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海の悪魔狩りの準備・人魚王国編 「御苦労でした。どんな望みでも一つだけ叶えましょう」

「おいおいおい。おまえら。やめといたほーがいいぞ」


 周囲を取り巻く魚人兵に、俺はいちおうそう言った。


 タコ戦を行うための兵力を集めるために、人魚の王国に出向いたのはいいのだが……。

 入った途端に、多数の兵に囲まれてしまった。


 三つ叉の槍を向けて俺たちを取り囲んでいるのは、魚の上半身に人の足のついた――半魚人だった。

 どこ向いているのかよくわからない大きな目が、ぎょろりと動いて俺を睨む。


 死んだ魚と目線が合うのはけっこう怖いものだが、生きている魚と目が合うのはもっと怖かったりする。


 人魚姫は、俺の腕に、しっかりとしがみついてきている。

 こいつら半魚人は自分の国の兵だろうに、なぜか怖がっている感じである。

 半魚人の兵隊たちは、俺に敵意を向けている。


 敵対したものはぶっ殺す。――が、ポリシーの俺ではあるが、理由もわからず、自分の女の国の兵隊をぶっ殺すのは、いかんだろう。

 なので、「やめとけ」と忠告してやっているわけなのだが……。


「ねぇ? これ、殺っちゃっていいの?」


 俺が自制しとるとゆーのに。このバカ駄犬。うずうずした顔で言うな。

 まー、「敵はぶっ殺せ」と教育したのは、他でもない俺であるが……。


「※〒§◎■¢、#£■◇℃¥∽ー、‰Å☆★、♂♀♀♀♀、ΩΔω♯♭!」


 半魚人たちは、なにか言ってる。俺に槍を突きつけて、騒いでいる。

 なに言ってるのか、わかんない。


 俺の腕にすがりついている人魚姫に通訳を頼んでもいいのだが――。

 もー、めんどうくさいから、〈魚人語〉のスキルを取ることにした。ポイントは山ほど余らせているので問題はない。

 そんなにスキルレベルの熟練度をあげなくても、最低限、会話できる程度でいいな。


 ――ほい。スキル取ったぞ。


「姫様を返せ! この誘拐犯めが!」

「おいおいおい。人をいきなり犯罪者呼ばわり……って? 誘拐?」


 俺はすぐ横の人魚姫に顔を向けた。

 ふいっ、と、人魚姫がそっぽを向いた。


「おまえか――っ!!」

「だってハニーと一緒にいたくて……? あれっ? なぜ? ハニー? 人魚語を?」

「そんなことはいまはとりあえずどうでもよろしい」


 俺は人魚姫を、兵士のもとへ突き出した。


「誤解を解け。――いますぐにだ」


「あ、あのぅ……。兵士長? わたし、誘拐なんて、されてないですよ……?」

「いえ! ですが!? 『私はあの方に攫われました』という、姫様の手紙が――」

「ええっと、それは、そのぅ……」


 人魚姫は俺を振り向く。

 俺は怖い顔を返してやった。きちんと話さなかったら、二度と抱いてやんねー! という顔を返すと、彼女はしぶしぶ、前に向き直って、兵士たちに言った。


「ごめんなさい! それは嘘です! ウソつきましたあぁぁー!!」

「えええええっ!?」

「あの方を好きになってしまって――! ついていきたくて! でもどうせお母様は反対するし! だから家出を――!」

「えええええええ――っ!?」


 人魚姫のカミングアウトに、兵士たちは騒然。


「と、とりあえず……、じ、女王陛下のもとに……、来ていただきます」

「はい……」


 人魚姫は、しょんぼりとうなだれた。

 そのまま、兵士たちに連行されてゆく。


 俺が誘拐犯ではないとわかったので、兵士たちは俺たちには無関心だったが――。


「俺もその女王とやらに用事がある」


 俺がそう言うと、兵士たちは怪訝そうな顔を向けてきた。


    ◇


「其方が娘を連れ戻してくれたのですね。礼を言います」


 いや。違うし。

 べつに連れ戻したわけではないのだが。


「褒美を取らせましょう」


 だから。違うし。

 褒美が欲しくて来たわけでもないんだが。


 どうもこの人魚の女王。

 他種族――特に地上の生き物を、下に見ている感がある。


 まあ地上人だって、二本足で直立しているかどうかで区別したり、同じ直立歩行のなかでも、やれ亜人だやれ魔族だのと、差別や区別をしまくっているので、水中呼吸ができるかどうかで優越感を持っていたとしても、あれこれ言える義理ではないのだが……。


