表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/161

海の悪魔 「海の……、悪魔……、こわいです」

「海の悪魔……、だと?」


 甲板に作った浅いプールで、人魚の美少女と戯れながら、俺はそう聞いた。

 いまは一回戦終わった後で、ピロートーク中だった。


 ちなみに海賊女も一緒に水に浸かっている。この二人はセットになってしまうことが多い。


 人魚は水から上がっても生きてはいけるが、下半身のウロコ部分は、やはり乾くと具合が悪いらしい。

 彼女とのプレイの間は、俺が水の中に入ることにしていた。向こうの世界にあったビニールプールみたいな感じのものを、巨大な魚の浮き袋でもってこしらえた。

 深海から一本釣りした巨大魚は、浮き袋を取るためだけに釣ってしまって、ちょいと悪い気がしたが。まあ弱肉強食、キャッチ&イートが、この世の法則だと思って成仏してもらおう。


 プールに水を溜め、人魚の王女で美少女とイチャイチャしていると、海賊船が急接近して、接舷してきて――海賊女まで乱入してくるのが常であった。


 一匹の美しい人魚と、一人の美しい全裸の女性と、水の中で戯れる。

 人間とは違うウロコのつるつる具合と、十代の娘とは違う二十代の熟れたカラダと、俺両方の感触を楽しみつつ、青空を眺めながらくつろぎきっていた。


「おまえ。本業ほっぽらかして、いいのかよ?」

「残りの二隻は仕事しているわよ。――あたいは、愛するダーリンと離れるなんて、絶対ムリ」


 くちびるの雨が降ってくる。情熱的なキスに、俺も応じる。


 右手に海賊。左手に人魚。

 両側に美女&美少女をはべらせて、俺はその問題について質問を重ねる。


「……で、悪魔がどうした?」

「は……い、海の……、悪魔……、こわい、です」


 人魚の少女は、たどたどしく言葉を紡ぐ。

 俺と話すために、人間の使う大陸標準語を覚えたのだ。人魚の国は古代の高度な魔法文明を残しているから、翻訳魔法くらい、存在するはずだが。

 魔法に頼るよりも、自分の努力で俺と話そうとするその健気な姿勢に感動して、俺はついつい、いっぱい愛してしまう。そうするとますます彼女は言葉を覚えてゆく。


 ちなみに、人魚には「人化の法」という能力があり、尾ひれを足に変えて人間になることができるそうだが――。それは一生に一度だけの能力であり、しかも人間になった後で海に入ると、泡となって消えてしまうという……。アンデルセンのハードコア設定となっているので、俺のために使うなと厳命してある。

 そうしておかないと、この子、それを使いかねないんだよなー。


「ああ……、あいつかい。〝あいつ〟には、うちも何度も煮え湯を飲まされているよ……」

「おまえもなにか被害を受けているのか?」

「あたしの代になってから、もう三隻も船を沈められているよ」

「三隻も? もう二隻しか残っていないんだろ? それ被害じゃなくて、全滅に近いって言わね?」

「二、二隻だけじゃないしっ! ――北と南にも艦隊を出してるから、まだ七隻あるしっ!」


 それにしたって、一〇隻あったうちの三隻が沈んでいるなら、三〇パーセントの損耗率だ。

 商売(海賊業)が続けられるかどうかという、甚大な被害ではないだろうか?


「仲間……、何匹も……、食べられて……」


 人魚のほうにも被害が出ているらしい。しかも〝食べられる〟とか――。

 まあ海の中の連中は、肉食がほとんどで、みんな、食った食われたりの関係らしいしな。草食獣の個体数のほうが多い地上とは、感覚が違うのだろうが……。

 生態系のたぶん上のほうにいる人魚だって、卵生なわけで、えらい数の卵を産んでいる。そのうちで成魚(大人の人魚)になるまで育つ確率は、数千分の一だとか、数万分の一だとか、そうした世界なわけだ。


 うーむ……。

 海のオサカナの世界って、そう考えると、すげえ厳しい場所なんだな。


 まあそれはともかく――。

 〝悪魔〟やら〝あいつ〟やらの正体が、なんなのかはわからないが……。


 俺の女たちのために、一肌脱いでやるとするか。


    ◇


「海棲の巨大モンスターですか?」

「うむ」

「大型魔獣ですと、クラーケン、テンタクルズ、リヴァイアサン、シーサーペント、海龍と海竜、島亀(アイランド・タートル)、モビーディック……などがありますが。ほかにもシースライムの群体が島サイズになることもありますね」


