エピローグ
「それではこの者に勲章を与える」
「いらん」
「ではこの者に領地を――」
「いらん」
「で、ではこの者に騎士の位を――」
「いらん」
「な、なになら受け取るというのだあぁ!」
四将カドミラルが取り乱している。
まったく――。
星クジラ討伐を祝う式典に出て欲しいと、地べたに額を擦りつけて頼んでくるから、出てやったというのに――。
退屈なこと、このうえない。
なんもいらんと、ゆーてるのに。くだらないものばかり押しつけようとする。
「おまえはどれだけのことをしたのか、わかっているのか? 我ら巨人族は、おまえの功績を未来永劫語り継いでいかねばならない。それだけのことを、おまえはやったのだぞ?」
炎将カドミラルの言葉に、他の三将も、うんうん、と、うなずいている。
大勢の下っ端兵士たちも、首を縦に振っていたものの、その動きはどうにもぎこちない。
この国の者にしてみれば、四将の全員が揃っているというのは、凄いことらしい。
なにが凄いのかというと、全員が顔を合わせて殺し合いがはじまらないことが凄いらしい。おまえらどんだけ仲が悪いんだ?
まあ、四将全員と5Pをキメた俺としては、四人揃って一セットなのだが。
ちなみに威厳ある建物などは、みんなぶっ壊れてしまったので、式典は更地で執り行われている。それも残念感を醸し出す役に立ってしまっている。
あー。はよ帰りてー。
「で、では――我ら四将の上に立つ、大元帥としての地位を――」
「いらね」
「だから! なにならもらってくれるというのだあ――っ!」
あー。はよ帰りてー。
だけど、なにかもらわないことには、帰させてもらえないようだな。
「そこまで言うなら、女をよこせ。それならもらってやらないこともない」
あと小さくなれる腕輪もセットだな。
巨人のままだとアレ……はできるからそっちは問題ないが、衣食住の面倒までみきれない。
俺がその条件を出した、その途端――。
殺し合いがはじまった。
いや。殺し合いにしか思えない喧嘩がはじまった。
炎将、氷将、風将、地将――が、取っ組みあい。
全員が、「私がわたしがわたくしが我が」と、褒美で差し出される役を勝ち取ろうと、殺し合いにしか見えない勢いで大喧嘩をはじめた。
「おまえも苦労するな。アホな上司を持つと」
俺は傍らに立つクリス隊長を見上げた。もんのすんげー、見上げた。
「はは……。なにも言えないな」
「ところで――」
俺はふと、聞いてみた。
「――おまえは混じらなくていいのか? あのケンカに?」
こいつとは、けっこういい仲になったと思っていたのだが――。
奪い合い(奪われあい?)に参加するほどではなかったのかと思うと、ちょっと寂しい気もする。
「おまえは、ここを去るのだろう?」
「ああ。旅をしている」
「おまえを失った我が国を、おまえのかわりに支えていかねばならないからな」
こいつはいい女だなぁ。
自分が死刑になりかけたときにも、俺に罪をなすりつけもしなければ、「助けて」の一言も言わなかった。
別れるときにも、黙って俺の後始末か。
………。
俺は隣に並ぶアレイダを見た。
「なんでこっち見るのよ?」
「いつもぎゃーぎゃー言うだろ。おまえが」
「好きにすれば?」
俺がなにを聞こうとしているのか、すべて承知している。それでこの答えだ。
こいつもいい女になったな。
「よし、決めた」
俺は、クリスに言った。
「おまえ、もらってくわ」
「え?」
口をぽかんと開いて、カワイイ顔になっているクリスを、俺はひょいと肩に担ぎあげた。
「えっ? あっ――! ちょっ――! 私には役目が――! 任務がっ!」
しらん。褒美は女だ。それ以外は受け取らない。
そしてこの国の女なら、おまえが一番いい。俺は自重しない。そう決めている。
四将たちは殺し合いにしか見えない喧嘩に夢中で、ぜんぜんこっちに気がついていない。兵士たちも四将のバトルロイヤルに大熱狂。
俺はクリスをかついで、すたこらさっさと、艦に向けて走った。
「オリオン! まったくもー」
「マスターが楽しそうでなによりです」
「おりおん。たのしい? うれしい? いいよ。」
「オリオン様! またお友達が増えてうれしいです!」
「師匠ーっ! まってくださーい!」
「主!」
「ダーリン♡」
「オリオン様! どこまでもついてまいります!」
「ぴゅーい!」
全員がついてくる。
そこにまじって、なんか変な生物もついてきた。
なんだか変な生物が飛んできて、クリスを運ぶ俺のまわりを、くるくるとつきまとう。
なんだこいつ?
流線型で平たい飛行生物で……。なんかどっかで見たようなフォルムなんだが……? どこで見たんだっけか?
まあいいか。
「オリオン! つぎはどっちに行くの!」
艦に乗りこむとき、アレイダが聞いてきた。
俺は、答えた。
「――もちろん! 太陽の沈む方角に!」
巨人の国編完結です。
しばらく、二週間から1ヶ月ほどお休みをいただいたあと、週一ぐらいのゆっくりとした更新をしてゆきたいと思っています。(他の締切を片付けてきます)
こんどこそー! こんどこそー! 定期更新っ!