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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
21.巨人の国で鯨狩り
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接触戦 「全砲門開け!」

 近づくにつれ、だんだんと、そいつの偉容が視覚映像でも見えるようになってきた。


 デカい……。

 宇宙そらだと対比物がないので、はっきりとはわからないものの、前に大海原で戦ったテンタクルズの比じゃないな。


 宇宙そらから下りてきて、触手を垂らして、巨人をさらって食べてゆくらしい。テンタクルズなんて、せいぜい巨人サイズしかない。彼我の比は等身大で、格闘するようなサイズ関係だ。

 その巨人をぱくぱくと食べているからには、すくなくとも巨人の数倍のサイズはあるわけで……。


 姿は、平たい流線型。体の表面は岩で覆われている。

 星クジラという名前だが、たしかに「クジラ」に見えないこともない。


「射程に入ります」


 モーリンが告げる。コンソールについて副長ポジションをやっている。


「よし。全砲門開け」


 艦長席にて、俺はそう命令を発した。うーん……。帽子が欲しい。海賊帽ならどっかにあったが、それじゃないほうの帽子が。


「ふぇっ? ほ、ほうもん? なにそれ?」


 駄犬があたふたとしている。


「ちょ――、オリオン、これどうやんの? ぜんぜんわかんないんですけどー」

「バカめ、艦長と呼べ」

「か、かんちょお?」

「いいからそこの魔力球に手を当ててろ。おまえの出番はまだあとだ」

「う、うん」


「ミーティア、クザク、おまえら魔法組が、この艦の主砲だ。それぞれ魔力球に手を触れろ」

「はい」

「御意」


 二人が素直に、指示に従う。

 ブリッジの各場所に魔力球が埋まっている。その露出した丸い表面に両手をぴたりと押しあてる。


「魔法を撃つ要領で魔力を込めろ」

「はい」

「御意」


 二人が魔力球に魔法を打ちこむ。

 その魔力は艦内の魔力回路を疾走してゆき、メインコアから艦艇レベルの膨大な魔力供給を受けて、でたらめな増幅をされる。

 その膨大な魔力は、艦の前方にある放出塔に集まって、膨れ上がっていった。


「メガ・フレア――。メガ・ディシーズ――。発射」


 モーリンが告げる。

 通常の何十倍もの規模となって、その魔力は撃ち出されていった。


「――命中まで、三……、二……、一……」


 火球が二つほど、星クジラの体表できらめいた。


「うーん……。やはりデカいな」


 いま撃ちこんだ巨大魔法は、巨人も一撃で蒸発させるほどのサイズがあった。

 それがあまり効いているように見えない。


 いったいどんだけのサイズなんだと……。


「敵、回頭します。当艦に向かってきます」


 攻撃が効いたようには思えない。だがこちらの存在を気づかせるぐらいの威力はあったようだ。

 尻尾と思われるあたりを悠然と振って、ゆっくりと向きを変えてくる。


「あれは舐めているな。こっちをエサだと思ってやがる」

「そのようですね」

「思い知らせてやれ。――全力斉射。エイティ、バニー師匠、スケ、リムル、クリス、おまえらも加われ」

「はい!」

「はーい」

「わかた。よ。」

「ダーリンまかせるのだ!」

「心得た」


 ミーティア、クザク、エイティ、バニー師匠、スケルティア、リムル――六人が砲塔魔力球につく。

 魔法でなくても、放出系の技であれば、砲塔魔力球は受け付ける。


 モーリンとコモーリンは、世界樹からの膨大な魔力を、メインコアに注いでいる。増幅のための魔力を供給する役割だ。


「ねえちょっと!? わたしは? わたしはー!?」


 一人、ぽつねんと残った駄犬が、ぴょんぴょんと飛び跳ねてアピールしている。


「おまえの役目はなんだ?」

