船上にて
今回ずっと会話です。
「おうぇええええええ」
あ、どうも。現在船の上です。
ただいま非常に汚いものを出している方がいますが、放っておいてください。
いやー、まさか旅立って感傷に浸るのも済んだところ、改めて三人で自己紹介しようって流れに、紙袋出してげろ始める人物がいるとは思ってなかった訳ですよ。
ちなみに私ではありません。
背中に大剣、腰にロングソード、腕に盾まで装備したそれでいて革装備の少年です。
彼はこのメンバーの中では最年長で十三歳という年齢です。
名前はカーダと言うそうですが現在グロッキー中。
で、もう一人男の子。
名前をリックという。
こっちはローブを着た魔術師風の少年。私と同じ十二歳。
でもこっちに来たのは九歳らしいから、三年間こっちで過ごしてる先輩です。
年は私の方が早くに生まれているけどね。
彼は今、見たくないのか目をつむって耳をふさぎ、カーダの反対を向いている。
私は遠い目で空を見る。
酔い止めあったっけ……。
異世界、旅立って私が最初に考えたのは、そんなことだった。
三十分後。
【アイテムボックス】の中に【酔い治しポーション】があったのでそれを渡した。
「すまん。マジで助かった」
「あー。どういたしまして…」
(最初の会話がこれかー)
いや、初めて会った時に軽く自己紹介はしてたけどさ。
でもこれから三人でどうしようか話し合うとしたところで吐くんだもん。
いろいろ台無しだよ。
船は港に着くまで三日かかるらしいし、その間は親睦を深めようって思ってたのに。
「とりあえず。皆でステータスプレート見せ合わない?」
リックの言葉に、私たちは同意する。
【カーダ】
年齢:十三歳
性別;男
種族;人族
職業;なし
称号;【剣士】【戦士】
罪状;なし
能力(他者可視化);
【魔力】50
【適正属性】無
【力】A
【体力】A
【精神】C
【保持スキル】
〈戦闘系〉【剣豪】Lv2 【盾】Lv9 【大剣】Lv10 【長剣】Lv10
【鎧】Lv6
〈補助系〉 【加護】Lv7 【毒耐性】Lv5 【麻痺耐性】Lv4
【研磨】Lv5 【強運】Lv2 【言語学】Lv10
【リック】
年齢:十二歳
性別;男
種族;人族
職業;なし
称号;【魔術師】
罪状;なし
能力(他者可視化);
【魔力】4215
【適正属性】【火】【風】【雷】
【力】C
【体力】C
【精神】C
【保持スキル】
〈戦闘系〉【魔導】Lv8 【杖】Lv6
〈補助系〉【索敵】Lv8 【加護】Lv5 【言語学】Lv10
【メリル】
年齢:十二歳
性別;女
種族;人族
職業;なし
称号;なし
罪状;なし
能力(他者可視化);
【魔力】2026
【適正属性】【火】【水】
【力】D
【体力】C
【精神】A
【保持スキル】
〈戦闘系〉【弓】Lv3 【短剣】Lv2 【魔術】Lv7
〈補助系〉【裁縫】Lv2 【調合】Lv8 【調理】Lv5 【言語学】Lv10
【隠蔽】Lv1 【交渉】Lv4
三人を見比べるとこうなっております。
何これ……?
「まず【魔導】? 【剣豪】? なんなの、この【スキル】。私知らないよ?」
「【魔導】は【魔術】をLv10にしたら手に入るよ。強化版の【上位スキル】ってところかな?」
リックが首を傾げる私に説明をくれた。
「俺の【剣豪】も同じだな。【大剣】と【長剣】をLv10にして手に入る【剣術】ってスキルをさらにLv10にしたら手に入った」
カーダは二段階成長後ですか…。
「なんか称号もついてるんだけど…」
「そっちは何かしらの【スキル】をLv10にしたら手に入るぞ。ていうかお前のこれ、全体的に低いな。これでどうやって戦うんだよ?」
「低いかな…。生活水準の向上に力入れてたんだけど」
そもそも私は戦闘を視野に入れてない。
【弓】と【短剣】は【魔力】が切れたときの予備でしかないし、【魔術】もほとんど興味でやってただけだ。
でも二人は。
「はあ? なんで異世界に来てまでそんなことすんだよ。
せっかくの異世界だぞ。魔物との激闘、その末にギルドとか作ってさ、仲間も集めていっぱい冒険すんだよ。
そんで終いには世界最強とか呼ばれてみたいじゃん。
俺たちよそから来た子供は皆、能力の成長がめっちゃ高いって天使様も言ってたぞ」
カーダはそんな夢? みたいなことを言って私にまくしたてる。
そう言われてもなぁ。
「せっかくもらえた二度目の人生なのに、そんな危険なことして無駄にしたくないよ」
私のこれ、かなり正論だと思うんだ。
知識があれば町で商売とかして生きていけるし、そんな無理して危険に飛び込んで死んだら、生き返らせてもらった意味がないじゃん。
私はもっと安全なウハウハライフを送りたいんだよ。
