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南の名探偵 くろぼう  作者: ぬるぬるめん
第1部 南の名探偵 編
9/24

No.1 楠虫財産殺人事件 part6

ーーー食堂前ーー



静華は弘記たちのことを

庄吾と幸太に説明するため

食堂の前までやって来た。


「仁が戻ってくる前に黒一さんたちのこと

お義兄さんと幸太さんに説明しておかないと…」


仁は今、車を車庫に停めに行っている。


先に停めておいてほしいと私が言ったからだ。


仁は一緒に説明してくれると言ってくれていたが

私が黒一さんたちを連れてきたのだから

私が説明するのが筋だと思う。

仁に迷惑はかけられない。


食堂に近づくとかすかに声が聴こえてきた。


2人の男の声。


「お義兄さんと幸太さんだわ…

いったい何の話をしているのかしら?」


耳を澄ませてみる。



「兄貴はいつもそうやって

俺のことをバカにする。昔からそうだ。

自分の方が偉いと思ってるんだろ?」


「だからバカになんかしていない。

私はお前のことが心配なんだ」


「何だよその親父みてぇなしゃべり方

やっぱりお前らグルだったんだろ?

だから俺には遺産が一文も貰えなかったッ」


「違うッ。父さんはお前のことを思ってーー」


「うるせぇッ!そんなご託は聴きたくない!!

もうウンザリなんだよ。この楠虫家にはよッ!!」


庄吾と幸太が何か言い争っている。


普段は喧嘩するところなど見ない。


2人とも仲が良いとまでは言わないが

決して悪くはないからだ。


取り敢えず、これ以上発展しないように止めに入る。



「幸太さん!落ち着いてください!」


食堂に乗り込むと

そこには背の高いスラッとした男前と

背の低い やけに太った小汚い男がいた。


男前は高そうなスーツを着こなし

小汚い男はパーカーを着ている。


幸太は……小汚いの男の方だ。


「んッ!?……なんだ静華か。帰って来ていたのか」


幸太は唐突な静華の登場に驚き

イライラを()し殺しながらそう言う。


「あ、静華さん。おかえりなさい。

すいません。お騒がせして……」


幸太とは対称的に静華に対して

礼儀正しく対応する庄吾。


「いったいどうしたと言うんです?

お2人が喧嘩するなんて私初めて見ました」


「お前には関係ねぇよ

いいから部屋に戻ってろ

俺は兄貴と話があるんだ」


「駄目です。

またさっきみたいに喧嘩するつもりですか?

それにここは食堂です。

喧嘩する場所じゃありません」


「お前に説教される筋合いなんてねぇ。

男の話に口出しするな」


「おい幸太!フィアンセだからと言って

女性に対してその口の聞き方はなんだ!

失礼だろうッ」


「その親父みたいなしゃべり方

止めろって言ってんだろうが!」


幸太は庄吾に掴みかかろうとする。


「止めて下さいッ!!」


静華が幸太を静止させる。



「………何の話をしていたのかは聞きません。

しかし、私からはお話があります」


「話?話ってなんだよ」


幸太がイライラしながら静華に尋ねる。


「あの手紙……隠し財産について……

助っ人をこの屋敷にお呼びしました」


隠し財産という単語に

庄吾と幸太の目の色が変わる。


「助っ人だって!?

まさかあの手紙の内容が分かったのか!?」


幸太が食って掛かる。


「完全にというわけにはいきませんでしたが

恐らくあの方たちになら

隠し財産の場所が分かると判断しました」


「本当か!本当なのか!!?

そいつはスゴい!早くそいつらを

ここに呼んできてくれ!」


幸太は嬉しさのあまり

興奮を隠せないでいる。


一方、庄吾は眉間に(しわ)を寄せながら

静華の話を聴いている。


「ちょっと待ってください。あの方たちは

ここに来るまでの間、少しお疲れになっています。

ということは、休息が必要なわけです。

せめて食事の時間まで待ってあげて下さい」


「うーん、そうか……なら仕方ないな。

食事の時間まで待つことにしよう。

おい兄貴、さっきの話はまた今度な。

俺は自分の部屋で休む」


「あー……分かった」


幸太は食堂から出ていった。


幸太は普段、人に対して

あまりキレるような人間ではない。


しかし、1度キレると今回のように止めるのに

多少苦労する。


あんなに取り乱していたと言うことは

よっぽどのことであろう。


「静華さん」


庄吾が声をかける。



「はい。なんでしょうか?」



「その助っ人というのは本当に信用できるんですか?

