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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
7.旅の途中

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32/161

山賊さんいらっしゃい 「山賊には、手加減するんじゃないぞ」

「いいか? 山賊という連中は、とかく面倒くさい相手だからな。もし万が一出会ったときには、手加減するなよ」

「なんかいきなり殺しちゃえ、……とか、言われている気がするんですけど?」


 とある日の、昼食後の時間――。

 屋敷の庭の木の下の、青空教室で、アレイダとスケルティアの二人に稽古をつけてやっていた。

 本日の授業のテーマは、「もしも山賊に出会ったら?」である。


 ちなみに〝屋敷の庭〟というのは、魔法の馬車の中の亜空間のなか。

 この空間。どういうわけだか、「空」がある。表とは別に「お天道様」も見えている。

 馬車の外が雨でも中は晴れだったり、中は晴れでも馬車の外は曇りだったり、天気は連動していない。

 季節などは特になく、天気の変化を除けば、常に快適な気温湿度となっている。


 どういう仕組みになっているのかは――、しらん。

 モーリンなら、喪われた太古の魔法技術をすべて解説できるのだろうが、特に興味もないので、聞いたことはない。


「ねえオリオン。本当に殺しちゃってもいいの? 山賊は?」

「さんぞく。……ころす? ころす?」


「いいか? まず前提からいくぞ? ――街で出会うのは盗賊だ。――海で出会うのは海賊だ。――では、山で出会う連中は?」

「山賊。……だよ。」


 スケルティアに、俺はうなずいてやった。


「そうだ。つまり、山で出会った盗賊である以上、そいつらは、山賊だ」

「なんだか、あたりまえのこと、言われている気がするー」


 アレイダがぼやく。

 デカい尻の下にある丸太の椅子を、いっぺん蹴っ飛ばしてから、俺は話を続けた。


「山賊が厄介……っうか、愉快……なところは、人里離れたところで活動しているせいで、やつらの感覚は、すっかりおかしくなってしまっているということだ。盗賊なら、ギルドがだいたい仕切ってる。海賊なら仁義が通用したりもする。場合によっては手を組むのもありかもしれない」


 俺は木陰に置いた黒板を前にして、手を後ろに組みながら、行ったり来たりしながら話した。


 アレイダとスケルティアはすっかり生徒の顔。

 ふむふむ、とか、うなずいていたりする。


「――特に海賊の場合。頭目は美人であるケースが多いしな」


 俺が真面目な顔でそう言うと――アレイダのやつが、ずっこけていた。

 丸太の椅子から、見事に転がり落ちている。大袈裟すぎ。


 うむ? おかしいな? そんなずっこけるようなことを、話したか?

 二週目人生においては、すごく大事なことを言ったはずだが。


「んで。山賊だ。こいつらは金ナイ度胸ナイ女ナイ、の、三ナイだ。度胸と器量がないから、徒党を組む。土地勘のある山に引きこもって一歩も出ないで、通る商人や旅人を襲う。金がナイから仕事ぶりもセコい。そして――。おい、そこでまだずっこけてるアレイダ? もうひとつ〝ナイ〟のは、さて、なんだったかなー?」

「ええと……、な、なんだっけ?」


 うちの娘たちのよく聞いているほうが、うちの娘たちのぜんぜん聞いてないほうに、こしょこしょと耳打ちしてやっている。


「え、えと――、女? ……だったっけ?」

「そうだ」


 俺は重々しくうなずいた。


「山賊に捕まるとなー。悲惨だぞー?」

「ど……、どうなるの?」


「うむ。後ろから前から、責められるな」

「ぐえっ」


「一対一にして――なんていう贅沢は、聞いてもらえないな。複数人が群がってくるな」

「ぎゃっ」


「表から裏から、あるいは両方同時にだとか。遠慮もない」

「り、りょうほう? 両方ってなにー!? ――お、おもて? う、うらっ?」


 ああそういや。こいつとのセックスはノーマルばかりか。表とか裏とか両方とか、知らんのかも?


