襲撃 「ねえ? こいつら殺しちゃっていーい?」
王都に逗留して、何日目かの夜――。
俺は、またかと、ため息をついた。
街にぶらりと飲みに出た。
ポールに掴まってくるくる回る半裸の女の子とか、チップを差しこむと膝の上に座りに来てくれる女の子とかのいる店に行った。
この手の店には、通常、女の客は絶対に入らない。
だがそこにあえて、連れこんだ。
アレイダは、はじめ、目を白黒させていたものの、飲み比べをして景気をつけたあとは、女の子に混じって踊っていた。俺が褒めると調子に乗って、ポールでくるくると回るようになった。
スケルティアは黙々と食べていた。
モーリンは俺の隣でグラスが空くと勺をしていた。女の子の何人かが「お姉様ー」と慕って、なんか異様にモテていた。あの女の子たちも、そのお姉様が、まさか街でウワサの大賢者とは思わなかったろう。
しかし、なんで異世界にストリップ・バーと、ポールダンスがあるんだ?
だれだこんな低俗な異世界文化を持ちこんだ転生人は!
けしからん! いいぞもっとやれ!
てな感じで、俺たちが上機嫌で帰り道を歩いていると――。
襲われた。
「……で、どうすんの? こいつら?」
襲ってきた連中は数人ほど。そのうちで捕まえられたのは四人ほど。一人二人は逃げている。
その四人は、スケルティアの糸でぐるぐる巻きにして、ふんじばっている。
「どうする、って言ってもなー……」
俺は正直、困り果てていた。
じつは襲われるのは、今夜が初めてではない。
昨日の夜も、一昨日の夜も、襲われた。
今夜など、どうせまた襲われるのだろう――と思って、わざわざ隙を作ってやるために外出したくらいだ。
「おい。おまえら? 誰に雇われたのか、言うつもりは?」
いちおう念のため、男たちに聞く。
だが昨夜と一昨日の連中と同じく、口をへの字に結んだまま。
「ねー、こいつら殺しちゃっていーい?」
アレイダが言う物騒な言葉にも、ぴくりとも反応しない。
胆が据わっている。
俺は経験から知っていた。
この種の手合いは、拷問をしてもなにをしても無駄。口を割らない。
自白が無理な相手でも、心を読むことで、情報を引き出す魔法やスキルは、あることはあるのだが……。
どうせそっちへの〝対策〟も済んでいるはずだ。
魔法やスキルの効果を妨害するとか、そんな高度なものではなく、もっと遥かに簡単な方法が存在する。その種の方法が使われたときに、即座に死ぬような仕掛けもあるわけだ。
「べつにぶっ殺したっていいんだが……」
山で襲ってきた山賊をバラすことに、なんの躊躇もない俺であったが……。
なぜだか、めずらしく、悩んでいた。
後味が悪いっつーか。冒険者ギルドに状況説明するのが面倒くさいっつーか。リズにあんまり面倒かけたくないっつーか。
〝彼女〟の思い出のあるこの王都を、血で汚したくないというか。
――まあ、それがいちばんの理由なんだろうな。
「いつものアレで」
「了解。スケさん。お花。摘んできて。――4輪ほど」
「わかた。」
スケルティアは、こくこく、とうなずいて、夜の街路に〝お花〟を探しに行く。
そのあいだにアレイダは「花瓶」を作りにかかった。
いつもの〝アレ〟というのは、〝花瓶の刑〟というものだ。
大の男を花瓶みたいに取り扱って、逆さまにする。
アレイダはLvカンスト寸前のクロウナイト。ガチ物理系の上級職のステータスは、それを可能とする。
逆さまにして、ひん剥いて、お花をいける――というのが、花瓶の刑であった。
どこに〝いける〟のかって? ――それはご想像にお任せする。
この者。狼藉者なり。
――と、消えないペンで顔に書いてやって、成敗完了。
道端に花瓶を置いて、俺たちは立ち去った。
◇
「も……、だめ」
いちばん体力のあったアレイダが、やっぱり最後まで保ったわけだが……。
気絶するように俺の上に倒れ込んできて、それきり、動かなくなる。
ちなみにモーリンとスケルティアの二人は、アレイダより先にリタイヤして
いた。目のまわりが落ちくぼむほどに衰弱して、いま、死んだように眠っている最中。
どんなイタズラをしても、決して目を覚まさないカンジー。
裸の娘を上に乗せたまま、俺は天井の一角を見つめていた。
思うところあって――。天井の隅に、声を投げる。
「クザク――。いるんだろ?」
がたごと、ごとん。
音がして、音がやんで――。しばらくして――。
天井の板がすうっとずれて、そこから、バツの悪そうなクザクの顔が現れた。
