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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
21.巨人の国で鯨狩り

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地上戦 「でゅわっ」

 地上から見る星クジラは、凄い偉容を誇っていた。

 まるで空そのものだ。


 昼間なのに夕暮れ時のように暗くなった空を見上げながら、俺は傍らの大賢者に問う。


「なあ? 前回(、、)のとき、こんな怪物は出てきてなかったよな?」

「単に魔王を倒せばいいだけでしたので――。星界の魔物までは守備範囲外でしたね」


 モーリンはそう答える。

 しかし……。〝単に〟ときたか。倒せばいい〝だけ〟ときたか。

 苦しみ抜いたかつての勇者行を〝単に〟とか〝だけ〟とかで片付けられて、俺がくらくらとしていると――。


「あぶない! オリオン!」


 空から降ってきた触手槍の一本を、アレイダが積層複合多重結界で防いでいた。


「だいたい、お一人で相打ちになる必要はなかったんです。私も連れて行ってもらえれば、勝率五割が九割を超えて、死なずに済んでいたんですよ? マスター?」

「いや。あれはだな……」


 前々回の人生において、俺が魔王との決戦でモーリンを置き去りにしていったのは……。

 モーリンを死なせないようにするためだった。


 そんなに勝率があるとは思ってなかったんだよ! わかってんなら言っとけよ! 無表情コミュ障女! 報告・連絡・相談――のホウレンソウが重要だって、習わなかったのかよ!

 あとその体が滅びても本体は永遠不滅だとか――言っとけよ!


