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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
20.巨人の国でジャイアントキリングする
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強ければ強いほど美人の法則 「ほう。将軍とやらは美人だな」

 兵士たちに連れて行かれたのは、軍の建物だった。


 兵舎と司令部が合体したような、そんな不思議な作りの建物だった。


 普通、軍というのは、なにか戦う相手がいて、それに備えるように軍備を整えるものだった。

 たとえば隣国との国境線に砦が作られたりする。

 あるいはモンスターの生息域との境界線に壁が築かれたりする。


 だがこの配備は……。街中に現れる敵に向けたもののようだった。


「おまえら、一体なにと戦ってんだ?」


 俺はクリスにそう聞いた。

 肩に乗って、石の廊下を移動しているところだ。


「囚人は勝手に話すな」


 俺たちを連行してきた兵士が言う。そしてクリスの体を小突く。


 この野郎。

 ぶっ殺して経験値に変えてやろーか?

 こいつらは女ではないから、俺も遠慮しなくて済むな。


 巨人兵士は、女ばかりというわけでもない。見る限りでは男女比はほぼ均等だった。

 男女の区別なく兵士なわけだ。そういえば、街の住民っぽいのも、ぜんぶ、軍属なんだっけな。


「もう……、まったく……、オリオンってば」

「なんだ?」


 アレイダのやつが、なにか言うので、俺は顔を向けた。

 クリスの肩の上に全員乗って、ついてきている。


「いいわよ……、もうべつに」

「なんだよ。それは?」

「どうせ言ったところで気にも留めないんでしょうし。……それにこの人だって、なんだかこのままじゃ、死刑にされそうな雰囲気じゃない?」

「ああ。間違いない」


 クリスが言う。


「だが人生の最後に、オリオン――貴殿と出会えてよかった。すべての責任は私にあることにするので、話を合わせてほしい。貴殿らに咎が及ばないようにする」


 うーん! いい女だな! クリス!


