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私の平穏はどこにある!?   作者: 崎坂 ヤヒト
一章
2/45

少女と天使

そこは魔物が出る森だ。

そのため狩りが目的の冒険者くらいしか入りこまない危険区域になっている。

普通の狩人なら避ける場所だった。

しかし、その森をまだ小さな、十歳ばかりの少女は平然と突き進んでいた。

背には矢筒に納まった大量の矢と弓を背負っている。


「…肉、今日こそ肉」

少女はぶつぶつと、ヒトを殺さんばかりの形相で呟いていた。

少女は飢えていたのだ。

肉という至宝に。

ちなみに少女は弓以外には鞄一つを肩からかけているだけで、服装はワンピースという、装備としてはどうなんだ? といった格好だった。

魔物が出るという割にはあまりにも簡素過ぎた。

しかし少女は気にしなかった。

調度よさそうな木に登って、見晴らしのよさそうな太い枝に陣取る。


(ふふふ。木登りはこの二か月で完璧にマスターしたぞ)


少女は登り切った達成感にぐっと握り拳を作り、矢を取り出して上空に弓をかまえる。


(さあ、こいっ)


その時間、その場所に、必ずそいつは現れていた。

そして、今日もまたそいつは現れる。

少女のいる木に、影が映った。


グェーッ


それは一羽の鳥だった。

目玉が二つ、やたらと大きくて首がダチョウみたいに長いその鳥は、メンダマ鳥という。

見た目そのままではあるが、その肉は絶品らしい。

主に小鳥など、他の鳥を主食にしており、肉付きがしっかりしている。

きっと、栄養もいっぱいのはずだ。


「今日こそ食う」


少女は弓をギリギリと引き、メンダマ鳥に狙いを定める。

メンダマ鳥はゆっくりとこちらに近づいてくる。

狙いは隣の木のひな鳥だ。

調度子育て中の別の母鳥がメンダマ鳥に気付いて。

慌てて逃げてしまった。その鳥も小鳥だったのだ。

つまり母子ともに捕食対象という訳だ。

そりゃ自分の身の方が可愛いし、逃げるだろう。

でも好都合だ。

少女は飛んでるメンダマ鳥を狙うのはあきらめ、巣の方に弓を向ける。

これで小鳥をむさぼんでいるところを落としてやる。

メンダマ鳥はまだこちらに気付いていない。

さっさと逃げて行った親鳥を見てしげしげと巣の上に降り立った。


(よっしゃあ!)


そしてメンダマ鳥がヒナを食べようと口を開いたところで。


シュッ


そのでっかい目玉に矢が刺さった。


グエェェエエエ!


「まだまだああああ!」


少女は急いで三本ほど矢を抜き取り、メンダマ鳥へと乱射した。

一本は外したが、後の二本は胴と羽に刺さりバランスを崩したメンダマ鳥が地面に落ちていく。

少女はゆっくりと木を降りてそれを追った。

そこでは三本の矢がささって、どうにか歩いて逃げようとしているメンダマ鳥。


シュシュシュッ


追加で三本。

今度は全部刺さった。

重みで動けなくなったメンダマ鳥に少女は駆け寄り、鞄からナイフを取り出した。


「肉うううううううう!」


ついに夕食に肉料理を食べられる。




「ただいまー!」


少女はご機嫌で家へと帰る。

その手には縛ったメンダマ鳥を引く、ロープが握られていた。

少女の家は森の中にある。

どういう訳か、深い森の中に木製の、しっかりとした家が建っているのだ。

かなり異様な光景だが本人は気にしない。


「メリル! どこに行って……」


メリルと呼ばれた少女の声に、慌てて飛び出て来たのは一人の女性。金色の髪にすらっとした長身の女性だ。

その顔はまるで女神のように美しく整っていて、男が見たらだれもがその場を動けなくなるであろうほどの美貌を持っていた。

しかし、その美しい顔はぴっしりと固まっている。


「毎日どこに何しに言ってるのかと思えば…」

「肉! 調理よろしく!」


メリルは元気よく叫んだ。

対して女性は頭を抱えた。



「私はいつも言ってるわよね! あぶないことはしないようにって」

「だって安全なんでしょ?」


メリルは首を傾げつつ、スープに入っている鶏肉を口に運んだ。


「んー! これこれ!」

「安全なのはこの家の近くだけ。あなたがとってきたこのメンダマ鳥のいる辺りは結界の外なのよ。何度も説明したでしょ。結界を出たら魔物だって出てくるんだからね」


料理に大満足といった様子のメリルとは対照に、女性は厳しい顔を崩さない。


「あー、はいはい。分かってるって」


メリルはそっぽを向きつつスープに視線を戻してまた口に運んだ。


「分かってないわよ。いい? 私が一緒にいてあげるのはあと二年ないのよ。十二歳になったら女神さまの保証期間は終わり。私は天界に帰るわ。そうしたら生活の全部をあなた一人でしなければならないの。それまでの間、私はあなたの安全を確保しつつこの世界の教養をあなたに叩き込まなければならない」

「うん知ってる」


それは最初いきなりこの世界に連れてこられた時に聞かされた話だった。

十二歳。それがラインになっているらしい。

メリルは死んだときには十歳だったから二年、十一歳以上でも二年の保証が付き、九歳以下なら十二歳までの保証を受けられる。

その間なら死んでも蘇生してもらえて、女神から使命を授かった天使たちが一人につき一体、世話係になってくれるという制度だ。

ちなみに十三歳以上はありえない。

この制度は十二歳以下の子供にのみ適応される異世界転生が前提条件だからだ。

ちなみにどんな体になるかは全く保障されてない。

メリルみたく、()の(・)()になってしまう例もあるのだ。

鏡を見せてもらった時は驚いた。

黒髪なのは一緒だったが、肩くらいまで伸びてて、顔も年齢通り幼いが可愛いと言える部類だった。

天使曰く「当たりですね」ということらしい。

どうやら、結構いい部類の体らしい。

正直髪が邪魔だったのだが。


「せっかくだからこのまま伸ばしましょう」


と、切らせてもらえなかった。

そんなことを思い出していると、未だに天使が厳しい顔をしていることに気付いた。


「どうやら今まで自由にさせ過ぎていたようね」


あ、なんかやばそう。

どうやばいかというと、天使の後ろに黒い何かが見えててやばい。天使なのに。


「明日からびしばししごいていくから覚悟しなさい」

「うへぇー」


いつの間にか口調とかもただのお姉ちゃんみたいになっている天使に、メリルは本当に嫌そうな顔になった。


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