この世界の薬は【ポーション】
主人公の過去をちょっと挟みます。
『♪~』
歌が聞こえる。
なんだか懐かしい感じだ。
台所で料理をしているお母さんがいる。
俺はそれを見ながらゲームをしていた。
お父さんはいつも帰りが遅くて、お母さんと二人で過ごすことが多かった。
それでも別に何とも思わなかったし、どの家も多分似たようなものだったと思う。
でもある時からお母さんのそんな声は聞かなくなった。
お母さんの帰りも遅くなったからだ。
俺は家で一人になった。
ご飯は母さんが作って行ったものを食べる。
あとはやっぱりゲームした。
友達を連れ込んでも親がいないから結構好きにやっていた。
でも友達はずっとはいない。いつかは帰ってしまう。
するとやっぱり一人になった。
ゲームも同じものしかやらないから次第に飽きる。
ちょっと勉強もしてみた。
テストで百点取ったとき、急いで家に帰った。
でも。見せる相手はいなかった。
寂しかった。
ある時、両親が早くに帰って来て「ドライブに行こう」と言われた。
ご飯はどこかで食べればいい、久しぶりに三人で過ごそう。
そう言われた時は天にも昇る気持ちだった。
でも―――
「あ」
目が覚めてしまった。
よく分からないが、目には涙が浮かんでいた。
ここはベッドみたいだ。
家に中には部屋はないが、リビングにベッドが二つあって、メリルはその片方に横になっていた。
「あ。やっと起きたわね」
「ネア?」
そこにいたのは女神のように美しい顔をした、金色の天使だった。
「魔力切れよ」
「?」
「あなたが倒れた理由。全身から魔力がなくなるとそういう風になっちゃうの。はい。これ飲みなさい」
ネアは少し厳しい表情でそう言うと、小さな小瓶を渡してきた。
メリルはゆっくりと起き上がってそれを受け取る。
ちょっとふらふらした。
小瓶の中身は青かった。
(なんだろう?)
メリルはそれが何なのか分からずに口を付ける。
「にがっ!」
「我慢して飲みなさい。ふらふらした感じも治るから」
そう言われてもこんな苦いもの飲みたくない。
と、思ったら無理やり口に突っ込まれた。
「んん~っ」
「ほら。暴れないの」
ネアに無理やり苦い飲み物を飲まされ、メリルは違う種類の涙を流した。
「ぷはっ」
「はい、お疲れ様」
そう言ってメリルの口から小瓶を外したネアは指先で涙を拭ってきた。
突然のことでちょっと驚いたが、不思議と抵抗はしなかった。
ネアは軽く一息つくと立ち上がって、テーブルの上にあるものを片付け始めた。
「ネア。それなに?」
「【調合】に使う道具よ。擂り器に蒸し器。ビーカーとランプね」
ネアは一つずつ差しながら説明してくれる。
他にもいろんな草が置いてあるけどそっちは何だろう?
「これは【薬草】の類ね。もう頭の方も回復してるならこっちの勉強もしようかしら?」
「え」
「まず、今あなたに飲ませたのは【マジックポーション】よ。文字通り【魔力】を回復する【ポーション】。で」
「ちょ、ちょっと待て!」
なんかいきなり授業になりそうだったので一先ず止めた。
ネアってなんとなく、こう、いきなりくるイメージが強いのだ。
「なに? やっぱり魔法の勉強と違ってこういうのは嫌だったりする?」
「勉強は嫌いじゃない」
「あら意外ね。もっとあちこちふざけ回ってるような子だと思ってたけど。勝手に狩りの道具持ち出すし」
「……だって、ご飯野菜しかなかったし」
「悪かったわね……。明日からは天界で何か買ってくるわよ」
買えるんだ…。
ていうか、ネアって結構ケチんぼ?
「私は節約家なのよ」
なんかネアの表情が怖かった。
これ以上は何も言わないことにする。
うん。
「で、勉強が嫌じゃないなら何なの?」
「えっと。魔法は?」
「落ち着いてから教えてあげるわよ。言ったでしょ? まだまだ教えなきゃいけないことがいっぱいあるって。【調合】もその一つよ」
「なんで?」
「この世界の薬って、全部【ポーション】なのよ。風邪に効くものもあるし、毒や麻痺なんかに効くのもあるの。他の病気に関しても薬はみんな【ポーション】になるわね。あ、薬草をそのまま塗ったりするのは別よ? それは素材のままだからね。場合によってはそれ自体だと毒だったりするのだけど」
「……それ覚えなきゃダメなのか?」
「ええ。私が教えるのだからみんなちゃんとできるようになってもらうつもりよ。あと」
「なんだよ?」
ビシッ
「あぐぅっ」
「言葉使いも教えるから覚悟なさい」
女、めんどい……。
次回、少しだけ時間が進みます