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私の平穏はどこにある!?   作者: 崎坂 ヤヒト
二章
21/45

超回復育毛剤 エクスポーション

※クレス視点

くそっ。ミスをした。

まさかこんなところでアイツに出合うなんて。

でもそれだけなら何も問題はなかったはずなんだ。

迷宮に潜って、強くなったつもりでいた。

冒険者ランクもBからもうすぐAに上がれるというところまできていたのもあって、俺は調子に乗っていた。

だから、戦ってしまったんだ。

アイツには勝てない。分かっていたはずなのに。今の俺たちなら勝てる。と、思いあがってしまった。

そのせいでケインが、メリーまでも怪我を負わせてしまった。

俺はとんでもないことを……。

しかもメリーは腕を、くそっ!



奴は逃げる奴を追っては来ない。

俺たちはどうにか【クリック】にたどり着いた。

とにかくメリーたちを休ませるため、俺たちは夜中でもやっている宿に転がり込んだ。

値段は張ったが気にしてはいられない。

とにかく今はメリーたちの治療だ。

回復役のメリーが負傷したせいで、俺たちはポーションに頼るしかない。

宿で高くてもいいからポーションを譲ってくれと頼んだ。

でも帰ってきたのは最悪の一言だった。


「この町では【ポーション】を取り扱っている店がありません」

「そんなっ」


俺たちは仕方なく朝一でギルドに向かった。

あそこには冒険者が集まる。

きっと【ポーション】だって揃っているはずだ。

そう……思ったのに。


「なんで一本もないんだよ!」

「クレス。落ち着け」

「これが落ち着いてい……! ……すまん」


俺は仲間に当たるところだった。

みんな同じように辛い顔をしている。

急がないといけないのに。

レビィとカムには先に宿に戻るように言った。

俺は依頼を出してギルドに残った。

納品されたらすぐに宿に持って行けるように、風呂敷も用意した。

ちゃんとした鞄を持って来ていなかったので今はこれでどうにかしよう。


ただ、待ってる間は気が気じゃなかった。

早くしないと。仲間が心配だ。

二人とも大丈夫か?

俺はイライラして受付のおばちゃんに当たってしまった。

たぶん、俺はかなり格好悪かったのだろう。

後ろから納品に来た女の子に呆れた顔をされた。

しかもその子が【ポーション】を持っていたのだから皮肉なもんだ。

俺は女の子にも怒鳴っていたが、女の子は別に気にしてないようだった。


ははは、強い子だ。

しかも風呂敷を指摘されてしまった。

それでは割れると。

なんとこの子は【アイテムボックス】まで持っていた。

迷宮都市でもめったに手に入らないお宝なんだが…でもそれで宿まで運んでくれると言うので頼んだ。

ちゃっかり依頼として100ペリ取られたが。

なかなかいい性格の女の子だなぁ。


女の子の名前はメリルというらしい。

良く見たら結構可愛い子だった。

将来美人になるな。確信できる。

でも可愛いって言ったら「ビンタしていいですか?」って返ってきた。


「なんで!?」


こんなこと初めてだ。

女の子ってそう言われたら喜んだり照れたりするものだとずっと思っていたのに。

メリーも、最近は言わなくなったけど「綺麗だ」って言ったら顔を赤らめて喜ぶし。

なのにメリルはぼそりと「キモイです」と言ってきた。

やばい。なんだか胸にダメージが。


そうこうしているうちに泊まっている宿に着いた。

俺は急いで部屋に向かう。

メリルもそれに文句なく付いてきた。

まずはメリーから。

と思ったがいったん止まる。

今のメリーの状態を、この子に見せて大丈夫だろうか? 

