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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
17.エイティをちょっと鍛えてみる
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エイティをパワーレベリング 「死にます! 死にます! あうううう!」

「死にます! 死にます! 死んでしまいます!」

「だいじょうぶだ」

「そうそう。けっこうだいじょうぶなものだから~。わたしも、いっつも、死ぬ死ぬ思っているけど~。意外とほら、生き残ってもんだし~」


 必死な訴えかけに対して、お気楽な感じで、それぞれ答える。


「いえ! 本当に死にます! 死にます! 一人じゃ無理です!」

「まだそんなに喋っていられるんだから、だいじょうぶよ~」


 アレイダのやつが、これが意外と、スパルタである。


 ちなみに、いまエイティの戦っている相手は、「はじまりの迷宮」ことリムルアース迷宮の、最下層の主――ラスボスである。

 転移陣で飛んで、ひさしぶりにこの場所に戻ってきて、PLパワーレベリングをしているのであった。


 ちなみに俺たちは見ているだけ。

 一切の手出しをしていない。


 エイティのPL(パワーレベリング)をするにあたり、暗黒大陸の動植物ないしモンスターでは強すぎて、村勇者レベル27程度のエイティでは、一撃で事故死してしまいかねない。


 だからこの場所で行っている。


 まあ、死んだら死んだで、蘇生させればいいだけの話であるが……。元から高かったLUK値は、レベルアップ時の成長率が著しい。

 その高LUK値による幸運補正と、聖女あるいは大賢者の上級蘇生魔法を用い、さらに魔力を過剰に注ぎこむことで「確率補正」を掛けてやると……。


 なんと、蘇生率が100%を上回る。

 つまり、絶対確実に生き返る。


 しかし、いくら不死身だからといって、ぽんぽん死んでいては、経験値が入らない。


 はじまりの迷宮は、ソロ攻略にはちょうどよい感じの場所で――。一階から順に根こそぎにする感じで、エイティの経験値にしている。

 最近では『リセットボタン』なるものが発見されたので、モンスターの大絶滅で、ほかの新米冒険者たちに迷惑をかける心配もない。帰りにボタンを押してゆけば、ダンジョンは再構築されて、まっさらの新品となる。


「だめです! だめです! 無理です! 無理です!」


 剣をがっつんがっつん打ち合わせながら、エイティのやつは泣き言を連呼する。


 はじまりの迷宮のラスボスは、グレーター・ミノタウロスという、かわいいラスボスだった。

 ほんの三メートルばかりの大斧を、ぶんぶん振り回してくるだけの、なんの特殊能力も、なんの耐性も持っていない、戦いやすい親切なラスボスである。


「勇者が泣きごとを言うなー。おまえが倒れたら人類が滅ぶぞー」

「ボクは村勇者ですぅー! 滅ぶのはせいぜい村一つですぅ!」


 なるほど。そういうものか。

 勇者シリーズのジョブ名の接頭詞は、その双肩にかかるものの大きさなわけか。

 負けると人類が滅ぶのは、なんの接頭詞も付かない本物の「勇者」か。つまり俺か。

 そういえば、あの言葉は、前々世でしょっちゅうモーリンから言われた言葉だったっけな。「貴方が倒れたら人類が滅びますよ」という――あれは。


「ほらがんばってー、エイティ。ソロ踏破なんて、わたし、ナイトのときにやってたわよー!」


 アレイダが無責任に応援する。


「ボクはまだクラスチェンジもしてないんですよおぉ~!」


 はじまりの迷宮とはいえ、ソロで攻略して〝到達者〟となるのは、じつはけっこう凄いこと。

 だが魔大陸にて活動中の俺たちのパーティにとっては、エイティは単なるお荷物でしかなかった。

 戦闘に参加してはいても、なんの役にも立っていない。


 すくなくとも「薬草」くらいは自力で倒せるようになってもらう。そのためのPLパワーレベリングであった。


「おいエイティ――」

「死ぬ! 死ぬ死ぬ! 死にます! 死んじゃいます!」


 死ぬ死ぬうるさい。そんなふうに喚き散らすのは、ベッドの上だけで充分なのだが。


「もしそいつを倒せたら、今晩、抱いてやるぞ」


 奮起させるためにそう言ったら――。


「ああっ! ちょっと! 今夜はわたしの番でっ――!!」


 駄犬が咆えた。


「じゃあ3Pで」

「じゃあってなによ! じゃあって!」

「おまえにもエイティを抱かせてやる」

「そ――! そういう趣味はないからっ!!」


 それが、そうでもないんだよな。

 スケルティアと一緒に抱いてやってるときとか、盛りあがったときに、二人でキスぐらいは交わしている。

 俺はちゃんと見ている。


「あっちはやる気になったようだぞ」


 さっきまで、死ぬ死ぬと騒がしくみっともなかった村勇者が、無言で、凜々しく表情を引き締めていた。

 剣の技も冴え渡る。



 これまで均衡していた戦いの形勢、徐々に、一方に傾きはじめた。

 巨大な戦斧と比べれば、爪楊枝にも見えるロングソードであるが、質量差をものともせず、打ち合った相手を体ごと弾き飛ばす。

 やがてその鋭い太刀筋は、ミノタウロスの戦斧を、半ばから切断した。


「やればできるじゃないか」


 武器を失ったところで、戦いの趨勢は決まった。

 ミノタウロスは切り刻まれ、どんどんと体の末端部分から牛肉へと変わっていった。


    ◇


 村勇者は、はじまりの迷宮のボスを討伐した。

 ダンジョンを単独制覇して、〝到達者〟となった。

 レベルが10あがった。

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