 俺たちはいま、水中呼吸の魔法をかけている。ネイティブでエラ呼吸の行える者たちから見ると、野蛮で原始的に見えるているのかもしれない。


 ちなみに人魚の女王。これがやたらとでっかかった。

 人魚姫が、頭の先から尾ひれの先まで二メートルぐらい。尾ひれを除いた上半身だけでいうとティーンエイジャー相当だとして――優にその二倍以上はある。

 つまり、五メートル以上もの体長がある。


 人魚という種族は、一生成長を続ける生物なのだろうか? 年長者は年少者よりも大きくなるのか?


 女王は、その縮尺を除いたなら、容姿的には若々しい美女のままだった。

 サイズは変わるが、容姿は変化しない種族であるらしい。


「金銀財宝ですか。古代の秘宝アーティファクトですか。望みの物を褒美に取らせましょう」


 だから。べつに金銀にもマジックアイテムにも困ってはいないんだが。

 だいたい、昔は一大帝国を築いて栄えていたかもしれないが、現在は衰退して、海底に小さく隠居して、タコに怯えて暮らしている隠れ里の暮らしなわけで、そんな大層な宝が残っているはずはないんだが――。


 プライドの高さだけは、数万年前のままらしい。


「お母様! この方は私にとてもよくしてくださいました!」


 女王は娘を一瞥した。そして俺に視線を戻す。


「――それでは、どんな望みも一つだけ叶えましょう。偉大なる人魚族の女王である(わらわ)が、そう約束します」


 なにやら願いのグレードがアップした。「物をくれてやる」から、「なんでもOK」にランクがあがった。

 だがそんなこと、本当に、約束しちゃってOKなのかなー?


 俺はこういう場合に、当然、言うべきことを口にすることにした。


「それでは。女王――おまえを抱きたい」

「……は?」


 女王は、ぽかんと口を半開きにした。


「セックスしたいと言ってるんだ」

「……は?」


 女王は、まだ、わけがわからない、という顔。

 まわりの半魚人の衛兵たちも、ぽかんとした顔で、まだ反応してこない。


 意味が脳髄に伝わって、激昂するまで、まだあと十秒ぐらいあるな――と思った俺は、傍らの、スケさんカクさん――ではなくて、アレイダとスケルティアに顔を向けた。


 アレイダのほうは、「またか」という感じに、大げさに手で顔を押さえていた。

 スケルティアのほうは、口許に持っていった指先をくわえて残念そうな顔。――あれは食べたがっている感じ。前にスケルティアを、「人は食べちゃだめ、モンスターはOK」と躾けたことがあるが、人魚はスケルティア的には「モンスター」の分類であるっぽい。


