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私の平穏はどこにある!?   作者: 崎坂 ヤヒト
二章
14/45

船上にて④

やばい。

やばいやばいやばいやばいやばい。

巨大な魔物がすぐそこに迫ってる。

船は今、横向きに進んでどうにかクラーケンから逃げようとしているけど、圧倒的にスピードが足りてない。

船の鋼板には、冒険者の皆さんが集められ、もしもの時は、というかほぼ確定的に戦わされることになっている。

船の乗客はざっと見積もって百人ちょい。

その中で冒険者は十二人だ。

この短時間によく動けたものだ。

いや、人数が少ないから結構スムーズに動けるか。

でも、何故か私もその中にいる。

カーダが。


「俺たちも戦うぜ」


なんて言ったからだ。

普通そこで大人は「子供は引っ込んでろ」とか言うもんじゃないの?

なんなの


「今は少しでも人手がほしい。戦えるなら協力してくれ」


って。しかもみんなかなりへっぴり腰で現れてるんだけど。

クラーケン接近まであと五秒。

このタイミングでの皆の様子をお伝えします。

カーダ。大剣を握りしめて、やるぞ、という面持ちで構えています。

リック。すでに魔力を集中して、牽制も込めて大技の準備中。


その他…震えてて使い物にならねええええええ!


しかもリックと私以外に魔法使えそうな人いないし。

皆剣持ってるけど、そんな腰引けてたら一発でやられちゃうよ。

おまけに女私一人だよ。大の男どもが一番やる気ないってどういうこと! 

あんたら戦闘職だろうが!


私はそれらの状況を分析し、最適解を探した。

ずばり、どうやったら逃げ切れるか。

まず戦ったら船がつぶされて終わりだ。

後は待ってました。捕食タイム~。ふざけんな!


「―――《アクアフィールド》オオオオオオオオ!」


絶対沈ませないという勢いを込めてはなった全力の《アクアフィールド》。ちなみに九割魔力使用だ。

つまり、私のこの世界の初期値分レベルの【魔力】を注ぎ込んだ、船全体を守る防御壁。

流石に全部そそぐと魔力切れで意識失うので仕方ない。

使った魔力は【マジックポーション】をがぶ飲みして回復。

ついに接触したクラーケンの触手が結界に絡みついた。


フォオオオオオオアアアアアアアアアア!


クラーケンの叫びとともに、結界が震えだした。

げっ、九割使ったのに長く持ちそうにないってどんだけ。

そもそもがサイズ維持のために多くの魔力を割いてるから防御面では前に作った二割防御結界よりもやや下がってしまう程度しかないのだ。

私一人だけなら絶対安全レベルまで行けたと思うが、これは船を守るのが目的だから仕方ない。


「リック!」

「うん。

―――《ウイングトルネード》!」


ゴォオオオオオオオオオオ!


私の結界が悲鳴を上げてすぐ、リックが貯めてた魔力を使って【風】の【上級魔法】を放つ。

それは竜巻だった。

発生地は当然クラーケンの胴体部分。竜巻はクラーケンを包むと海面に穴をあけて、その巨体を宙に浮かせる。

流石に耐えられないのか、結界から触手を離したクラーケンはひっくり返り、腹の二本の触手をあらわにしながら、竜巻の刃に傷つけられていく。


「おお。効いてるぞ!」

「いける!」

「よし、そのまま倒せ!」


さっきまで怯えてた連中が騒ぎ出した。

そこ、うるさい。

そもそもあれくらいで倒せるなら図鑑の説明書きに『逃げろ』なんて書いてないって。

私は結界に魔力を注いで、削れた耐久値を回復させる。


「カーダっ。あいつが全力で襲ってきたらもたないから、最低でも上は守ってよね」

「おうっ。任せとけ!」


自分の身長より大きな触手が八本もあるのに、どうしてこいつはこんなに余裕なのか疑問だ。

まあ、完全他人頼りのおっさんたちよりはましだけど。

リックは既に次の【上級魔法】の準備に入っている。

よし。

ついに風が止んで、クラーケンが竜巻から解放される。

同時に海の水ももどり、クラーケンの巨体は大きなしぶきとともに海面へと落ちていった。


「やったか?」


やれてるわけないだろ。

フラグ建設するにも早すぎるわ!