「え? タンクだけど?」

「攻撃は?」

「え? あんまり得意じゃないけど?」

「なら出番はないな。役立たずだな」

「えー!? そ、そんなぁ――!?」

「俺の膝の上にきてろ」

「う、うん」


 なんだ。そこは素直に従うのか。


 俺は膝の上にきた尻を撫で回しながら、指示を出す。


「こっちをエサだと思っているあいつに、どでかいやつをお見舞いしてやるぞ。口を開いた


 流線型の岩塊の頭付近に、裂け目が生じる。ぱっくりと開いた口には、六枚の歯が並んでいた。

 巨人を頭から丸かじりできるほどの巨大な口が、艦を丸呑みしようと迫ってくる。


「――撃て!」


 魔法が、奥義が、ありとあらゆる技が炸裂した。

 何十倍にも増幅された攻撃が、穀潰しなあそびにんの範囲確定クリティカル効果によって、クリティカルヒットとなって、襲いかかる。


――GUMOOOOOOOGHHHUUU!


 真空を通しても聞こえる〝声〟で咆哮をあげ、星クジラは尾を打ち振るって回頭をした。


 表面こそ、分厚い岩盤で覆われているが、さすがに口の中まで装甲はなかったようだな。


 俺たちを丸呑みするのに失敗した星クジラは、いったん離れていったあと、再び頭をこちらに向けて突っこんできた。


「ようやくエサではなく、敵だと認識したようだな」

「敵さらに増速。衝突回避は……無理ですね。激突の直撃をこのまま受けた場合、当艦が破壊される確率は九三パーセント。いかがなさいます――艦長(、、)?」


 モーリンが言う。

 う~ん……! わかっているじゃないか~……! チミィ!


「アレイダ」

「ふぇっ?」


 俺に尻を撫で回され、ぐんにゃりしていたアレイダは、正体のない声をあげた。


「いつまで呆けてる。――てか、尻でイッたの? おまえ?」

「イッてない」

「仕事しろ。仕事」


 俺はアレイダの尻を放り出した。


「きゃっ! えっ? えっえっ!? 仕事っ? な、なにすればいいのっ! こんな魔法機械とかわかんないしっ!」

「おまえの仕事は?」

「た、タンク――!」

「タンクの仕事は!」

「みんなを守ることっ!」

「ほら来たぞ」

「ぎゃあああ――っ!?」


 モニター一面に星クジラが迫ってきている。

 こんどは口は開いていない。一本のエネルギー衝角が頭頂部分から生え出していた。

 その衝角で貫こうというつもりだ。


「師匠~っ! これ止まらないですーっ!」


 エイティが叫ぶ。

 各砲塔が全力斉射している。着弾の爆光が幾重にも咲き開くが、星クジラの進行にまったく影響は出ない。

 やはり分厚い岩塊越しではダメージは通らないか。


「メガヌテ使っていいですかーっ!?」


 馬鹿め。艦ごと吹き飛ぶわ。


「ちょっ! ちょっ! ちょおぉ――っ! わたしなにすればいいの! どうやればいいの!」

「ぎゃーぎゃー騒いでないで、やれっつーの」


 あたふたしているアレイダの尻を、俺は蹴飛ばした。

 アレイダは魔力球に両手をついた。


 その瞬間――。

 艦の前方に、積層結界が膨れあがる。

 防御無双を誇る上級職――聖戦士クルセイダーの防御結界だ。


 何十倍にも増幅された防御結界は――、正面から、星クジラの突進を受け止めた。


 普通なら質量差でありえない。こちらの艦の何十倍、いや何百倍か? それほどの質量差がある。

 反作用によって吹き飛ばされる。


 だが魔法効果に、作用反作用は関係ない。


 動かない壁に激突したように、


「よし。後退をはじめろ。砲塔は引き続き全力斉射! 押されているふり(、、)をしつつ、やつを引きずり出せ!」

「えっえっ? えーっ!? わたしこれ、どうしたらいいのっ! なにやればいいのっ!?」


 駄犬。うるさい。

 おまえはもう仕事した。てゆうか気づいてもいないのか。いまのは無意識の反射防御結界か。こいつだけ鍛えすぎたかな? おまえブーストなくても、ひょっとして、生身で星クジラとやれるんじゃね?