「おい。アレイダ。殺さずにやれよ? ――できないなら、ミーティアやエイティと替われ」

「なによ、もう? 急に善人になっちゃって? ……気持ち悪いわよ?」

「ちがう。兵隊を減らしたくないだけだ」


 女王のもとまで連れてこられているあいだに、この集落の規模をそれとなく観察していた。

 それほど人口――魚口は、多くない。

 ここにいる兵士を皆殺しにすると、兵力は大幅ダウンだ。そんな程度の人口しかいない。

 もうこれ〝国〟じゃねえよな。村落といってもいいような規模だ。


「あとスケ。倒すだけだぞ? 食うなよ。魚なら、あとでたっぷり食わせてもらえるからな」

「わかた。よ。」


 スケルティアはうなずくと――。


「水中。戦。もーど。……なるよ。」


 人間の足だったものが、一度ばらけて蜘蛛のボディに戻り――そして折り畳まれかたを変えて、魚類の尾に変わった。

 パーティションラインが残っているのと、ウロコまでは再現できていないが、機能的には人魚の尾ひれと同じものとなる。


 アラクネの擬態能力を器用に使いこなしている。人魚モードとなったスケルティアは、水中戦能力も人魚と同等だ。


「わたし。あっちとこっちの八匹やるから。スケさん。六匹以上、取っちゃダメよ?」

「スケが。八匹。やるよ。おりおん。の。やく。たつよ。」


 こっちの戦闘準備は、とっくに整っている。

 二人は取り分についての相談などをしている。


 その頃になって――。


「わ――わ、わ! わらわに対して! よくもそんな口を――!!」

「じ――女王陛下を愚弄するか!!」


 ようやく認識が追いついてきたのか、女王陛下とその護衛たちが激昂して、広間の水を震わせる怒号を放った。


「母様! ――この方はわたくしの愛しい人で!!」


 人魚姫は、俺の前に飛び出してきた。

 健気なことに、自分の身を挺して、俺をかばうつもりらしい。

 だがここにいると、自分の国の兵士たちに傷つけられかねないな。


 俺は彼女の口を吸ってやり、それから、仲間の兵たちのもとに押し出した。

 いまのキスで、またなんか兵たちが騒いでいたが、まったく気にしない。


「まったくもー、穏便にできないの? 穏便に」


 アレイダが呆れ声を出しつつ、前に出る。水中なので、その動きはもったりとしている。


 俺もべつに、わざわざ事を荒立てるためにやっているわけではない。

 途中経過を省略しているだけだ。


 人魚というのは、交配した雄と特別な関係を築く種族なのだ。


 ああ――。もとい――。

 ただ交配しただけでは、そうはならない。

 たとえば、そこにいる自称・偉大なる女王様は、交配相手の雄を数匹囲っているらしいが、そうはなっていない。


 人魚は生まれたときに、青い真珠(パール)を一個握って生まれるという。そのパールを人魚はアクセサリーにして、体のどこかに身につけている。

 人魚姫の場合には首飾りとなっている。


 〝真の喜び〟を得た人魚は、パールの色が赤系の色に変わる。


 人魚姫は俺の女となり――、そのパールは綺麗な桜色と変化した。いまそれは可憐な乳房の合間で揺れている。

 彼女の真珠の色を、俺が変えた。


 俺がこの人魚の王国に来たのは、人魚族の協力を得るためだ。

 だがエラとヒレのついていない俺は、結局は「陸の生物」として見下げられることになる。

 ちまちまと説得していたって、全幅の信頼は得られっこない。


 手っ取り早く信頼を勝ち取る、その唯一の方法というのが――。

 ぶぅちこんだ(、、、、、、)うえで、絶頂悦楽アクメ(、、、、、、、)をキメてやることであり……。

 まだ青い女王の真珠を、赤く変えてやることなのだった。


 俺たちがあえて(、、、)動かないでいるうちに、周囲は半魚人の兵によってすっかり囲まれていた。

 はじめから広間にいた兵だけでなく、駆けつけてきた兵も増えている。

 アレイダもスケルティアも、取り分で揉めることはないだろう。


「こいつら全員、たたんじまえば、女王、貴女とヤラせてもらえるのかな?」


 周囲を睥睨して、俺は言った。


「まだそんな戯れ言を!! ――ええい! かかれ! 切り捨てよ!」


 戦闘が、はじまった。


    ◇


 戦闘が、終わった。


 水はまだすこし濁っている。血煙がなかなか晴れない。


「はい、はーい、ほかに怪我した方はいらっしゃいませんかー?」


 ミーティアがあちこちを泳いで、怪我人を探している。半魚人の兵の幾人かが手を挙げる。ミーティアはそこに泳いでいって、「痛いの痛いのとんでいけー」とやっている。聖女の癒やしは「奇跡」の分類なので、呪文のほうは、なんでもいいわけだが……。もうすこしなんとかならんのか? その呪文は?


