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私の平穏はどこにある!?   作者: 崎坂 ヤヒト
四章
41/45

解毒とアジト

更新が大変遅くなってしまって申し訳ありません。

大学のテストが近くて、中々書く暇が……

二月からは実習が始まるので一ヵ月ほど更新ができない期間があると思います。

毎度楽しみにしてくれている皆様には申し訳なく思っております。

すみません。m(__)m

それまでに後1、2話投稿できたらいいなぁ。と思っているので、よろしくお願いします。

「酷い……」


その参状に私は呟いた。

両腕は本来の向きとは明らかに違う方向に折れ曲がり、顔面は変形して足も捻れている。


「いったい誰がこんなことを……」


言いつつ私の視線は一人へと移る。

見られた本人は「ニャッ?」と慌てたように視線を反らす。

そこにいたのは棒切れ―――もとい、原型が無くなった盗賊である。

それでいて辛うじて息はしているのだから凄い生命力だ。

一応、《ヒール》だけ掛けておく。

完全な治療にはならないけど命の危険だけはなくなるだろう。

襲われたら困るしね。

そんな私の様子にカーダが苦笑していた。


「なんだかんだで甘いよな、お前」

「どういう意味?」

「いや、別に」


なんか腹立つ。

でも、まあいいや。


――――で。

本題はこっちだ。

檻の中には、一人の獣人の少年が倒れていた。

彼がミルト君だろう。

見たところボロボロだけどさっきの盗賊ほど酷い状態じゃなさそうだ。

目立った傷も………。

(おっ)

ひっくり返すと、太股に大きめの傷痕があった。

深いな。これは矢が刺さった跡だ。

自分でも使う武器なので傷の着き方は知っている。

肌はそこを中心に変色を起こしていた。


「毒……っぽいね」


変色の仕方からして間違いないだろう。

ちょっと状態も診てみようか。


「治る?」

「ん」


顔の方に手を伸ばそうとすると、隣でミナが心配そうにこちらを見ていた。

うーん。まあ大丈夫だとは思うけど。


「ちょっと面倒かな。今は黙って見てて」

「………うん」


あらま。彼の前だと実にしおらしい。さっきまでの元気どこ行ったのやら。

まあ、分からなくもないけどね。

心配なんだろう。助かるかどうかは私にかかっているのだから。


「―――《スキャン》」


私が無属性魔法を使うと、カーダがピクリと反応した。


「お前それ使えたのかよ」

「ミラさんに教わったんだよ。結構簡単だった」

「いつの間に………」


ずっと依頼や宿の運営してた訳じゃないからね。

学べるものは学んでおかないと。

と。

ここからは集中しないとね。

カーダも私の顔付きが変わったことで声をかけるのをやめた。

まずは《スキャン》した情報をまとめる。

とりあえず大きな外傷は太股のだけだね。他は打撲や擦り傷ばかりだ。

でも《ヒール》は掛けられそうにないね。

理由は彼を侵している毒。

どうやら盛られてから大分経過しているらしく、吸い出してどうにか出来る段階は過ぎてしまっている。

熱も出てる。汗の量も結構多いね。

取り合えず傷口を覆ってる布を取っ払い、ズボンをずり下ろす。


「お、おい!」

「ニャーっ」


二人はそれに反応したけど、言わせてもらおう。

治療行為です!

断じてそういう趣味はない。

ズボンを脱がして下半身がパンツのみになったことで傷口が良く見えるようになった。

まずは足の付け根を取った布できつく絞める。

これで止血できたね。

後は毒をどうにかしないといけない。


アイテムボックスから毛布を取り出し、カーダにその上に寝かせるように頼んだ。

そこに消毒のために《ウォッシュ》の魔法をかける。

これで一先ず清潔かな。

【光】の魔法なら《クリーン》ていう完全浄化があるんだけど、【水】には洗い流ししかないのだ。ここは我慢してもらおう。さて。


「おい。なんか本格的なんだけど。魔法でぱぱっと出来ないのか? 【ポーション】でもいいけどそういうのあるだろ」

「これだからゲーム脳は…」

「は?」


簡単に言ってくれるカーダに、私は心底呆れる。

この世界を何だと思っているのか。

この世界はファンタジーの世界であり、ゲームっぽい要素も確かにある。

しかし、事治療に関してはまるっきり話が違うのだ。

特に状態異状について。

【解麻痺ポーション】で確かに麻痺という状態異状は治る。

【ポーション】を飲めば傷は癒え、火傷や頭痛に利くポーションも存在する。

なら【解毒ポーション】ももちろんあるだろうと皆思うだろう。

それどころか状態異状全般に利くポーションも存在し、飲めば体力や傷、状態異状を全て治してしまえる。そんな夢のようなもの。【万能薬エリクサー】まであると思ったあなたに言いたい。


ありませんっ!!


