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私の平穏はどこにある!?   作者: 崎坂 ヤヒト
二章
20/45

納品依頼

「ほっ、はっ」


目の前で激しく振るわれる剣はそのサイズに対し軽快で質量をまるで感じさせない。

しかし、それも相手をとらえることはできず、ひらひらとかわされてしまう。

その姿は真剣に剣をふるっている相手をあざ笑っているかのようだ。

それにカーダは顔を真っ赤にしてむちゃくちゃに剣を振るも、相手はそれを軽々とかわして見せる。

おっ、今ターンした。


「あー、くそっ! いい加減当たれ!」

「「がんばれー」」


私とリックは水の結界の中でそれを眺めていた。

ちなみに相手とは兎である。

冒険者の依頼で、増えすぎて作物を襲うようになった兎の数を減らしてほしいというのを受けたのだ。

で、今私の後ろには三羽の兎が転がっている。

全部やった後である。

ちなみに依頼は五羽を駆除すれば完了である。

狩った兎は後でお肉屋行きである。ついでに買ってみようと思う。


とはいえ苦労している。

今、私たちがいる森は魔物が出ないとはいえ猪など普通に危ない動物はいるし。この世界の動物は意外とアグレッシブというか。

今、カーダが相手にしている兎も、ぴょんぴょん跳ねるだけでなく足で剣の面を蹴って流したりしている。

レベルたけぇー。


森の中じゃリックの魔法はどんな被害が出るか分からないから使えない。

カーダはまだ一羽目と格闘中だ。

そう。三羽を狩ったのは何を隠そうこの私である。

どうやったのかというと……


ぴょこっ


「おお、きたきた」


背後から結界を横切ろうとする兎を発見。

そして。


ガシッ


水で出来た触手が全方位から兎をひっ捕らえた。

結界の外では五体の【水】の【魔力】でできた塊が地面を這うように動いている。

スライムをイメージすると分かりやすい。

威力こそないものの、サーチ&キャッチを自動で行ってくれる汎用的な魔法だ。

落し物とか探すのに便利だ。

で、この疑似スライムが兎を捕まえると三匹ほどが集まって一匹の大きなスライムになる。

そして中に取り込んだ兎ごと結界の中に入ってくるのだ。

同じ私の【魔力】で出来てるものだからすり抜けるように入ってこれる。

それから中でしばらく待機、窒息させた兎を置いてまた結界の外で分裂する。


はっきり言って、超楽。

私はリックとお茶を飲みながら待ってればいい。

結界あると安全だしね。

結界はなんだか簡単に壊されまくった記憶しかないが強力なんだよ?

普通の動物ではまず壊せない。

そして今回はスライムの身辺警護付となれば、もう誰がこれを突破できようか。

全く簡単な仕事で助かるよ。


※カーダ視点


キュー


くそー! なんでつかまらねえんだっ。

兎に完全におちょくられている。

普通ならすぐに逃げ出すのをわざわざ回避し続けているのがその証拠だ。

今も全力で大剣をふるっているのを、まるでダンスでもしているかのようにかわされている。

これではだめだ。このままではつかまらない。


「ふー」


俺は一度肩を落とした。

兎はそれに小首を傾げた。がっ。

すぐに飛び上がった。

俺が高速で斜斬りを放ったからだ。その太刀筋は大剣とは思えぬ高速で放たれていた。


(ちぃ、まさかこれにも反応するとはなっ。だが)


