そしてエピローグ 「夕陽の沈む方角へ」
別れは――、夕陽の中での出来事となった。
「行ってしまうんだね……」
「ああ。旅もまだ途中だしな」
俺はマダムにそう言った。
彼女は、縋りついてくるのを、ぐっと堪えている感じ。
あれから数日は、色々と忙しかった。
まず、街の中のゴミを駆逐した。頭は潰したが、体は生きている場合があるので、念入りに腐敗のタネを断っていった。
あと、夜は夜で、また別な意味で急がしかった。俺のものとなった女のカラダに、誰が主であるのかを、たっぷりと教え込んでやった。
経験豊富な彼女をまじえての夜の営みは、アレイダやスケルティアには、色々と参考になったようで……。彼女を先生として、あちらのレベルがアップした。
色々と旅立ちの準備を終え、いざ出発、となったのは、こんな半端な時間だった。
「あの……、あんたさえよければ……、なんだけども……」
言いにくそうに、彼女は言う。
「うん?」
「だから……、その、ずっと……、ここにいてくれても……」
「……いや」
俺は、かぶりを振った。
彼女はぐっと息を飲み、それから、大きく息を吐きだした。
晴れ晴れとした顔になって、それから言う。
「そうだね。……あんたみたいな風来坊を、引きとめられるはずがなかったね」
「すまんな」
彼女は他の女たちに顔を向けた。
「アレイダちゃんも。スケルティアちゃんも。元気でね。……二人とも、可愛かったわよ」
「やだ、もうなに言ってるんですかあぁ!」
「……?」
うちの娘の声の大きなほうは、真っ赤になって恥じらっている。
もう一人の声の静かなほうは、意味がわかってなかったのか、きょとんとしている。
「モーリン――」
彼女はつぎにモーリンへと目を向けた。
二人は数日のあいだに打ち解けて、すっかり、呼び捨てで呼び合う仲となっていた。
「――彼のことを、よろしく」
「ええ。もちろん。承りました」
「堅いって」
彼女は、笑う。
「ええ。なにがあっても、わたくしはオリオンと一緒ですから。心配なく」
「まかせたよ」
彼女は、もっと笑う。
おや? ところでいま、マスターでなくてオリオンと呼ばれたか?
ま。いっか。
「オリオン……。あんたは、これから、どこへ行くんだい?」
「どこへ、って……、そりゃぁ……」
答えようとして、自分がなにも答えを持っていないことに気がついた。
だが俺の胸に、ひとつの考えが生まれていた。
昔の道筋を辿ってみようか。
昔の――。勇者時代の旅の道筋を――。
つらくて、苦しくて、ブラックだった勇者行を、良い思い出で塗り潰してゆくのも、いいかと思った。
ならば、次に訪れるのは――。
俺は、手を持ちあげ、まっすぐに、指し示した。
「この夕陽の沈む方角へ――」
明後日11/25は、書籍第一巻の発売日でーす。ダッシュエックス文庫より刊行でーす。
しばらく連載休憩となりまーす。次巻刊行2ヶ月前あたりから連載再開予定~。
次エピソードでは、また別の地へ~。
かつて主人公が前世で恋仲だった王女の王国へ行く予定~。