いくらクラーケンを傷つけたって言っても、つけた傷は全部あの巨体にとってはかすり傷くらいでしかないはずだ。

せめて普通なら必殺の一撃なんだから触手の一本でも切れてくれればよかったのだが、そちらは健在だ。


「くるぞっ!」


カーダが水面を見ながら叫んだ。

私達も一斉にそちらに視線を移した。


ザバアアアアアアアン!


ホオオオオオオオオオオオオオオオ!


クジラの大ジャンプ。

それは今、どうにか反転仕切ろうとしていた船への、まさかの空中からの攻撃。

私達は皆、呆けたように見上げた。


バリイイイイイインッ


それは結界が破られる音。

あの巨体にのしかかられたら一秒もって十分と言えるだろう。

私の結界はクラーケンに破られ消滅してしまった。

でもどうにか船への直撃は防いでくれたみたいで、クラーケンは結界を滑るように海へと落下した。

ううぅ。結界がなくなったせいで津波のようなしぶきがもろに掛かってくる。

でもどうにか時間は稼げたみたいで、船は反転した。

私達もそれに合わせて位置を変えていく。


「おじさんたちは、二人ずつに分かれて側面の触手に対応ね!」


私はへっぴり腰のおじさんたちが何か言う前に先手を打って指示を出す。

それにおじさんたちは一瞬呆けた顔をした。


「な、なんで君が「とっとといけや!」ぐほ」


文句を言おうとした人がいたので私はそれを蹴り飛ばして従わせた。


「文句は後で聞くから、とっとと行く! 正面はこっちでどうにかするから! 絡みつかれたらおしまいだよ! どうにか横から来たやつは切り落とせるように努力しろ!」


私の叫び声は、声質が高いせいかよく響く。

聞こえてたおっさんたちは息を飲み、決意を固めたというよりは自分をだますように雄たけびを上げた。


「うおおおおおおお! いくぞてめえら、ちくしょおおおおおお!」

「「「「「あああああああああああああ!」」」」」


その姿はまさに爆弾背負って敵地に突っ込む兵隊の姿だった。

違うのは、彼らが持ってるのはただの剣であるということで。


(爆弾持って突っ込む兵士の方がまだ使える)


