バカンスです②
辺り一面に広がるは海。
そして、ビーチ!
海水浴なんて何年振りだろうか?
そもそも行ったことがあっただろうか?
あ…ないや。
まあ、そんなことはいいんです。
今はとにかく。
「おおぉ~」
この時間を楽しもうと思います。
私はビーチに出てみると、そんな声を上げた。
この島はいつも気候が穏やかにあたたかくて、一年中海水浴が楽しめるのだ。
そのため砂浜の整備は万全になっており、ごみの一つもなく、綺麗なままだ。
でもこの世界での海水浴はリッチな人の楽しみらしい。
私達はラッキーということだ。
まあ『冒険者じゃなかったから、現金払いじゃなくてもいいだろう。子供だし』という話が市長の口からこっそりと出ていたらしいことは内緒の一言。
実は市長。結構ぼっただったわけです。
毒まみれのクラーケンの素材は全部市長が処理する、という名目でごっそり売りさばいたのだとか。冒険者ギルドが島にないのをいいことに好き勝手に金儲けしたらしい。
先程職員がその謝罪に来てカーダは割と怒っていた。
リックは『少し分けてください』というお願いをしていた。
クラーケンの骨を加工すると、いい杖が作れるのだとか。
それを聞いてカーダも同じ条件で許すことに。剣でも作るのかな? 骨剣?
私は特に欲しい素材なども特になかったのでのでとりあえず【ポーション】の素材になりそうな物を別に注文しておいた。
すると馬車三台ほどで持ってくると言われた。
薬草類はそこらへんに結構生えてるので原価がただらしい。
ちょっと楽しみ。
っと、だいぶ脱線したがとにかく海だ。
私はネアと一緒に選んだ水着を着るとさっそくビーチに出て、先に着替え終えている男どもを探す。
いたいた。
人がいないからすぐ見つかるね。
「おーい」
「ん? おおぉっ」
声をかけると真っ先に声を上げたのはカーダだ。
遅れてリックも「わあ」という声を上げた。
ふむ、私の水着でこの反応。ちょっと誇らしくなる。
ちなみに私の水着は短いスカート付きのタイプで、胸にはひらひらが付いている。今はその上からパーカーを羽織っているけど、肩とか見えなくてもこのくらいの年齢には十分な刺激があるか。
おへそと足が見えてるのが大きいのかな?
ちなみに色は水色にしてみました。
「すげえ、可愛いじゃん」
「うん。とっても似合ってるよ」
「二人とも意外。ちゃんと褒められるんだね」
「当たり前だろっ」
「え? 僕は思ったこと言っただけだよ?」
カーダは偉い。リック、あんたは凄いよ…。
ふむ。でも私の水着でこの反応か。
「大丈夫かな?」
「は? なにが――」
「ちょっとメリルー、先行かないでよー」
「あ、来た」
私達は四人揃って声の方を向く。
そこにはまさしく女神がいた。
青色と赤色の布に大事な部分を隠しただけの二人の天使。
青色の水着のネアはビキニタイプの水着で首に交差した紐を掛け、その豊満な部分をすくいあげ、綺麗な体のラインを強調している。腰にセパレートを巻くその姿は一枚の美術品のよう。
対する赤色の水着のフィーナはというと、こちらもビキニでセパレートを付けているところまでは同じだが、肩ひもが付いておらず、普段は隠れている胸が、もろにさらされている。
一方は眩しく、もう一方はその眼を虜にする。
うん。あの二人はやばいね。
あ、カーダとリックがぼーっとしてる。
で、あと一人ですが。
ドボンッ!
たった今全力で反対方向に突っ走り、天使の身体能力をフルに使って海に飛び込んでいきました。
ちなみに先程まで一言も発していなかったガランさんです。
この人実はかなりこういうのに免疫がない。
三人だけならどうなってたんだろう?