「あぶない! オリオン!」


 また触手槍が降ってきた。俺たちはアレイダに守られた。


「なにかの反省会だったらあとにして!」


 アレイダに叱られた。

 まあ――、もっともだ。


「しっかし……、あれは明らかに魔王超えてんだろ」


 俺は空を見上げながら、そうつぶやいた。

 まあクリア後のダンジョンでは、魔王ぐらいの強さのザコが徘徊していたり、何倍も強い裏ボスがいたりするのが常道ではあるのだが――。


「お一人で倒さなくても、いいんですよ?」


 モーリンは微笑を浮かべる。

 その目がすうっと、周囲をさまよう。

 視線を向けられたスケルティアが、きょとんと首を傾げた。

 リムルが力こぶを作った。バニー師匠が、うっふん♡と、胸を強調するポーズを取ってウィンクする。

 そしてアレイダが――。


「もー! さっきからなにやってんのよ! サボるの禁止ぃ!」


 アレイダがまたもや頭上に向けて多重結界を展開する。さっきから話しこんでいる俺たちを、完璧に守り抜いている。


 思えば、こいつも……。ずいぶん逞しくなったな。

 魔大陸に来たときは、勇者業界にギリギリ足を踏み入れていいくらいのヒヨッコだったが……。

 魔大陸でブートキャンプして、天空の巨人大陸でさらに鍛えあげ、だいぶマシになってきた。


 いまのこいつであれば、そうだな……。

 〝単なる魔王討伐〟――程度であれば、一緒に連れていってやってもいいくらいだな。


「よし……。片付けようか」


 俺は皆に言った。

 皆からうなずきが返る。退屈していた顔のスケルティアが、ぱあっと嬉しそうに笑う。


「では、戻ります」


 クリスが、手首につけていた腕輪をはずした。

 これまで人間サイズだった彼女の体が、どんどんと大きくなってゆく。


 巨人を小さくするマジックアイテムは、腕輪の形をしていた。

 人間サイズだとそれは腕輪であるのだが、巨人にとってそれは指輪だった。


 ぐんぐんと巨大化してゆくクリスの手にあった腕輪が、ぽろりと落下する。


 俺は、地面に落ちていた指輪を拾いあげた。

 そして自分の腕にはめる。


 すると周囲のすべてが縮みはじめた。

 俺自身と腕輪のサイズは変わっていない。周囲のすべてが、どんどん小さくなってゆくように――俺には見えている。


 俺の体が巨大化しているのだ。


 さすがの勇者も巨大化するスキルなんて持っていないので、腕輪だか指輪だかの力に頼る。この腕輪だか指輪だかを巨人がつければ縮小するが、人間がつければ巨大化するのだ。


 四神たちはこの結界を維持するために動けない。


「ねー! オリオン! あんたがでっかくなっちゃったら、わたしー! 守りにくいんだけどー!」


 下からアレイダが叫んでくる。


「なんとかしろ。頑張れ」

「うん。なんとかするから、クラスチェンジ――していい?」

「へ?」


 アレイダが、突然、妙なことを言いだした。

 レベル的にはどんどん上がっているが、転職条件を満たしている暇がなかったので、クラスチェンジはできていなかった。

 そのはずなのだが……?


「なんか、称号? とかゆーのに、『巨人殺し(ジャイアントキリング)』ってついてるのよ。そしたら、転職クラスチェンジできるようになっていて……。転職クラスチェンジしたら……、なんとかなるような気がするのよね……。うん……、なんとかなる」


 アレイダはぼんやりとそう言った。

 だがその声の中には、不可思議な確信の響きも満ちていて――。


 俺は、アレイダに告げた。


「よし。許可する」


 希にこういうことが起きる。ジョブに選ばれるということが――。

 その世界において、唯一無二のユニークジョブに就くときには、このようなことが起きる。


 元勇者の俺は、そのことを知っている。


「うん。じゃ。なる」


 アレイダの周囲に高密度の重積魔法陣が発生する。その内側で、アレイダの肉体と精神とが作り替えられてゆく。


 そのあいだも、上空からは、びしばしと触手槍が降り注いできていたが、アレイダの防御結界に吹き飛んでいた。


 クラスチェンジ中は本来無防備なはずなのだが――。このクラスチェンジは特別らしい。微弱に洩れ出している結界だけで、星クジラの攻撃を完封している。


 重積魔法陣が解けてゆき……、そしてアレイダは、目を開いた。


 その頃には、俺たちはすっかり巨人サイズになっていた。


「アレイダ殿は――なにに変わったのだ?」

「みていればわかるさ」


 二人で足下のアレイダを見下ろしている。


「じゃ、なるね」


 アレイダがそう言った。


「《ギガンティック》……」


 そう唱えたのはスキルの名前か――。勇者も知らないスキルだと。

 アレイダの体が、みるみる大きくなってゆく。


「お? お? おおおっ?」


 俺は鑑定でアレイダのジョブを見た。

 アレイダのジョブは――「ギガンティック聖戦士(クルセイダー)」となっていた。


 『巨人殺し(ジャイアントキリング)』の称号が転職条件となっているユニークジョブの特性は――!

 なんと! 巨人になる能力か!!


 やがてアレイダは、


「あなたの横に並んで戦うわ。――わたし」


 いつぞや――。こいつは口にしたか、あるいは口にこそしていなかったか――。

 こいつの願いを、誓いを、俺は知っていた。

 俺の横に並んで戦う。そういう存在になること。


 とりあえずサイズだけは、俺と同じになっている。巨人サイズだ。


「アレイダ……」

「ふふん? ……なにか言うことは? オリオン?」


 胸を張るアレイダに向けて――俺は、口を開いた。


「おまえ。マッパな」

「へっ? ……き!? き、きゃあああ――っ!!」


 全裸の巨人は、悲鳴を上げると体を隠した。


 俺とクリスは腕輪の力で拡大縮小されているから、身につけた服はそのままだったが、アレイダの場合には自前のスキルだったので、そこまでサポートしてもらえなかったようだ。

