巨人の国のギルドで依頼を受ける 「ブラックドラゴン狩りにいくぞー」
「もうオリオン! いなくなったと思ったら! まーた! 女の人のとこ行ってたー!」
「どこに行ってたっすか! おとなしくお留守番するって言ったっすよ! 言ったっすよ!」
「――です!」
ギルドに入るなり、きゃんきゃんと吠えつかれた。
いつものように咆えているのは、うちの駄犬だが――。
それ以外に、下っ端兵士のエイルとアミィの顔があった。
モーリンたちも全員揃っているようだ。
ああ。そういえば。
ちょっと街を見物したら、帰るつもりでいたのだが……。エレナとすっかりいい仲になって、忘れていた。
俺たちがいないことに気がついて、慌てて探しに来たのだろうか。
「オリオンさーん。オリオンさーん。ご無沙汰してますぅー♡」
アレイダの隣に、見覚えのある顔があった。
「リズか。しばらくぶりだな」
彼女は〝はじまりの街〟と呼ばれる街の冒険者ギルドの受付嬢で――いや、最後にあった時には出世して、副ギルド長になっていたっけ。受付嬢も兼任していたようだが。
大陸を旅していたときには、しょっちゅう会って逢い引きをしていた。
船を手に入れてからは、顔を会わせる機会が減ったが、屋敷にはギルド直通の魔法陣を置いてあるので、いつでも会おうと思えば会えたわけだ。
「伝説の冒険者ギルド本部が発見されたと聞きまして――」
「ん? 本部?」
俺は首を傾げた。
そういえば、魔大陸の1DKの弱小ギルドに立ち寄ったとき、大陸の奥地に黄金の都があり、そこに伝説の本部とやらもあると聞いていたが……。
奥地にあったのはハイエルフの都だった。黄金ならぬオリハルコンの都はあったが、冒険者ギルドの本部はなかった。
単なる伝承だから不正確なこともあるだろう、と、気にも留めていなかったのだが――。
冒険者ギルド本部のほうは、魔大陸奥地から続く、さらなる〝奥地〟にあったらしい。
「……それが、ここということか?」
「本部かどうかはわかりませんが、うちのギルドは数千年ほど前から続いていると聞いています。そして〝冒険者〟の方がいらしたのは三千年前までで……」
エレナが言う。
ギルドの重鎮である大賢者様にも、顔を向けてみる。
「人類の大陸に冒険者ギルドを定着させたのは、三千年ぐらい前でしたね」
あっさりと言う。
こちらは伝承でも伝聞でもない。〝させた〟とか言ってる。言っちゃってる。
「その前は?」
「滅びる前には、巨人文明にありましたよ」
「うっわ! 本物だ!」
いまの人類文明の発祥する前からあったということは、ここが本部だったのか!
「伝説の本部があるという情報を、この目で確認しなくてはならないと思いまして」
「もうギルド長になったか?」
俺はリズにそう聞いてみた。出世欲の強い彼女のことだ、いつまでも副ギルド長なんていうポジションに収まってはいないだろう。
「ええ。私、オリオンさんがしばらく行方不明になっている間に、頑張ったんですよ。ギルド長になっただけでなくて、西方議会の一派も掌握しました」
「すごい出世だな」
「ええ……。老害どもを一ダースぐらい粛正してやって、スッキリしました」
そう言って彼女は、にっこりと笑う。
血生臭い笑みだなぁ、と思って見ていると――。
「オリオンさんの役に立てるかと思いましてぇー」
そこいらの街娘みたいなスマイルも浮かべる。
それはどうだか。
だが俺という存在が、彼女の出世の役に立っていることは間違いない。持ちつ持たれつのドライな関係も嫌いじゃない。なにしろ彼女とはカラダの相性もいい。
「じゃ、わたし、話がありますのでー」
リズはギルドのお偉いさんの手の上に載って運ばれていった。あっちで色々と政治的な話があるらしい。俺たちのように、その気になれば巨人をノックアウトできるスペックがあるわけでもないのに、物怖じしないというか、豪胆というか……。じつに彼女らしい。
「さて。俺たちはどうしたもんか」
俺は女たちに顔をめぐらせた。
いつもはお留守番をしている者たちまで含めて、全員がいる。
俺の女になった順でいうと――。
モーリン、アレイダ、スケルティア、クザク、ミーティア、バニー師匠、エイティ、アイラ、リムル。
あと、俺の女にはしていないが、コモーリン。