「あら、ガランたら、どうしたのかしら?」
「放っておけばいいと思う」
むしろそうしてあげて。
ほら、あまり数はいないけど他の観光客が皆こっち見てる。
ネアとフィーナに釘付けだから。
多分私たちがいなかったらナンパの嵐だったんじゃないかな?
ガランさん、使い物にならないし。
「さあ、遊びましょうっ」
「おおー」
ネアの言葉に同意すると、さっそく、というかいきなりだけど持ち上げられた。
「へ?」
「とんでけ~」
「はわあああああああああ!」
普段あまり出さないような声を上げながら、私はネアによって海へと投げ出された。
ご丁寧にパーカーもその時ふんだくられた。
「ぶくぶく、ぷはあっ」
「あはははははは」
海面から顔を出せば、ネアが爆笑していた。
むぅ。なんだか今日はネアのキャラが色々おかしいような…。
でも、何のしがらみもないネアって。実はこんななのかもしれない。
その後は、どっかから戻ってきたカーダたちと一緒にネアにやり返して遊んだ。
ネアを投げ飛ばしたときカーダたちの顔が真っ赤だったけど、そこら辺はさすが思春期ということで笑った。
今日はめいっぱい楽しんでやったぞ。
なお、戻ってきたガランさんがまじかでフィーナさんを見て鼻血出したのを見たときはさすがの引いた。
え? この人ってそういうキャラなの?
その後、やってきた馬車に乗ってた荷物を、持てる限り【アイテムボックス】に詰め込んでやった。
業者のおっさんたちがフィーナとネアの水着姿に顔を真っ赤にしてたのを見て、私はさすがに……うん。ちょっと渋い顔をした。
所詮私は子供です。
私は部屋に戻ると食事の支度をした。
この宿にもちゃんとレストランはあるのだが、この世界の食事というのは高級なものでも塩や砂糖くらいでしか調理がされていないというのがこの三日の間に判明し、私は急きょ食事は全て自分で作ることにした。
飲み物はそこそこの種類があるのになぁ~。
さすがに火は使えないから作るのはサンドイッチだ。
道具とかあれば外でバーベキューとかできるかも。
モグモグ
【アイテムボックス】って本当に便利だ。材料と道具、全部突っ込んでおけば好きな時に出せるんだから。
あと、【神速作業】は【調理】にも使えた。
でもその速度は【ポーション】の作成に比べるとかなり遅くて、おそらく【調理】のレベルがあまり高くないのが原因と思われる。
称号持ちにでもなれば上がるのだろうか?
モグモグ
ならこれからは毎日作るつもりだから自然に上がるかな?
私が作った最後のサンドイッチを食べようとしている時だ。
誰かが私の部屋を訪ねてきた。
「はいはい。誰?」
「メリル。私よ」
まあ、相手は大体分かってたけど、ネアだ。
私は鍵を開けて招き入れる。
「あら、食事中だったの? 一緒に食べに行こうと思ったのに」
「え、ごめん。この世界の食事って美味しくないから」
「あー。口に合わなかった?」
「うん。だから自分で作って食べようかなって」
「ははっ。まあ私の手料理食べ続けてたらそうなるかもね」
「軽い自慢だね」
「そうね。材料があるなら私の分ももらっていいかしら?」
「うん? いいよ」
折角だしネアと一緒に食べようかな。
私は二つほど自分の分も新しく作った。
パンを切って、野菜や干し肉を挟むだけだからかなり簡単だけど。
私はスキルでパパッと作成する。
楽になったものだ。
「早いわねぇ。この【スキル】が始めからあればいろいろ楽だったかもね」
「メモとかは無理だからあんまり変わらないと思うよ」
「そうなの?」
「うん。【神速作業】って【調薬】とか、【スキル】を持ってる作業じゃないと反応しないみたい」
「へー。でも便利よね。私も欲しいわ」
「取得方法とか分かんないの?」
「ええ。大体こうすればっていうのは分かるものが多いんだけど【スキル】の中には入手方法不明っていうのがそこそこあるわ。【高速作業】もそれに入るわね。【神速作業】となるとどうやってスキルを成長させるかという話にもなるけど」
「ふーん」
私達はサンドイッチを口に運びつつそんな話題で会話を繋ぐ。
食後にはデザートのフルーツを切って、二人で食べた。
ふむ。
「そういえばネアって、天界ではどんな生活をしてたの?」
「なに、突然?」
「うん。ちょっと気になって」
私はあまり話題もないので興味のあることを聞いてみることにした。
どちらにしろネアといられるのはそんなに時間もない訳だし、気になったことは聞いておきたいのだ。
ネアも、そうねぇ、とちょっと楽しそうだ。
「そもそも天使の仕事ってなんだと思う?」
「え?」
いきなり質問?