 服も装備もすべて破れてしまっている。


「おい。ギガンティック・クルセイダー」

「な、なによっ!?」


 体のあちこちを押さえながらアレイダが言う。


「でゅわっ、って言え」

「は? ……意味わかんない!」

「でゅわっ」


 俺はそう言うと、上空の星クジラに向けて金棒を構えた。

 大きくなったら、いっぺんやってみたかったんだ。これな。


 巨人になっても、なお、星クジラは大きく見えていた。

 もともとのスケールが半端ないので、一〇倍や一〇〇倍程度縮まっても、大差はないな。


 俺の隣にクリスが並ぶ。

 アレイダも、遠くから巨人の誰かが投げ渡してくれた剣を掴んで、クリスとは反対側に並ぶ。もう隠すのは諦めたようだ。おっぱいぷるぷるとさせて構えを取っている。


 リムルは自前の能力で大きくなっていた。魔大陸で戦ったときの竜魔将モードというやつだ。第二段階というやつだ。前と違って完全な変態を行っている。

 ただし大きさは巨人に比べると愛玩犬ぐらい。いまひとつ迫力に欠けるが、人間サイズよりはいくらかましだ。

 その肩にはバニー師匠が座っている。彼女は貴重な戦力になるので、来てもらった。


「オリオン殿……!」


 クリスのやつは、体に力みが出ているな。

 対して、アレイダはまったくの自然体。マッパだけど、そこは諦めたので余計な力の入っていない綺麗な構えだ。


 この浮遊大陸における動物や魔物は、どれも巨人たちと同等かそれ以下のスケールだった。

 つまり、自分たちより大きなものと戦った経験がないということだ。


 それに比べて、俺たちは……特にこのレベルになってくると、自分よりデカいものばかりと戦うことになる。

 サイズの桁が一つ二つ変わったくらいで、ガタガタ言っていたらはじまらない。


「まだあれ、届かないんじゃないの? このまま放出系の技だけでやるの?」


 星クジラはまだ〝上空〟と呼べる位置にいる。


 四将たちの張る結界の内側に、星クジラを閉じ込めはしたものの、巨人の身長をもってしても、まだ直接攻撃の届く高さではない。


 だが――。


「あっ――!? 光った!」


 結界に通う魔力が跳ね上がる。結界が分厚く、強固になる。そして街を覆う結界は高度を下げた。

 空がさらに低くなり、背中をつかえさせた星クジラが、徐々に高度を下げてくる。

 腹が建造物の屋根を圧迫する。高い建物から順に、押し潰されるようにして倒壊していった。

 街が崩壊してゆく。


「避難は済んでいます! 安心して戦ってください! 勇者殿!」


 兵士たちがそう叫んでくる。

 俺は手を振り返そうとして、「は?」と固まった。

 勇者じゃねーよ。単なる〝伝説の冒険者〟だよ。


「あははー。あの人たち、オリオンのこと、勇者と間違えてるー! 勇者様がこんな女好きなわけないでしょ。一生清らかなままだったんだから」


 そうだよ。わるいかよ。前々世では童貞だったよ。そのあとのブラック社畜人生でもずっと童貞だったよ。おまえがじつは三人目の女だったよ。


 街の避難は完了したと言っていたが、俺は念のため、範囲捜索スキルで非戦闘員が残っていないか探した。

 ふむ……。Lvが五〇〇未満のやつは、結界内にはいなさそうだな。巨人は総じてLvが高いが、非戦闘員や子供だと、一〇〇近辺のやつもいたりする。


 いま結界内に残っているのは、巨人兵士のなかでも精鋭だけだ。

 そして街の被害についても度外視していい。


 星クジラがさらに高度を落とす、高い建造物だけでなく、二階建ても一階建ても、すべてが押し潰されはじめた。

 もうすぐ、やつが――腹をつく。


 今回の作戦を提案するにあたって、すべてを諦めろ、と、俺は言った。

 これまで防衛に使っていた結界機構を、相手を捕らえるトラップとするのが、俺の提案した本作戦の骨子だ。


 すべてを失い、だが人的被害だけはゼロで、再出発をするのか――。

 これまでのように空からの侵略者に怯えて暮らすのか――。

 二者択一を突きつけてやった。


 もし後者を選んでいれば、俺は立ち去っていただけだ。

 だが巨人たちは、すべてを失ってでも誇りを守るほうを選んだ。


 街が崩れる。すべてが壊れてゆく。

