バカンスです
「ん、んん~!」
再開したネアに私は完全ホールドされていた。
「メリル~。もう離さないからねぇ!」
いや、離してよ!
ていうか。
(あれぇ? ネアってこんなキャラだっけえ?)
「ネア。そろそろその子離してあげないと苦しそうよ」
「いやよっ。絶対離したくないわ」
「窒息するわよ」
「えっ! ごめんなさい、メリル」
「ぶはっ」
本気で死ぬかと思ったよ。
息苦しいんだもん。
この技で人殺せそうだね。
「で、どういうことなの?」
私達はソファに三人ずつ腰かけて対面した。
一応、弟子と師匠。に、なるのかな? という構図だ。
聞いてきたのは向こうだ。
女性のフィーナという天使、ネアよりもずっと落ち着いた印象を受ける天使で、髪の色も白く、これぞ天使、女神といった感じの人だ。
まあ、私たちはここまでのいきさつ、一週間ばかりここに泊まることになった訳を話した。
「まさか、クラーケンを倒すなんてね…」
「ネア。あなたどんな教育したのよ」
「いや、私は……」
ちなみにネアは開いた穴がすっぽり埋まったみたいに平常に戻った。
さっきのは一時的に舞い上がっただけみたいだ。
「で。ネアたちがここにいるのは何で?」
「バカンスよ。もともとここで一か月、ご褒美に遊んでいいことになってたの」
「期間中に一度でも担当者を死なせてたら仕事に早変わりだったがな」
「ああ。そいうこと…」
ニコニコ顔のネアの理由が分かった。
「で。つまり一週間はメリルも一緒にいられるのよね?」
「まあ。その後は本当にお別れだと思うけど」
「やった」
ネアがなんか子供みたいだ。
それにフィーナが呆れた顔をしている。
「もう、ネアったら。ごめんなさい。この娘、メリルちゃんが初めての担当だったものだから。お別れもすごく辛かったみたいなの。ネアは私たちの中では特に若いしね」
「……ネアっていくつなの?」
女性に歳は聞くものじゃない、とは思ったが、意外にもちゃんと返してくれた。
「19よ」
「普通に若い!」
それじゃあ何!? 初めて会った時ネア17歳だったの! 若すぎるでしょ!
まだ女性じゃなくて、美少女で通用しちゃうよ。
「こういう訳で。ネアはいろいろとまだ未熟なのよ。でもメリルちゃんのことはしっかりと育てられたみたいで良かったわ」
「……うん。普通にお姉ちゃんって呼んでも問題ない年齢差には驚いたけど」
天界の法律とかってどうなってんだろ?
「あ、そうだ。私ステータスが【スキル】と称号増えてたんだよね」
「え、まじか? どんな」
「んとね」
【メリル】
年齢:十二歳
性別;女
種族;人族
職業;なし
称号;【魔術師】【早業師】【調合師】
罪状;なし
能力(他者可視化);
【魔力】2066
【適正属性】【火】【水】
【力】D
【体力】C
【精神】A
【保持スキル】
〈戦闘系〉【弓】Lv3 【短剣】Lv2 【魔導】Lv2
〈補助系〉【裁縫】Lv2 【調薬】Lv2 【調理】Lv5 【言語学】Lv10
【隠蔽】Lv1 【交渉】Lv4 【神速作業】Lv4 【思考】Lv6
「何よこれ!」
最初に声を上げたのはネアだった。
え? そんなにおかしいかなこれ?