 タコ狩りを手伝ってくれる大事な兵力だ。倒しはしたものの、殺しはしていない。

 死んでなければ、基本、OKである。なにしろ聖女と大賢者がいるのだ。怪我人ならあっけなく全快となる。

 仮に死んでしまっていたとしても、蘇生魔法があるから、まあなんとかなる。


 HPが全快になっても、兵たちには、リターンマッチをやる気力はないらしい。すっかり消沈して、死体みたいに脱力して、浮き沈みを繰り返している。

 自暴自棄になると、人魚と半魚人って、浮いたり沈んだりするのか。


 まあ実際、戦闘と呼べるものではなかった。

 水中で高機動を行うスケルティアは、人魚や半魚人のお株を奪ってスピードで相手を翻弄した。

 アレイダは水の抵抗をものともせず、音速の剣を振り回していた。剣の軌跡が水を割って進む。一瞬、断ち切られた水の壁が、水圧に押し潰されるときに衝撃波が起きて、斬撃から逃れた相手も水流で揉みくちゃにされていた。


 二人ともぜんぜん本気ではなかった。もし本気であれば、細切れにされたばらばら死体が、数十匹分ほど混ざり合って――。いまごろ、ここの広間の水は、ちょうどいい感じに「あら汁」となっていただろう。


 そこらにぷかぷかと浮かんでいた切り身を、スケルティアが、じーっと見ている。

 兵のうちの誰かの切れっ端だな。半魚人部分のほうの身だな。

 見た感じでは〝刺身〟に見える。

 スケルティアが、口を開いた。――ぱくっと食いついた。


 あーっ! 食ったー! 食いやがったー!


 俺が指差すと、スケルティアは素知らぬふりで――「食べてないヨ? 知らないヨ?」という顔をしている。

 いーけないんだー、いけないんだー。食っちまいやんのー!


わらわを――、どうするつもりだ……?」


 声が聞こえて、はっと顔を戻す。

 人魚の女王は、広間の全域を覆い尽くす惨状を、疲れ果てた顔で眺めていた。

 自慢の兵が、子供扱いどころか、エサ扱いでさえなく蹴散らされて、ようやく彼我の戦力差を理解したのだろう。

 〝現実〟をようやく認識したのだろう。


 征服者はこちら。そして向こうは、無条件降伏をする側だということに。


「さっき言ったろ? 抱くって」


 女の悦びを教えてやらないと。


「ひ――ひとつ! た……頼みがある」

「なんだ?」

「優しくして……、たもれ」


 俺は優しく微笑み返してやった。

 自分の女と、自分の女になる女に対しては、俺はけっこう優しいのだ。


    ◇


 結論からいうと――。


 うん。いがった。

 スレてるかと思ったらぜんぜん初々しかった。

 あと女王は、じつはかなりのMだった。


 自分でも知らなかった性癖に目覚めてしまい、我を忘れて無我夢中で快楽を貪っていた。


 真珠は見事に真紅に染まった。

 人魚姫は桜色だったが、女王の場合は血のような赤色だ。同じ赤系統でも、個人の〝性癖〟によって色は変わるそうである。


 俺を〝雄〟と認めた女王は、すっかり柔和に聞き分けがよくなった。

 ようやく俺は〝本題〟に入ることができた。


 海上にいる海賊たちを、とどめの銛打ち部隊として使い、海中の人魚族のほうは相手をおびき出す〝囮〟として使うのが、俺の作戦だった。


 海中の速力では、やはり人魚や半魚人たちのほうが優れている。

 うちで比肩しうるのは、水中モードに変身したスケルティアぐらいのものだ。


 今回の問題は、もともとは人魚族と海賊たちの問題だった。すこしぐらい手伝わせたって構わないだろう。


 もっとも危険な〝海の悪魔〟との直接戦闘は、俺たちが行う。


 さあ。準備はできたぞ。

 あとは出陣するだけだ。

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