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自重しない元勇者の強くて楽しいニューゲーム  作者: 新木伸
15.魔大陸ブートキャンプ
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男の視線 「なんでオリオンだとキモチわるくないのかな?」

「はー、つっかれたー。……はい。倒してきたから」


 アレイダたちがどやどやと、馬車のなかに戻ってきた。


 遭遇戦が起きると、パーティで出ていって、総掛かりで倒して帰ってくる。

 街の周囲をぐるぐると馬車で練り歩いているだけなので、ザコが一匹、二匹といった単位で出てくるだけだ。


 一人でタイマンを張ったときには、死にかけていたアレイダだったが――。

 バランスの取れたパーティで立ち向かえば、まあ、危なげなく倒してはくる。


「おつかれ」


 俺はそう言った。

 最初に馬車に上がってきたアレイダは、ひどく驚いた顔で俺を見ていた。

 なんだ? 俺がねぎらいの言葉をかけると、そんなに変か?


 向こうの大陸では、アレイダたちはほぼ無敵だった。パワーレベリングしすぎたということもあって、たいていの迷宮は、ソロでクリアできてしまえる始末であった。

 この魔大陸にきて、一人ではぶち殺されてしまうぐらいのザコだがと戦うことで、本当の意味で、はじめてパーティプレイというものを習得しつつあった。


 だが戦い、それ自体には、まだまだたいした点は付けてやれない。


「つぎのエンカウントには、クザク、おまえは抜けて、バニー師匠に替わってもらえ」

「まだ戦えます」

「命令だ」

「……わかりました」


 命令、と、つければ、クザクはおとなしく言うことに従う。


 つぎに俺は、アレイダを見た。

 こいつをパーティのリーダーに任命したつもりはないのだが……。アタマ悪いし駄犬だし。

 しかしなぜか、リーダーの座に納まっている。

 戦局の状況判断ならじつはミーティアのほうが向いているし。リーダー・オブ・リーダーであるべきはずの|《村勇者》のエイティもいるわけだが、人望を集めて皆が頼るのは、なぜかこの駄犬なのだった。


「……なによ?」


 汗を拭いていたアレイダは、タオルを持ったまま、その手を止めた。


「もう、やだ……。また……、カラダとか見てるし」

「見てねえし」


 俺は憮然とそう言った。自意識過剰だっつーの。誰が見てたっつーの。何時何分何秒だっつーの。


「おま。クザクのDoT攻撃に頼りすぎ」


 俺は要点を告げた。


 DOTというのは、Damage Over Timeの略である。

 毒だの、呪いだの、病だのといった、時間持続性のスリップダメージの入るスペルのことだ。

 《インヴォーカー》であるクザクは、呪い攻撃の類いを得意とする。


「だって、あいつら硬いんだもん! 殴って倒すの、大変なんだもん!」


 たしかに病系のDoTは、相手のHPに対して「割合」でスリップダメージが入る。


「そうやってダメージテイカーを、こんなザコ戦なんかで酷使していると、大物と戦うとき、本当に欲しいときに、クザクがダウンしていることになるぞ」

「ザコって……」


 アレイダが不満そうに言う。


 このへんのモンスターは、ウサギだのキツネだのニワトリだのといったザコばかりだ。

 もちろん、魔大陸のウサギとキツネであるから、それぞれ、「クリムゾン~」だとか「グレーター・ファイア~」だのといった接頭詞が付くのであるが――。

 またニワトリはニワトリでも、コカトリスの上級種、かつ、変異種の――とか、学術的にはいろいろ付帯項目が付くのだが――。

 しかし勇者業界においては、あんなん、ウサギとキツネとニワトリでしかない。晩ごはんのおかずである。


「おまえもリーダーなら、仲間の様子や調子に気を配っていろ」

「わ、わかったわよぅ……」


 休憩を言い渡されたクザクは、もうダウンしている。コモーリンに膝枕されている。


「あとな、もうひとつ」

「まだあるの?」

「病で倒すと、食えないんだよ」


 せっかく、夕飯の材料を待っていたというのに、食えないものにしてきやがった。ぷつぷつが浮かんで、ぶつぶつだらけになって、変な色になって変死したウサギとか、食べたら病気になってしまいそうだ。


