貿易都市のひと時1
かつて、その地は無法地帯だった。
取り仕切る豪族や王族はなく、数々の村が点々と存在していただけの土地。
村同士は余り離れてなく、時には縄張り争いになることも合った。
そんな中少しずつ交流が進み、村同士での物々交換が行われることとなった。
それをきっかけに合併する者達、逆に自分たちの領域を誇示する者達などによって村はそれぞれの大きな勢力として分散していくこととなった。
後に大国の政略に巻き込まれ、派遣された貴族によってまとめられることとなるのだが、今でもその時代の名残が存在している。
「それが六区画分別。ロムスって都市は一つの括りになってるけど実際は六つの都市がくっついた形になってるってことだね」
「「「「ふーん」」」」
「ふーんて・・・」
人が折角資料を貰って調べてきたことをこいつらはっ!
ちなみに気のない返事をしたのはカーダ、リック、雅、ミナの四人だ。
ミルトだけは真剣に聞いていて、年少組の二人はそもそも話に参加していない。
今はメリルから下りたハクを二人で追い回しているところだ。
「つかまえるのじゃーっ」
「待つでござるぅ」
ギュー
ハクは二人に触られるのが嫌で羽をパタパタさせ(飛べない)ながら逃げ回っている。
「はしゃぐのはいいけどシーツは破かないでよ」
「了解なのじゃーっ」
「・・・・・・心配だよ」
今、私たちはロムスの街の南西に位置する宿に泊まっている。
今回はクリックの時と異なり、現状把握の意味合いもあって同じ宿に泊まっている。
使い魔も増えたことで普通の宿だと『お断り』をされることもあり、今泊まっている宿は使い魔OK、しかも風呂付という高級ホテルだ。
その分お金はちょっとかかるが、雅という財布がいるため問題はない。
この人、貯金を教えてもらったら人生一回やり直し効くくらいの金額稼いでるんだもん。本気でビックリ。
おかげでお金についての問題は一切ないのだが・・・・。
『安心していいぞ。わっちはいざ寝に行くとなれば一人で森に突っ込むからなっ』
逆に心配だよ。・・・人斬りになってないかと言う意味で。
まあそんな訳で、部屋割りとしてはリックとカーダが野郎で一緒に二人部屋。
私の部屋は本人たちの希望で大きなベッドが一つの部屋にミーアと凛を一緒にすることとなった。
まぁ、ぶっちゃけると保護者役?
本来なら雅の役割なんだろうけど、この人眠れないから。
で、最後は―――
「なぁ、本当に俺、ミナと一緒じゃなきゃダメか?」
「ニャ? ミルト君嫌?」
「い、いや・・・嫌ではないけどさっ」
うんうん、健全な反応だ。
まぁ、この二人は? 幼馴染みだし? 獣人っていう繋がりもあるし?
うん。一緒の方がなにかと便利だよね。
男女の問題なんて軽い軽い。
という訳で生贄になれ。
※メリルはミナの馬鹿力が寝ている時に発動したことを考え、一緒の部屋で寝ることを避けているだけである。
そんなメリルの心境を知らないミルトは、女の子と同じ部屋で寝るということに顔を真っ赤にしてうぶな反応を見せている。
ただ、メリルから言わせれば「一緒に野宿してたくせに何をいまさら」である。
その時とは状況と心の持ちようが違うのだが、その辺は考えないようにしている。
「さて。じゃあ本題としてこれからのことだけど」
「とりあえずギルドだろ。ついでに武器ももうちょい良いやつに変えてぇな」
カーダがとりあえずの方針を口にする。
カーダの装備はボロボロになっちゃったもんねぇ。剣は盗賊から奪ったやつがあるけど、あくまで繋ぎだし、一式そろえ直す必要はあるだろう。
「まぁ、カーダはそれで良いとして。まずは獣人二人組の冒険者登録だよね。で、その引率一名」
「わっちじゃな」
「凛もそれに同行。ここまでは良いとして。問題は私とリック。私は出来るだけミーアと一緒に行動するつもりだけど、リックはどうする?」
「そうだねぇ。僕はとりあえず街を見てみるよ。面白そうなものあったら教えるね」
分かってたけどマイペースだなぁ。
まぁいいや。
「じゃあとりあえずはそんな流れでいこっか、じゃあかい「なあ」――なに?」
解散、と言おうとしたところでカーダにさえぎられた。
何か問題あった?
