賢者の弟子 カナデ 2
こんにちは、カナデです。
今日は初めてシナノの街に来ています。
リリィは"飛行術"の魔術の練習のついでだといって連れられてきましたが、間違いなく今度領主様に挨拶に行くための準備なのでしょう。
すでにドレスだったりアクセサリーを大量に買い込み、なぜかリリィの方が満足そうにしています。私としては今着ているフレアワンピースとリリィの買ってくれたローブでも良いのではないかと思うのですが。
いえ、私も決して嫌いではないのです。前世でも服装とかには気を使う方だったので、こうやってドレスとかで着飾ったりお洒落には興味はあります。
ただ、着せ替え人形になるのは疲れた、というだけのことです。
ある程度買い込んだ当たりで、急用ができたとリリィが飛んでーー文字通り"飛行術"の術で空を飛んでーーいってしまったので、せっかくだからと街を探索しているところです。
お金もリリィから少し貰ってるので、ちょっと遊んで帰ろうかと思ってます。
シナノの街は、別名冒険者街というだけあって、武器や防具のお店がたくさんあります。
あっちこっちで冒険者達が買い物をしているのが目に入ります。
私は今は魔術師なので、そういった武器は必要ないのですが、前世の師匠の顔がちらつき、やっぱり剣、いや刀があれば見てみたい気もします。
そんなわけで、ある武器屋さんを覗いてみたのですが、あるのは両刃の大剣や、レイピアといった前世でいうと西洋風といいましょうか、そんな剣ばかりでした。
店主にも少し聞いてみましたが、刀は存在はするのですがこの世界では皇国剣といい、作れる人がオーランジュ皇国にしか居ないので、基本的に皇国にでしか売られていないのだとか。
少しがっかりしながらとぼとぼ歩いていると、1件のお店を見つけました。
「……メリエール魔術店?」
魔術店と言うからには魔術師向けの道具が売られているのでしょうか。
ここならがっかりした気持ちを持ち上げられるかもしれません。
そう思い、お店のドアを開け中を覗いてみることにしました。
「いらっしゃいませー」
中に入ると、店員であろうお姉さんが待ち構えていました。
スレンダーで長身の、美人系なお姉さんです。私もあのくらい身長が欲しいものです。
入るなりお姉さんは私のことを上から下まで舐めるように見てきます。私が何をしたというのでしょう。
「もしかして、賢者様のお弟子さんじゃないかしら?」
何故バレたのでしょうか。リリィから師弟関係はなるべく隠すようにと言われていたのに、何故かもうバレています。
何故隠すようにするのかと言うと、リリィはあれで有名人なので弟子志願の人は多いようなので、1人とると自分もなれるんじゃないかという人で大変なことになるからだそうです。更に言うと、そんな有名人の弟子というのはそれだけで疎まれるということで自衛のためでもありますね。
それはさておき、これはどう返すべきでしょうか。
というよりも私は何も話していないのにバレたというのは、私の外見に何か問題があったとしか思えません。
街へ出るのは初めてなので顔じゃないことだけは確かですが……。
どう対応するか考えていると、お姉さんが話しかけて来ました。
「あぁ、ごめんなさい。あんまり弟子とかは言わないほうが良いわよね。だけどそのローブ、うちで賢者様が買った物だったからつい、ね」
原因は完全に師匠でした。
「いえ、こちらも変に警戒してごめんなさい。師匠がここでこれを買ったんですか?」
「えぇ、後、杖とリボンも。貴女が今つけてるそのリボンね」
なんとまぁ、私への贈り物はこの店の商品ばかりでした。
「そういうことだったのですね。ローブもリボンも凄く気に入ってます」
リリィからのプレゼントだからというのが理由としては大きいですが。
「それは良かったわ。私はここの店員で、クレア・メリエール。店主はおばあちゃんなんだけど、おばあちゃんは魔道具だったりを作るだけでほとんど出てこないから、実質的にお店にいるのは私だけみたいなものなの。よろしくね」
そう言ってお店のお姉さん、クレアさんが手を差し出してきます。
私も手を出し、握手をして言いました。
「はじめまして。大きな声で言えないけれど、リーリィ・アイスコレッタの弟子、カナデと言います」
「しかし、賢者様がベタ褒めしてるからどんな子か気なってたんだけど、本当可愛い子だこと」
挨拶をした後に、店内を物色してるとクレアさんが急にそんなことを言いだしました。
びっくりした私は手に持ってた商品の魔法杖を落としそうになります。
「ちょっと……からかうのはやめてくださいよ……」
リリィは何かあるたびに可愛い可愛い言ってきますけれど、あれはなんと言うか、姪っ子を可愛がる叔母さんの目線というか、孫を可愛がる……おっとこれ以上はいけない。
とにかくリリィからは言われ慣れてるからもう流せるくらいになりましたが、他の人から言われるのは慣れません。慣れないどころか、よくよく考えればリリィと盗賊ぐらいしかこの世界の人って会ってないんですよね。
「いやいや、からかってなんかないのよ?何と言うか、妹にしたいくらい可愛いわ」
うわぁ
「うわぁ」
「声に出すほど引かなくてもいいじゃない……」
おっと声にでてしまってました。
取り敢えず引いておけばこの場はなんとかなりそうです。
なにかブツブツ言っているクレアさんは無視しておいて、リボンの替えを幾つか選びました。
「クレアさん、会計お願いしたいんですけど」
「……あぁ、はいはい。リボンが2つで、半銀貨1枚でいいよ」
「え?それってリボン1つの値段じゃ」
「友好の証ってことで、お姉さんから1つサービスしてあげちゃう」
ちなみにこの世界のお金は、銅貨が10枚で半銀貨1枚、半銀貨10枚で銀貨が1枚、銀貨が100枚で金貨1枚という風に上がっていく。
金貨レベルになると普通に生活してるだけじゃまず見ることはないらしい。
リリィが大量に所持していた気がするのは気のせいでしょう。
パンや飲み物の相場が銅貨2〜5枚ぐらいなので、リボンが半銀貨なのは多少割高に感じるが、何せここは魔術店。
これもただのリボンではなく、各属性の魔術の威力が上がる魔術がかかっている。
私が選んだのは青いリボンで、水属性の魔術の威力が上がるものだ。
「いやいや、悪いですよ」
「いーのいーの、カナデちゃんがうちの店を今後も贔屓にしてくれればいいし、師匠の賢者様はよく高額の買い物してくれるしね」
よくよく考えれば、今してるリボンもこれから買うものと同じシリーズだとしたら、私は火属性を使えないのにただのオシャレアイテムとして威力強化リボンをつけてることになる。
なんぞこの贅沢感。
最終的には私が折れ、今度何か物入りがあるときにメリエール魔術店を利用することに落ち着いた。
「バイバイカナデちゃん。またのご来店お待ちしております。賢者様のやブランさんにもよろしくね」
「それじゃあクレアさん、また今度伺います」
クレアさんはブランにも会ったことあるんだなぁ、などと考えながらメリエール魔術店を後にするのでした。
マリー「ちなみにですが、ここでクレア・メリエールの言っているブランさんと言うのは、人化の術で人間に化けたブランのこと。カナデちゃんはブランが人間に化けられることを知りません」