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私の平穏はどこにある!?   作者: 崎坂 ヤヒト
二章
16/45

早すぎる再会

クラーケンとの激戦から二日後。

私達は【ガルニア列島】その旅立った港町まで戻ってきてしまった。

二日も時間がかかったのは私たちの休息のためと。

……氷が溶けなかったからだ。


てっきり海面の表面だけ凍り付いていたのだと思っていた私は愕然とした。

【氷結ポーション】八十七本分は私の想像以上の効果を発揮した。

かなり深くまで凍らせてしまっていたようなのだ。

リックの話では同種類の魔法を同時に発動すると連接してより強力な魔法に変化するという研究成果が、昔あったらしい。

【ポーション】も一応『魔法薬』という名前であり、作る際には【魔力】をこめるから、同じことが起こったのではないか? とリックは言う。

とういうことは、私はポーションをとにかく作れば、それを連鎖させることでめちゃくちゃ強力な魔法が使える、と。

それはなんとも。


効率の悪い。


大前提として【ポーション】は消耗品である。

しかも製作に【魔力】と手間と材料が必要となる。

今回は船の倉庫に運送用の薬草や素材の類が大量に入っていたからよかったものの、個人で集めるとなるとそんなに数を作ることはできない。

やっぱり私は冒険向きではない。


そう再確認できた。

だから言わせてもらう。


「お断りします」

「っ? どうしてかな?」


私達がいるのは港町の市長の執務室だ。

そこで私たちは今回の経緯と、これからどうするのかと聞かれた。

カーダはもちろん冒険者になると話し、リックはそれについていくと言う。

で、それならと。市長さんが紹介状を出してくれることとなった。

紹介状があれば、本来冒険者は五段階に分かれるギルドランクA、B、C、D、EのEランクから始めなければならないのだが、今回のクラーケン戦で最低でもCランククラスの実力はあると認定され、Cランクからスタートできるという話だ。

カーダとリックはもちろんそれに喜んだ。

しかし私は。


「ランク上がると税金上がるんですよね」

「「そんなこと!?」」

「お、お嬢ちゃん。確かにランクが上がるとギルドの徴収する金額も増えるが、年間で少しだし、依頼でのギルドの紹介金は二割で統一されてる。それにそれは高ランクになれば依頼での収入も上がるからなんだよ?」

「むー」


ネアの影響でドケチになっちゃってるのかな?

あ、本人いたら殴られそう。

いやデコピンかな?


「分かった。じゃあ、私だけDランクで」

「Eと税金変わらないからかい?」


もちろん。

ギルドによる税金の取得率はこうなっている。


E、Dランク;まだまだ初心者。銀貨五枚

Cランク;もう大丈夫中級者。金貨一枚

Bランク;優秀な上級者。金貨三枚

Aランク;凄腕冒険者。金貨五枚


ちなみにこの世界のお金は


銭貨1ペリ

銅貨10ペリ

大銅貨100ペリ

銀貨1000ペリ

金貨10000ペリ

白金貨100000ペリ

皇金貨1000000ペリ


となっている。

まあ、日本円とは価値基準が違うんだけどね。

ちなみに白金貨と皇金貨は市場には出回らない。

貴族や王族が大きな買い物をするために使うものだ。


「それに私はそんなに戦闘向きじゃないし、リック達よりも劣ってると思ってます」

「それは謙遜では……。話に聞けばクラーケンの足止めをしたのも、倒したのもお嬢さんだと。私はその話を聞き、むしろお嬢さんはBランクでもおかしくないと思ったくらいでした」

「それはたまたまです。あんなこと、そうホイホイできません。だから絶対Dランクでっ」


私と市長の討論はしばらく続き、最終的に私はDランクで始めることになった。

勝った。


「俺、お前がどんな奴なのかよく分かんなくなるよ」

「僕も」


部屋から出ると、二人はそんなことを言ってきた。


「でも大したことなくてほっとしたぜ。もしかしたら海を凍らせたことで何か言われるかも、と思ってたしな」

「それはあったね」


ところがどっこい、私たちをたたえる言葉の方が多かった。

ポーションに使った材料も、弁償はしなくていいそうだ。

しかも、しばらくは船を出せないということで、一週間はこの港町に滞在する必要が出てしまったのだが、市長がその宿泊先を手配してくれることになったのだ。

それは凄くうれしい。


私達は建物の前で待っていた馬車に乗り込み、そのホテル、こっちでは統一して宿らしい、に向かった。

地味に馬車乗ったの初めてだ。


「うぷっ」


ハッ!