「ちょ!! モンスターを食べるなんて――」

「あれはどっちかっていうと、動物寄りだ」

「なんかキーキー言って、言葉、喋ってるみたいなんですけどぉー」


 そりゃ、独自の言葉ぐらいはしゃべるかもしれないな。


「この大陸じゃあ、強いやつはだいたい美味い。強いほど美味い。そういう法則が成り立っているようでな。――例のウサギ、ドラゴンより美味いらしいぞ」

「えっ!! ほんとっ!!」


 アレイダが叫ぶ。このあいだ転生者のやっていた食い放題の店で、ドラゴン・ステーキを食った。

 あの味は別格だった。

 ちなみにあのときのあれは、ドラゴンといえども、向こうの大陸産。言葉も解さないレッサー種のドラゴンである。


 向こうの大陸の生態系の頂点は、こちらの大陸でいうと、ザコ以下となる。

 こっちの大陸の頂点、竜種のうちでも古代種エルダーなんざ――言葉は卵から孵った時から話すし、成長すれば魔法も使うし、そこらの魔法使いよりも高いINTを持っているし。――きっと、ものすごく美味いんだろうな。

 そのうち食おう。


「というわけで、おまえ、食材買ってこい」


 俺はアレイダに命じた。


「じゃあ、ちょっと転移陣出してよ。はじまりの街に、買い物に――」


 アレイダが言う。転移陣を仕掛けた場所へは、行き来自由だ。別な大陸であっても、なんら、問題はない。

 リズのいる冒険者ギルドのある、最初の街――そのまま「はじまりの街」と呼ばれている場所には、アレイダたちはしょっちゅう行っていた。買い物はおもにあそこで済ませている。


「あー、やっぱ、やめとこうかなー」

「なんだ?」


 なにかぐずりはじめたアレイダに、俺は言った。


「だって……。なんだか、最近、視線を感じて……」

「視線?」


 アレイダは自分の二の腕のあたりを抱きしめている。胸をかばうような仕草をしている。


「なんか……、あの……、最近、街とかに行くと……。視線を感じちゃって。男の人の……、そのっ……」


 あー。あー。あー。

 俺は理解した。


 そりゃ、こんなエロいカッコさせているんだから、男どもはガン見くらいするだろうな。

 上はビキニアーマーだし。下は、ぱっつんぱんつんのミニスカだし。


 ちょっと動けばパンチラするという、ナイスな仕様になっている。


 ちなみにどちらも、俺の趣味である。


 他の男どもが、俺の女のおっぱいを見ようが、ぱんつを見ようが、よい気分になりこそすれ、気を害したりしないが……。

 見るだけならタダだ。女に不自由しているやつらに、せいぜいサービスしてやろう。(無論、指一本でも触れたら死刑だが、俺の女たちはきちんと躾けてあるので俺が手を下すまでもない)


 しかし、アレイダのやつ。

 急に慎みが出てきやがったな。

 以前は気にしていなかったのに――。平然と男たちの目に大サービスしていやがったのに。

 なぜ急にいまになって、そんなこと気にしはじめたのか。


「ははン」


 俺は理解した。鼻で笑った。

 ほほう。そうかそうか。

 他の男に見られるのは嫌だと?

 そういうことか。


「ち、ちがうからっ! そういうんじゃないんだから!」

「俺はなにも言ってないがな」


 俺は自分でもわかるニヤニヤ笑いを浮かべつつ、アレイダの体をじっくりと見た。


「どういうふうに見られるんだ? こんなふうにか?」


 なにかプレイでもやっている気分で、じっくりと見る。

 おっぱいを見る。ウエストを見る。股間を見る。ケツを見る。ふくらはぎを見る。


「うーん……? なんか、ちがくて……」


 恥ずかしがらせてやるつもりで、じっくりとエロい目線を送っているのに、アレイダは平気な声でそう言った。


「あれ? なにがちがうんだろ? オリオンの目のほうが、もっとぜんぜん、遠慮がないのに……?」


 アレイダは首を傾げている。

 わからない、というカオをする。


「……」


 俺は言葉に詰まった。


「オリオンだと気持ち悪くないのよね。……けど。街の男の人たちの視線は……、なんだか、気持ちわるくて……」


 やべぇ。こいつ無自覚かよ……。

 俺にエロい目で見られても平気だが、他の男にエロい目で見られるのは気持ちわるいと。

 つまり、それって……。


「……。おほん」


 俺は咳払いを、ひとつ、行った。


「……一緒に行くか? 街へ」

「へっ?」

「だから買い物についていってやる、と、そう言っている」


「どしたの? 急に?」

「おまえが嫌なら、べつにかまわんがな」

「あっ! ちがうちがう! ぜんぜんヤじゃない! 行く行く! 一緒に行く!」


 おさんぽに連れて行ってもらえるワンコのように、アレイダは、はしゃぎ回った。

 尻尾を振りたくるような勢いで、その場でくるくると回った。


 ほんと。バカワンコめ。


「はい。マスター。買い物リストです。よろしくおねがいします」


 いつのまに作っていたのか。モーリンが買い物リストを俺に手渡してきた。


 さて。バカワンコをさんぽに連れて行くか。

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