「壊れるまでご利用されること請け合いだな」

「ううう……」


「そして最後には、首を絞められたままヤられて、そのまま逝き殺されたりもする。〝えっひゃっひゃ。おいこれいいぜー!! 首を絞めるとアソコも締まるぜー!!〟とかお下品な感じで、ようやく、ご利用を終了してもらえる」

「うわぁ……」


 アレイダがビビっているのが面白くて、ついつい、下品な話になってしまった。


「……おほん。まあそんなことにならないように、だな。おまえたちには、山賊と出会ったときの心構えを――」


「心配してくれてるの?」

「ん?」

「あたしの、心配してくれてるの?」

「ん?」


 アレイダのやつが。なんか。キラキラした目を向けてくる。


「……おほん」


 俺は咳払いをひとつした。

 なにか妙な誤解が生じているらしい。

 俺は別に心配などしているわけではなく――。


 うん。そう。

 俺の女がそんな目に遭うことを、俺は到底容認できん。――というだけである。

 うん。そう。


「おまえの。……じゃなくて、おまえたちの、だからな。……おい。スケ。おまえも、きーてるのか?」

「ん。さんぞく。ころすよ。おりおんの。ところ。かえってくるよ。」


 うちの娘たちの健気なほうは、鼻を鳴らして、そんなことを言った。

 俺はちょっと、じーんと来た。


「じゃあちょっと立て。複数対一の戦いかたを教えてやる」

「できるわよ。このあいだ何十人も皆殺しにしたし」


 温泉街のときの戦いの話か。

 悪徳領主の配下のゴロつきどもを、何十人か倒したっけ。


「おまえらは、二人のチームプレイっつーか、ハメ技に特化しすぎ。それに慣れすぎ。スケと一緒じゃなくて、一人だったら、どーすんだ?」

「普通にやるんだって、できるわよー? 三十人かそのくらいまでなら」


 うちの娘たちの調子くれてるほうが、そう言った。


「ほほう?」


 俺は目を光らせた。


 ぱちんと、指を鳴らす。


 木の周囲の地面に、土の山が生まれた。土塊は、いくつも無数に盛り上がっていって――。

 それぞれが、手足を持つ


「うわぁ……、なにこれ?」

「土傀儡だ」


 俺の、ぱちんと指を鳴らす合図によって、遠くにいるモーリンが、家事のついでに魔法を唱えただけだが――。

 べつに「勇者」のジョブでも、この魔法は使えるぞ? だいたいなんでもできる、というのが、勇者というジョブの特性なので。

 ただ取得にかかるコストがあまり安くはない。せっかく全魔法系統を修めきっている「賢者」がいるわけだから、任せることにしているだけで――。


 やっぱ……。、こんど、取得するかな。


 モーリンと二人でラストダンジョンに行って小一時間も戦えば、必要なスキルポイントを得るだけレベルアップもするのだろうし。


「今日はこれと戦ってもらう」

「いいわよ」


 アレイダが剣を抜く。スケルティアが手を構える。


「ばか。一人ずつだ。なに聞いてんだおまえ」


 俺はアレイダの背中にケリを入れた。見事な足形が背中の肌のうえについた。肌と泥のコントラストがちょっとエロティック。


「ちょ――! なんでわたしだけ!? わたしだけ蹴られるの!? スケさんだって構えてたよね! いま構えてたよね!」


 うちの娘の賑やかなほうは、ほんと、うるちゃい。


 アレイダが、ぎゃーぎゃーと騒いでいる間にも、都合、三十体ばかりの土傀儡は、周囲を包囲して、じりじりと包囲を狭めつつあった。

 こいつらには知性はなく、召喚されると、手近なものを襲いはじめる。命令を与えその者だけを襲わせることもできる。


「まず。おまえからだ」


 俺は指を差した。

 標的ポインタを、アレイダに固定しようとしたとき――。


 ――ひひ~ん!