「うーん。僕は魔法使うのが楽しくて、ずっとそれしかしてこなかったからなぁ。二人みたいに先のこと考えてなかったよ」
あなたは【スキル】の構成からみて分かります。
典型的な魔法馬鹿ですね、はい。
「二人の担当は、いったいどんな教育をしてたの?」
少なくともうちのネアみたく、しっかりとした教養を与えようというタイプではないだろう。
いろいろ気になる。
「とにかく戦闘! 強ければどんな苦難にも生きていける。【魔力】なんかなくてもな!」
さすが【魔力】50は言うこと違うね。思いっきり脳筋じゃん。
いや、【魔力】がないから仕方なくそういう選択をしたのかもしれないけど。
「僕の方は『好きなようにしなさい』って言われたね。だからずっと魔法の研究と実験をしてたよ」
「魔物相手に?」
「うんっ」
脳筋と魔法馬鹿。
こいつらどうしよう……。
【スキル】見た感じ、生活能力ゼロなんですが。
「そういえばリックは魔法の適正が三つもあるんだね。これ大丈夫なの?」
私はその悲惨な現実から目を背けたくて違う会話を振る。
「ん。何が?」
リックは食いついてきた。よし。
「適正三つって、相性があるでしょ? 反発起こしてないの?」
「ああ。それは大丈夫だよ。この三つはそれぞれ反発を起こさない属性だから。分類的には【火】と【水】。【風】と【雷】に対して【地】。後は【光】と【闇】かな? うまくかぶらない属性を引き当てたね」
「なにそれすごく羨ましいんだけど」
「だから全部【上級魔法】まで使えるよ。手数は多い方がいいからね」
リックは、ふふん。と胸を張った。
羨ましい……。
「でも、『回復魔法』は使えねえんだろ?」
私が羨ましがっているとカーダが割り込んできた。
それにリックは、ピクリ、と反応する。
「そうなんだよね…。使いたいんだけど、あれは【水】と【光】の特性がないとだめだから。適性がなくても練習すれば軽い『攻撃魔法』なら使えるんだけどね」
「そうなるとメリルがいるのはデカいな」
カーダは振り向いて、そんなことを言ってくる。
へ? なんで私?
「お前は使えるんだろ? 『回復魔法』。こいつにない【水】の適性がある訳だしな」
「まあ、できるけど…。『回復魔法』は何故か相性の弱体化作用も受けないし」
「え!? それ本当!」
リックがやけに食いついてきた。
「本当だよ。私、【水】の適性の方が高いから全部試してみたし。まあ、持ってる資料の許す限りだったけど」
「わあっ。その話詳しくっ」
「へ? いやいや、ちょっと待って!」
「待てないよ! 聞かせて、ていうか資料って今もあるの? あるなら今すぐ見せてくれないかなっ。もしかしたら僕の知らないものもあるかもしれないし、魔法の相性以外に、体質的なものもあるのかな? ごめんちょっとぬ―――ぐぺっ」
リックはいきなり飛び付いてきて、私の手を掴み上げる。
私はそれに驚いて。というか引くわっ。
後ナチュラルに『脱げ』とか言いそうじゃなかったかこいつ。
私はその背後でリックの後頭部をぶん殴った人物に視線を向ける。
「それは後でいいだろうが。ていうか今のは問題発言混じってたぞ。あぶねえあぶねえ」
カーダはそう言って、私から、頭を抱えてるリックを引きはがした。
「意外にカーダがしっかりしてるっ!」
「怒るぞてめえ!」
ゴンッ
なんか私まで殴られた。
痛い。あんた【力】Aなんだからもっと手加減してよ。
「―――《ヒール》」
一先ずこぶにならないように回復。
青い光が体を伝って、頭の傷を癒してくれる。
「おっ、これが『回復魔法』か」
「痛かった~。もっと手加減してよね」
「わるいわるい、次からは気を付ける」
「いや、そんなさわやかな笑顔で言わなくていいから。ていうかもうしないでほしいんだけど……」
「まあまあ、そんな顔すんなよ。これから仲間になるんだからもっとゆるくいこうぜ?」
その仲間を背後から気絶させた人が何を――――――ん?
仲間?
「ひょっとして、私がカーダの冒険についていくのは決定事項?」
「そりゃそうだろ。弓に魔法が使えて、おまけに『回復魔法』。【調合】で【ポーション】まで使えるんだろ?
最高の中距離支援だ。
こんな優良物件逃す訳ないだろうが」
「ええっ!? 私は町で【ポーション】作って売り歩く町商人でいいよ。危険な仕事なんてしたくない」
「料理もできるみたいだしな」
「聞いてよ!」
「楽しみだなあ~」
泣きたいんですけど……。
冒険者ギルドで身分証作ったら、絶対別れよう。
私はうつむきながら、そう心に決めた。
個性の強い少年たちと出会ってしまったメリル。
彼女は安全な暮らしができるのでしょうか?
次回も船の上での話です。
※感想でご指摘などありましたら、バシバシ送ってください。