俺はすぐに大剣を離し、腰に差したロングソードを引き抜いた。


キュッ


兎の眼が驚愕しているように見えた。


「空中じゃかわせまい!」


迅速の居合が、兎へと吸い寄せられる。

俺は………勝った。


そしてメリルのスライムが五羽目を捕まえてくるのと、カーダが一羽目を仕留めるのはほぼ同時だった。



※メリル視点

私達は戻ってきたカーダに「おつかれ」と声をかけた。


「これでやっと一匹か…しんどい依頼だぜ」

「もう終わったよ。それと兎の数え方は一羽二羽だからね」

「いいんだよ細けえことは。って、はあっ?」


私は結界をすでに解いていて、積みあがった兎たちを一まとめにする作業に入る。私の【アイテムボックス】は荷物がいっぱいだからリックに運んでもらおう。


「おいおい。どうやったんだよこれぁ。ていうかもう五匹いるし」

「魔法でかるーく窒息させた。あっ、その血のついてる子はカーダが運んでよね。臭くなるから」

「………俺の苦労って」


さあ、依頼の報酬を貰いに行こう。




「ミラさーん。査定お願いします」


私達は報酬を貰うべく、ギルドのカウンターの隣にある査定所で納品を行う。

査定係はミラさん。おばちゃんである。


「あいよ。ふむ、随分きれいだねぇ。濡れてるけど、魔法でやったのかい?」

「はい。血抜きしてないんですけど大丈夫ですか?」

「平気だよ。むしろ傷つけられてない方が好まれるし。でも早いとこ回した方がよさそうだね。て、あー。一羽真っ二つがいるねぇ」

「あ、カーダのやつだ。駄目なんですか?」

「いや、依頼は駆除だから構わないよ。よし、納品物に問題なし。三人ともカードだしな」


私達は報酬はギルドカードでもらうようにしている。

現金を持ち運ぶよりもずっと安全で、間違いがないからだ。

報酬の数字がそのままギルドカードに反映されるのでミラさんはしないと思っているが騙されることもない。

何より【アイテムボックス】に素材を入れ過ぎているせいで持ち運ぶ余裕がないのだ。

おかげで旅支度は全部カーダとリックが持っている【アイテムボックス】頼りだ。


(【ポーション】も作り過ぎたんだよねぇ)


こっちに着いたら即売ろうと考えていたので、私の【アイテムボックス】には未使用の【ポーション】が山のように入っている。

完全に肥しだ。

船の中が暇すぎて作り過ぎた。

【神速作業】マジ凄いです。


でも、おかげで準備の心配は皆無である。

食材も安全面もしっかりカバーできる内容が揃っているし、大きな荷物はリック達が持ってくれている。

依頼も何度かこなして、冒険者のチュートリアルはばっちりである。

今は旅の依頼待ちだ。

護衛依頼はランクⅭから受けることができる。カーダとリックはランクⅭだから受けられるのだが、残念ながら今のところ迷宮都市方面へ行く旅団はいないそうだ。

ミラさんにもし見つかったら優先して教えてほしいと頼んである。

そしたら一週間後がその方面から来る旅商人がやってくる時期だと教えてもらった。

その旅商人が護衛の依頼をしたら優先してこっちに回してくれるそうだ。

ありがたいありがたい。

五日ほどミラさんの元に通った介があった。




そこから五日が経った。

【クリック】に来てから数えて十日である。

その日は三人バラバラに時間を過ごしていた。

こないだの依頼でカーダは小動物と相性が悪いのが発覚したので猪狩りの依頼を受けている。

リックは【アイテムボックス】を使って運搬の依頼。こっちの人って基本的に【アイテムボックス】は持っていないらしい。

もし持ってても私達みたいに家サイズの容量はないらしい。

お陰でリックは運搬で大儲け中である。

カーダは地味な仕事がいやらしく、ずっと狩りしてるけど。

私は依頼をギルド内で受けていた。

なんでも急いで【ポーション】三十個ほしいという人物がいるらしく、一つでも報酬を貰える依頼だ。

一本600ペリ

ちなみに【ポーション】一本の適正価格は500ペリである。


キタこれ!