と、思ったが、意外とこの子修羅場くぐってる? 普通に大量の血を見たことがあるとか言ってるんだけど。


そこからは、まさに奇跡のような光景。

……………いや。奇想天外な光景に立ち会った。




※メリル視点


「なんっ、じゃこやあああああああああ!」


わーい。妖怪毛むくじゃら(二人目)完成だ~。


「け、ケイン…。ケインなの?」

「お、おお」


「へー。男に使うと全身から生えるんだね」

「君、ひどいことするね」

「メリーさんだけじゃかわいそうだし」


実際ケインさんの怪我見たけど【エクスポーション】使う必要はないほどの怪我だった。

体の欠損もないし、【ポーション】がもったいないと思ったら私の《ハイ・ヒール》を使えば十分という怪我だった。

でもどうせだから。と使ってみた結果がこれ。

付き添っていたレビィさんも引きつっている。


「ご、ごめんねケイン。ちょっと近づかないでくれる」

「ひでえ! 俺怪我人なのによぉ!」


「もう完治してるから怪我人じゃないですよ~」

「本当にひどいな君…」


おかげで検証実験が出来ました。

【エクスポーション】

【ハイ・ポーション】のさらに上に位置する最強の回復薬。

世界の誰も知らない特効薬だ。

まあ、副作用的に毛が激しく伸びるんだけどね。

うん。なぜか材料に【育毛ポーション】を作るための材料がすべて含まれているから自分で使うのは控えていたんだけど、使わなくてよかったよかった。

ネアに使ってたら半殺しだったかも。


「じゃあ、私。メリーさんの方診てきます。毛の処理頑張って」

「嫌な仕事だな~」


私は隣の部屋に移動し、ハサミを取り出す。


「じゃあ、メリーさん。前の方切りますねぇ」

「え、ええ。お願い」


メリーさんは結構ギクシャクしつつ私が髪を切るのをじっと待つ。


「えっと、まずは鼻先くらいまで切って。よし、と。それじゃあ後ろも切りますねぇ。クレスさんにはメリーさんはもともとショートって聞きましたけどどうします?」

「え、ええっと。そうねぇ。どうせなら長い方がいいかしら? 手間だけどせっかく伸びたのだから、試してみたわ」


うんうん。それでこそ女性。

やっぱりロングは憧れる。私にロングを進めたネアの気持ちが分かるなぁ。

せっかくなら切っちゃうよりも伸ばしたくなるよね。


「背中と腰、どっちにします?」

「さすがに腰はちょっと…。背中でお願い」

「は~い」


うーむ。楽しい。

ネアと切りあいっこしたの思い出すなぁ。


「ねぇ。メリルちゃん。で、いいのよね?」

「そうですよ?」

「メリルちゃんはさっきの薬、まだ持ってるの?」

「……欲しいんですか?」

「無理にとは言わないけど…」

「…難しいですね」

「駄目……とは言わないのね」


まあ、自分で作ったものだし。材料さえあればまた作ることは可能だ。

ただ問題はそこではない。

あれは……。


「あれはおいそれと人にあげられるものじゃないですね。値段的に」


そう。値段だ。

そもそもこの世界にまだ存在しない秘薬なのだから、値段設定も未定なのだ。

それに在庫もあと二本。

【ハイ・ポーション】でさえ10000ペリする高級品なのに、さらに欠損まで回復できる【エクスポーション】はいくらにすればいいのか。

百万はいきそう。


「ひゃ、くまん?」

「まあ、そのくらいはいくんじゃないですかねぇ?」

「そ、そんな高級なも「暴れないで」の! ……どうしてくれたの?」

「……。なんとなくです。明らかに普通の【ポーション】では回復量が足りてなかったので」


【ポーション】で直るのはせいぜい骨折だ。それに大きな傷を負った場合、そこが残ってしまう。【ハイ・ポーション】でもよかったが、欠損は治らない。

だから使ったのだ。

ていうか使ってみたかったのだ。(本音)