「称号ってあなた。三日前は何もなかったでしょう。なんで三つも増えてるのよ。しかも新しい【スキル】覚えて、どっちもレベル高いし……【神速作業】?」
「あ、それなんかいきなり増えてたやつだ」
「たしかそのスキルは【高速作業】の派生だったかと…」
とはフィーナの言葉で、フィーナは虚空から分厚いマニュアルを取り出して開く。
「ああ。やっぱりそうです。えっと、その【スキル】は作業系の【スキル】のようですね。ですが高速で手が動く代わりに脳への負荷が大きいというデメリットがあります。きっと【思考】はそれをカバーするために得たのでしょう。思考速度を速める効果がありますからね」
「なるほどっ」
「ところでメリルさんは【高速作業】の【スキル】はもともとあったのですか?」
「え? ないよ。昨日見ていろいろ増えてたのにびっくりしたから」
「……………ネア。この子はなんなのですか?」
「可愛い妹、みたいな教え子ね」
「…………………」
「あの~」
「はい?」
おずおずと手を上げたのはリック。
フィーナが担当していた男の子だ。
「その、メリルちゃんがその【神速作業】って【スキル】をもっていたら何か問題があるんですか?」
「大ありだな」
答えたのは大柄の男の天使。名前はガランと言う。
ガランはどんと構えていて、その問題点を教えてくれた。
「【スキル】に『神』の文字が刻まれているのはそのまま神の御業と同等ということになる。いったいどうやって手に入れた?」
まるでにらみつけるような視線を向けられた。
なんか、怖い人だな。
「……。えーっと。手に入れたのはたぶん船の中で【ポーション】を大量に作った時だと思う。なんとなく、もっと早くもっと早く動け~って思ったら出来るようになってた」
「もしかして【アクティブスキル】なのか?」
「なにそれ?」
となりで何やら気になる単語を言われたので聞いてみる。
「俺の【加護】と【剣豪】みたいなやつだよ。随時発動状態って訳ではなく、自分で念じたときに使える。まあ、魔力使わない代わりに体力食うんだけどな」
「その割には普通に使ってたような…」
「そのための体力作りはしている」
あっ、そうですか。
「まあ、随時発動化は問題じゃない。つまり嬢ちゃんは本来ならば人の手に余る代物を手に入れちまったってことだ」
「まあ。まだ手が早く動くだけの【スキル】であることが救いではありますがね」
そうだね。
神様の力で異世界無双とか、すごく楽勝だもんね。
でも私のスキルだと、ただ単に手作業が早くできるだけなんだよね。
つまりは職人の『これぞ神業』ができるようなったということ。
「結論を聞くと、別に大した【スキル】じゃないよね、これ」
「まあいいじゃない。生産速度は飛躍的に上がったわけなんだし」
ネアは嬉しそうな表情でそう言った。
うーん。ちょっとネアのキャラが三日前以前と違うような。
私の知っているネアはもっとしっかり者、という風格があったというのに。
今はニコニコとゆるみ切っている。
「さっ。硬い話はこれくらいにしましょう。せっかくのバカンスですし。ちょっと予定外ではありますが一緒に楽しむ教え子も増えたんです。メリルさんの【スキル】も特に危険という代物ではありません。ですから一緒に過ごせる一週間、外面のことは気にせず楽しみましょう」
手をパンッと叩いてフィーナがそう、締めくくった。
なんか、経験の違いを思い知った気分になった。
あとでネアに聞いたけど、天使って見た目=年齢ではないんだって。むしろネアみたいに本当に若い例の方が少ないんだって。
気になったけど、フィーナの年だけは聞くなと言われた。
怖いから聞かないよ。
部屋に荷物、というか小道具を並べる。
【アイテムボックス】のおかげで整理には事欠かないしね。
並べたのは【ポーション】作りの道具。
クラーケンのおかげで減った【ポーション】を作っておかないと。
少ししたらネアたちと一緒に水着を買いに行こうと誘われているのでちゃっちゃと作っておこうと思う。
「えーっと。この材料なら、作れるのは【麻痺ポーション】と【マジックポーション】も作れるね。………どうしよう。【酔い治しポーション】の材料が足りない」
ゆゆしき事態だった。
これでは船旅ができない。―――――カーダが。
「と、とりあえず作れるものは作っておこう。っと」
そういえば【神速作業】はアクティブかもと言ってたね。
これを使うって念じればいいのかな。
さ、作ろう。
一分後
「……早いよ」
二種類のポーションが5本ずつ並んでいた。
一本に掛けた時間は、わずか6秒だ。
これは神業と言われてもうなずけるレベルだ。
あ、【スキル】はアクティブで合ってたよ。早く済ませたいって思ったら勝手に手が早く動いて、私の思考速度も引っ張られるように上がってた。
「まあいいや」
それらを【アイテムボックス】に詰めて、私は着替える。
旅用にと思って少し厚めに着ていたのを脱ぎ去り、薄手の物を取り出す。
そうそう、この世界って馬車とか使ってる割に服飾技術は結構進んでるんだよ。
日本のものと遜色ないレベル。
スカートもひらひら、シャツにパーカーもあるし。さすがにプリントとかはないけどね。
無地の服なら本当にさしたる差がないのだ。
おしゃれなんかもしやすくていい。
ミニスカートにシャツを着て、上から薄手のを羽織ればオーケー。
さあ、バカンスを楽しもう。
あとは素材を買いに行こう。
カーダの吐き物なんて見たくないし。
とりあえず買い物にゴー!
なんだか【スキル】説明がすごいことになってます。
ひょっとしたら変更するかもしれません。