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私の平穏はどこにある!?   作者: 崎坂 ヤヒト
二章
19/45

冒険者ギルド到着!

今度の船旅は問題なく進むことができた。

海域の主であったクラーケンが討伐されたことでこれからは貿易も盛んになるだろうという話だ。

もともと出現頻度はそんなでもなかったらしいけど、小型船だと即つぶされてしまうから今まではそんなに数を出せなかったのをこれからは増やせるのだと、船乗りの収入減が増えると船長なんかは喜んでいた。

で、私たちは目的地だった【クリック】で冒険者ギルドへと向かう。

【クリック】は港町というだけあって漁船が多い、地図を見ながら冒険者ギルドへと向かう途中猟師のおっちゃんたちが魚を仕分けているのを多く見かけた。

でも地面で仕分けるのはやめてほしい。

魚が汚くなってしまう。

これがこの世界の衛生事情か……。私はひっそりと肩を落とした。


「お、ここか」


どうやら私がこの世界の現実に脱力しているうちに目的地に着いたらしい。

カーダは「じゃ、いくぞ」と勇んで入って行った。

外からは酒場のような見た目だ。

いや、冒険者ギルドってむしろそういうものか。

カーダの後を慌てて着いていくリックを見て私も入る。


そこは喧騒の世界だった。


聞こえてくるのは男達の笑い声、昼間からもう飲んでるのか酒臭さも混じって、うえってなる。

今は昼近い時間で、この時間になると依頼を貰いに来る人はあまりいない。

いるのは暇つぶしに飲みに来るおっさんばかりだった。


「おーい。早く来いよ、登録しようぜ」


私は酔っ払いたちの叫び声の中からどうにかカーダの声を聞き分けて受付へと向かう。


「二人ともよく平気だね」

「まあ、なんとかね」

「どうってことねえだろこのくらい。あ、登録たのんます」

「あいよ。じゃあステータスプレートは持ってるかい? ないならこっちで作らせてもらうけど」


受け付けは恰幅のいいおばちゃんだった。

私達は自分の【アイテムボックス】からステータスプレートを取り出した。

今、能力は閲覧オフ状態だけど大丈夫かな?


「おっ、ちゃんと持ってるのか。あんたたちくらいであるのは珍しいね。ああ、能力値は別にいいよ。犯罪履歴と年齢さえわかればいいからね」


おばちゃんはそう言うと、私たちのステータスを順に見て行ってにっこりと笑った。


「はい。問題ないよ。じゃあまずは登録料に銀貨一枚。三人だから三枚もらうよ」

「あ、はい」

「うん。確かに。それじゃあちょちょっと作ってくるから待ってな」

「あ、ちょっと待ってください」


私達は結構すんなり作れるんだなぁ、と思いながらおばちゃんの言うとおりにしていると、なんだかタイミングを逃しそうだったので引き止める。


「なんだい?」

「ここに推薦状があるんですけど、見てもらえますか?」

「おや。じゃあちょっと見せてもらおうか………ふむ?」


おばちゃんは私たちの推薦状に目を落とすといぶかしむ表情を作った。

しかし、何度か見返してすっと息とついた。


「確かに本物だね。ちょっと待ってな。今マスター呼んでくるから」


おばちゃんはそう言うと立ち上がって奥へと消えていった。

それに私たちは顔を見合わせる。


「どういうことかな?」

「疑われてるんじゃないの?」

「いや、単に推薦状が珍しいんじゃね?」


私達はそれぞれ意見を出し合い、おばちゃんの帰りを待つ。

あ、戻ってきた。


「悪いね。ほらあんたたちの冒険者カードだ」


戻ってきたおばちゃんは早速とばかりに私たちにカードを渡してきた。

て、あれ?


「何も書いてないんだけど?」

「それに魔力を流し込んでみな」

「魔力?」


言われた通りに微量の魔力をカードに流し込んでみる。

すると、ボワンと文字が浮かび上がった。


【メリル】

性別;女

年齢;12歳

ランク;Ⅾ

所属;

所持金(他者不可視);0


おおぉ、なんかすごい。

魔力もほんの少ししか使わないからカーダでも開けそうだね。

ふむ。見えてる情報も少ない。でもだいたいこんなものか。


「? この所属ってなんですか? それと所持金ってあるんですけど」

「所属は冒険者ギルドとは別に、自分が所属しているギルドの事だね。気の合う連中が作って組織化したもの、っていえば分かるかい?」

「あー、なるほど」

「それと所持金だが、そっちはギルドに預けている金のことだな。君たちは【アイテムボックス】を持っているようだが、持ってない連中はここで振り込んで保管しておくんだ。一度預けた金はどこのギルドでも引き出せるし、ギルド内での買い物ならカードを見せてそこから引いてもらうこともできる」


なんか銀行口座みたいなシステムだ。

見回せば、確かに酒場以外にもギルドには雑貨屋に武器屋と防具屋があった。ギルドの中は入り口近くに受付があって二階と一階に酒場が一つずつあり、武器と防具は二階で、雑貨は一階で売っている。

ふむ。確かにこれなら数値で所持金が分かるカードの方がいろいろ便利かもしれない。


「ありがとうございます」

「いやいや、可愛い子の質問ならいつでも引き受けるよ」

「あははっ……ん?」


そこで私はようやく質問に答えていたのがおばちゃんではなかったことに気付いた。

顔を上げるとそこには、笑顔の優男、という声からの想像を崩壊させるくらい目つきの悪い大男が立っていた。


「えっと。ギルドマスター、さん?」

「うん。そうだよ」


わー、優しい声~

…………。合ってない。全然合ってないよ! 声と見た目が全然合ってない!

