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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
8.ふたつめの地 古の王都にて

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牢獄 「わたしたち……、なんでこんなとこ、いんの?」

 夜が明けた。


 俺たちは牢獄の中にいた。


 だいぶ上のほうに鉄格子つきの窓があり、朝の日差しと、ちゅんちゅんと小鳥の鳴き声が入ってくる。

 それによって、朝がきたことがわかる。


「ねえ、わたしたち……、なんでこんなとこ、いんの?」


 膝を抱えて、アレイダが言う。


「あー、ヤダ。鉄格子みてると……。思いだす……。ねえ。暴れていい?」

「やめとけ」


 目の前にも鉄格子。石組みの壁に囲まれて、正面は鉄格子という、「牢獄」と聞いてイメージする、まさしくそんな場所に、俺たちは入れられていた。


 アレイダのやつは、すさんだ目で鉄格子を睨んでいる。

 奴隷で木檻に入れられて「商品」にされていたときのことを思い出すのだろう。

 あのときは単なる小娘で、木檻を破壊する力もなかったわけだが。

 いまは高レベルのクロウナイト。その気になれば、鉄格子をひん曲げて出て行くことも可能だ。石の壁だって素手でぶっ壊せるかもしれない。


 俺たちは捕まっているのではなくて、捕まえられてやっているのだった。


 憲兵だか王都防衛隊だか、なんだか知らんが、俺たちを捕らえに来た男たちは、この国の、まあ警察組織みたいなものだった。


 かつて勇者に救われたこの国では、「勇者」や「大賢者」や、あと勇者のパーティの仲間すべては、神格化されており――。

 その名を騙ることは、重罪となるらしい。


 昼飯を食ったときに、モーリンが「大賢者本人です」と名乗っていた。

 ウエイトレスの女の子は冗談と思ったらしいが、「アブナイからだめですよー」とも言っていた。その意味は、つまり、こういうことだったわけだ。


 あの娘が密告したとは思わない。カワイイ女の子と、綺麗な美女に、悪いやつはいないというのが、俺の持論だ。あそこの店にいた他の客が密告したか、あるいは憲兵の関係者がメシでも食っていたのだろう。


 しかし、名乗っただけで投獄とは……。有罪とは……。


 知らんがな。


 この街を救った勇者様だって、50年後に、まさかそんなアホなことになっているなんて、思いもしなかっただろうよ。

 あー、賭けてもいいぞー。本人ここにいるしなー。


「ねー……、ほんとにすぐに出られるのよね? ……出してもらえるのよね?」

「さあな」


 俺は言った。アレイダのやつは心配でたまらないらしい。数分ごとに「ぶっ壊していい?」と聞いてくるのだ。そんなに鉄格子にトラウマがあるのか。


「さあな、って、なにそれ。一生ここから出られなかったら、オリオンのせいだ……」


 なんでいきなり一生になるんだ。そんなに鉄格子がトラウマか?


「おりおん。よし。あれいだ。よし。もーりん。よし。」


 アレイダの言葉を真に受けたのか、スケルティアが、俺とアレイダとモーリンを指し示して、よし、とかうなずいている。

 一生ここにいることになっても俺たちがいるから、よし、という意味だろう。

 うちの娘のカワイイほうは、ほんと、かーいー。


 俺たちは、無論、出ようと思えば、こんなとこ、いつでもすぐに出て行くことができた。

 うちのバカ娘が、バカ力で、牢を石壁ごとぶっ壊したっていいし。スケルティアが糸を操って鍵を開けたっていいし。モーリンの転移魔法でテレポートするのが、もっともスマートだと思うが。


 それをしないのは、自分たちにやましいことがないからだ。逃げればみずから罪を認めることになる。


 取り調べに対して、俺たちは「本人だ」と一貫して主張している。

 やつらは冒険者ギルドに問い合わせをすると言っていた。朝になったし。そろそろ連絡が戻ってきてもいい頃だ。

 本当に問い合わせていれば、の、話であるか。


「はやく出たい早く出たいいますぐ出たい。ああもうあいつらぶっ殺して出ていい? いいよね?」


 アレイダが膝を抱えてぶつぶつ言ってる。据わった目で牢の番兵を見つめている。


 闇持ちのクロウナイトは、危なっかしくてかなわない。てゆうか。そんなに鉄格子にトラウマが?