 尻を撫でてやりたいところだが、手が届かないので、かわりに耳たぶを撫でてやる。


「縁起でもないことを言うな。おまえはもう俺の女だ。俺が守ってやる」


 そう言うと、クリスは感極まったのか、足取りが覚束なくなった。膝ががくがくしているともいう。


「しっかり歩け!」


 不粋な兵士だな。いてこましたろか。


「オリオンさぁーん! わたしたちも、助けてほしいっすー!」

「です、です!」


 エイルとアミィの二人も連行されている。こいつらも職務放棄だから同罪だ。

 もともとは直属の上司だったクリスが、なんとか自分の権限内で収めようとしていたらしいが、その当人が「ミイラ取りがミイラ」になってしまったわけだ。

 かばってくれる者がいなくなって、このままだと処刑台直行だ。


 まあ、見捨てやしないけど。


 しかし、自分の身が危うくなったとき、責任を全部俺に押しつけてきた下っ端二名と、全部自分でひっかぶろうとしたクリスと、女っぷりが違うよな。


「囚人を連れてまいりました!」


 広間へと続く大扉の前で、兵士が声をあげる。


 さて……。クリス隊長の上司は、いったいどんなやつなのだろう。


    ◇


「炎将――カドミラル様である」


 ほう。

 俺は目を見張った。


 引き合わされた〝上司〟は、これがまた、すこぶるつきの美人であったからだ。

 髪の色が赤い。炎の色をしている。発するオーラも、炎属性でも帯びているようで、気温が明らかにここだけ高くなっている。


「おまえたちが、〝伝説の冒険者〟とやらか?」


 炎の巨人が口を開く。


「そのまえに、ひとつ聞かせろ。――おまえら巨人族は、強ければ強いほど美人になるのか?」

「……は?」


「この者は、なにを言っている?」


 炎将カドミラルは、ひざまずいている隊長クリスに、そう聞いた。


「は……! 恐れながら、容姿のことを言っているのだと思われます!」

「容姿?」

「姿形などの見目のことでございましょう。私もさんざん褒められましたが、なんのことやらさっぱり……」

「見た目などが、何の役に立つ? この者の言っているのは〝強さ〟のことではないのか?」

「い、いえ……。あっけなく敗北した私に、まだなんらかの価値があると言っていたので……、違うと思われます。私にもよくわからないのですが」


 炎将と隊長は、話しこんでいる。


「なにを話しているんだ? こいつらは?」


 どうもその話がとんちんかんなので、俺は隣にいるモーリンたちに聞いてみた。


「どうも巨人族の文化では、〝強さ〟のみが意味を持っているようですね」


 なるほど。軍組織しか存在しない戦闘民族だからな。そういうこともあるかもしれない。


「ではこいつらは、自分が美人であることに気がついていないと?」

「会話を聞く限りは、そのようですね」

「もったいないな。こんな美人なのに」

「オリオン、そればっかり」

「ほかになにがあるっていうんだ?」


 俺は真顔でそう聞いた。

 この人生で、俺は自重しないと、そう決めた。

 うまいものがあれば食い、眠りなれば眠りたいだけ寝る。気に入らないやつがいればぶっ飛ばす。

 そしていい女がいたなら――抱くのだ。


 食う、寝る、ぶっ飛ばす、ヤル。――である。


 あー……。そういや、前の人生でも、前の前の人生でも、ブラック勇者業やら、ブラック社畜業やらで、メシはくっそマズい携行食か、カップ麺かコンビニ弁当だったし、睡眠時間は死なないギリギリ程度に切り詰めて、毎日毎日顧客のクレームと上司の小言に耐えるストレスまみれで、女なんて……。


 ああ。思い出しただけで、腹が立ってきた。


 やっぱ、俺は自重しねえ。金輪際、自重しねえぞ。


「伝説の冒険者は、最強だと聞く」


 炎将カドミラルは、見事な炎髪を揺らしながら、そう言った。


「それはどのあたりの意味における最強なのだ?」


 どのあたり?