これどんな詐欺!


「ひっ」


その顔を見たとき、私は思わず身を引いてしまった。

ガランさんも結構厳つかったけど、この人はそれ以上だ。

むしろとんでもなく広い肩幅とか、全身の盛り上がった筋肉とか、ガランさんはこれに比べればまだ細い見た目をしていた。

そしてこの刺すような視線を目にしては、むしろ泣かなかったのを褒めてやりたいくらいだ。


「……………(ズーン)」

「え?」


ギルドマスターは目に見えて落ち込んだ。

って、あ。良く見たらカーダが口をパクパクして硬直している。リックに関しては尻餅ついて腰抜かしてた。

え? もしかして私が一番ましな反応してるの!?


「あー、元気だしなよあんた。ほら、こっちの子はもう大丈夫そうだよ」


おばちゃんがそう言ってギルドマスターの肩を叩いてる。あっ、もしかしてここ夫婦で経営してるのかな?


「あ、ああ。すまないね、怖がらせてしまったかい?」

「え、えーっと。だ、大丈夫です」


私はどうにか取り繕った笑みをギルドマスターに向ける。

なかなかショックが大きかったが流石私、『精神』Aなだけはある。

持ち直してギルドマスターに謝罪した。


「そ、そのすみませんでした。いきなり怖がったりして」

「いや、大丈夫だよ。慣れてるからね」

「ふーん。あんたなかなかやるね。この人の顔見てその顔ができるのか。そっちの伸びてる男どもよりずっと根性がある。ほら、そこの! 兄貴ならシャキッとしな!」

「へ、は? 兄貴!?」


おばちゃんの声でカーダが戻ってきた。

しかし、おばちゃんの話の中に気になるところがあった。


「他に誰がいるんだい。妹より根性ないなんて、恥ずかしくないのかい?」

「……。妹?」

「妹って。…え?」


私とカーダはお互いを見合わせてパチパチと瞬きする。

ひょっとして私とカーダが兄妹だと思われてる?


「あれ? なんだい、違うのかい? 黒髪なんて珍しいから私はてっきりそうだと」

「あ、そういう事」


納得。

確かに黒髪は珍しい。ここに来る途中に見かけた漁師のおじちゃん達も髪の色は白とか緑とか青、赤といろいろいた。ここら辺はやっぱりファンタジーだろう。

でも黒い髪はこっちに来てから私とカーダしかまだ見てない。

それだけ珍しいのだろう。

となると苗字のない私たちは髪の色で兄妹だと思われても仕方がないのかもしれない。

私はおばちゃんの勘違いをやんわりと解いた。

カーダとは目的地が一緒だったためにここまで一緒に行動していただけであること、この先の私たちの目的は別々にあることを告げる。


「ふーん。お嬢ちゃんは【ポーション】を作れるのか」

「はい。だからそれを売って生活しようかと」

「…それはちょっと難しいんじゃないかい?」

「え?」


聞くと、おばちゃんはゆっくりその理由を説明してくれた。

曰く、【ポーション】は高級品でめったに手に入らないこと。

曰く、この辺りには魔物も出ないので【ポーション】が必要なほどのけがをすることが少ないこと。

曰く、【ポーション】は保存しないと劣化するので買い置きする人は少ないということ。

余談だが、この世界では【ポーション】というのは基本的には【回復ポーション】と麻痺と毒の治療に使う【解麻痺ポーション】と【解毒ポーション】くらいしか知られてないということ。

なのにこの世界の薬といえばみんな【ポーション】だという。

つまり、この世界では薬で人を治すという概念がまるっきり育っていないのだ。


「は~」


私はすっかり気が抜けてしまった。

【ポーション】売れないのか。

これでは私の計画が全部パアになってしまう。

それは困るっ。


「ど、どこか売れる場所はないんですか!」

「そうさねぇ。ここからだいぶ遠いけど、迷宮都市まで行けば必要としている奴は多いんじゃないかねぇ。あそこは大怪我する冒険者で溢れているしね」

「迷宮都市?」

「お? なんだ、俺の目的地じゃん。なら一緒に行こうぜ」

「は?」

「あー。カーダ君の目的はダンジョンだったんだね。確かにそこなら名前も売れるかもねぇ」

「へ? リックいつの間に復活したの?」

「今かな? でも迷宮都市か。そこって魔術学院があるんだよね。僕も行きたいところだったんだ」

「よし。じゃあ俺らの目的地は迷宮都市だな。こっちで何度か依頼こなしたら行ってみようぜ」

「うん。メリルちゃんがどうするのかちょっと怖かったけど、しばらくは一緒に旅できそうだね」

「え、ええええええええええええ!」


こうして、なんかなし崩し的に私のこれからの方針が決められてしまった。

でもそこでないと【ポーション】が売れないのでは仕方ないか。

くぅ。逃げられると思ったのに!


よくある設定ですみませんが、当面の目的地はダンジョンひしめく迷宮都市になりました。

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