オーガ狩りの準備 「このモンスターばくはつするんですけどー!」
ちゅどーん!
山あいの谷間で、モンスターが自爆する。
「くっ……」
からくも直撃を逃れたエイティは、地面に膝をついていた。
直撃を逃れたとはいえ、HPは一割ほどもっていかれてしまっている。
白銀の鎧も汚れてしまった。
エイティには白銀の鎧を着させて、勇者っぽい格好をさせている。
手持ちの在庫の中から適当に選んできた鎧だが、世間一般の基準でいうと、まあ家宝レベルにはなるだろうか。
モンスターを倒したときのドロップ品のうち、ノーマルアイテムなどは、ばんばんと捨ててきているが、+1だの+2だの、そのあたりのアイテムは捨てるのが惜しくて、ついつい持ち帰ってきてしまう。我ながら貧乏性だと思う。
そんな安物(ただし世間一般的には家宝レベル)なので、どんどん、消耗していって構わない。
「こ、このモンスター……、ば……、ばくはつ、するんですけどー!」
エイティが言う。
「ああ。言わなかったっけか?」
「言ってないですうぅぅ~」
「そうか。気にするな。気にせず、ばんばん倒していけ」
「爆発するじゃないですかあぁぁ~」
「そうなるな」
俺は気軽に言った。なにせ、戦うのは俺じゃないし。爆発させるのも俺ではないし。
いまエイティが戦っているのは、「ダイナマイト・ロック」という名前のモンスターだった。
たいした物を落とさないし、一定以上のダメージを与えると自爆するという、やっかいな習性を持っているため、このモンスターを狩ろうという冒険者はいない。
だが俺とモーリンだけは知っている。
このモンスターを倒すことで、スペシャル特典があるのだ。
ある特殊なスキルを習得できる。その技は、勇者系の職だけが使うことのできるものだった。
勇者だけが習得できる特殊スキルのことなんて、どこのギルドにも資料があるはずない。
よって、世間一般的には知られていない。
たぶんこの世でそれを知るのは、俺とモーリンの二人だけだと思う。
勇者という職は、ひどくレアなものだった。
以前の人生では、俺は自分以外の勇者を見たことがなかった。
最近では、村勇者なんていうものを、ちょくちょく見かけるようになっているが。
エイティもそうだし。
まえにクザクを俺の女にしたとき、ゴブリン鍋になっていた、モーなんちゃらとかいうやつも、たしか村勇者だったはず。
ちゅどーん!
エイティが次のダイナマイト・ロックを倒した。――いや。倒し損ねて、爆発させた。
こいつはHPが減ると自爆のカウントダウンを始めるから、爆発させずに倒すためには、相当な火力が必要だ。
MMORPG用語でいうところの、DPS――ダメージ・パー・セコンドというやつである。
エイティ一人では、どうあがいたところで、爆発してしまう。
「たおせませえぇぇん……」
二度目の爆発を受けて、さらにボロっちくなったエイティが、そう言った。
「ああ。一人じゃちょっと無理かもな」
しかし、こいつ、運がいいなー。
二回目の爆発も、直撃は逃れて、減ったHPは一割程度。
あのモンスターの使う特殊技は、みずからの命と引き換えに、敵を殲滅するためのものだった。
本来、HPは0になっていなければおかしいのだが……。
まあ、とんでもないLUK値の補正のおかげか。
しかし……。
「おま。逃げるな。正面から食らえ」
俺はエイティにそう言った。
回避していては、特殊技が身につかない。
正確には、ダイナマイト・ロックを「倒すと身につく」ではなくて、能力発動に巻きこまれることで、極小確率で身につくのである。
よって、エイティ一人を連れてきた。これなら確実に爆発させられる。
「巻きこまれたら! 死んじゃいますよおぉ!」
「運がよければ一ミリは残る」
「一ミリってなんですかあぁぁ!」
まあ、鑑定持ち以外には、HPバーは見えないからなぁ。
「いいからやれ。四の五の言いやがると、破門だぞ、破門」
「そんなぁ~! 師匠~っ!」
まだぐずっているエイティに、こっちのが効くかな? ――と思って、別のことを言ってみる。
「別れるぞ」
ぼそっ、と、言ったら、効果てきめんだった。
急に真顔になって、エイティは剣を振りはじめた。
ほほう? それほど効くのか?
ういやつめ。
ちゅどーん。
ちゅどーん。
ちゅどーん。
連続して何体も倒す。――ていうか、自爆される。
最後の一体については、避けきれずに、まともに食らってしまった。
「あうっ……」
鎧も砕け、裸身があらわになる。
HPはぎりぎり1ミリのところで踏みとどまっていた。
「うううっ……」
俺はエイティを鑑定した。
うむ。まだだな。習得できていない。
まあ。五体やそこらで覚えられるようなら、苦労はない。
俺の時には――。
ああ。いや。それはいい。
「さあ。立て。続けるぞ」
「もう無理ですうぅ……」
ああそうか。
俺はエイティのHPを回復してやった。
無印の勇者ともなれば、回復魔法も聖女や大賢者級。
どれだけ減っていようと、最大HPが何万というオーダーにあろうと、必ず全快させるベホマ――じゃなくて、コンプリート・ヒールも、当然のように使える。
「さ。頑張れ」
HPを全快させてやってから、また、けしかける。
「どうせなら、いまみたいに、1ミリ残して自爆を受けると、いいみたいだぞー」
「ひいいぃ」
モンスターの用いる特殊技の習得率は、食らったダメージ量比例、という説がある。
であるならば、異様なLUK値で回避するよりも、モロに食らい続けていたほうが習得が早いはず。
◇
エイティは何度も何度も、何度も何度も――自爆を受けた。
二十より先は数えていない。
谷にひしめいていたダイナマイト・ロックが、あらかた、いなくなってしまったが……。
ついにエイティは、その技を習得した。
といっても、本人にはまったく自覚がない。鑑定した俺だけが、使用可能呪文のところに、その名前が出てきていることに気づいた。
しっかし……。
何回かは事故死するかと思っていたんだが……。
ついに一度も死なずに乗り切ってしまった。
やっぱ、こいつのLUK値。すげえな。
そういや、邪神細胞に取りこまれから生還してきたんだっけ。
これでエイティに〝奥の手〟ができた。
オーガ狩りのときにも、役に立てるのではないかと思う。