コモーリンは、どっちなのだろうかと迷うことがある。
意識はモーリンと共有されているので、モーリンと同一人物なのかと思いきや、たまに「スタンドアローン」とかで独立行動していたりする。
そのときの言動は年相応の幼女であり、いくら俺が外道とはいっても、手込めにするのは憚られる。
あともう3年くらいはー。いや2年ー……。せめて1年……。
「ねえねえ。オリオン」
「なんだ?」
「わたし! 観光したーい!」
駄犬が元気よく手を挙げる。やっぱこいつは駄犬だな。
駄犬が希望を言ったのを皮切りに、それぞれ声をあげる。
「おなか。すいた。」「情報を集めてまいります主」「我より強い者と戦ってくるのだー」「師匠の行くところならどこでも」「オリオン様のお近くにおります」「あの私なんか役に立つんでしょうか」
「ああもう、うるせえ」
「うるさいとかゆった!」
全員が一斉に喋りはじめると、うるさい以外の何物でもない。
だいぶ大所帯になってきたなぁ。
二パーティに分けてもいいんじゃなかろうか。
俺、モーリン、アレイダ、スケルティア、ミーティア。……が一軍で。
バニー師匠、エイティ、クザク、リムル、アイラ、コモーリン。……が二軍か。
「なにか依頼は受けられるか?」
カウンターの内側に入って業務についていたエレナに、俺は言った。
「えっ? ――はい。オリオンさんたちは〝伝説の冒険者〟ですから、もちろん受けられますけど」
「伝説の――は、いらん。討伐依頼を適当に見繕ってくれ。あとこのへんの地図と魔物の分布図なども。この地には不案内なんでな」
ひさしぶりに冒険者のようなことをしている。
「討伐ならブラックドラゴンですね。最近、駆除してないので、増えちゃってきて、困っていたんですよー」
「ブラックドラゴン……」
下界だとモンスターの帝王あたりに君臨しているやつが、ここでは単なる害獣扱いか。
「どうしました?」
「いや。なんでもない。そっちも受けるが、もうすこしハードなやつはないか?」
俺とモーリンのいる一軍のほうは、ブラックドラゴンでは、正直、ザコすぎる。
「それではサイクロプスキングの討伐などはどうでしょう」
サイクロプスといえば、一つ目の巨人だ。
巨人族の島だと亜人になるのか。
下界でいうところのオークやゴブリンあたりか。それのキングっていうことは、オークキングあたりになるのか。
ベテラン冒険者あたりでも手応えのある依頼だな。
「それでいこう」
「おい。エイル、アミィ」
俺は巨人兵士の下っ端娘二人に、呼びかけた。
「なんすか? そろそろ職務に戻らないと、叱られちゃうんっすけど」
「おまえらは、俺たちの乗り物だ」
「ちょ――ちょ! ちょっ! わたしら下っ端なんすから! そんなのとやったら死んじゃいますって!」
「移動手段として使うだけだ。パーティには入れてやるから、寄生で経験値が稼げるぞ」
「わたしら乗り物っすかー!?」
「そうだ」
「オリオンさんたち、飛べるじゃないですかー!?」
「飛行魔法は面倒くさいんだよ」
エイルとアミィの二人を乗り物にして、俺たちは浮遊大陸の荒野を駆け回った。
一軍は手応えのあるモンスターの討伐。二軍はザコ狩り。
その日の夜、冒険者ギルドに戻ったときには、経験値と素材が物凄いことになっていた。
三〇レベルほどアップとか、ワケわかんない経験値が入っていた。
巨人たちのレベルは三〇〇超えだから、それでもまだまだ届いていないが。
素材のほうも、巨人サイズのカウンターからこぼれるほどの量だった。
ブラックドラゴンがダース単位で、足を紐で括られてまとめられている光景は、ちょっとシュールなものがあった。
ドラゴンがコウモリを束ねたぐらいの扱いになっている。
軍票という、この世界の貨幣も、大量に手に入った。
しかし下界の貨幣と違い、ここのカネは貴金属で出来ているわけではない。単なる紙切れだから、他の場所に持っていっても価値はない。せいぜい、風呂の焚きつけに使える程度だ。
「おまえらー! 今夜も飲みたいかーっ!?」
ギルドの中にいた冒険者――ではなくて、〝準補助役冒険員〟とかだったか。
だがどこでも冒険者なんてのは、似たようなもので――。
「うおーっ! 飲みてーっ!」
むさいオッサン連中は、大声で叫び返してきた。