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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
18.街を救ってみよう!
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オーガ狩りの準備 「このモンスターばくはつするんですけどー!」

 ちゅどーん!

 山あいの谷間で、モンスターが自爆する。


「くっ……」


 からくも直撃を逃れたエイティは、地面に膝をついていた。

 直撃を逃れたとはいえ、HPは一割ほどもっていかれてしまっている。

 白銀の鎧も汚れてしまった。


 エイティには白銀の鎧を着させて、勇者っぽい格好をさせている。

 手持ちの在庫の中から適当に選んできた鎧だが、世間一般の基準でいうと、まあ家宝レベルにはなるだろうか。


 モンスターを倒したときのドロップ品のうち、ノーマルアイテムなどは、ばんばんと捨ててきているが、+1だの+2だの、そのあたりのアイテムは捨てるのが惜しくて、ついつい持ち帰ってきてしまう。我ながら貧乏性だと思う。

 そんな安物(ただし世間一般的には家宝レベル)なので、どんどん、消耗していって構わない。


「こ、このモンスター……、ば……、ばくはつ、するんですけどー!」


 エイティが言う。


「ああ。言わなかったっけか?」

「言ってないですうぅぅ~」

「そうか。気にするな。気にせず、ばんばん倒していけ」

「爆発するじゃないですかあぁぁ~」

「そうなるな」


 俺は気軽に言った。なにせ、戦うのは俺じゃないし。爆発させるのも俺ではないし。


 いまエイティが戦っているのは、「ダイナマイト・ロック」という名前のモンスターだった。


 たいした物を落とさないし、一定以上のダメージを与えると自爆するという、やっかいな習性を持っているため、このモンスターを狩ろうという冒険者はいない。


 だが俺とモーリンだけは知っている。

 このモンスターを倒すことで、スペシャル特典があるのだ。

 ある特殊なスキルを習得できる。その技は、勇者系のジョブだけが使うことのできるものだった。

 勇者だけが習得できる特殊スキルのことなんて、どこのギルドにも資料があるはずない。

 よって、世間一般的には知られていない。

 たぶんこの世でそれを知るのは、俺とモーリンの二人だけだと思う。


 勇者というジョブは、ひどくレアなものだった。

 以前の人生では、俺は自分以外の勇者を見たことがなかった。

 最近では、村勇者なんていうものを、ちょくちょく見かけるようになっているが。


 エイティもそうだし。

 まえにクザクを俺の女にしたとき、ゴブリン鍋になっていた、モーなんちゃらとかいうやつも、たしか村勇者だったはず。


 ちゅどーん!


 エイティが次のダイナマイト・ロックを倒した。――いや。倒し損ねて、爆発させた。

 こいつはHPが減ると自爆のカウントダウンを始めるから、爆発させずに倒すためには、相当な火力が必要だ。

 MMORPG用語でいうところの、DPS――ダメージ・パー・セコンドというやつである。

 エイティ一人では、どうあがいたところで、爆発してしまう。


「たおせませえぇぇん……」


 二度目の爆発を受けて、さらにボロっちくなったエイティが、そう言った。


「ああ。一人じゃちょっと無理かもな」


 しかし、こいつ、運がいいなー。

 二回目の爆発も、直撃は逃れて、減ったHPは一割程度。

 あのモンスターの使う特殊技は、みずからの命と引き換えに、敵を殲滅するためのものだった。

 本来、HPは0になっていなければおかしいのだが……。

 まあ、とんでもないLUK値の補正のおかげか。


 しかし……。


「おま。逃げるな。正面から食らえ」


 俺はエイティにそう言った。

 回避していては、特殊技が身につかない。

 正確には、ダイナマイト・ロックを「倒すと身につく」ではなくて、能力発動に巻きこまれることで、極小確率で身につくのである。


 よって、エイティ一人を連れてきた。これなら確実に爆発させられる。


「巻きこまれたら! 死んじゃいますよおぉ!」

「運がよければ一ミリは残る」

「一ミリってなんですかあぁぁ!」


 まあ、鑑定持ち以外には、HPバーは見えないからなぁ。


「いいからやれ。四の五の言いやがると、破門だぞ、破門」

「そんなぁ~! 師匠~っ!」


 まだぐずっているエイティに、こっちのが効くかな? ――と思って、別のことを言ってみる。


「別れるぞ」


 ぼそっ、と、言ったら、効果てきめんだった。


 急に真顔になって、エイティは剣を振りはじめた。


 ほほう? それほど効くのか?

 ういやつめ。


 ちゅどーん。

 ちゅどーん。

 ちゅどーん。


 連続して何体も倒す。――ていうか、自爆される。

 最後の一体については、避けきれずに、まともに食らってしまった。


「あうっ……」


 鎧も砕け、裸身があらわになる。

 HPはぎりぎり1ミリのところで踏みとどまっていた。


「うううっ……」


 俺はエイティを鑑定した。


 うむ。まだだな。習得できていない。

 まあ。五体やそこらで覚えられるようなら、苦労はない。


 俺の時には――。

 ああ。いや。それはいい。


「さあ。立て。続けるぞ」

「もう無理ですうぅ……」


 ああそうか。


 俺はエイティのHPを回復してやった。

 無印の勇者ともなれば、回復魔法も聖女や大賢者級。

 どれだけ減っていようと、最大HPが何万というオーダーにあろうと、必ず全快させるベホマ――じゃなくて、コンプリート・ヒールも、当然のように使える。


「さ。頑張れ」


 HPを全快させてやってから、また、けしかける。


「どうせなら、いまみたいに、1ミリ残して自爆を受けると、いいみたいだぞー」

「ひいいぃ」


 モンスターの用いる特殊技の習得率は、食らったダメージ量比例、という説がある。

 であるならば、異様なLUK値で回避するよりも、モロに食らい続けていたほうが習得が早いはず。


    ◇


 エイティは何度も何度も、何度も何度も――自爆を受けた。

 二十より先は数えていない。

 谷にひしめいていたダイナマイト・ロックが、あらかた、いなくなってしまったが……。


 ついにエイティは、その技を習得した。

 といっても、本人にはまったく自覚がない。鑑定した俺だけが、使用可能呪文のところに、その名前が出てきていることに気づいた。


 しっかし……。

 何回かは事故死するかと思っていたんだが……。


 ついに一度も死なずに乗り切ってしまった。

 やっぱ、こいつのLUK値。すげえな。


 そういや、邪神細胞に取りこまれから生還してきたんだっけ。


 これでエイティに〝奥の手〟ができた。

 オーガ狩りのときにも、役に立てるのではないかと思う。

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