そりゃ、ゲームとかならあるさ。

魔王倒しに行く最後の街で何故か普通にそんなとんでも薬が売ってたりするよねぇ。 でも現実的に考えてみてほしい。そんなものがあったら人…っていうか生物死ななくない?

生命力そのものを売ってるようなものだよ。

ユニコーンの角から作るっていう話もあったねぇ。

でもユニコーンの角から実際に薬を作った人って何人いる?

例え作れたとしてもその効果は?

言ってあげましょう。実際にユニコーンの角を使ったポーションはあります。

【ホーンポーション】と言って、がんに効きます。

もう一度言います。癌です。

あの細胞が死滅する病気。あれ治すの。

ある意味【エリクサー】だね。小瓶一本で治っちゃうし。

死んだ細胞が蘇るのだから、夢のような薬だよ。

でも新しく細胞作ってくれる訳じゃないから、【エクスポーション】みたく腕が生えたりしないし、傷を治してくれる訳でもない。ましてや心肺機能が完全に停止してしまえば意味がない。

そういうものなのだ。

他の例も似たようなもので、完璧な薬は存在しない。


で、戻ってくるのが【解毒ポーション】だ。

これは存在する。そりゃもう腐るほどあるさ。

………種類がね。

毒の数だけ【解毒】の方法は存在する。

私が使っている【毒ポーション】だってその数ある中の一つに過ぎないのだ。

故に。


今、手持ちにある材料でミルト君に掛かっている毒の対抗薬を作れるかどうか。それに掛かっているのだ。


「だから邪魔しないでね」

「あ、ああ。でも一ついいか?」

「何?」

「何で麻痺とかは一種類で済んでるんだ?」


それはあなた。簡単ですよ。


「麻痺や火傷はあくまで症状。毒は原因そのものでしょっ」

「………なるほど」


ちなみに解毒の魔法は存在するけど【水】にはない。

それは【光】の領分だ。

何でかと言われると、それは魔法の性質によるところが大きい。

どちらも治療が出来る属性ではあるのだが【光】癒しの光を浴びせることによって治療するのに対し、【水】は肉体の水分に作用して治療する。普段ピカッと治すから分かりにくいんだけどね。

で、そんな治癒の方法だから【光】なら毒物を焼き消して終了だけど、【水】だと内側に既に入り込まれている毒物を取り除くのに一カ所に集めて傷口から掻き出すくらいの事しか出来ない。実際治療の難度で言えば【光】より【水】の方が圧倒的に難しいのだ。

イメージがしにくい上に、失敗すると体がぐちゃぐちゃになってしまう危険だってあるしね。


という訳で私は魔法を使うという選択肢を端から放棄している。

他の状態異状なら使ったんだけどね。


まず【鑑定】で毒の種類を調べる。

【鑑定】は生物には使えないが、入り込んでしまった毒のみを調べる場合は別だ。

材料は………ふむ。

メインは『ベーリス』という毒草だ。

これは水分の多い土地で取れる草なのだが、見た目が赤く、葉っぱがくるりと纏まって生えることから蕾や木の実と間違えやすい。強力な毒素を持つ草なのだ。

見つけやすいから、毒薬としても転用がしやすかったのだろう。


とはいえ、魔力が込められてない、つまりまだ【ポーション】になっていない物だ。

ただすり潰して水に混ぜただけの物。これでも一応毒薬・・になるのだろうか?

前の世界ではこれも薬という扱いで良かったけど、昔ネアがこの世界の薬は全て【ポーション】と言ってたことから考えて、基準とかどうなっているのか気になるところではある。

けど。


「今から【調合】するから絶対邪魔しないで。後、傷口【ポーション】とか絶対に掛けないでよ。そこから【解毒ポーション】流し込むから」


今はこっちに集中だね。

二人は縮こまって頷いた。

カーダ。覇気が無くなってるよ。


今回、私は【鑑定スキル】の中で《精密鑑定》というものを使った。これは【鑑定】のレベルが5を越えた時点で可能になり、調べた物の構成している原料とその比率を視ることができるというもの。

色々調べている内に可能になった技能だ。

私はそれに合わせて調合する。

幸い『ベーリス』なら対抗になる草は手元にあるし珍しいものでもないから作る分には惜しむ必要はない。

問題は『ベーリス』があくまでもメイン《・・・》ということだ。

いやしいことに、この毒は他にも様々な毒素を持つ草を混ぜ合わせて作られていた。

しかも考え無しに作ってるせいか、効果とか目茶苦茶。

解毒剤作る事とか考えてるのかな?