「ん? ミーティアか?」

「え? なに? ミー……?」

「ああ。馬の名前な」


 このあいだつけてやった。うちの馬車牽き牝馬の名前だ。女の子らしい、いい名前だと思う。


「なにそれ! わたしカクさんとか呼ばれてて! なんで馬に! そんなちゃんとした名前つけてるの! ひどくない!? ねえ! ひどくない!?」


 うちの娘のうるさいほうは、ほんと、うるちゃい。


「外でなんかあったみたいだな」


 命令を与えなかった土傀儡が、二、三体、ふらふらと近づいてくる。適当に殴って爆散させる。

 ちなみに高レベル勇者のパンチだから爆散するのであって、レベル1の戦士とかだと、一対一でも勝てるかどうか怪しい。土傀儡はそのくらいの強さがある。山賊と同等ということで、選んだわけであるからして――。


「――ちょっと訓練中止な。見に行ってみるか」


    ◇


 俺たちは、馬車を出た。


 そこにいたのは――。


「あれ? この人たち、なに? 大勢で……?」


 ぽかんと言っているアレイダに、俺は頭を抱えたくなった。おまえはさっきの授業でなにを聞いていた?


 大勢の男たちが馬車の周りにいた。

 あまりいい服は着ていない。服装はまちまち。全員、なにがしかの武器を携行しているが、その武器は、山刀や狩猟ナイフといったものの範疇を大きく逸脱している。戦闘用か人体破壊用って感じ。


「お……? おまえら、いったい……、どこから……?」


 男たちのうちの一人が、そう言った。

 馬車の中は亜空間へと繋がっているが、それは、所有者である俺が登録した者にとっての話。招かれざる者にとっては、本当に単なる馬車にしか見えない。幌の中をのぞいても、がらんとしてなにもない内側が見えるばかりだ。