「お前、内心ひでえこと考えてんだろ」


後ろでカーダの呆れたような声がかかってきた。

振り返ると、ついに触手を船へと伸ばしてきたクラーケンに、白い光を帯びた大剣を構えるカーダの姿があった。


「え? なにそれ!?」

「いくぜ! イグニッションブレード!」


上空から来る触手に、カーダはすさまじい跳躍を見せて迫った。

あれは戦士の動きじゃない。

ついでに振り上げられた大剣からは爆発が起こり、触手に触れると先端部分を破壊した。


「はあっ!?」

「もういっちょ、ボルテックソード!」


カーダはそのまま落下するとともに、船へと迫っていた触手に大剣を突き刺した。今度はそこから雷撃を刀身にまとわせて触手を焦がす。


「ちっ。やっぱ【雷】は効果薄いか」


言いながら大剣をぶん回して触手を切断し、触手と壁を蹴って鋼板に戻ってくる。

何こいつ。

めちゃくちゃ強いんですけど。

ていうか。


「カーダって、魔力50じゃなかったっけ?」

「ああぁ? ああ、これは【剣豪】と【加護】の合わせ技だ。それぞれ《技》の付加と《属性》の付加を与える【スキル】だからな。名前は俺のお手製だ。格好いいだろ?」

「ダサい」

「ちょっ、おまっ。それ酷くね!」

「技名なんて必要なければ叫ぶだけ無駄でしょ」

「この女、ロマンが分かってねえな!」


カーダは私の反応に文句を付きつつ、前を向き直した。


「で、結界をもう一度ってできんのか?」

「それは無理。ここまで接近されたらクラーケンも中に入っちゃう」

「じゃあ、仕方ねえな。ちなみに腹の触手はどうなってんだ?」

「そっちは現在全力防御中」


そう。私は結界が破られて以降、何もしてないように見えて実は結構奮戦しているのだ。

触手が内側に入ってしまったせいで、もはや上部は無理と判断した私は、苦手属性の【雷】をもつ触手を押さえるべく、船の下に【魔力】を集中させて守っている。

配分は五割だ。

手持ちの【マジックポーション】は在庫はまだあるからしばらくは持つだろう。

下の前方に結界を集中できるので三割分くらいの防御力になっている。

さっきとは硬さも格別だ。

さて。そろそろか。


「魔力の充填出来たよ!」

「よーし、やっちゃえ、リック」

「かましてやれ!」

「うん。

―――《エクスプロージョン》!」


ズドォオオオオオオオオオン!


それは文字通りの大爆発だ。

【火】の魔法の中で、最大の範囲攻撃。威力はもちろんのこと今回みたいな巨体相手には最適な魔法だ。

爆発はクラーケンの下から起こっている。

そのため、腹にある触手にもダメージが入る。

目に見えない分、危険なのはそっちの方だった。


フウウオオオオオオオオ!


またしてもクラーケンはひっくり返る。

そしてしっかりと触手にはダメージが入っていた。

二本ともボロボロになってちぎれていたのだ。

やった。これでもう下からは安心だ。

念のため、結界は張ったままにしておくが、後は上から来る触手に対応すればいい。


流石に丈夫過ぎて倒しきるのは無理だが、今も船はクラーケンから距離を離している。

このまま足止めを繰り返して、逃げ切らせることくらいは出来そうだった。


「よし、油断なくいくぞ」

「「うん」」


って。なんか不思議と息合っちゃってるし。まずい、なんかこのまま冒険もこの三人で、みたいな雰囲気になっちゃってるよこれ。

どうしよう。

なんて、考えてるのは余裕が出てきたってことなのかな?

まあ、なんとかなりそうで良かったとは思うけどね。

クラーケンもなんか、ひっくり返ったまま動かないし。


………………………ん?


なんで動かないんだろう?

さっきまであんなにアクティブだったのに。

触手が減ってもまだ体当たりくらいはできるはずだし。

そもそも。

ちょっと待ってよ。

あれは海の主とか呼ばれてる魔物なんだよね?

それにしては触手が簡単に壊れ過ぎじゃない?

あんなのが何匹もいるとは思えないし。一応【上級魔法】を放ってるわけだけど、そのくらいなら他にもやった人がいてもおかしくない。

そこから導き出される答えは、私にとって最悪の予想。

そう。今、私の目の前で繰り広げられているような。


ひっくり返ったクラーケンからは、白い、泡のようなものが噴出しており、それがもげた触手の傷口部分に集まっていく。


ま、まさか…。


まずい。

それは非常にまずい。

だって、あの威力に巨体に、『そんなもの』まであったら。


私は何でクラーケンが『海王』と呼ばれているのか。その理由を目の前で知った。


泡は、クラーケンの全身を包み、うねうねと、そこから計10本の触手が伸びるのを目撃した。

ついでとばかりに焦げ付いた腹も、綺麗な光を見せている。

クラーケンはその大きさとパワーだけじゃない。

どんなに傷ついても、かならずそこに君臨し続けるから『海王』『海の主』という別名がついたんだ。


それは再生能力。


最初にして最悪の事態が、今、目の前に降りかかっていた。


ホオオオオオオオオオオオオ!


ファンタジーっぽい戦闘になっていたでしょうか?

なっていたら幸いです。

さあ。クラーケン戦は次回まで続きます。

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