ついに来た、【ポーション】の納品依頼。

私は急いで十枚ほど重なっている依頼書を引っぺがす。


「ミーラさーんっ!」


私は急いでカウンターに向かった。

周りにいたおじさんたちはそれに驚いて、なんだなんだと私に注目してきた。でも気にしない。


初めての【ポーション】納品だっ。




私が急いでカウンターに向かうと、ミラさんは男の人と話していた。

邪魔しちゃ悪いだろうと思ってその後ろに回ると。


「だからっ。すぐ欲しいんだよ! なんでここは一本も売ってないんだよ、職人はいねえのか!?」

「だから、今依頼を出してるよ。たぶん明日になれば五、六本くらいなら入ってるはずだよ」

「それじゃあ、遅いんだっての!」


なんとっ! 今私が受けてる依頼の話だった。


「すみません。納品依頼お願いします!」

「あぁっ! おい、ガキ。ちょっと待ってろよ。今こっちが先だ」


その男は金髪の兄ちゃんだった。

普通にしてればイケメンなのだろうが、今はキレていて完全にチンピラだった。

私は少し呆れた。

自分のことしか考えてないのかこいつは…と。

兄ちゃんは私の顔を見て「ふんっ」と鼻を鳴らすとカウンターに視線を戻した。


「………【ポーション】の」

「!」


兄ちゃんの視線がこっちに戻った。

話は最後まで聞こうね。


「おい、嬢ちゃん。それほんとか?」

「あー、うん。三十個でしょ? ミラさん、査定お願い」

「あいよ。そう言えばお嬢ちゃんがいたねぇ。あんたがこの町を出る前で助かったよ」


私は【アイテムボックス】からきっちり三十本。【ポーション】を納品する。


「ふむ。じゃ

―――《リード》」


ミラさんが魔法を使うと、【ポーション】の上にステータスのような画面が浮かび上がった。

おおぉ。肉とかの納品だと目で査定するけど、【ポーション】だとこんなことするんだ。


「うん。確かに【ポーション】だ」

「じゃあっ!」

「あー、はいはい。さっさと持って行きな。お嬢ちゃんは納品完了だよ」

「よっしゃあ!」


私は騒がしい兄ちゃんの隣でカードに報酬を受け取る。

うむ。今日はかなり儲かった。

一日の宿代が200ペリだから今日の報酬【ポーション】30本で18000ペリ(一万八千ペリ)はかなりの額だと分かる。

【ポーション】って売れると儲かるなぁ。

まあ、この町じゃもうめったに来ないだろうけど。


で、私の最初の客は隣で風呂敷を出してポーションをまとめようとしている。


「え? それで持って行くの? 割れちゃわない?」

「は? 当然だろう。それにこれ以外にどうやって運べって……あれ? そう言えばお前さっきどこから出してた?」


【アイテムボックス】って本当に便利なんだねぇ。

ついでに運搬依頼も受けた。

街中だから100ペリと安いけど、すぐ済むし。最初の売却相手が道中で【ポーション】割って駄目にしたという話を聞きたくなかったのだ。


「いやー、助かったよ。さっきは怒鳴ってごめんな。まさか君みたいな子が【アイテムボックス】に【ポーション】を大量に入れているなんて思わなかったものだからさ」

「……………………はあ」

「あ、俺はクレスって言うんだ。さっきは本当に悪かった」

「あ、はい。メリルです」

「メリルか。よろしく」


すっとクレスから出された手を見て、私は反射的に手を出し、恐る恐るその手を取った。

それにクレスはさわやかに笑った。


「君との出会いに感謝する」


………………………………………。

うん。誰?


性格変わり過ぎでしょ!

なんなのこの人!?


最初に受けたチンピラの印象とこの道中の彼の反応が違いすぎる。


「よく見たら君。可愛いね」

「ビンタしていいですか?」

「なんで!?」


いや、完全に言ってることナンパだし。さっきのチンピラみたいな態度見たら当然警戒するだろうに。

もしもの時は魔法で迎撃しよう。そうしよう。


「……はあ。まあいいや。ここが俺たちが泊まってる宿だよ」

「ここが」


クレスについていった場所はこの町で一番高級な宿だった一拍500ペリと、私の泊まってる宿とはランクが違う。

私の宿は食事なしの素泊まりだが、ここは一日二食ついてベッドもふかふか、眺めもいいと評判なのだ。

私は自分でご飯作るからむしろ素泊まりがいいと思ってるんだけど。

どうやら大怪我したメンバーがここで寝込んでいるらしい。

道中で魔物に襲われ、後衛二人が大怪我して、前衛組が担いでここまで運んできたのだと。

しかも到着したのは夜で、手持ちの【ポーション】は使い切った後。

この世界って医者すらいないんだよね……。

そのため、朝早くにクレスがギルドで依頼を出しに行ったそうだ。

キレてたのは仲間のためだったのか。

少し見直した。


「こっちだ」


クレスに部屋に案内される。

「この二部屋だ」とクレスの足が止まった。


「そう言えば君。血とか見るのは大丈夫か? もし無理ならここで渡してもらうだけでも大丈夫だけど」

「あー。それはご心配なく。こないだ散々見たので」


描写こそなかったが、クラーケンにダメージを受けているおっさんたちはかなり血を出していた。

うん。大丈夫だ。


「そうか。じゃ、いくぞ」


そう言ってドアを開けるクレス。

私はそれについていく。


「うっ」

「カム、メリー。【ポーション】が来たぞ」

「クレス! 戻ったかっ。メリー。クレスが来たぞ」

「………ぅ…」


ひどい。

部屋に入って、最初に私が思ったのはそれだった。

部屋にはカムという緑髪の男性と包帯だらけの女性がいた。

女性の顔は片目以外包帯に覆われていてその顔は見えない。

女性はベッドで震えながらクレスに手を伸ばしている。

胸の包帯は真っ赤になっていた。

しかも。


「右手が……」

「ん? おい、クレス。このお嬢さんは?」

「っ。ああ、そうだった。メリル。【ポーション】をくれ。大丈夫だ、メリー。いっぱいもらって来たからな。すぐよくなるさ」


クレスはメリーさんを安心させるようにそう言って、メリーさんの左手を掴む。

メリーさんには、右腕がなかった。

どうしてこれほどの怪我を? そう聞きたかったが今はやめた。

私は【アイテムボックス】から【ポーション】を一本取り出す。

これ、三本しかないんだけど仕方ないよね。


「あれ? メリル。それってさっきのと違わないか?」


うん。良く気付いたねクレスさん。

私はふたを開けてメリーさんに飲ませた。


「「は??」」


そして男二人が唖然とする。

私がゆっくりとメリーさんに飲ませると、

メリーさんはぐんぐんと―――――腕をはやした。

うん。もういいかな?


「半分くらい余った。これならもう一人分いけるかも」

「……ぅ。え? 私…」


メリーさんは、しゅるりと顔の包帯を取った。

そこには。


モジャァァァアア


「「「は?」」」

「あ、やっぱりこうなった」


メリーさんの髪がベッド中に広がった。


「な、なにこれえええええ!」


「効き過ぎだよね。【エクスポーション】」


「「「はあああああああ!」」」


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