星クジラ狩り 「宇宙戦艦オリオン発進!」
「右舷魔導ジェネレーター、出力、七二……、七三……。左舷八〇にて待機中。傾斜復元開始……」
コアの機能と繋がったオペレーターのアイラが、カウントダウンをしている。
傾いていた船体が、ゆっくりと戻ってゆく。
「船体浮上まで、あと六……、五……、四……、三……、二……、一……」
「よし! 宇宙戦艦! 上昇開始!」
そして船底が地を離れる感覚――。ふわり、という浮遊感は一瞬で、その後は静寂が訪れた。
だが船外モニターに映る地面は、どんどんと下降してゆく。
いや逆だ。俺たちが上昇しているのだった。
「ねー、オリオン」
「うっさいな。いまいいところなんだよ」
「だからー、ねー、オリオンってばー」
「なんだよ?」
駄犬がうるさいので、しかたないから、聞いてやる。
「せんかん? ってなんなの?」
「戦艦ってのは、戦う船のことだ」
「船がなんで戦うの?」
「なんでって、おま……」
「マスター。この世界では海戦や海軍はまだ存在していません。海棲モンスターの脅威があるので、一部の船が不定期航路を航行しているくらいで」
「そうか」
モーリンの説明にうなずいた。
なら説明は、難しいな。
「あと、うちゅう、ってなに?」
「宇宙っていうのは、だな……」
「マスター。この世界ではロケットはおろか、航空機も実用化されていません。ワイバーンあたりを飼い慣らしたほうが早いですし」
「そうか」
モーリンの説明に、またうなずいた。
やっぱ説明は、難しいな。
「そら……。くろい……。ほし、きれい……。」
スケルティアが窓に貼りついて、外を眺めている。
もともと浮遊大陸は地上数千メートルの高さに浮かんでいる。そこから上昇しているので、そろそろ一万メートルを超える頃だ。だんだんと空気が薄くなってくるから、空の色は青というよりも黒に近づいている。
いったいどうやって宇宙戦艦を作ったのかというと……。
まず撃墜されてしまった浮遊島の残骸から、超古代のコアユニットを回収してきた。
崩れたのは周囲の岩塊だけであり、岩塊は単なる構造物で、まったく重要なものではなかった。
回収してきたコアユニットを、動力源として船体に据え付ければ、宇宙戦艦の出来上がりだ。
船体のほうは――。暗黒大陸の港に停泊させたままだった魔法船を回収してきた。
島の岩塊という無駄なデッドウエイトが減った分、高性能、高機動となった。
何百万トンもの重量を浮かべていた出力が、せいぜい数千トン程度の船体に使われるのだ。のったりと亀みたいな速度だった以前が嘘のように、高機動な宇宙戦艦が出来上がっていた。
「空飛ぶ船とは。オリオン殿はとんでもないものを作ったな」
クリスが言う。巨人族のなかで、ただ一人、この船に乗りこんでいる。
とはいえ、もとのサイズのままで乗りこんでいるわけではない。
巨人族の秘宝のなかに、体のサイズを変える宝具というものがあって、その魔法効果により、俺たちと同じサイズに縮尺を合わせているのだ。
だんだんと高度があがってくる。
もう成層圏あたりには届いただろうか。もはや〝空〟というよりも〝宇宙〟というべき領域だ。
俺は号令を出そうと腕を伸ばした。
「よし! 宇宙戦艦――ええと、宇宙戦艦……」
「どうしたのよ? オリオン?」
「ちょっと待て。名前をいま考える」
「名前? 名前なんてどうだっていいでしょ」
「いや! いかん! そうだな名前は……、ヤマト……はだめだよなぁ。やっぱ。ムツ……は、ぱっとしねえなぁ。ナガト? ナデシコ? いやパクリはいかんだろう」
「師匠! オリオンというのはどうでしょう!」
エイティが目をキラキラさせながら言う。さすが元男の子。
いまいちノリのわるい女どもをよそに、こーゆーのロマンがわかっているようだ。
「ばっか。それは俺の名前だ」
だが却下。
「いいじゃないのオリオンで。ええと、じゃあ、うちゅう……? せんかん? オリオン! 発進ーっ!」
「あーっ! こら! てめえが言うな!」
コアによる重力制御で、船は速度をあげはじめた。
ちなみに重力制御とかいっても、原理は科学ではなく魔法のほうだ。
どの時代の古代文明なのかは定かではないが、ハイエルフの都にあった飛行コアは、強力な魔法による魔導アイテムだった。
制御はアイラが一手に担っている。コンソールみたいなものも取り付けて、モーリン、ミーティア、クザクあたりの魔法系の連中がサポートできるようにもしてある。
バカワンコたち、ガチ物理勢は、いまのところ何の役にも立たない賑やかしでしかないが、やつらには後で別の役割がある。
俺たちがこんなものをこしらえたのは、なにも道楽や酔狂からではない。
いやまあ。途中からちょっとノリノリになっていたが……。だってしょうがないよな? 宇宙戦艦だぜ? 宇宙戦艦?
