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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
20.巨人の国でジャイアントキリングする
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堅物がデレるとデレデレで可愛くなった 「私の名前はクリストファーだ」

 ちゅんちゅんちゅん。朝が来た。

 例によって、窓枠のあたりから、ばっさばっさとドラゴンくらいのサイズ感のスズメが飛び立って、俺を眠りから目覚めさせた。


「ふあ~ぁ。……あー、よく寝た」


 俺は大きく伸びをした。


「おまえらも、ほら、起きろー!」


 そこらにある尻を、ぺちぺちと叩いた。

 無論、巨人サイズの尻だから、その双丘は、そびえ立つ山のようである。


 この尻は引き締まっているから、隊長だな。


「おい起きろ。そんなアヘ顔晒していると、部下に示しが付かないんじゃないのか?」

「んあ?」


 幸せそうな顔で寝ていた隊長は、口許を拭うと、きりっとした顔を作った。


「……もう勘弁してくれないか」

「まだ寝ぼけてんのか。朝だ朝」


 エイルとアミィの下っ端二人とともに、一晩中、ヤッていた。親子丼ならぬ部下丼は、おつな味だった。

 いま隊長の口にした「もう勘弁してくれ」も、いったい何回聞いたことやら。


 昨夜は、何度も何度も天国へと逝かせてやった。

 そしていま、ステータスを確認してみると――。


「増えてんじゃん」


 ヤルだけで経験値が増えている件は、これで立証済みとなった。

 まったく……。どういった仕組みなのやら。


 エロスとタナトスは紙一重というし、イクは逝くとも表現するわけだし、擬似的に殺したのとおなじことになるのだろうか?

 そうなのだとすると、ただ普通にヤルのではだめなのだろうということも想像がついた。


 それこそ、深々と――死ぬかと思うほどの快楽を与えなければならないのだろう。前後不覚になって、数分は帰ってこられないくらい。


 仕組みがわかってしまえば、これはこれで、使えると思った。


 殺してしまえば経験値は一度しか得られないが、この方法なら、何度でも経験値が得られる。再生可能漁法というわけだ。

 問題は、美人でなければ俺がヤル気にならないということだろう。そして美人であれば、そもそも殺したりしない。


 つまり……。これまでとあまり変わらんな。


「おい隊長。ギルドに行くぞ。みんな来て待ってるだろうしな」

「……クリストファーだ」

「ん?」

「隊長は役職名だ。私の名前はクリストファーだ」

「じゃあクリス」

「……なっ!?」


 俺が名前を呼んでやると、隊長――もとい、クリスのやつは、顔をぼっと真っ赤にした。

 おまえが呼べと言ったのだろう。変なやつだな。


    ◇


 クリスの肩に乗って、冒険者ギルドまでの道を運ばれる。

 彼女のストロベリー色の髪は、他の二人と違って長いので、掴まりやすくていい。


 エイルとアミィの二人は、ちょっと気まずそうな顔をしつつ、後ろをついてくる。


 巨人の街並みを眺めながら運ばれていると、すぐ近くからハミングが聞こえてきた。

 堅物な隊長だと思っていたが、上機嫌だと可愛くなるらしい。


    ◇


 冒険者ギルドに入る。


「あー! もうオリオン! やっと来たぁ!」


 さっそく駄犬の声が聞こえる。

 冒険者たち、うちの娘たち、ギルドの職員……のほかに、何人か、見知らぬ兵士の姿がある。


「クリストファー隊長。出頭命令が来ています。昨日の職務放棄の件で」

「あああああ……」


 兵士の言葉に、クリスが、急にしゃがみこんで、うめき声を上げはじめた。


「おっと……」


 俺はクリスの肩から飛び降りて、床に着地した。


「どうした?」

「ほうっておいてあげるっすよ。はじめて出来た恋人に浮かれて、任務のこと、すーっかり忘れてたに違いないんすから」

「です、です」


 エイルとアミィが言う。


「ふむ。そうか」


 そういえばクリスの任務は、職場放棄していたエイルとアミィを連れ戻すことだったっけ。

 その当人が任務放棄だとか。しかもそのことを今朝になるまで、すっかり忘れきっていたとか。

 恋人を肩にのせてハミングしていたとか。

 どんだけ嬉しかったんだ?


 可愛いなぁ。クリス隊長。


「職務放棄をした貴様には、厳罰が待っている」

「いや――、しかし――」

「言い分があるなら軍法会議の場で話せ」

「………」


 クリスの目が、俺を見る。

 その目には、助けて――とか、こいつがすべて悪いんだ――とか、そうした色は一切無かった。

 エイルとアミィの二人のときには、俺になすりつけて俺を売ろうとしていたが……。


 クリスの目にあったのは、ただ、恋人との別れを哀しむ色だけ。

 まるで今生の別れになるような……。


 しかし、たった一日、無断欠勤したぐらいで、今生の別れになるとか……。どんだけブラックなんだ。


 ブラック企業には、少々、トラウマもある。

 そして一度抱いた以上、クリスはもう俺の女だ。


 自分の女が目の前で酷い目に遭うところを、見て見ぬふりをしていたら、俺は俺をやめなくてはならない。


「ちょっと待て」


 クリスを連行しようとしている兵士たちに、俺は言った。

 両腕を取られて、体を持ちあげられているクリスは、その顔を持ちあげて、俺を見た。


「俺たちも連れて行ってもらうぞ」

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