「お前は何するんだ?」
「私?」
「俺らの方針は決めたけどよぉ。お前だけどうするか言ってねえじゃん。一人だけ教えないってのはないだろ」
まぁそうなるよね。カーダにとっては私だけこの先の王道が分からない訳だから気になるのだろう。
森でのこともあるし、心配になるのは分かる。
しかし。
「言ってもいいけど付いてくるのは無しだよ」
「は? なんでだよ「買い物」―――は?」
「服買いに行こうと思って。ミーアのために作った服って何着かあるけど。これらって元々私が使ってたやつ改造してるんだよね。だからちょっと数が減っちゃってて。ついでに下着とかも買おうと思ってるの。だから男はノーセンキューですっ」
私は目の前でバッテンを組んできっぱり拒絶する。
こう言うと流石にカーダも何も言えない。
カーダは「ぐぅ」と悔しそうにうめいた。
そんなに行きたいかねぇ。
「まぁギルドには一回は行くつもりだよ。ポーションの納品とかこれだけ大きいとありそうだし」
実際ロムスの冒険者ギルドは区画ごとにあるので、普通のギルドよりも数が多い。
その分仕事はそれぞれの地域への護衛任務が多いみたいだけど、近隣には魔物も出るし、色々仕事はあると思う。
となれば傷を瞬時に直せるポーションは需要も高いはずだ。
という訳で売り込みに行く予定です。
そして翌日。
「お嬢様、これはどうでしょう?」
「うわぁ可愛い。ミーア次はこれ着よっか」
「みょわっ、も、もういいのじゃ~」
「そんなこと言わず―――ほら似合ってるよ」
「むー」
買い物に関してはこんな感じで楽しめた。
ミーアは途中で飽きてむくれてたが、それでも服の要求は結構してきたところを見るとおしゃれ自体は嫌いではないのだと思う。
ただし、ひたすら着替えるのは退屈なのだろう。やっぱりそこら辺は子供である。
ちなみにお嬢様と言うのはミーアではなくメリルのことだ。
二人とも容姿は群を抜いて整っているのだが、支払いをしているのはメリルであり、またメリルの格好は私服のため従者には見えず、結果としていいところのお嬢様が少し年の離れた妹(この場合はそれに近い人物も含める)を連れ出し、散財に来たと周囲は思っているのだ。
実際ミーアはお姫様なのだが、雰囲気的にただの子どもなので本来は何でもないメリルの方が高貴な眼で見られている。
特に肩に乗っているハクはドラゴンの幼体というとんでもない存在なので周囲からは高貴――というか畏怖の目で見られている。
気になるけど、下手に声をかけるのは危険。と思われているのだ。
ちなみにウールはというと。
「うわぁ、ワンちゃんだ~」
クゥーン
「わっ、舐めたっ」
適当にほっつき歩いててもちやほやされてる。
一応魔物なんだけどなぁ。
というか誰でもいいのかあんたは。
もはや臆病と言うより要領がいいと言った方が正しいんじゃないだろうか。
私ははぁ、とため息をつきながら女の子に撫でられてるウールの元へ歩いていく。
「ほらいくよ」
「いくのじゃ~」
クゥー
「あっ」
私達が呼ぶと、ウールは振り返って付いて来た。良かった。一応ご主人様の判別は付いてるんだね。
ウールが離れると、女の子は寂しそうな顔になった。
女の子は10歳くらい。メリルより少し下くらいだ。
私にもあんな時期があったかなぁ?
多分あんな素直な顔はしていなかったと思う。
大分ひねくれてたしね。
私は女の子に近づくと、調度肩くらいにある頭を撫でてあげる。
「また遊んであげてね」
「・・・ぁ。うんっ」
女の子は元気にうなづいた。私もそれにニッコリ笑う。
あ~素直。まっすぐで羨ましい限りです。
女の子とはそこで別れ、しばらくはこの街にいるから会ったら遊ぼうという約束をした。
そして、その様子を見ていた街の人々は。
「天使だ」「美しい」「貴族なのに腐ってない」「あの方はどこの家のお嬢様だ!? 調べろっ!」「俺も頭撫でられてぇ」「きおらかな乙女だ」「あの笑顔に心が洗われる」「可愛いなぁ」
絶賛されていた。
しかも仕草や容姿で完全に貴族認定されていて、がめつい者は部下に調べさせている者までいる。
中には―――
「やあ、こんにちわ」
「はい?」
さっそく話しかけた者までいた。
手には棘の取れたバラを持ち、佇まいを伸ばしてニコニコしている。
その顔は整っているといえるもので、一目に貴族であることが分かる。その後方では、ぜぇぜぇ、と息を切らせながら膝に手を当てているバラの花束を持った剣士らしき人物がいるが気にしない方が良いだろうか?