「考えてみて」
「え? うーん。死んだ人の弔い?」
「一般的にはそうかもね。でもそれは女神さまの役目ね」
「じゃあなんなの?」
「天使の役目は監視ね。世界の監視。それがお仕事」
「監視……」
「何か異変があったらこっちが動かなきゃならないからね。でも基本はただ見守っているだけなんだけど」
「じゃあ暇なんだ?」
「そうでもないわ。天界にも生活の基盤はあるの。だからそれにまつわる仕事や、女神さまが弔った人々をメモしておくような書類仕事もあるわ。ほとんどこっちがメインね」
「生活基盤って?」
「服飾に食材、工具屋とか」
「……天使ってなんだっけ?」
「……女神さまが作った羽の生える人…かしらね?」
天使本人が言っていいことではないような…。
あ、目をそらしてる。
ふーん、でもそっか。
「じゃあネアは、ずっと見ててくれるんだ」
「え?」
「私がこの世界で生活してるの。天界で見守ってくれるんでしょ?」
「え、あー。そうなるかもね…。うん。そうね」
ちょっと照れたように話すネアを見て、私は笑顔になった。
ネアはずっと見ててくれる。
それが分かっただけで十分である。
その日はネアがまた私の部屋に来て、一緒に寝た。
やっぱりネアは気持ちいいね。
一週間後。
まあ、こうなる。
「わあああああ、メリルウウウウウ!」
「……………あー」
はっきり言って、すごい目立ってた。
カーダとガランさん。フィーナさんとリックは二度目とあってか割と平気そうで、かくいう私ももう大丈夫、という意思はあるのだが、送り出す側のネアがこれなのだ。
がっしりとホールドされて、これでは船に乗れないという状態だった。
「ネア。もう離して。仕方ないんだよ、ね?」
「いやよっ、メリル。メリルはもっと一緒にいたくないの?」
「いたいよ。けど仕方ないじゃん」
どうしてこうなるのやら。
ネアは、実は初日からずっと私の部屋で一緒に眠っていた。
それからショッピングなど、二人であちこちめぐって楽しい一週間だったと思う。
でもお別れは分かっていたこと。
むしろまたネアに会えるなんて思ってなかったから奇跡みたいに思ってたんだよ?
私はどうにかしてネアを離した。
それから自分の首に手を添える。
そこにはネアから貰ったブレスレットが付いている。
「大丈夫だよ、ネア。私は大丈夫だから。ネアも」
「メリルウウウウウ~」
「ほら、ちゃんと送ってあげましょう」
「大人がみっともないぞ」
「うぅ。いってらっしゃい」
もう一度抱きしめられて、でも今度は優しく、しっかりと体温を感じると離してくれた。
ああ。この人は本当に。
「行ってきます」
仕方のない人だ、と思いながら船へと乗り込んだ。
で。
「おえええええええええ」
こいつのせいで台無しなんだよね!
私は【アイテムボックス】からしっかりと作ってあった【酔い治しポーション】をその口へと放り込んだ。