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第3部:至高のガラクタの道のりは

 ある所に、一人の天才科学者がいました。

 科学者は研究が好きで、好きで、大好きでした。

 科学者は特にロボット工学に詳しくて、アンドロイドの軍事研究が活発化していた当時でしたので、軍の人たちは科学者を応援しました。

 その集大成として、科学者は一体のアンドロイドを作り上げました。

 それは女性、少女の姿を模していて、可愛らしい姿をしておりました。

 見目麗しく、人と見紛うほどの精巧さをもっていました。


 ですが、それは外見上の話。

 実際は、科学者が独自に編み出した技術が詰まった結晶そのものでした。

 ナノマシン複合型浸食合金〝ムラサメ〟は、ナノマシンの高精度な操作によってどんな形にも変えることができて、おまけに欠損しても周囲の無機物を疑似的ながら同化させ、補わせることが可能。

 極限まで小型化した演算機器〝サミダレ〟は、〝ムラサメ〟の制御を実戦レベルの精度でこなすことができる他、その辺のスーパーコンピュータを引っ張り出してきても外部からはハッキングどころか逆に返り討ちに遭わせることができるほど。

 そして何より、自律型AI〝シグレ〟は、当時の関係者を恐れおののかせるモノでした。若干の価値観の違いこそあるものの、見せる挙動は人のそれと大差は無く、思考ルーチンの柔軟さから、行動の矛盾によるエラーや、そこから繋がるフリーズの回避、戦場で孤立した場合の独立した行動を可能とする等、当時の最先端の科学力では到底成し得なかった事象の結晶のようなモノでした。

 それこそ、量産に成功すれば、人に代わる兵士として運用を変えられるほどに。


 しかし。

 量産化の夢は、設備やコストとは別の面で中止せざるを得ませんでした。

 理由は簡単、〝技術そのものが消失したから〟。

 至高と謳われたアンドロイドを造った後、科学者は己の技術で以て自らの技術に関する記憶の一切合切を消去しました。

 意図は、だれも知りません。

 本人さえ、既に知るところではありません。

 だから、周りのヒトは、それが生み出す〝結果〟を気にしました。


 それはつまり、アンドロイドの製造に関する技術に直結するということ。

 なぜなら、誰もそのアンドロイドの構造を理解できなかったのです。

 〝ムラサメ〟は複雑怪奇なうえに科学者独自の技術を用いていたらしく複製どころかダウングレードしたレプリカ版すら鋳造不可、〝サミダレ〟は模倣しようにも同等のスペックを用いようとすれば土木用の大型アンドロイドはおろか家一軒分のサイズを必要としましたし、〝シグレ〟の思考ルーチンのアルゴリズム解析は他の天才と謳われたプログラマーを総動員しても全員が匙を投げました。


 政府は科学者を重罪と咎めることはしなかったものの、アンドロイドを取り上げ、軍に引き渡しました。

 そこでアンドロイドは、様々な改造を施されました。

 プログラムへの干渉は〝サミダレ〟の自衛機能で阻まれたため、内部に重力障壁(グラヴィティ・ウォール)の発生装置を組み込み、また、プログラムの書き換えこそできずとも外部からの情報から学習する機能があったために、多くの兵器の構造を学習させ、〝ムラサメ〟で再現させられるようにしました。


 それによって生まれたのは、最強の兵士でした。

 壊れない、万一壊れてもすぐ修復できる体、幾千万の種類の武装を再現できる火力、戦況から瞬時に判断を下す演算能力。

 〝それ〟が現れた戦場では、むしろ人間の方が援護する側に回ることになり、実質敗北は在り得ず、まさに一騎当千の力を誇る有様。


 そんな、万能な人形。

 人に似た思考を、外見を持ちながら、人を遥かに超えた能力を持つ人形。

 動力炉が停止しない限り、いつまでも動き続けるとされる人形。


 ですが、それも一時的な話。

 アンドロイドは、しばらくして軍から姿を消しました。

明確には、作戦行動中に姿をくらまし、再度捕捉されてから三日と経たずに軍籍を剥奪されました。


 これは、そんな人形のお話。

 悲しい、悲しい、死にたがり、壊れたがりの人形のお話です。


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