「退屈だな。もうすこし時間がかかるかもしれないし。暇つぶしでもしているか」


 気晴らしになるだろうか。――という軽い気持ちで、俺は、隣で肩を寄せてくるアレイダに襲いかかった。


「ダーッ!」

「なになに! ちょ――!? なんなのなんでコイツいきなり欲情してんの!?」


 こいつ。ついにご主人様を〝こいつ〟呼ばわりかよ。

 ああ。いや。自分で得た金で自分を身請けしたから、もう奴隷じゃないんだっけか。じゃあ俺とこいつの関係ってなんだ?

 ああうん。飼い主と駄犬だな。そうに決まった。


「ちょ!? 見てるみてるみてる! あそこの人たち見てるうぅぅ! 見てるからだめえぇぇ!」


 それは見ていなければOKという意味か? まあOKなんだがな。


 ちなみに俺は、〝見せてやる〟ことに、なんら抵抗はない。

 むしろ……。

 ほーれ、俺はこんないい女を自由に出来るんだぜー! うらやましいかー? うらやましいだろおぉぉ?

 いいぞいいぞー、鉄格子の向こうで自分でしているぐらい、許してやるぞー?


 ――ぐらいなカンジ。

 牢の中にはいてやるが、その他のことには、まったく自重するつもりはない。


「きゃー! きゃー! だめーっ! そこはだめーっ! あっ、そこは……」


 俺はアレイダの固くなってきた部分を、うりうりとやった。

 牢番の男どもは、がっぷりと寄ってきて、血走った目で見ている。


 ぎいぃ、バタン。


 鉄扉が開く音がした。

 ここからは見えないところから、足音が聞こえてくる。

 通路を、かつかつかつ、と、ヒールで石を踏む足早な音が近づいてきた。


「ああ! オリオンさん! よかった! 見つかりました! こんなところに入れられて、まったく災難でしたね!」


 現れたのは、リズだった。いつも懇意にしている冒険者ギルドの人間だ。

 しかしずいぶん離れた街にいたはずなのだが、どうやって?

 ちなみに俺たちは転移魔法があるので、あの街まで顔を出しているが。


「問い合わせがあったので、すぐに飛んできました。ギルド同士には転移陣がありますから」


 おお。そうか。五十年前には遺跡の奥でしか見かけなかったが、そこまで普及しているんだな。


「貴方たち。……まずパンツあげ!」


 リズが一括する。

 牢番たちは、まずズボンを引きあげた。直立不動になる。


「この方々たちを。すぐにここから出してください」

「いや、しかし――」

「貴方たち。――なにをされたのか、わかっているのですか? 本物(、、)の、本当(、、)の、正真正銘(、、、、)大賢者様を、投獄したのですよ?」


 牢番たちが、顔色を変える。

 なにが起きつつあるのか、ようやく、理解した顔だ。


 だから、俺たち、ゆったじゃーん?

 本物だって、本人だって、そおゆったじゃーん?

 ばっかでー。


「おい。大賢者。話題になってるぞ」


 俺は子供みたいな手足を縮めて、すうすうと眠っているモーリンを、揺すって起こした。


「あ……。はい。すぐに朝食の支度を……」


 寝ぼけてる。

 萌えー。


 寝れるときに眠れるのは冒険者の資質だ。

 牢に入ってなにもできず、暇になったところで、モーリンはすやすやと睡眠に入っていた。冒険者の鑑とは、こういうことを言う。


 モーリンは、顔をこしょこしょとやって、くーっと、伸びをやってて――。

 そして、きりっと、完璧超人の顔に戻った。


「誤解が解けたようでなによりです。貴方たちの減刑は、きちんとお願いしておきますからご安心ください」


 ひどい目にあわせた相手に寛大なことを言う。

 大賢者とそのご一行の威厳をみせつけながら、俺たちは、牢をあとにしたのだった。


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