四将が俺の女になって、外堀を埋めてから俺にしてきた〝依頼〟というのが、この〝領域〟に棲む魔物の討伐だった。
百年周期で巨人の国を襲ってくる巨大な魔物がいるのだという。
巨人基準で〝巨大〟っつーと、それはいったいどういうレベルにおいての〝巨大〟なのかという話があるが……。
まあそれは置いておくとして――。
その巨大な魔物は、〝星クジラ〟とやらの幼生体なのだという。幼生体でそんなにデカいのであれば、成体はいったいどんなサイズなのかと……。
まあそれは置いておくとして――。
これまでは襲ってくるたびに、巨人の軍総出で撃退していたそうだ。
巨人の国が軍組織になっているのは、常に襲われ続けるという非常事態が続いているからだった。そして軍備が街の外周でなく、街の中心に偏っているのは、敵が「上」からやってくるためだった。
襲撃が百年に一度なのに、「常に襲われ続ける」となっているのは、巨人の寿命からすれば、百年というサイクルは、わりと「しょっちゅう」となるからだそうだ。
四将のなかで一番若い炎将カドミラルでも、将軍となってからでさえ、すでに三回ほど襲撃を経験しているそうである。
巨人の百年は、人族の一年に相当するんじゃなかろうか。
驚いていた俺たちをよそに、ハイエルフのアイラなどは、ぽかんとした顔をしていたが……。ハイエルフも長寿だから、そんな時間軸のなかで生きているのだろう。
巨人は寿命が長いおかげで、成長は遅い。このままでは人口は減り続ける一方だ。
伝説の冒険者である俺たちがやってきたことをきっかけに、根本的解決を図ろうとしたらしい。
つまりは――討伐だ。
いちおう〝指名依頼〟ということにしてもらい、冒険者ギルドを通してもらった。
ギルドの受付嬢のエレナと、あと、大陸のほうの受付嬢――じゃなかった。西方議会統括議長様か。リズも俺の女である。いい目を見せてやらなければな。
リズに関しては、俺の女というよりも、俺がリズの男という感じであったりするのだが……。
まあそこはどうでもいいか。
俺たちのレベルは、この浮遊大陸にやってきてから、恐ろしく上がってきている。
あまり狩りをしていないわりには、バンバンと景気よく上がっている。
経験値の入手は、殺さなくても可能であることを発見できたことが大きい。
相手を逝かせなくてもイカせれば経験値が入るという発見は、リズがギルド総会で報告すると言っているが……。実践するのは、俺たちでなかったら無理なんじゃなかろうか。
一般の冒険者相手に薦めるのか? 高レベルとエッチして相手をイカせると経験値が入りますよ。――とか?
「魔力反応。前方三〇〇〇〇――」
アイラの声が響く。
どうやら接敵したらしい。
交戦開始だ。
なんか、いきなりスペースオペラになりました。
こんな予定じゃなかったのに、どうしてこうなった……?
スペオペも書いている作者としては、ちょっと楽しい……?
もう1~2話くらいでスペオペパートは終わりますので、ご安心をー。
ちなみにこの星クジラというのは、某星くず英雄伝にちょこちょこ出てくる「星鯨」と同種です。ただしこちらは生まれてたったの3000年ぐらいの幼生体とも言えないような稚魚です。