異世界を知ろう
「ではお勉強よ」
教育が厳しくなると言われた翌日。
メリルは天使に勉強をさせられることとなった。
それはこの世界での生き方についてだった。
「いいかしら? 今日、あなたにはこの世界について知ってもらうわ」
天使はどこからか黒板を持ってくると、まるで学校の先生みたいな授業を始めた。
「この世界?」
メリルはよく理解できずに首を傾げる。
そういえばここ、異世界だった。
何も異世界っぽいものがないから忘れていた。
それを天使に言うと。
「それはいきなりいろいろ変わったら余計な混乱を増やしてしまうからっていう女神さまの配慮よ。この世界は、そうね。あなたがやっていたゲームとかで言うなら、ファンタジーという部類になるのかしら」
「ファンタジー!」
「随分食いつくわね」
「魔法ある!?」
「え? あるわよ」
天使は手のひらを上に向けるとその手にバチバチと電気を起こした。
「おお~」
「これは雷の魔法ね。本来魔法は【魔法名】を言わないと発動しないのだけれど……って、どうしたの?」
その時メリルは、今までにないほど真剣に、それでいて目をキラキラさせながら天使の話を聞いていた。
それを天使は疑問に思ったらしい。
しかし、次のメリルの言葉で納得する。
「私も魔法使いたい!」
ああ、ただの子供の好奇心かと。
「そうねぇ。他にもいろいろ話さなければならないのだけど、最初はそれでいいか」
「よっしゃああああ!」
「はい、言葉使い」
ビシッ
「あぐっ」
デコピンをくらってしまった。
「体罰……」
「こっちの世界にはそんなものないわよ。女の子だって自覚なさい」
「うぅ」
意外とメリルは性転換にはあまり何も感じてはいなかった。まだ子供だったという部分があるせいか、性への関心がぎりぎり実る前だったようで「ふーん、そうなんだ」程度にしか感じなかったのだ。
せいぜい、女ってめんどくさい。程度だ。
「『俺』を『私』に直したんだからいいじゃん」
「だめよ。外に出たときに周りに変に思われないようにしないと。あと一年半くらいでしっかり叩き込むからね」
「ぅ……はーい」
少し脱線したが、今からは魔法の講義だ。
よーし、じゃあさっそく魔法使うぞ。
「じゃ、まずは魔力計と魔石で【魔力量】と【魔力適性】を見てみましょうか」
言うと天使は虚空からなんかの計りとメリルの頭くらいある石を取り出した。
そんなことできるならご飯にもっと肉とか増やしてほしい。
「これは天界の倉庫と繫がってるだけだから、そこに食材がなければ無理よ」
「ぬー」
「とりあえず【魔力量】からね。計りの上に手を置いて」
天使が計りを差し出してきたので言われた通りに置く。
すると計りがグイッと動いた。
「はい、もういいわよ。1836、なかなかね」
「それって高いの?」
「平均は1500よ」
「微妙」
「まあ、普通よりは高いし。大丈夫よ。これから成長するからね」
「? どういうこと?」
「【魔力量】は人によって違うけど年齢を重ねることによって増加するのよ。修行して増やすこともできるけど、基本は自然に任せるわね。ちなみにこの平均は全ての年齢を合わせてのものだから」
「じゃあ私、かなりすごい?」
「将来性はあるわね」
「おお~」
「じゃ、次は適性を見るわよ。同じようにこの石に手を置きなさい」
言われた通りに置いてみる。
すると石は変色した。
始めは青く、次第に真ん中の方が赤くなって外側が青で中が赤になった。
それを見た天使は。
「うわー、面倒な適正持ってるわね」
「え、悪いの?」
「悪くはないわよ。適性は【火】と【水】ね。どっちも【基本属性】で【火】は火力あるし、【水】の魔法には【治癒】もあるわ」
「それってすごいんじゃない?」
「ただねー」
「なに?」
「この二つって正反対なのよ。だから互いに打ち消し合っちゃうのよね」
「それってどういうこと?」
「きっと【中級魔法】くらいまでは問題ないだろうけど、強力な【上級魔法】とかは使えないでしょうね」
「えー、なんで?」
「体の中でその二つが抑えあっちゃうのよ。そのせいでどっちかに特化して魔法を極めるとかはできない訳」
「じゃあ、もし全属性に適正ある人とかは?」
「すべての属性が抑え合ってどうやっても【下級魔法】しか使えない、なんてことがあり得るわ」
「うっわ」
どうやらこの世界では『俺は全属性に適正あるんだぜ、きゃっほーい』はむしろ自滅行為のようだ。
二つで良かった。
「ちなみに【中級魔法】ってどのくらいのレベルなの?」
「そうね。まあ、見せた方が早いでしょ。ついでに簡単な魔法を教えるから付いてきなさい」
「わーい」
これで今日から魔法デビューだ!