私は計りでそれらの分量を調節して【ポーション】を作っていく。

一つずつどの程度含まれているのかを正確に合わせていかないと後で後遺症とか残ったりするし、慎重に調合していく。

こんな緊張する調合は久しぶりだ。


「ハクは離れててね」

キュワ~


まずは火加減……種類は先こっちで―――ここで《液化》して。今度はこれらを《合成》。えっと…ここの手順は。優先順位。合成させないと危ないのは………


額に汗が浮かび、緊張で息もしにくい。

髪にも汗が染み込んで邪魔くさいな。一回ゴムで縛って……よしっ。


暗記してない素材は教本を取り出してページを開く。

(ああ。そうか。じゃあ先にこっちを《合成》して…)




※カーダ視点

俺はその光景に固唾を飲んだ。

正直メリルが何をやっているのかはまるで分からない。だが、難しいことをやっているのだということは何となくわかった。

色んな草と本まで取り出して、ちょくちょく魔法っぽいもの唱えているみたいだし。

何と言うか、【ポーション】を作るのって思っていたのと違っていた。

こんな手間暇かかるものだったとは想像もしていなかったのだ。

特に【解毒ポーション】なんてファンタジー世界ではありきたりだと思っていたが、こんなに難易度が高いなんて予想外だ。

メリルが髪を結んだ時には一瞬、ポニーだっ、とか考えたりしたけど、正直ものすげぇ馬鹿らしい。

隣のミナって子は両手で口を押さえて耐えている。

きっと心配で声を出しそうになるのを我慢しているのだろう。

俺もちょっとでも邪魔してはまずいと思って一歩も動けなくなった。

メリルが物凄い集中していたからだ。

アイツは【ポーション】を作るとき、いつもこんなに集中しているのだろうか?

その汗をかきながらも集中して一つの事に当たる姿は、なんとなく“らしさ”が見えた気がした。

じっ、と引き付けられるものがあった。

それからも俺は食い入るようにメリルのその姿を見続け―――


「出来たっ」


気づけば薬は完成していた。

俺はそれに、ハッと我に返る。

(やべぇ、完全に見とれてたわ)


「お、おおっ、出来たか。じゃあ早く飲ましてやれ!」

「え…うん。いいけど、なんかテンション高くない?」

「気にすんな!」


マジで今は触れないでくれ。

自分でもかなり恥ずかしいからな。

もし聞かれたら…………うん。やめよう。

微妙に顔が熱くなってる気もするがテンション上がったからだ。そうに違いない。


「………まあいいけどね」


メリルはそう言うと傷口に作った薬を流し込み――ってそんだけか?

メリルが注いだ量は作った量に比べてかなり少ない、どころかせいぜいペットボトルの蓋程度だった。


「なあ、量はそんなんでいいのか? ずいぶん少なくねえか」

「解毒剤なんてこんなもんだよ。これもあくまで毒物だし」

「は?」


頭で『?』を作る俺にメリルはため息つきながら教えてくれた。

毎度すまんと今更ながらに思う。


「解毒っていうけど、あくまでもその毒に対抗してるってだけだから実際は毒同士なんだよ。今回はそれを調合の仕方で出来る限り害のないものとして作ったけど、それでも注ぎすぎると危険だし、既に体に入ってしまった毒物を無効化するだけならこれくらいの量が適量なの」


