょこ、好奇心を持ってやってくる。

 いや。〝駄馬〟とかいっては――〝馬〟に失礼か。うちにはよく働くいい娘の馬もいるしな。

 じゃあなんていうべきか。


「ねえ、なーにー? ヒミツなのー? それあてる遊び? えっと、じゃあね――」


 カワイイことを言いはじめるので、俺は答えを教えてやることにした。


「これは〝ハンコ〟というものだ」

「ああ。もう、言っちゃったー。……で、〝ハンコ〟って、なに?」


 アレイダはそう聞いてきた。

 その顔を見ると、ハンコを知らないらしい。


 ひょっとすると、この世界には、ハンコはないのかもしれない。モーリンあたりに聞けばハッキリするのだろうが、アレイダだと、本当に存在しないのか、アレイダが知らないだけなのか、はっきりしない。


「これを押すと、名前を書いたかわりになるんだ」

「へー、どうやるの、どうやるのー?」

「そうだな……」


 ちょうどいい朱色の良い花があったので、その花びらを搾って、赤い汁を一滴つくる。それをハンコの先端につける。印面には、ちょうど「オリオン」と彫り終わったところだった。


 そのハンコを――。


 ぺたん。


 アレイダの額に押しあてる。


「えっ。……ちょっ! もうっ! やめてよー!」


 せっかく額についた「オリオン印」を、アレイダはごしごしと擦って消してしまう。


「なんだよ。俺に名前を書かれるのは、嫌か?」

「嫌じゃないけど……、じゃなくて! 嫌よ。うん。もちろん嫌。名前書かれるなんて、冗談じゃないわよ」

「そうか」


 俺は言った。そしてアレイダの体のあちこちに、ぺたぺたとハンコを押していった。

 ほっぺに肩に、二の腕に、手のひらと手の甲と、両面押した。


「もう! ちょ――聞いてるの!? ハンコ押すなーっ!」

「いやか?」

「いやじゃないけ……、じゃなくて! いや! いや! やだーっ!」

「おっぱいだせ。そこにも押してやる」

「ばか? ばかなの?」

「ふむ。どっちかっていうとおまえはケツのほうが良かったな。ケツを出せ。ハンコを押してやろう」

「もう! ばかーっ!」


 アレイダは真っ赤になった。


 俺は作業の続きに戻った。いまのは認め印みたいな小さめサイズ。書類用の大きなものも彫る。

 もしこの世界に「ハンコ」というものがないのであれば、広めてしまうのもおもしろいかもしれない。手はじめに、リズに見せるためのサンプルをいくつか作る。


 アレイダは丸太に座って、俺の手元を、じーっと見つめていた。


「ね。あたしのも彫ってよ」

「おまえのを? なんで?」

「教えなーい」

「ウゼぇ」

「うそうそ! 教える! 言う! ……あちこち押してみようかな、って」

「しゃあねーな」


 俺は小さめの認め印サイズのやつを彫ってやった。


「これ……、なんて読むの?」

「それは遠い世界の象形文字だ」


 ハンコに彫られた〝漢字〟は、たったの一文字――。

 〝駄〟と、彫ってあった。


「へー、へー、へー、なんて意味? なんて意味?」

「それは〝優れている〟という意味だな」

「へー、へー、へー。これ? あたしの?」

「ああ。おまえ専用だな。まさにおまえのためにあるような文字だ」

「わー、わー、わー、オリオンから、なにかもらったの……、はじめてっ」


「ん? そうだったか?」

「そうよ」

「いやいや。待て待て待て。おまえのいま着てる服だって、武装だって――」

「これはドロップしたものだし。あたしが自分で倒したモンスターから手に入れたものだし。オリオンはなんにも手伝ってくれないし」

「いやー……、まあ、それはそうだが……。なんか他に、くれてやったものはなかったか?」

「ないでしょ。なんにも」

「ああ。ほら。あるじゃないか。毎晩たっぷりとナカにくれてや――」


 皆まで言わせてもらう前に、ばすばす、ぼすぼす、と、パンチを打ちこまれた。

 だから痛えっての。

 物理系上級職のマジパンチは、さすがにステータス差を貫通してきて、HPが減る。


「死ぬ? いっぺん死んでみる?」


 アレイダは鼻息荒く、そう言った。

 本当に撲殺が可能だ。――俺が無抵抗であれば。

 ある意味、すごい。前々世に比べたらぜんぜん鍛えていないとはいえ、そこそこ高レベルになった「勇者」にダメージを1でも与えるとか、魔王軍の中ボスぐらいは張れるんじゃなかろうか。

 もう魔王軍なんてないけどな。平和極まりない世の中だが。


 はじめてくれてやった物が、〝駄〟のハンコでは、さすがにあれだろう。

 俺はちょっと良心が呵責を感じた。


「ちょっと待て。それじゃなくて違うのを彫ってやる。それは返せ」

「いいよ。これで。大事にする」

「いや、もっとちゃんとしたものを……」

「やっ」


 アレイダは


 しかたがない。他のことで埋め合わせをするか。

 今夜はたっぷりとかわいがってやることにしよう。


    ◇


 その夜は、滅茶苦茶セックスをした。

 アレイダが意識をなくして、何をしても無反応となるまで、たっぷりと可愛がってやった。

連載再開です。

これから4月~5月末ぐらいまでのあいだ、時間をかけてゆっくりと、10万文字分(書籍化3巻相当)を連載予定です。3日に1話くらいの更新間隔となる予定です。

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