 最強っつーたら、最強だろうが。


「アホか。どのあたりもなにも、最強っつーたら、最強だろうが。天上天下唯我独尊。この次元で、この世界で、一番強い、という意味だ」


 勇者だからな。

 モーリンが言うには、勇者とは、世界の破壊者を倒すために召喚される存在だそうだ。


「ほほう。……最強か」


 彼女の目が細まる。


「それはつまり――、この炎将カドミラルを――古の魔神、炎帝アーネストの加護を受けし、この私をも超えうると、そういう意味か?」


 俺はその言葉を挑戦と受け取った。

 てゆうか。巨人族って、ほんと、バトルが好きだな。戦闘狂だな。


「おい。駄犬」

「はいはい。――わかってるわよ。私がやればいいんでしょ。まーったく、たまには自分で――」

「いいや。おまえは下がっていろ」

「へ?」


 相対してみてわかったが、さすがに将軍ともなると、別格の強さだ。

 もう二、三日、この浮遊大陸でレベル上げを続けていればわからないが、今日のアレイダでは勝てないだろう。


「えー!? ちょっとちょっとちょっとおぉ!! ――信じてくれないの!? あとラブラブ券はァ!?」


 また「ラブラブ♡エッチ券」と「ラブラブ♡デート券」をせしめるつもりなのか。欲張りワンコめ。

 未使用が二枚ずつあるだろうに。


「相手の強さがわからないから、おまえはまだまだなんだ」

「ほう。おまえ自身が戦うのか。報告によれば、女を戦わせるのが得意技だそうだが?」

「駄犬を遊ばせてやるのも飼い主の役目なんでな」

「駄犬ゆった!」


 うるさいぞ駄犬。


「ほう。……オリオン殿が戦うのか」

「ああ。クリス。そいつを下がらせろ」

「承知した」


 クリスはいい女だな。


「先に言うがな。俺は手加減をしない。奥の手があるなら、先に出しておいたほうがいいぞ」


 モーリンの胸元の亜空間から、金棒を取り出しつつ、俺はそう宣言した。


「ふっ……全力を出せだと? いいだろう。見せてやろう」


 炎将の炎髪が燃えあがる。


「ゆくぞ! 炎神変ッ!!」


 巨人の全身が炎と化す。

 炎の魔神アーネストとやらの力を借りて、肉体を炎化したのだ。

 彼女の体は一時的に物質ではなくなった。


 この手の手合いとは、異次元から侵攻してくる悪魔や魔神の類いには、こういった能力を持つものが多い。


 物理無効。

 普通なら、それだけで詰んでしまうような能力だ。

 魔剣の類いでもフルダメージが入らない。物理ダメージ分が減るので、魔力ダメージ分だけとなり、並程度の魔剣では、雀の涙ほどのダメージしか与えられなくなる。


 しかし……。俺が現役勇者だった頃には、炎の魔神の名前は《アスモデウス》だったはずなんだけどな。代替わりでもしたのだろうか。

 まあどうでもいいが。


《全力で来いと言ったな? ふふふ……。久々だぞ。全力を出すのは。第三次襲来以来だ……》


 その声は、〝音〟ではなく、〝思念〟として脳内に直接響いてきた。

 精霊や魔神、肉体をもたない異次元存在と同じだ。


「さあ。こいよ」


 金棒を肩にかついで、俺は言う。


《私にこの姿を取らせたのだ。簡単に倒れてくれるなよ》


 実体を持たない炎の巨人は、楽しそうに言う。

 だがどこが顔だかわからない。おっぱいも腰のくびれも消えている。俺的には楽しくない。コレジャナイ。これではちょっとヤレそうにない。


「能書きはいいから。かかってこい」

《いくぞ――!!》


 炎の巨人が飛びかかってくる。その横っ面を、俺は金棒を振るってぶっ叩きにいく。

 もともとこの金棒は邪神の兵装。サイズ的には対巨人用である。


《ふっ! 物理攻撃は無効だということが――ふぐおおぉーっ!》


 なんか言ってたようだが、顔(とおぼしき部位)に当たって、ぶっ飛ばされていった。


「おい。その炎の魔人フォームだがな。ぜんぜん収束が甘い。エネルギー密度が薄い。それじゃ単なる炎だろ。吹いたら消えちまうぞ。俺が昔戦ったやつは、もっと高密度に物質化させて、人体を織り上げていたぞ。それこそ、抱いてもいいっていうくらいのプロポーションでな」