 すでに覗いて、誰もいないいことを確認したのだろう。

 放置された馬車だと思ったのだろう。

 そして盗んで売り払おうとでも思ったのだろう。


 別の男が馬の近くにいた。


「いい馬じゃねえか~。馬車はゴミだが、この馬は高く売れそうだぜ~」

「汚い手でさわるな」


 牝馬――ミーティアの尻を、男が薄汚い手で撫でまわしていた。

 俺は長剣を抜くと――。


 その手を、すぱんと切断した。


 肘から先が、くるくると回転して地面に落ちる。

 腕を切り落とされた男は、うおー、とか、ぎゃー、とか、腕が腕がっ俺の腕がっ、とか、地面を転げ回って騒いでいるが――。


 俺の関心は、もっぱらミーティアの怯えをなだめてやることに向かっていた。


「よしよし。――よく我慢したな。よく知らせてきたな。もう安心しろ」

「ちょ――! ちょ! ちょちょ! なにやってんの! なんでいきなり人様の腕! 腕っ! 腕えっ! ――斬り落としちゃってんのっ!!」


 アレイダが騒ぐ。


「腕がっ! 俺の腕があぁぁ――!!」


 男はもっと騒ぐ。


「あーもう! うるさい! いま話してんの! 静かにして!!」


 アレイダに一喝されて、男は――。

 ナミダをこらえて口をつぐんだ。先のない腕を抱えてごろんごろん。仲間たちはひどいもんで、止血もしてやろうとしない。

 まあこいつらの団体制というのは、こんなんもん。徒党を組んでいるというだけで仲間意識があるのかどうかも、怪しい感じ。


「さっきからなにを騒いでいるんだ? おまえは?」


 俺は長剣で自分の肩を、とん、とーんと叩きながら、アレイダに聞いた。


「人様の腕をいきなり斬り落としてんじゃないって言ってんの!!」


 美しい赤毛を逆立てる勢いで、アレイダは言う。

 指差しているのは、ごろんごろん、無言で転がっている犠牲者その1。


「あァ?」


 俺はヤクザみたいに聞き返した。

 何を言っているのか。何でこいつが怒っているのか。まるでわからない。


「……おまえ。……ひょっとして? ……わかってない?」

「なにをよ!! まったく!! ――ひどいやつ、ひどい男だって、そう思ってたけど! いきなり人の腕斬っちゃうとか! そこまでとは思っていなかったわ!!」


 あー、やっぱりー。


 うちの娘のうちの賢いほうに目を向けると――。両手を水平に伸ばしたポーズが返ってきた。


 うちの娘のうちの働き者の、大きな尻に目を向けると――。ひひひん、と、いななきが返ってきた。


「さっき授業でやったばかりだろ? ……街で出会うのは盗賊。海で出会うのは海賊。……では? 山で出会うのは?」

「山賊よ」


 よくくびれた腰に手をあてて、アレイダは、〝いばりんぼ〟のポーズで言った。


「じゃ、こいつらは?」


 俺は、周囲の連中を顎で示した。

 もうすっかり武器を抜いて、身構えている。目をギラつかせている。

 ちょっと露出度の高い格好のアレイダの肉体を見て、ものすご~く、目をギラつかせている。

 こんな山奥を根城にしている連中が、いったい何日、女抜きでやっているのか……。考えたくもないし、想像もしたくない。


「こいつらは? なんだ?」


 俺はアレイダに、もう一度聞いた。


「……えっ? え、ええと……、さ、山賊っ?」

「あたーり」


 そう正解と認めたのは、俺じゃない。


 周囲を取り巻く男たちの一人が、べろお~りと、曲刀【曲刀:シミター】を舐めている。

 舌が切れているが、おかまいなし。


 アレイダの身体を舐め回すように視姦して、ぐへへ、と笑った。ヨダレを垂らしてる。


 俺は、ぱんぱん――と、手を打ち合わせた。


「じゃ。授業のつづきな」

「えっ?」

「最初は、アレイダ――おまえからな」

「へっ?」


 間抜け顔を晒して、自分の顔を指差しているアレイダに、俺はそう言った。

 同じように自分の顔を指差しているスケルティアには、「おまえはまた次な」と言ってやる。


「どうせなら、土傀儡じゃなくて、〝本物〟――のほうが、練習になるだろ」

「えっ? あっ? ええと……、本物って? えっえっ?」


 うちの娘たちの頭の回転の悪いほうは、いっこうに飲みこみが悪い。

 スケルティアなど、自分の番じゃないことに、ぷうと頬を膨らませている。おっ。めずらしく無表情少女が感情を表している。そうか。そんなに殺りたかったかー。

 だが今回はアレイダの番だしな。


「山賊に捕まると――特にお前みたいな、若くて美人で〝具合〟の良さそうな女が捕まると、どうなるんだったかな?」


 俺は教師か教授か、という口調で、学術的にそう聞いた。


「やめて……、その……〝具合〟とかってゆーの……」

「山賊に捕まると?」


「えっと……、あのっ……、う、うしろから……、まえから……だったっけ?」


 アレイダが耳まで真っ赤にさせながら、そう言った。


 ヒャーッヒャッヒャッ!

 近くの男が奇声を張りあげる。「その通りだぜー!」とかいう顔で、動物みたいに騒ぐ。


「――ちょっと静かにしてて!!」


 アレイダが顔を向けずに腕を横に突きだすと、下品な男は、交通事故みたいな勢いで吹き飛んでいった。

 マスターレベルのすこし手前の、高レベルのクロウナイトだ。岩ぐらいは素手だってカチ割れる。

 男は――あれはたぶん、永久に静かになった。


「あ、あと……、表から……、裏から……、って! だから裏ってなんなのよ!」


 ぎぬろ、と、男たちを睨んだ。


「大人数で、壊さゃちゃうまでご利用だとか……、冗談じゃないわっ!」


 燃える瞳を、男たちに向ける。


 男たちは、手をかざして、首を左右に振りたくって――。

 やらないやらない、しないしない、とか、必死になってサインを送っているが、このモードに入ったアレイダは、人の話なんか、聞きゃしない。

 そういえばクロウナイトのジョブ特性に「狂気を力に変える」っていうのがあったっけなー。そこからさらに闇落ちしていってファナティック・ナイトに進む道と、暗黒面への誘惑を昇華させて聖なる力を振るうクルセイダーとに分岐するんだっけなー。


「絶対、させない。絶対、やらせない……」


 アレイダは据わった目になって、そう言った。


「わたしに……、そういうことしていいのは……っ! オリオンだけなんだからーっ!!」


 これには俺がちょっと赤くなってしまった。


    ◇


 アレイダは、全員、ぶっ殺した。

 三十数名。迷うことなく大虐殺。


 土傀儡でやる実戦よりも貴重で有意義な、「本物で行う練習」が積めた。

 うむ。よきかな、よきかな。


 峠を一つ下っていって、山の向こう側の国に降りてみれば、やはりやつらは山賊だったらしく――。若干の報奨金が手に入った。アレイダがすんごい顔して「いらない」とかゆーので、俺がありがたく、懐へとしまった。

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