 俺の問いに、大賢者モーリンはそう答えてきた。

 夕食の準備にくるくると立ち働いているモーリンに、俺は「海の悪魔」のことで質問していた。


「このあたりの海域でありそうなのは?」

「モビーディックと海龍、海竜系は、生息域が違いますね。リヴァイアサンも海の深度で除外されます。シースライムも沿岸ですから、これも除外されるかと」

「ふむ」


 だいぶ絞れてきたな。

 さすが大賢者。ググるよりも楽ちんだ。


「そのなかで、触手――長い足を持っているものは?」


 船のほうも、そして人魚のほうも、長く伸びてくる足のようなものにやられたという情報がある。


「クラーケンはイカ型で、テンタクルズはタコ型ですので、足は一〇本と八本ほどあります――」


 モーリンはそう言いながら、厨房へと戻っていった。食事の支度の最中だった。


 それと入れ替わりにこちらに出てきたコモーリンが、何事もなく、話の続きをする。


「――またシーサーペントの一部にも、捕食のためのヒゲを持つものがありますので、本体のサイズにもよりますが、それが触手や足と見間違える可能性はあるでしょうか」


 傍目から見れば、おかしな光景なのだろうが――。俺も最近は慣れた。

 慣れたあまり、モーリンとコモーリンを一緒に抱いてしまいそうでヤバい。

 まだコモーリンのほうは椅子の上で見学だ。イエス・ロリータ・ソフトタッチの精神だ。膝の上に座りに来た時に、ソフトタッチぐらいはしている。


「……って、なぜ座りに来る?」


 ちゃっかりと、俺の膝の上に座りにきたコモーリンに俺は聞いた。


「マスターのご質問に答えるためですが」

「手伝いはいいのか?」


 手伝いというか、一つの心が、二つの体を同時操作して、二人分の効率で働いているだけなのであるが――。


「あちらは、いま手間のかかる仕込みをしていますので、しばらくは専念できますかと」


 だから、小っこくて柔っこいローティーンのお尻を押しつけてくるなっつーの。


「――誘惑のほうも、ご質問に答えるほうも」


 誘惑してんのかよ。やっぱりなー。


「いつマスターが手を出してくださるか。お待ちしているのですが」

「あと二年まて……、せめて一年……」

「もうすこし、まけてしまいませんか? 六ヶ月にして、三ヶ月にして、一ヶ月にして……、そうすれば、もういまと変わりはないかと」


 俺はコモーリンのおでこに、ちゅっとキスをした。


「いまはこれでカンベンしてくれ」


 キスは唇に欲しかったみたいで、コモーリンは、すこし不満そうな顔をした。


「現在のところ、候補はクラーケンとテンタクルズ、およびシーサーペントですけれど。他になにか情報は?」

「そいつが現れるとき、霧に包まれた不思議な海域が出現するらしい。風が凪ぎ、潮の流れも止まり、磁石も狂う。魔法による方角感知も妨害されてしまうらしい。そして恐ろしい鳴き声が響くそうだ」

「でしたら、テンタクルズのほうですね」

「テンタクルズというのは、どんなやつだ?」

「――ちょうど、あんな感じです」


 コモーリンが指差した先には、厨房から出てきたモーリンがいた。

 モーリンはその手に「タコ」を持っていた。


「ああ。タコか」

「はい。巨大タコです。大きなものでは数十メートル。外洋船でも捕食対象になってしまいますね」

「人魚なんかは、それこそ、スナック感覚か」


 頭からぼりぼりと丸かじりか。口にすっぽりと入るちょうどいいサイズなんだろうなー。


「……ん? タコって、鳴いたっけ?」

「水上に顔を出して、空気が推進器官の漏斗を通るときに、音が響きます。鳴いているわけではないのでしょうけど」

「ああ。なるほど」


 よし。

 〝海の悪魔〟の正体は、十中八九〝テンタクルズ〟ということでいいだろう。


 正体もわかったし。

 次は退治の準備にかかるとしようか。

つづきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