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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
21.巨人の国で鯨狩り
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星クジラ狩り 「宇宙戦艦オリオン発進!」

「右舷魔導ジェネレーター、出力、七二……、七三……。左舷八〇にて待機中。傾斜復元開始……」


 コアの機能と繋がったオペレーターのアイラが、カウントダウンをしている。


 傾いていた船体が、ゆっくりと戻ってゆく。


「船体浮上まで、あと六……、五……、四……、三……、二……、一……」

「よし! 宇宙戦艦! 上昇開始!」


 そして船底が地を離れる感覚――。ふわり、という浮遊感は一瞬で、その後は静寂が訪れた。


 だが船外モニターに映る地面は、どんどんと下降してゆく。

 いや逆だ。俺たちが上昇しているのだった。


「ねー、オリオン」

「うっさいな。いまいいところなんだよ」

「だからー、ねー、オリオンってばー」

「なんだよ?」


 駄犬がうるさいので、しかたないから、聞いてやる。


「せんかん? ってなんなの?」

「戦艦ってのは、戦う船のことだ」

「船がなんで戦うの?」

「なんでって、おま……」

「マスター。この世界では海戦や海軍はまだ存在していません。海棲モンスターの脅威があるので、一部の船が不定期航路を航行しているくらいで」

「そうか」


 モーリンの説明にうなずいた。

 なら説明は、難しいな。


「あと、うちゅう、ってなに?」

「宇宙っていうのは、だな……」


「マスター。この世界ではロケットはおろか、航空機も実用化されていません。ワイバーンあたりを飼い慣らしたほうが早いですし」

「そうか」


 モーリンの説明に、またうなずいた。

 やっぱ説明は、難しいな。


「そら……。くろい……。ほし、きれい……。」


 スケルティアが窓に貼りついて、外を眺めている。

 もともと浮遊大陸は地上数千メートルの高さに浮かんでいる。そこから上昇しているので、そろそろ一万メートルを超える頃だ。だんだんと空気が薄くなってくるから、空の色は青というよりも黒に近づいている。


 いったいどうやって宇宙戦艦を作ったのかというと……。


 まず撃墜されてしまった浮遊島の残骸から、超古代のコアユニットを回収してきた。

 崩れたのは周囲の岩塊だけであり、岩塊は単なる構造物で、まったく重要なものではなかった。

 回収してきたコアユニットを、動力源として船体に据え付ければ、宇宙戦艦の出来上がりだ。


 船体のほうは――。暗黒大陸の港に停泊させたままだった魔法船を回収してきた。


 島の岩塊という無駄なデッドウエイトが減った分、高性能、高機動となった。

 何百万トンもの重量を浮かべていた出力が、せいぜい数千トン程度の船体に使われるのだ。のったりと亀みたいな速度だった以前が嘘のように、高機動な宇宙戦艦が出来上がっていた。