《だ……抱く?》


 炎のエネルギー体が、顔を押さえてつぶやいている。


功夫くんふーが足らん。功夫くんふーが。いい機会だから鍛えてやる。

《え? いやちょっ――? 私がおまえの力試しをするのであって――》


 尋常に勝負をしてやろうと思ったのだが、あまりに「なってない」ので、ぶち倒して地面を舐めさせてやる気も失せた。

 こんなん、ブートキャンプモードで、鬼軍曹で充分だ。


「だめだろ。そんなんじゃ抱けないだろ。だから鍛える。いますぐ壁を超えろ」

《なにを言っているのかわけがわからない!》


「あ。わたし、わかったー」

「わ、私もわかったような気がする……」


 アレイダとクリス隊長とが、そんなことを言っている。


「もっとだ! もっと密度をあげろ! じゃないと吹き消すぞ!」

《ひい――! ひひい――!!》


 俺はびしびしと金棒でぶっ叩いた。叩くたびに炎の密度があがる。

 炎は熱いうちに打てってか。


    ◇


「よし……。とりあえず、こんなもんだろ」


 俺は言った。

 鍛えた甲斐あって、炎は実体といえるほどの密度を持つようになっていた。


 肉体のかなりの面積において、女の肌が表れている。

 まだすこし残った炎が、体の要所要所を覆うように燃えていて、それが服のようにも見える。

 外周からまんべんなく衝撃を与えることで、炎のエネルギーを圧縮していったわけだ。密度を上げたかわりに、大きさのほうは、少々縮んでしまった。


 いまの大きさはというと……。人間の三倍サイズぐらい。


「どうだ? まえよりぜんぜん美しくなったろう」


 うん。いまならイケそうイケそう。これならイケるー。ぜんぜんアリだな。


「おまえの言う〝美しい〟というのは、つまり、〝強い〟ということか……?」


 両手を見つめて、彼女は言う。

 口から出る言葉は、思念ではなく音声になっていた。肉声だ。

 実体を持つほどの密度となって、声を発する器官も戻ってきたわけだ。


「たしかに、さっきまでとは違う、圧倒的な〝強さ〟を手に入れた気がするが……」

「おまえの言う〝圧倒的な強さ〟というのは、こういうことか?」


 発言にイラっときたので、俺は棍棒を振るって、どっかんどっかん、ぶっ叩いてやった。


「や――、やめっ――!? おぶっ――! ふがっ――! もうしません! もうしませんからあぁぁ!」

「よし」


 身の程をわきまえたようなので、打ちのめすのは終わりにしてやる。


「さて。それじゃ、抱くぞ」

「は?」


 俺が言うと、炎の魔人は口をぽかんと開けた。


「俺とおまえが勝負をして、勝ったほうが相手を好きにするという話だったろうが。おまえは戦士の約束を反故にするのか」

「……え? あれ? そう……? だったか?」


「言ってない言ってない。オリオン。そんなこと言ってないってば」

「駄犬。ハウス」

「駄犬ゆったぁ! ハウスゆったぁ!」


 せっかく言いくるめようとしていたのに。余計なことを言うな。


「最強を証明してやったんだ。お代(、、)を払え」

「炎将カドミラル様。オリオン殿はこういう御仁なのだ。諦められよ」

「――~~~!?」


 身長三倍程度のナイスバディの炎の美女が、巨大なバストをぷるぷると震わせて、ビビってるビビってる。


「元に戻るんじゃねえぞ。ちょうどいま三倍ぐらいだから、これならなんとかサイズが合う」

「――~~~!?」


 俺がおいしく頂こう(、、、)としたとき――。広間に数名の巨人が乱入してきた。


「貴方ですか。炎将を倒したという者は」

「小さいのに強ーい。すっごいのねー」

「だが其奴は我ら四神将のなかでも最弱の者よ」


 なんか三人、巨人が出てきた。

 青いのと緑色のと茶色のやつだ。


「おまえ、最弱だったん?」

「……こ、このあいだの試技では、たまたま体調が悪かっただけだ!」


 赤いのに聞くと、そんなことを答えた。

 あー。本当に最弱だったんだなー。


 こいつが炎将といっていた。

 ならば、新しく出てきた三人の巨人は、それぞれ氷将、風将、地将とでもいったあたりか。

 強ければ強いほど美人の法則は、やはり存在するのか――。皆、完成された美しさを持っていた。


「面倒だからな。おまえら全員まとめてかかってこい。そしたらあとで5Pをやるぞー」


 俺は金棒を肩に担ぐと、犬歯を剥き出して、そう宣言した。


    ◇


 事はあっけなく片付いた。

 戦闘と言うほどのこともない。

 氷将、風将、地将、それぞれ〝真の力〟を出して襲いかかってきたが、金棒でべしべし叩いて圧縮してやった。


 三メートルの巨人×三体セット。四色すべてをコンプリートした。


 三メートルほどの巨体だが、サイズ比的にはおねショタぐらいだ。ぎりぎり適合した。


 これまでの全身運動とは違う局所運動は、なかなか、いがった。


 隊長のクリスもそうだったが、将軍連中も、〝そっちの経験〟はなかったらしく、事が終わったあとには、メロメロでラブラブで、デレデレとなっていた。


 アレイダとクリスが、ぷーと可愛くむくれていたので、呼んでやって混じらせた。モーリンはじめほかの皆も、一斉に参加してきて、わやくちゃとなった。

 アレイダには例のドリル技を伝授して、一緒にクリスをやっつけたり、エネルギー切れで巨人に戻ってしまった四将軍をやっつけたりさせた。


 そんな乱痴気騒ぎを、一昼夜ぐらい、やっていたような気もする。

 時間の感覚も怪しくなるぐらい、濃密な時間を堪能した。


 はー。いがったー。

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