初心者冒険者は薬草採集をする 「この薬草なんで動くの!? 反撃してくんの!?」
「ぎゃああああ! 反撃してきた反撃してきた! この薬草! なんで動くの! 攻撃してくんの! おかしいでしょ! 単なる草でしょ!」
「そりゃあ。魔大陸だからなぁ」
「手え切れた! 痛い痛い痛い! ミーティア! 治して! ギャアア!」
「自分で治せよ。聖戦士」
今日の駄犬は、ほんと、ギャアア、ギャアア、と、うるせえ。
しかし、魔大陸の薬草――さすがに攻撃力、あるなー。
聖戦士の複層魔装結界、ざっくり、だもんなー。
手え切れたというよりは、指落ちた、のほうだもんなー。
ひゅんひゅんと葉っぱを振り回して、摘み取ろうとする相手を攻撃してくる。その攻撃には、はじまりの迷宮の階層主ぐらいだったら、一撃で首ちょんぱぐらいの鋭さがある。
「癒やしたまえ治したまえ、英傑に再び戦う力を――! 《復元》っ!」
聖女の治療は、部位欠損を瞬時に復元する。欠損していた指が生え揃う。
なるほどー。聖女に頼むべきだなー。
聖戦士のちんまいヒールでちんたら再生治療していたら、最初の傷が治るまえに、新たに受ける傷のほうで、指どころか、両手両足、全部なくなっちゃって、ダルマさん状態だろうしなー。
初心者冒険者らしく、『薬草採集』のクエストに励んでいた。
村をすぐ出た森に生えてる〝薬草〟を採ってくるだけという。それわざわざ冒険者がやらなくてもいいんじゃね? ――的なクエストで、お小遣い稼ぎをしているところだ。
ちなみに『薬草採集』を受けたのはアレイダたち六人だけだ。
俺とコモーリンの二人は、『討伐』と『狩猟』あたりのクエストを、適当に壁から引っぺがして持ってきている。積極的にやるわけではなく、偶然出くわしたなら狩っていこうか、というあたり。
バニー師匠はどちらかというと〝こちら側〟になるわけだが、彼女には〝子守〟を頼んでいる。
「おい。タンク。おまえがしっかり肉壁を務めないと、皆が大変だぞー。おまえ柔らかいんだから、せいぜい、血飛沫噴いて肉の壁を務めろ。な?」
俺は戦っているアレイダにそう言った。
その途端。
あ。腸出た。治った。
しかし、下半身をまるごと失ったりしたら、アソコも再生すんのかな?
今晩試してみたいので、半身、なくさねーかな?
さすがに〝薬草〟が相手じゃ、そこまでのダメージは食らわないなー。
じーっと見ているが、ざっくざっくと斬られて血飛沫はあがっているものの、一刀両断、とまでは、なかなかいかない。
ちなみに聖女の復元があるので、即死でさえなければ、上半身下半身生き別れ、とかでもなんとかなる。首ちょんぱとなっても、十数秒ぐらいの意識のあるうちであれば、死んだことにはならない。
それに死んだって、蘇生もあるしな。
「あれは絶対! ヤなこと考えている目ーっ!」
剣を振るってひたすら応戦しながら、アレイダは文句を言ってくる。
こっちを見るとか、まだまだ余裕があるらしい。
とか言ってる間にも、腕の一本が、吹き飛んで――また生え戻った。
「こんのクソおおーっ!!」
瞬時に治った新しいほうの手でもって、剣を持ったまま切断された自分の古い腕のほうの――その切断面をひっ掴み、古いほうの腕ごと剣を振り回して、薬草の葉っぱをぶった切った。
ほら。よそ見してるから。そういうことになる。
ちなみに、聖戦士ごときの〝微弱〟な防御結界では、モンスターでさえない、単なる〝草〟の攻撃も防げない。しかしその〝微弱〟な防御結界がなければ、被害はこんなものでは済まない。
ざっくざっく切り刻まれているが、いちおう、指が飛ぶ、腕が飛ぶ――程度で済んでいるのは、これでも聖戦士の防御性能のおかげだ。
「わっ――!! わたしもそろそろ新しい装備が欲しいんですけどー! ビキニアーマーじゃ! そろそろきっついんですけどー!」
「聖戦士に鎧なんていらないわ! ――なんて、豪語していたのは誰だっけ?」
「それはあっちの大陸の話でえええ! 痛い痛い! 足なくなったー!」
「ちいぃ。惜しい」
太腿の真ん中から両足を失ったアレイダが、ひぎぃ、とか、痛みに目を反転させている。白目をぎょろりと剥いてる。
もう三十センチほど上だったら、胴体まっぷたつだったんだが。
頑張れ。薬草。
俺の応援もむなしく。薬草はその後しばらくして、倒された。
「ふぅ……、ふぅ……、はぁ……、ふぅ……、よ、ようやく……、倒した……」
傷はないが血まみれのアレイダが、剣を杖がわりにして、かろうじて立っている。
マゾい聖戦士が全面的に引き受けているおかげで、他の面々は、ほとんど攻撃を受けていない。
聖戦士のタウント力は凄まじく、他がどれだけ瞬間的な大ダメージを入れようとも、タゲが跳ねることは希で、仮に跳ねたとしても、すぐに取り返して、すべての攻撃を自分に収束させる。
よって、他の者がアタッカーとして、ダメージを与える役割を十全に発揮できていた。
まあ。パーティバランスは悪くないな。
各々、最初のパワーレベリング段階を過ぎたところで、育成方針をパーティとしての総合力に向けてきた。
「倒したあぁ! 倒したわよおおおおぉ!」
アレイダが雄叫びをあげている。
死線を越えたためか、ハイになっている。脳内物質がドパドパ出ていることだろう。
ウサギ退治のときにも、こんなんなってたな。
「さて。じゃあ次にいくぞ」
「はえっ? ……つぎって?」
マヌケな顔をしているアレイダに、俺は言った。
「決まってる。『薬草採集』のクエストは、薬草、二〇束――だからな。あと一九束。さあ行くぞー」
「待って! 待って待って!! ――死んじゃう!」
「なら死ね」
俺はゲス顔でそう言ってやった。
「だいじょうぶです。アレイダさん。蘇生魔法でお助けします!」
ミーティアが素でそんなことを言っている。
◇
初心者冒険者のパーティは、初心者冒険者らしく、『薬草採集』をやった。
そのあいだに俺とコモーリンは、通りすがりのドラゴンとフェニックスを仕留めて、竜角と竜皮と竜牙と、フェニックスの尾と、素材をゲット。
採集クエストを達成して、素材を売却して、ギルドにすこし貢献してやった。