見ればミルトって奴の傷口からは変色してた部位がみるみる内に綺麗な肌色に戻っていった。


「やっぱり【ポーション】は効きが早いね」

「ニャーッ。ミルト君大丈夫!?」

「うん。今治癒するからちょっと待ってね。

――《ヒール》」


大丈夫と分かって飛んできたミナにメリルがそう返す。

傷の方も魔法であっという間に治った。

発動までの速度から見ても、やっぱりメリーとは比べものにならない。

コイツは本当に凄い奴なんだなぁ、と改めて実感した。



※メリル視点

はぁああ~

私は盛大に息を吐き出して脱力する。

そこにカーダがぽんっ、と手を置いてきた。


「お疲れ」

「あ~い」


ちょっと気のない返事だったのは勘弁してもらいたい。

何せこんなに集中して調合をしたのはネアとの住家で爆薬系の調合をしていた時以来なのだ。

久しぶりですごく緊張した。


キュワ~

「あー、ハクももういいよ。はい」


手を伸ばしてあげればハクは私の肩へとよじ登ってくる。

それを機に、さっきまで張っていた集中が一気に途切れる。

「は~」ともう一度脱力した。

そんな風にしていると。


「ミルト君、ミルト君」

ベチンッベチンッ


「て、ちょぉ! 怪我人になにしてんの!?」


なんかまだ問題起こそうとしているひ――やろ―馬鹿がいた。

もう馬鹿でいいや。

馬鹿は私が叫ぶとぴたりと止まった。


「ニッ? ミルト君起きないから起こそうと思って」

「そりゃ起きないよ。気絶してるんだもん。ていうかせっかく治したのにそんなに強く叩いちゃだめっ。殺す気なの?」

「そんなことないよ。でも……」

「まぁ、早く目を覚ましてほしいのは分かるけどよ。とりあえず今はそいつを運んでやろうぜ。こんな洞窟なんかより空気のいい外の方がそいつにもいいと思うぜ」


カーダ、ナイスッ。

さっさと縛り上げた盗賊も運び出さないといけないしねぇ。

そういえば。ここって盗賊のアジトなんだよね?


「なんか良さそうなもの置いてあったりして」

「お前……黒い顔してるぞ」

「ふふふっ。さぁーて、何があるかなぁ?」


人間を運び出した後、私たちはアジト内の散策、もとい物色を始めた。

結果を言おう。


大したものはなかった!


いや~、本当にびっくり。ちょっとくらいはお宝あるかなぁって思ったのに全然何にも無いんだもん。

あっても食料に寝床、銀貨の詰まった袋が多少あるかな程度。金貨はない。

後は武器で、カーダが「繋ぎにはちょうどいい」とロングソードを三本アイテムボックスに突っ込んだくらいで、収穫はあんまないと言える。

まあ、お宝なんて持ってたら盗賊やってないよね…。はぁ。


うーん。

このまま帰るのもなんか嫌だなぁ。せっかくアジトまで乗り込んだのに。

………もともと大多数は既に無力化された後だったけど。


そう思って漁っていると。


「おっ」


なんか小さい袋を見つけた。

食料の入った樽の奥に明らかに隠されるように置いてあった袋。

まあ、実際は隙間に入り込んで忘れられただけかも知れないけどね。これでダメだったら諦めて帰ろう。

そう思って中身を開けると。


「………これって」


それは青と白の中間くらいの色をした玉だった。

水色よりも白が濃くて、キラキラ光っている。

一見して宝石みたいなそれは。


「ねぇ、ハク。これってさ……」

キュキューッ

「うん。だよねー…………はぁ」


しまっておこう。

凄いお宝があったよ。

きっとこの価値が分かる人間がいなかったんだね。うん。

私が見つけた玉。それは。


『鑑定』

。。。。。。。。。

『氷帝の宝玉』

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

神に等しき力を持つ精霊王の力を宿した宝玉。

氷帝の力を宿し、氷の魔力を込めることで威力を増大させる。

氷の魔力を流すことで武器(伝説級)を生み出す。

(この宝玉は【火】と【水】の宝玉の上位存在である)

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


なにこれ、こわぁ~い。

私その()にあるやつどっちも持ってるんですが。

ついでに私の魔力でハクがブリザードドラゴンになったのもこの宝玉が【火】と【水】の上位であるという点からも納得です。

でもなんで【火】?

【水】の上位であると言われれば何となく理解できるけど。

……う~ん。やっぱり良く分からないなぁ。

でも、それなら私は【氷】の魔法が使えるかもしれないってことだよね?

実際、ハクが私の【魔力】を【氷】と判定している訳だし。

今度試してみるか。


宝玉の方はまだ【水】の方が解放されてすらいないし、とりあえずおあずけかな。

今は手に入っても宝の持ち腐れって感じだもんねぇ。




一方、私が凄い収穫があったのに対して先に外に出ていたカーダ達の元では。


「ぎゃあああああああああああああああ!!」


せっかく目覚めた少年が泡を吹いていた。

目覚めた直後にクロロの顔面が間近にあったので、喰われると思ったらしいです。

………仕方ないね。


「ミルト君っ、ミルト君っ!?」


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