というよりもあの短い時間でそこまでする行動力と騎士の体力に感服する。
そして貴族の男性は紳士らしい仕草でバラの花をメリルへと差し出した。
「綺麗なお嬢さん。どうかこれを受け取ってはくれないか?」
完全にナンパ男である。
メリルは瞬時に笑顔の仮面を張り付け営業スマイルを作る。
でないと渋い顔をしそうだったのでそこは何とか頑張った。
(耐えろ私。そして上手くこの場を切り抜けよう)
「申し訳ありません。それを受け取る訳にはいかないのです」
「な、何故ですかっ。その美しいお顔にはこの綺麗な花こそ似合う。いや、花よりも一掃可憐に光る! さあ、どうか、その美しい光景をわたくし目に見せてはくださりませんかっ」
(あ、うざい)
どっかの劇団にでも入ってるのかと言うくらい、この貴族の動きはわざとらしい。というか逆に洗練されていて傍から見ている分には面白い。でもいざそれを目の前で受けると笑う通り越してウザったい。
速くどうにかせねば。
こういう奴って下手にこっちの身分が低いことを露呈すると余計に調子乗ってこっちにガンガン吹っ掛けてくるって教わったんだよねぇ。
名付けて【ネア先生の男撃退口座】
顔が良いと分かってから、ネアに私がナンパに会うことを危惧されて半ば無理矢理叩き込まれた知識である。
確かこういう場面ではまず。
~対貴族用爆弾~ 一発目。
「名前を名乗ってもいない失礼気回りない方から物を受け取りたくありません」
この時、少し怒った表情をしてついでに困ってますという態度を取るために実を少し引くのがポイント。
これで男は焦ってどうにか取り持とうと考えます。
「あ、いや、これは飛んだ失礼を。私はガリーフォンス・エレイズ・ガルム。エレイズ家の三男です。どうか失礼をお許しください。美しいお嬢さん。それとどうか未熟なわたくしめにその可憐なあなたのお名前を教えては下さいませんか」
どうにか立て直そうとする貴族、いやガリーフォンス? やっぱり貴族だけあって呼びにくい名前だ。
ではここで。
~対貴族用爆弾~ 二発目。
「ふん。あなたのような直ぐに許しを請おうとする誠意のない方にお答えする名前は持ち合わせておりません。すぐにそこをどいてください」
「なっ・・・あ・・・」
ツン、とそっぽを向いて相手にしないという態度を取る。これによって相手の心境は悪くなる。
そして無理やりにでも、と言う思考が一時働くが「誠意のない」というフレーズによって原因は自らにあるという思いを持たせて崩れ落とさせるのだ。
そしてとどめの。
~対貴族用爆弾~ 三発目。
「ほら、そろそろ戻りますよ。皆が心配してしまいます」
「・・・・・・」
最後。もはや相手にしない。
そして「そろそろ」などといった時間的なフレーズを入れることで事外に「時間の無駄」だと言うのが効果的。
これで性格ひん曲がってない俺様貴族でなければ轟沈します。
今回はそこに「心配」という言葉を追加したことで自分の行った行為で相手に不利益を与えたということも追加で伝えたのだ。
おそらく彼はもう突っかかってくることはないだろう。
なお、ミーアがさっきから喋らなかったのは、自分の後ろに隠すふりをして口をふさいでたからである。
「ぷはぁっ、メリル! ひどいのじゃあっ!」
「いやーごめんごめん」
プンプンと怒るミーアをなだめながら、メリルは待ち合わせ場所のギルドへと歩いていく。
ある意味、メリルは貴族社会の方が適応できそうである。




