表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
18.街を救ってみよう!
119/161

村勇者を街勇者にしてみたい 「街を救わなければならないのだが」

「はい? 滅びかけてる街……、ですか?」

「そうだ」


 この魔大陸にひとつだけある冒険者ギルドにおいて――受付嬢兼ギルドマスターでもある、たったひとりのギルド職員に、俺は相談を持ちかけていた。


 どのように相談するのかといえば、奥の部屋で二人っきりで、ずっぽしと相談を行っている。


 いまはちょうど休憩中。

 さっきまでは、ずっぽしと繋がりあって、激しく求めあっていた。

 まずやることを一通りやって、人心地をつけてから、ピロートークとして話を切り出した。


「街を救うぐらいの大きな依頼があると、ちょうどいいんだがな」


 寝そべる背中の、浮きでた背筋に向かって、俺は話しかけた。

 仮眠用の狭いベッドに彼女は寝そべり、俺の話を聞いている。


 俺たちが依頼をせっせとこなしていったおかげで、ギルドの運営は黒字へと好転。

 ギルドの借金とやらも綺麗さっぱり片付いて、彼女からもビンボ臭い雰囲気が消えていた。


 しっかし……。ギルドの受付嬢ってのは、みんな、こんな肉食なのか。

 はじまりの街のギルドのリズも、相当な肉食系だし……。

 そういや、リズの隣に、初々しい感じの娘がいたっけな。エミリィとかいったか。

 はじまりの街のギルドにも、リズの隣に初々しい娘が座っていたっけな。あんなんでも一皮剥けば肉食系に変貌するのか? こんどあの娘にも手を出してみるかな?


「ええと……。ギルスティンから南に行ったところに、ゴブリンに苦しめられている、全三十戸ほどの集落が――」

「それは村だろう」


 家が三十軒なら、人口はだいたい百人から二百人といったあたりか。商店があるかどうかも怪しい。分業が成り立つほどの人口ではない。

 自給自足で、村人の全員が、農民兼、大工兼、猟師兼、鍛冶屋とか、そんな感じの場所になる。


「俺の求めているのは村ではなく、街だ」


 街を救わないと、村勇者の転職条件が揃わない。

 村勇者が街勇者へとグレードアップするためには、いくつかの条件があった。

 まずひとつ目が、ダンジョンの到達者――最終階層のボスを倒すこと。これは簡単だ。このあいだクリアしてきた。迷宮の難易度指定はないっぽいので、初心者向け迷宮である、リムルアース迷宮のボスを単身撃破させておいた。


 つぎの条件が、街を一つ、救うこと。

 これがじつは困難だった。


 向こうの大陸であれば、街はどこにでもあるのだが……。

 なにしろ魔王が倒されて五十年。平和と安寧に浸りきった、この世の中である。

 街ひとつの存亡に関わるような事件など、そうそう起こるはずもない。


 異次元へと続く地獄穴ヘルズゲートでも開いて、中級上級のデーモンでも呼び寄せれば、街を一つ壊滅させるぐらいは容易なことだろうが……。


 まさか自作自演をするわけにもいくまい。


 以前、勇者の力で、神にも悪魔にもなれると言われたが……。


 魔王くらいなら、すぐにでもなれそうだ。

 平和ボケしたこの世界を滅ぼすのには、七日七晩ぐらいあれば足りてしまいそうだ。


 ま。ならないがな。


「街ですか。ええと、それなら……。北のほうに、もうすこし大きな村……、いえ、街がありまして」


 いま言い直したが。まあいいか。

 北にある街というと――。クザクとデートしたあそこか。

 たしかに、女の服を扱っている店もあったし、酒場と宿屋も、いちおう存在した。

 あそこなら、まあ、「街」といえるか。


「なにかあの街にとっての脅威はないのか?」

「近くの洞窟にオーガが棲みつきまして。村……街の住民も、さすがに手をこまねいていますね」

「オーガか」


 向こうの大陸における「オーガ」であれば、ぶっちゃけ、うちの娘たちのうちの、誰であっても圧勝できる。

 両手両足を縛りあげて、指一本だけしか動けなくても、勝てるかもしれない。

 たぶん、デコピン一発で爆散させられる。


 しかし、ここでいう「オーガ」というのは、魔大陸における「オーガー」となるわけだ。


 〝ウサギ〟や〝薬草〟が相手であれば、ワンパンで採集できる村人――もとい、街の住民たちが、恐れるような相手である。


 それは、いかほどの強さなのか。

 どんな上位種なのか、わかったものではない。


「そのオーガが、そのまま居座ると、街はどうなる?」

「街を離れる人も出ますね」

「滅びそうか?」

「いえ、滅びるまでは……。人が逃げ出してさびれるのは、たしかですけど……。あっ、でも、そのまま数年も居座って繁殖をはじめたら、わからないですよ。村――じゃなくて、街ごと移動っていうのは、時折、起きることですし」


「ふむ……」


 俺は顎に手をおいて、考えこんだ。

 いちおう、街の危機ってことだな。ならばこれを解決すれば、フラグが立つかもしれないな。

 エイティの街勇者への転職フラグだ。


「えっ? もしかして? あのっ……? 倒そうとか、考えていますか?」

「ああ。依頼は来ているのか?」

「だめですよ! 無茶ですよ! 倒せるわけないですよ! 貴方たちのパーティ、そりゃ最近はゴブリンも倒していますけど! でもオーガーはゴブリンなんかとは比べものにならないくらい強いんです!」


 あー。あるある。

 あるよなー。そーゆーの。

 ゴブリンを倒せるようになった初心者パーティが、自信過剰になって、オーク狩りだ、オーガ狩りだと、無茶な討伐依頼をやって、全滅するケース。


「危ないですから! ね! ね! やめましょう? ね?」


 ギルド嬢からマジに心配されている。

 いやー。初心者扱いー。新鮮だわー。


 まあ確かに、アレイダたちのいまの実力では、ちょっと厳しいだろう。

 いや、かなり厳しいかな。まあぶっちゃけ、無理だろうな。


 俺とモーリンとバニー師匠がパーティに加わるならばともかく、アレイダたちだけでは、結果は見えている。

 いまのままでは。


「まあ、心配いらない。きちんと準備してから取りかかるさ」


 俺は彼女に覆いかぶさりながら、そう囁いた。

 貴重な情報をくれた彼女に、たっぷり「お礼」をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