そう言えばカーダは凄く酔いやすかったんだった。

私は【アイテムボックス】から【酔い治しポーション】をカーダに渡した。


「ぷはぁっ。悪いほんと助かる」

「それはどうも…。まあ、馬車の中で吐かれたくはないし」


まずい。今ので在庫がない。

もともと私自身は酔わないから必要なくて数を作ってないのだ。

今まで持ってたのもただの練習用である。


(宿に着いたら作っておかないと)


それから一時間ほどで馬車は宿にたどり着いた。

馬車って結構遅いのね。


「ここでございます」

「「「おおっ」」」


そこはホテル。まさしくホテルだった。

流石に現代レベルにビル建設などではなかったが、筒状の建物で広いロビーにテラス。極めつけはビーチがあるっ。

案内人の話では、ここが観光用でもっとも高級な宿なのだとか。

水着を買おうっ。

私達は早速ロビーでチェックを済ませに向かう。

内装も綺麗で、赤いじゅうたんが敷いてある。ベッドもふかふかとの話だ。

こんなところに泊まれるなんて夢みたい。


さーて。部屋はどんなところかなぁ。

わくわくした気持ちで私がカギを貰っていると、リックとカーダはそっぽを向いていた。

あれっ、どうしたの二人とも?

ん。

そっぽを向いている。と思ったのは一瞬、二人が同じ方向を向いているのに気付いた。

私もそっちを向いて見る。


……………………………………。


それぞれ二人部屋の鍵を私とカーダで一つずつ持った私たちはどうしたものか、と思った。

そこは待合用のソファで。


「元気出せって。お前が、せっかく楽しみにしていたバカンスだぞ」

「………」

「ほら、美味しい飲み物ももらって来たの」

「いらない」

「じゃあ泳ぎに行くか? もう三日も泊まってるのに、まだ行ってないだろう」

「気分じゃないわ」

「も~。仕方ないじゃない。誰もが通る道なのよ。あの子たちの旅立ちを祝福してあげなきゃ」

「分かってるわ。分かってるの…でも」


綺麗な女性が落ち込んでいて、他の二人の男女が慰めているという光景。

そこにいるのは皆美男美女。あたりの観光客の目を惹きつけていた。

特に今、泣き出しそうな女性は、綺麗な金色のロングヘアーに女神かと錯覚するような美貌を兼ね備えている。

ていうかさ。


ネアじゃん。


「ねえ、カーダぁ。私どうしたらいいと思う?」


三人の会話もばっちり聞いていた。

ネアが辛そうにしているのは私が原因であると察しもついている。

でもさ。

気まずくない?


私まだ旅立って三日だよ?

ホームシックとかにもまだなってないし、全然大丈夫。

で、もう片方の離れ離れになった女性は凄く悲しんでて、でも必死に乗り越えようとしてる。

話しかけていいのでしょうか?


「行ってやれ。と、言いたいが、俺もどうしようか迷うな。おっさんにあいさつ。するべきか?」

「僕は話しかけたいけど。いいのかな?」

「うーん」


「メリル!」


って、見つかった。

ネアは両目を目いっぱいに開いたまま立ち上がってこちらに駆け込んでくる。


「え、ちょ、ネア?!」


ダキッ


「メリルゥゥウ~」


ギューっと思いっきり抱きしめられる。

私はネアよりも頭一つ分以上身長が低くって、胸に顔をうずめる結果になる。

これ男なら羨ましがるだろうけど女の私にとっては苦しいだけだからね、頭ホールドされて痛いだけだからね。


「会いたかったぁ」


苦しいんですが!


いくらなんでも再開するのが早すぎる。


「んんんん~!」


(とにかく離してぇー)


次回、ほのぼの回の予定です。

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