 やつを深宇宙から引っぱりだして、惑星の重力圏にまで引きずり下ろす。


 それが俺たちの作戦だった。

 なにしろあの図体だ。宇宙そらでは身軽でも、重力のあるところまで降りてくると、自重のおかげで浮かぶのがやっとという状態になる。


「浮遊大陸までの高度、残り5000――」


 アイラが言う。コアと繋がっているときのアイラは、感情が消えるというか、人間性が薄れるというか、マンマシンインターフェースになっているというか、瞳孔が不思議な色になっている。

 イタズラをするとそれはそれで燃える。――が、いまはそれどころじゃないな。


 浮遊大陸が見えてきた。

 四将がいま大陸の四方向にそれぞれ陣取り、準備に取りかかっている。

 俺の前世の現代社会でも、四神が都市の東西南北の守護獣として祭られていたりするが、この浮遊大陸では、四将はまさしく守護神なのだ。


「浮遊大陸都市上空まで、残り1500――」


 俺が鍛えて圧縮した四将は、それそれ、炎氷風地の魔人モード2だの3だのに変化した状態で、四方をがっちりと固めている。

 そこから発せられる結界の強度は――。


「都市上空、200――」


 俺たちは星クジラを引きつけたまま、巨人の街まで戻ってきた。

 計算通り、惑星の重力系内、大気圏内では、星クジラはその巨体を持て余していた。空を覆いかねない大きさはそのままだが、動きのほうには、まるで精彩がない。


「地表すれすれまで引きつけろ。天井(、、)はそんなに高くない」

「わかりました」


 艦と一体化したアイラが答える。目を開けたままだが、その目はなにも見ていない。

 艦は大通りを飛んだ。降下の勢いで、一回、地表を擦り、石畳を巻き上げて再浮上する。

 巨人サイズの街中だ。全長数十メートルの艦艇が飛び回るのに、充分な広さがある。


 星クジラは俺たちの上を押さえにかかった。頭上からなにかを撃ってくる。

 ――と思ったら、それは砲撃ではなく、触手みたいなものだった。巨人の建造物が一撃で破壊されるような威力を持ってはいるが……。


「そろそろかな?」


 俺は誰にともなく、そう言った。

 四将たちの〝準備〟が完了する頃合いだ。


 東西南北、それぞれから、四つの属性の異なる魔力流が、空に向けて投射された。

 その魔力は、街の上空で合わさると、混ざり合い、それから何条にも分散して、街の外周に向けて降りていった。


 街を覆う〝結界〟が完成した。

 ただし、その〝内側〟に星クジラを閉じ込めて――。


「街の防備のための結界を、敵を捕まえる罠にするために利用するとは――。マスターの発想には感服いたします」

「おおう。苦しゅうない。もっと〝さすごしゅ〟しろ」

「さすごしゅ? ……ですか」


 首を傾げるモーリンも、そして俺も、退艦準備にかかっている。

 艦を降りて地上で戦う者と、艦に残って援護に回る者と、二手に分かれるのだ。


 俺と来るのは、スケルティア、モーリン、バニー師匠、クリスとリムル、あとは――。


「えっ? えっえっ!? ――わたしどうすればいいの? どっち!?」


 皆は言わずとも自分の役目がわかっていて、てきぱきと動くなか、わかっていないやつが、一人、おろおろとしていた。


「ばーか、おまえは俺と一緒に決まってンだろ!」

「う? ――うんっ!!」


 アレイダは顔を輝かせると、尻尾を振るようにして、俺にくっついてきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 穀潰しじゃなくなってません?バニーさん、なんなの範囲確定クリって……(唖然)
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