 だがすべてと引き換えに、星クジラは地に堕ちた。


「よっし! ――かかれーっ!」


 俺は集った巨人兵士たちに号令をかけた。

 ぶっちゃけ、いてもいなくてもあまり関係ないと思うのだが。

 これまで何千年にも渡って同族を食われてきていた恨みを晴らすべく集結した連中だ。


 武器を取り、地に堕ちた星クジラに一斉に向かってゆく。



 仮にも兵士が命を懸けて戦う以上、そいつらがどうなろうが、俺の知ったこっちゃない。


 ああほら。

 あっちでもこっちでも、反撃を受けて、巨人が宙を舞っている。

 地に堕ちたとはいえ、触手槍は健在だ。


『癒やしよ――! エリア・ヒール――!』


 戦場に聖女の声が降り注ぐ。宇宙戦艦が――巨人からすれば、両腕に抱えられるぐらいの大型ラジコンサイズだが――戦場を駆け巡って、くたばりかけた兵士たちを治療してゆく。


 艦に残ったミーティアたちは支援する係だ。スキルも魔法もすべてが使える。艦の機動力もそのまま使える。


 倒れた兵士たちは、回復すると起きあがって、また飛びかかってゆく。そしてまた倒されて、また回復して、また立ち向かっていって。

 ゾンビアタックというやつだ。


「あれじゃいつまでもエンドレスだな。俺たちもそろそろ行くか」

「ああ。共に参らん」

「ちょっとちょっとちょっとお――! オリオンの隣に立つのは、わ、た、し! わたしなんですからね!」


 素っ裸だったアレイダは、そこらの兵士からマントを渡されていた。それを羽織ってはいるが、しかし、いまだに裸マント状態。

 それでもこの女は、そういう格好こそ、むしろ似合う。野性が引き立つ。

 最初に出会ったときにも、こんなような格好で、獣の目をして檻の中から睨んできていたっけ。


 俺たちが進むと、兵士が道をあけた。


 大海が割れてゆくように、人波が別れてゆく。


 俺とアレイダとクリスの三人は、それぞれの武器を手に星クジラへと向かった。

 びたんびたんと尾を打ち振るっている。その衝撃が、地震というよりは地殻津波となって襲ってくる。

 人間サイズだったら歩くこともままならなかったかもしれないが、そこは巨人サイズ。

 足が取られはするものの、気にせずに進んだ。確とした大地が足下で砂地のような感触に変わってゆく。


 途中、死に物狂いの反撃があった。

 だが触手槍の遠距離攻撃など、ギガンティック・クルセイダーの防御結界を抜けられるはずもない。


 武器の届く距離まできた。

 ようやく〝直接攻撃〟のできる距離にまで近づけた。


「こんなの、どうやって倒すのよ?」


 巨体を前にアレイダが言う。会話のあいだも猛烈な反撃は続いているが、すべて完封している。


「星界の生物だかなんだかしらんが、生物であるのなら、どっかにゃ、脳味噌があンだろ。それが出てくるまで砕きまくれ」

「了解」

「参る」

「あんぎゃーす!」

「ウサギさんもがんばりますよー。はーい、全攻撃がクリティカルになるバフー! ぱふぱふー♪ ぱふぱふー♪」


 俺が金棒を振るう。魔神の金棒は、俺が巨人となった俺にふさわしいサイズとなっている。

 アレイダが剣で斬るというよりもぶっ叩いている。

 リムルが《竜咆哮(ドラグブラスト)》を吐く。


 そしてバニー師匠が、すべての攻撃を会心の一撃(クリティカル)に変える。


 砕いた。砕いた。砕いた。

 俺たちは砕きまくった。

 分厚い岩石の鎧は、みるみるうちに剥ぎ取られていった。

 その下からは、白い骨格がのぞいた。それも打ち砕いてゆく。


 巨大なクレーターを穿つ土木工事のあと、奥底に、やがて灰褐色の軟組織が見えるようになった。


 脳だ。


 俺は金棒を振りあげたところで、一度、止めた。


「おまえもさんざん命を食いまくってきたんだろ。こんどはおまえの番だ。恨むなよ。生まれ変わったら、つぎは人は食わずに生きてみろ。――そうすれば退治されることもないだろうさ」


 俺は金棒を打ち下ろした。


 数千年に渡る巨人族と星クジラの争いは――捕食者と食われる者との関係は、こうして終わりを迎えた。

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