「いえあの釈明を許していただければ……。決して覗いていたわけでも、主を試そうとしていたわけでもなく……。その……、お役に立てればと思いまして……」
鳥の羽の髪飾りを、ぷるぷると震わせて――。クザクは言わずもがなのことを、いっぱい喋った。
なるほど。覗いていたのか。
なんか屋根裏で気が乱れていたけど。そのせいで気づいたわけだけど。
ああ。俺たちの行為を見て、一人でしていたわけか。そして気をやっていたわけか。
てか。混ざればいいのに。
クザクは俺の女だった。
前に、ゴブリンに返り討ちにあった彼女たちに、助けを求められた。
助けてやるかわりに俺のものにしたわけだが――。そのまま心酔されて、残り二人の女と共に、正式に、俺の女となった。
三人は、冒険者を続けて、自分たちを鍛え直すと言っていたが――。俺の近くについてきているのだろう。
彼女は、俺たちに足りない諜報系のクラスだった。役立つスキルをたくさん持っている。向こうの異世界だったら「忍者」とでもいうべきところなのだろうが……。こっちの世界に、その種のクラスはまだないっぽい。
「頼みたいことがあるんだが。いいか?」
「はい! 主の命でしたら! なんなりと!」
俺は、クザクに用件を告げた。
◇
翌日の夜――。
「宰相と騎士団長が結託して、とんでもないことを考えているようですよ」
ベッドにうつぶせに横たわり、満足しきった顔のクザクから、俺は報告を受けていた。
俺の頼みを受けたクザクは、たった1日で、色々なことを調べ上げてくれていた。
その〝ご褒美〟ということで、報告を聞く前に、まずは一戦を終えていた。
気絶させちゃうと報告が聞けなくなるので、ほどほどで――。
どうも最近溜まりまくっていたらしいクザクが、満腹しきった猫みたいな表情になるまで、何度も何度も際限なく、くれてやった。
たまに三人以外の女を抱くと、これがまた新鮮で――。意識していないと、激しく燃えあがってしまいそうで、自分を抑えるのに、俺のほうはすこし苦労していた。
ああ。リズが俺の女にならない理由が、なんかわかった気がする。
おやつは、たまに食べるから美味しいんだ。おやつとなるわけだ。てか。俺はおやつか。食われてるのは、俺の側か。
そういや彼女。朝になるとピンピンしてツヤツヤになって、しゃっきりと帰ってゆくな。
「首謀者は、宰相と騎士団長か……」
腐ってんなー、この国。
そういえば、その二人、かなりの歳である。ずっと王国に仕えている重鎮なのだという。
ということは、つまり――、50年前にも〝居た〟わけだ。
おそらく小僧か若造だったろうから、俺のほうは、覚えてもいないのだが。
「――で? その重鎮が、なにを企んでいる?」
考えれば推測はできたろうが、果てしなく面倒くさいので、いきなり聞く。
小物の思考をトレースしたら、自分まで小物になりそうだ。
「王女を傀儡に仕立てあげ、国の実権を握ろうとしているようです。――国の乗っ取りですね。つまり」
下向きに重く垂れ下がった、クザクの美しい乳房を眺めながら、俺は考える。
その忠義溢れる重鎮たちは、50年のあいだに歪んでいったのだろうか――?
それとも忠義など、最初からまやかしで、50年をかけた遠大な計画であったのだろうか。
まあ、どちらであったとしても、いまとなっては同じことだ。
たぶんこれは自分の願望ないしは希望だ。
自分が救った国が、せめて前者であってほしいという、元勇者のささやかな感傷だ。
「それと先々代の女王――王女の件ですが」
クザクには、たしかそのことは頼んでいなかったはずだが。
彼女は俺が命じたかのように、調べてきたことを話しはじめる。
てゆうか。たった一日でどんだけ調べてきてんの、この娘?
何この優秀な娘。
うちの駄犬に爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいわー。
「先々代女王は――公式には病気の療養ということですが……。特に悪いところもなく、心身共に健やかなるご様子でした」
見てきたように言う。もちろん見てきたのだろう。
〝彼女〟がいる場所も、もちろん、知っているのだろう。
「えっ……? あっ、ちょっ……、まだご報告がっ……」
俺はこの優秀な娘に、もうちょっと〝ご褒美〟をやっておこうと思った。
具体的には――。
さっき前からだったので、こんどは、後ろから犯した。