「まあいいじゃないですか一応【ハイ・ポーション】分のお値段で買えたんですからラッキーとでも思えば」

「そうね。まさか【ポーション】三十本をきっちり渡された上で売り付けられるとは思わなかったわ」

「ふふふ」


そこら辺はきっちりもらった。

お陰でクレスには呆れられ、カムさんには「この年で…」と畏怖の目で見られた。

これでもかな~りお安いんですよ~。


髪を切っていると、メリーさんの肩が見えた。

そこから先、左右の手で太さが違った。


「やっぱり細い」

「こればっかりは仕方ないわよね。生えただけましだと思うわ」


メリーさんの新しい右手は、筋肉がまるでなかった。

触ったら折れてしまいそうなくらいに細い。

これ、元通りにするのは大変だろうなぁ。


「頑張ってくださいね。はい終わり」

「ありがとうね」

「いえいえ。―――《ウォーターズ》」


髪を切り終え、呪文を唱える。

するとメリーさんの赤い髪の毛でいっぱいになった部屋に、五匹のスライムが現れる。


「じゃ、お掃除よろしくね」


スライムたちはまるで敬礼でもするかのように触手を額?に着けると、部屋の中の髪を体内に吸い込み始めた。


「この子たち。メリルちゃんの魔法?」

「はい。便利でしょう?」


私は一匹呼んで、ベッドの上の掃除に当たらせる。

しばらくはベッドが濡れるけど、ご勘弁ください。


「いいわねぇ。私は特性が【光】と【火】なの。水は汎用的で羨ましいわ」

「へー。私も【火】の特性ありますけど。多いんですか?」

「多いわね。たぶん高位の人ほど【火】の特性を持ってるはずよ。それにしても【火】と【水】って、ついてないのね…」

「まあ、そこら辺はあまり気にしないようにしてます。水と火に困らないと思えばむしろラッキーですし」

「そう聞くと便利そうね」

「実際便利です」


特に【水】は。

汎用性が高いので色々できる。

攻撃力はないけど、他が優れているからいいのだ。

このスライムを見てもらえばよく分かる。

実際毛が広がる前よりきれいになってる気がする。


「ゴミはまとめてね。はいゴミ袋」


防水の袋にスライムたちが次々入りごみを入れる出て行く。そして最後に排水溝へと消えていくのを見て魔法を解けば掃除完了だ。

自分でしなくていいなんて、こんなに楽なことはない。

この魔法覚えてよかった。


「さて。帰りますか」

「あら。もう?」

「まあ、そもそも依頼で付いてきただけなので。お金もきっちりもらってますし、用もないでしょう?」

「ずいぶんとあっさりしてるのね」

「さすがに毛むくじゃらの男性を切りたくはないですよ」


「同意だよ」

「まったくね。さすがに下は見たくないわ」


会話に割り込んできたのは、げっそり顔のクレスとレビィさん。

何があったのかはご想像にお任せします。


「大丈夫ですか?」

「君のせいだがな」

「失礼な。これでもとっておきの秘薬を格安で売った恩人ですよ」

「あー、そういえばそうだな。すまない。本当に助かった」

「…………腕が生えてる」


そう言えばまだ説明してない人がいたなぁ。




「まさか、そんなすごい薬があったなんてね」


レビィさんは苦笑いでメリーさんの髪と右腕を見ている。


「イメチェンかな?」

「ええ。メリルちゃんに切ってもらったの。とっても上手だったわ。誰かにしてたのかしら?」

「まあ。ちょっと前まで。歳の離れたお姉ちゃんと」

「ほう。姉妹がいるのか? 意外だな」

「そうですか?」

「ああ。むしろ気弱な弟とかいそうなイメージだ」

「……私が下の子をいじめると?」

「……。そうは言ってない」

「今の間は何!」

「ま、まあまあ。でもちょっと前まで、ってことは今は?」

「え? ああ。こないだお別れしました。でもずっと見ててくれるって言ってましたし、寂しいとかはないですねぇ」


「「………」」

「……すまん」


「へ? ………あ」


なんか重い空気で謝られた。

そして気づいた。

あ、なんかごめんネア。なんかネアが死んだみたいになった。

でももう会えないのは一緒だし、この人たちとももう会うこともないだろうし(フラグです)、気にしなくていいか。


「はぁ。なんか空気重くなってますし。私はもう行きますね」

「ああ。なんだかんだで世話になった。ありがとう」

「いえ、別に。お買い上げありがとうございました。あなたたちが私の初めての客です」

「……客。かぁ。君は商人だったのか。それで【アイテムボックス】まで持ってるのか」

「まあ、そんなところです。基本自作ポーションしかないですけど」

「へー…………自作!?」

「はい。【エクスポーション】を作ったのは私自身です。どこにも売ってないですよ? 他にもいくつか扱ってます。見たいですか?」

「見たい! と、言いたいが流石にもう金がないな。諦めるよ」

「じゃあ仕方ないですね。迷宮都市に着いたら売りさばくつもりなのでもしかしたら回ってくるかもしれませんしね」

「迷宮都市。じゃああそこを通るのか…。だったら一つ忠告させてくれ」

「何ですか?」

「黒い化け物が街道の近くにいるが、絶対に刺激するな。アイツには絶対に勝てないし、最悪殺される」

「もしかして…」


メリーさんを見ると、右腕を差してにこりと笑った。

なるほど、そういうことか。


「ありがとうございます。全力で逃げさせてもらいます」


私だけね。

アイツらは言うこと聞かんだろうし。


「あ、いや。アイツはこっちから攻撃しなきゃ襲ってこないんだ。ただ、めちゃくちゃ強いから、事故には気をつけてくれ」

「はあ…」


これは貴重な情報だ。

しっかり気をつけよう。

特にカーダを押さえつける必要がありそうだ。


束縛魔法の練習でもしとこうかな?


完全にフラグです。

誰が暴走するかは皆さんの想像のままに

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