エピローグ
近海に恐怖を振りまいていた〝海の悪魔〟が死に――。
戦闘は終息した。
その途端――。
勝利の宴がはじまった。
浜辺に引き揚げ、解体がはじまる。浜では焚き火がおこされ、タコの肉がばんばん切り取られて焼かれていた。
「まてまてまて――!」
俺は割りこんでいって、焼きダコならぬ茹でダコを作らせた。
なぜ誰も煮ようとしない? イカなら焼くだろうが、タコなら茹でるだろ?
どうもこの世界での食いかたでは、焼きオンリーらしい。
俺はそこに茹でダコの文化を広めてやった。
死んだあとでもまだ吸い付いてくる吸盤と格闘しつつ、いくらでもある海水を大鍋で沸かしてボイルすると、ほどよく塩気ののった茹でタコができあがった。
さて。お味のほうは……?
「うんまあああぁぁぁ――い!」
滋養がぎゅっと凝集した味だ。こんな美味いタコは、あちらの世界でも食ったことがない。
ひょっとすると、この世界の食べものは、強ければ強いほど美味いのかもしれない。
ドラゴンステーキも美味かったしな。
ちなみに人魚たちは、焼きでも茹ででもなく、ナマで食う派。――そりゃそうだろうな。海中じゃ火なんか使えるはずがない。
ハーピーたちは、なんでか焼きタコがお気に入りのようである。
しかし、こいつら……。戦いに参加していたのは四羽だけのくせに、島から飛来して、十数羽の群れすべてがご相伴に預かっていた。
ま。タコはいくらでもあるから、いいのだが。
タコの体は、内臓以外はどこも似たような作りで、似たような味だった。
うちの娘たちだと、ナマ派はスケルティア一人で、他はすべて茹でタコ派だった。少数派のスケルティアは「スケ。だめだた。」とか落ちこんでいたが、食の好みは個人個人だから、べつにいいと思う。
この際なので、船から調理道具を持ち出してきて、それ以外の調理法も広めることにした。
まずは「唐揚げ」。
生タコに衣をつけて、高温の油で、サクサクに揚げる。
これは好評だった。
ハーピー一族が、焼きタコ派から、唐揚げ派へと、宗旨替えした。
ピーピーとヒナ鳥のように泣きわめいて、口を大きく開いて、唐揚げをねだってきた。
ちょっと可愛く思えないこともない。
ハーピーたちにエサやりを続けていたら、駄犬も群れのなかに混じって、ピーピーと鳴きながら口を開けていたので、唐揚げをくれてやるかわりに、尻に蹴りをくれてやった。
その次は「タコの薩摩揚げ」である。
タコのすり身だけでは作れないので、船の食料庫から、適当な白身魚を持ってきた。
これも油でカラリと揚げる。
「あー、サツマアゲですかー。いいですよねー」
バニー師匠が超反応していた。料理名を言う前から「サツマアゲ」と正解を出していた。やっぱこの人、転生者なんじゃねえの?
バニー師匠は、薩摩揚げをツマミに、酒を飲んでいる。
日本酒みたいな味の醸造酒は、海賊船からの提供だ。
人魚にはアルコールという文化はなかったようで、一口飲んで、すぐに酔っ払っていた。
そして料理無双の最後の品は――「たこ焼き」であった。
これがまた大好評。タコ焼きの屋台に大行列ができあがっていた。
俺はなぜだかずっと働かされていた。くるくるとたこ焼きをひっくり返し続ける。
だが、みんな歯にアオノリを付けて笑っていたので、よしとする。
たこ焼き屋台から解放された頃には、もう、あちこちで宴は煮詰まりきっていた。
あたりはすっかり暗くなっていたが、まだまだ宴は続いている。
海賊船から、酒がどんどん、樽ごと下ろされてくる。
波打ち際では、ばしゃばしゃと――海賊が人魚を襲っている。いいや逆か。酔っぱらいの人魚が、海賊を襲って無理矢理〝交尾〟に及んでいる。
俺も乱交すっか。
皆のところに戻る。
まーだ、がつがつ食い続けているアレイダのスカートを、ぴろりとめくると――。
「ふぁっ! ふぁにーっ!! ふぁひっ!! いれふぇんふおぉ!? ふぁ――っ!!」
食うか、叫ぶか、喘ぐか、どれかにしろ。
俺はアレイダを後ろからご使用になった。
えっほ。えっほ。
◇
俺たちは入り江の彼らと別れて出航したあとも、船で祝杯を上げつづけた。
甲板に巨大なシーツを広げ、一面をベッドにした。
その白いシーツの上で、食って、飲んで、食いながらヤッて――。
ヤリながら寝て――。目を覚ましたら動きを再開させて――。
海賊女と、ハーピーたち四羽、それに人魚姫も一緒だった。
女王もついて来たかったが、彼女のサイズでは水上にあがるのは無理なようで、悔しがっていた。
船は適当に漂流させておいた。どうせ食料は山ほどある。一生分くらいのタコが亜空間倉庫に収納されている。海賊と人魚の王国にも分配したが、それでも食い切れないほどのタコを手に入れた。
そうして何日、ヤリまくって漂流していたのかは、記憶にない。
「……おぉ? 朝らしいぞ?」
上から照らす太陽に目を細めつつ、俺は言った。
だが皆はまだ起きてこない。
起きるというか、意識が戻るというか……。意識があるうちはヤッてて、意識がなくなってまた復活したら、またヤッて……。
なんていう乱痴気騒ぎをことを繰り返していたからな。
右腕と左腕とが、誰かの女体に絡め捕られている。ちーぱいとほどよい大きさのこの感触は、スケルティアとアレイダだろうか。
他にも足だの腰だのに女体がいくつもしがみついてきている。誰が誰なのやら、もう、わからない。
そしてハーピーたちが翼を広げて、俺たち全体を包んでくれていた。彼女らの羽毛が、布団代わりだ。
周囲が賑やかだ。
ゆっくりと漂う俺たちの船のまわりに、なんだか、ほかの船の影が……。
「ん……?」
俺はゆっくりと目を開いた。
「おー! ニイちゃん!! いいなーっ! 美人さんに囲まれてー! きのうはお楽しみだったのかい!?」
すれ違う船の船乗りが、こちらにそんな声を投げかけてくる。
「昨日じゃないさ。〝今週は〟――だ」
俺がそう答えると、船乗りは、ひゃーっひゃっひゃっ、と大笑いした。そのまま遠ざかっていった。
俺は半身を起こした。
アレイダの上体がおっぱいごと落っこちていって、シーツの上に落ちる。
どこかの港の近くまで来ているようだった。
行き交う船が多数見える。
乱交しながら漂流を続けるうちに、どうやら、目的地としていた、隣の大陸に到着してしまったらしい。
俺はこの場所を目指していた。
五〇年前の勇者としての旅で、通っていった第二の大陸――。
それがこの場所だった。
人はこの大陸のことを、こう呼ぶ――。
〝魔大陸〟――と。
海の大冒険編、完結でーす。
つぎからは「魔大陸編」です。
連載はまた例によって一次休止しまして……。
再開は5巻刊行に合わせた、1月中旬~2月初旬を予定しています。