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第2部:帰路――未知への一歩、崩壊への十歩

重力障壁(グラヴィティ・ウォール)稼働率五〇パーセント――異常ナシ》

《敵弾回避成功――衝撃貫通率二〇パーセント》

《ダメージ許容範囲内――修復開始》

可変光熱線砲(レーザーキャノン)着弾――目標(ターゲット)、及ビ周辺空間ノ消滅ヲ確認》

《防衛及ビ迎撃システム良好――警戒シツツ通常モードヘ移行》


 思考の中を、情報が駆ける。

 それらは等しく無機質で、母体たるわたしの意に反して機械的に流れる0と1の羅列、電子の海に浮かんだいくつかの泡に過ぎない。

 冷却装置(ラジエーター)もまともに構成していないままに放った一撃のせいで排熱もまともに捗らず、もともとヒトの持つ五感が備わっていないせいでよく分からないけれど、ぐずぐず(・・・・)に焼け爛れたわたしの全身から熱による陽炎が生まれている。

 それでもフレームを構成するナノ・マシンの活動に支障はなく、胴を、手足を、顔を時間の経過と共にもとあった造形へと戻していく。


 その間、約五分。


『――〝猟師〟! 〝猟師〟、応答しろ……おい、ビスク! どうしたってんだよ!?』


 通信。男の怒鳴り声。


『クソッ……おい、MUB-〇〇一!』

『なんでしょう?』


 型番を呼ばれ、私は応じる。


『殺したのか? オイ、俺の戦友を、ぶっ殺しやがったのか?』

『回答としては〝Yes〟、正当な防衛手段として行使したまでです』

『なんっ――』


 だと、と怒鳴ろうとしたところでわたしは通信を遮断、再度右腕部に砲塔を構成する。

 通信から、拠点と思しき場所の座標は既に割り出しており、そちらに生み出した砲の口を向ける。

 今度は完全に再現されたモノであり、ラジエーターまで完備されている。

 時間も、それほどかからなかった。


 放たれたのは一筋の光、そして熱。

 余波としての高熱が辺りの黄金色の稲穂を焼き、地面を衝撃波が抉る。

 直後、山の一角で爆音が轟いたが、既に事前に身に着けていた麻の質感を持つエプロンまでも再構成を終えたわたしは、目もくれずに再び歩き出した。


「……また、死ねなかった」


 再生した発声機構から呟いたのは、そんな一言。

 殺してしまった、ではない。

 私に向けて狙撃を試みたスナイパーは、通信で罵声を上げていた拠点の連中はおそらく死んだのだろうけれど、そんなことは些末な問題(・・・・・)に過ぎない。

 死ねなかった。壊れられなかった。

わたしにとっての問題は、たったそれだけだった。

 死にたい。壊れたい。

 わたしの抱く願望は、機械人形が人に酷似した思考機能が編み出したその言葉は、わたし自身の破滅を示す。

 どうして、死ねられないのか。

 どうして、誰も殺せないのか。

 幾度となく隣国との戦争に投入されては殺し、死なせてきたのに、自分の番だけはいつまで経ってもやってこなかったのだ。


「……いつになったら、死ねるのやら」


 実際は、死ぬ、という単語ではないのだろう。

 自身の完全破壊、機能の永久停止。

 それを願うわたしは、きっと異常なのだろう。

 狂っているのだろう、暴走しているのだろう。

 そんなわたしが向かう先は、たった一つだけ。


「ふんふーん、ふん、ふん」


 記憶用のメモリーに残っていた鼻歌を、誰にともなく口ずさみながら、わたしは草だらけの田舎道を歩いた。

 目的地は、そう遠くない場所にあった。

 一時間ほど枯葉の舞う広葉樹の森を歩くと、現在ではほとんど存在しない煉瓦造りのこじんまりとした建物が見えてくる。

 その建物の、木製の扉の前に立つと、迷惑にならない程度の強さで叩く。

 コッ、コッ――ガチャリ。

 ノックからそう間もないうちに扉が開き、中から顔を覗かせたのは、男の人の顔だった。

 皺の目立つ温和そうな相貌、白く長い髪。

 それを見て、すぐ理解した。

 うん、間違いない。

 記憶内の画像に成長シミュレーションを施した画像データと、ほとんど一緒だ。


「――博士」


 わたしの方から話しかけると、博士と呼ばれた男の人は目を丸くする。


「その声、君は……」

「そうです」


 わたしは頷き、


「貴方が造った人形が、貴方に壊してもらいに来ました」

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