エイティをパワーレベリング 「死にます! 死にます! あうううう!」
「死にます! 死にます! 死んでしまいます!」
「だいじょうぶだ」
「そうそう。けっこうだいじょうぶなものだから~。わたしも、いっつも、死ぬ死ぬ思っているけど~。意外とほら、生き残ってもんだし~」
必死な訴えかけに対して、お気楽な感じで、それぞれ答える。
「いえ! 本当に死にます! 死にます! 一人じゃ無理です!」
「まだそんなに喋っていられるんだから、だいじょうぶよ~」
アレイダのやつが、これが意外と、スパルタである。
ちなみに、いまエイティの戦っている相手は、「はじまりの迷宮」ことリムルアース迷宮の、最下層の主――ラスボスである。
転移陣で飛んで、ひさしぶりにこの場所に戻ってきて、PLをしているのであった。
ちなみに俺たちは見ているだけ。
一切の手出しをしていない。
エイティのPLをするにあたり、暗黒大陸の動植物ないしモンスターでは強すぎて、村勇者レベル27程度のエイティでは、一撃で事故死してしまいかねない。
だからこの場所で行っている。
まあ、死んだら死んだで、蘇生させればいいだけの話であるが……。元から高かったLUK値は、レベルアップ時の成長率が著しい。
その高LUK値による幸運補正と、聖女あるいは大賢者の上級蘇生魔法を用い、さらに魔力を過剰に注ぎこむことで「確率補正」を掛けてやると……。
なんと、蘇生率が100%を上回る。
つまり、絶対確実に生き返る。
しかし、いくら不死身だからといって、ぽんぽん死んでいては、経験値が入らない。
はじまりの迷宮は、ソロ攻略にはちょうどよい感じの場所で――。一階から順に根こそぎにする感じで、エイティの経験値にしている。
最近では『リセットボタン』なるものが発見されたので、モンスターの大絶滅で、ほかの新米冒険者たちに迷惑をかける心配もない。帰りにボタンを押してゆけば、ダンジョンは再構築されて、まっさらの新品となる。
「だめです! だめです! 無理です! 無理です!」
剣をがっつんがっつん打ち合わせながら、エイティのやつは泣き言を連呼する。
はじまりの迷宮のラスボスは、グレーター・ミノタウロスという、かわいいラスボスだった。
ほんの三メートルばかりの大斧を、ぶんぶん振り回してくるだけの、なんの特殊能力も、なんの耐性も持っていない、戦いやすい親切なラスボスである。
「勇者が泣きごとを言うなー。おまえが倒れたら人類が滅ぶぞー」
「ボクは村勇者ですぅー! 滅ぶのはせいぜい村一つですぅ!」
なるほど。そういうものか。
勇者シリーズの職名の接頭詞は、その双肩にかかるものの大きさなわけか。
負けると人類が滅ぶのは、なんの接頭詞も付かない本物の「勇者」か。つまり俺か。
そういえば、あの言葉は、前々世でしょっちゅうモーリンから言われた言葉だったっけな。「貴方が倒れたら人類が滅びますよ」という――あれは。
「ほらがんばってー、エイティ。ソロ踏破なんて、わたし、ナイトのときにやってたわよー!」
アレイダが無責任に応援する。
「ボクはまだクラスチェンジもしてないんですよおぉ~!」
はじまりの迷宮とはいえ、ソロで攻略して〝到達者〟となるのは、じつはけっこう凄いこと。
だが魔大陸にて活動中の俺たちのパーティにとっては、エイティは単なるお荷物でしかなかった。
戦闘に参加してはいても、なんの役にも立っていない。
すくなくとも「薬草」くらいは自力で倒せるようになってもらう。そのためのPLであった。
「おいエイティ――」
「死ぬ! 死ぬ死ぬ! 死にます! 死んじゃいます!」
死ぬ死ぬうるさい。そんなふうに喚き散らすのは、ベッドの上だけで充分なのだが。
「もしそいつを倒せたら、今晩、抱いてやるぞ」
奮起させるためにそう言ったら――。
「ああっ! ちょっと! 今夜はわたしの番でっ――!!」
駄犬が咆えた。
「じゃあ3Pで」
「じゃあってなによ! じゃあって!」
「おまえにもエイティを抱かせてやる」
「そ――! そういう趣味はないからっ!!」
それが、そうでもないんだよな。
スケルティアと一緒に抱いてやってるときとか、盛りあがったときに、二人でキスぐらいは交わしている。
俺はちゃんと見ている。
「あっちはやる気になったようだぞ」
さっきまで、死ぬ死ぬと騒がしくみっともなかった村勇者が、無言で、凜々しく表情を引き締めていた。
剣の技も冴え渡る。
これまで均衡していた戦いの形勢、徐々に、一方に傾きはじめた。
巨大な戦斧と比べれば、爪楊枝にも見えるロングソードであるが、質量差をものともせず、打ち合った相手を体ごと弾き飛ばす。
やがてその鋭い太刀筋は、ミノタウロスの戦斧を、半ばから切断した。
「やればできるじゃないか」
武器を失ったところで、戦いの趨勢は決まった。
ミノタウロスは切り刻まれ、どんどんと体の末端部分から牛肉へと変わっていった。
◇
村勇者は、はじまりの迷宮のボスを討伐した。
ダンジョンを単独制覇して、〝到達者〟となった。
レベルが10あがった。