「空飛ぶ船とは。オリオン殿はとんでもないものを作ったな」


 クリスが言う。巨人族のなかで、ただ一人、この船に乗りこんでいる。

 とはいえ、もとのサイズのままで乗りこんでいるわけではない。

 巨人族の秘宝のなかに、体のサイズを変える宝具というものがあって、その魔法効果により、俺たちと同じサイズに縮尺を合わせているのだ。


 だんだんと高度があがってくる。

 もう成層圏あたりには届いただろうか。もはや〝空〟というよりも〝宇宙〟というべき領域だ。


 俺は号令を出そうと腕を伸ばした。


「よし! 宇宙戦艦――ええと、宇宙戦艦……」

「どうしたのよ? オリオン?」

「ちょっと待て。名前をいま考える」

「名前? 名前なんてどうだっていいでしょ」

「いや! いかん! そうだな名前は……、ヤマト……はだめだよなぁ。やっぱ。ムツ……は、ぱっとしねえなぁ。ナガト? ナデシコ? いやパクリはいかんだろう」

「師匠! オリオンというのはどうでしょう!」


 エイティが目をキラキラさせながら言う。さすが元男の子。

 いまいちノリのわるい女どもをよそに、こーゆーのロマンがわかっているようだ。


「ばっか。それは俺の名前だ」


 だが却下。


「いいじゃないのオリオンで。ええと、じゃあ、うちゅう……? せんかん? オリオン! 発進ーっ!」

「あーっ! こら! てめえが言うな!」


 コアによる重力制御で、船は速度をあげはじめた。


 ちなみに重力制御とかいっても、原理は科学ではなく魔法のほうだ。

 どの時代の古代文明なのかは定かではないが、ハイエルフの都にあった飛行コアは、強力な魔法による魔導アイテムだった。

 制御はアイラが一手に担っている。コンソールみたいなものも取り付けて、モーリン、ミーティア、クザクあたりの魔法系の連中がサポートできるようにもしてある。


 バカワンコたち、ガチ物理勢は、いまのところ何の役にも立たない賑やかしでしかないが、やつらには後で別の役割がある。


 俺たちがこんなものをこしらえたのは、なにも道楽や酔狂からではない。

 いやまあ。途中からちょっとノリノリになっていたが……。だってしょうがないよな? 宇宙戦艦だぜ? 宇宙戦艦?


 四将が俺の女になって、外堀を埋めてから俺にしてきた〝依頼〟というのが、この〝領域〟に棲む魔物の討伐だった。


 百年周期で巨人の国を襲ってくる巨大な魔物がいるのだという。


 巨人基準で〝巨大〟っつーと、それはいったいどういうレベルにおいての〝巨大〟なのかという話があるが……。

 まあそれは置いておくとして――。


 その巨大な魔物は、〝星クジラ〟とやらの幼生体なのだという。幼生体でそんなにデカいのであれば、成体はいったいどんなサイズなのかと……。

 まあそれは置いておくとして――。


 これまでは襲ってくるたびに、巨人の軍総出で撃退していたそうだ。

 巨人の国が軍組織になっているのは、常に襲われ続けるという非常事態が続いているからだった。そして軍備が街の外周でなく、街の中心に偏っているのは、敵が「上」からやってくるためだった。


 襲撃が百年に一度なのに、「常に襲われ続ける」となっているのは、巨人の寿命からすれば、百年というサイクルは、わりと「しょっちゅう」となるからだそうだ。

 四将のなかで一番若い炎将カドミラルでも、将軍となってからでさえ、すでに三回ほど襲撃を経験しているそうである。


 巨人の百年は、人族の一年に相当するんじゃなかろうか。

 驚いていた俺たちをよそに、ハイエルフのアイラなどは、ぽかんとした顔をしていたが……。ハイエルフも長寿だから、そんな時間軸のなかで生きているのだろう。


 巨人は寿命が長いおかげで、成長は遅い。このままでは人口は減り続ける一方だ。

 伝説の冒険者である俺たちがやってきたことをきっかけに、根本的解決を図ろうとしたらしい。


 つまりは――討伐だ。


 いちおう〝指名依頼〟ということにしてもらい、冒険者ギルドを通してもらった。

 ギルドの受付嬢のエレナと、あと、大陸のほうの受付嬢――じゃなかった。西方議会統括議長様か。リズも俺の女である。いい目を見せてやらなければな。

 リズに関しては、俺の女というよりも、俺がリズの男という感じであったりするのだが……。

 まあそこはどうでもいいか。


 俺たちのレベルは、この浮遊大陸にやってきてから、恐ろしく上がってきている。

 あまり狩りをしていないわりには、バンバンと景気よく上がっている。

 経験値の入手は、殺さなくても可能であることを発見できたことが大きい。


 相手を逝かせなくてもイカせれば経験値が入るという発見は、リズがギルド総会で報告すると言っているが……。実践するのは、俺たちでなかったら無理なんじゃなかろうか。

 一般の冒険者相手に薦めるのか? 高レベルとエッチして相手をイカせると経験値が入りますよ。――とか?


「魔力反応。前方三〇〇〇〇――」


 アイラの声が響く。

 どうやら接敵したらしい。

 交戦開始だ。

なんか、いきなりスペースオペラになりました。

こんな予定じゃなかったのに、どうしてこうなった……?


スペオペも書いている作者としては、ちょっと楽しい……?


もう1~2話くらいでスペオペパートは終わりますので、ご安心をー。


ちなみにこの星クジラというのは、某星くず英雄伝にちょこちょこ出てくる「星鯨」と同種です。ただしこちらは生まれてたったの3000年ぐらいの幼生体とも言えないような稚魚です。

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