もしかしたら、我々を騙して

金を(むし)り取るつもりなのかもしれない。

幸太の奴は浮かれてて

何も聞かずに出ていきましたが

どういう素性の方たちなのですか?」


「南の名探偵と呼ばれている方と

その助手をしている方です。」


「南の名探偵………どこかで聞いたことが

あるような………」


「大丈夫ですよ。私が選んだ方たちです。

それとも、私の事が

信用できないって言うんですか?」


「いえ、そんなことは……」


「なら大丈夫ですよね?

あと、あんまり幸太さんを

刺激してあげないで下さい。可愛そうです」


「………すみません。

そんなつもりはなかったのですが……

今後は気を付けます」


庄吾は静華に頭を下げる。


「お願いします」


静華はそう言い残し食堂を後にする。




ーーー再び食堂前ーーー



食堂を出てすぐ、仁と出会った。

どうやら車を車庫に停めてきて

こっちにやって来る途中だったらしい。


「あら仁。申し訳ないけど

もうお義兄さんと幸太さんには

説明してきたわ」


「なんと、もうお話は済んでいたのですか。

あの……庄吾さまたちはなんと(おっしゃ)って………?」


「問題ないわ。納得してくれた。

黒一さんたちは食事の時間に

紹介するつもりよ」


「そうでございますか。では私はお夕食の準備に

取り掛かってもよろしいのですかな?」


「ええ。よろしくてよ」


「では、失礼いたします……」


仁は軽く頭を下げ、キッチンへと向かった。


「黒一さんたちにこのことを伝えに行かないと……」



ーーーその頃弘記はーーー



弘記は自分の部屋で(くつろ)いでいた。


部屋の中にはベットと机と椅子。

お風呂とトイレが一緒に付いてる。

テレビは無い。パソコンも無い。

携帯は持ってきているが

バッテリーが勿体ない。



「うーん……暇だなぁ」


結子は何をやっているのだろうかと

何回か聞き耳をたてていたが

何も聴こえない。


恐らく仮眠でもとっているのだろう。


「しょうがない。屋敷の中を探索するか」


そう言って部屋の外に出る。



その瞬間ーーー。



「キャッ!ビックリしたー!」



若い女性の声。しかし、結子ではない。


「あ、す、すいません。大丈夫ですか?」


女性の姿を確認する。


「あー、いえ、こっちが悪いのでお気になさらず!」


その女性は小柄で使用人の服装しており

髪はショートボブで黒髪。

歳は結子と同じぐらいに見えた。



「あのー、何をしていたんですか?」


弘記が当然の質問をする。


「えーと……

お客様がお泊まりになっているということで

もしかしたら、噂の探偵さんなのではないかなーと

思ってーー」


「聞き耳たてて、こそこそしてたんですね?」


「はい……すみません」


申し訳なさそうに頭を下げる。


「別に気にしてませんよ。

それより、噂の探偵ってどういうことですか?」」


「あ、それは……私が静華さまにお伝えしたんです。

この南部には南の名探偵と呼ばれる探偵がいると。

それで静華さまは探偵さんのところへ……」


「え、あなたが静華さんに僕のことを?」


「はい。私の友人が【去年の夏に助けられた】って

そう話してくれたんです」


「…去年の夏……うーん……すいません。

もう少し詳しくお願いします」


今まで色々な事件に巻き込まれたものだから

それだけのキーワードでは

全く特定できなかった。


「えーと、大富豪【富酒(とみざけ)】氏の

パーティーに呼ばれて……そこで出会ったって……」



「富酒さん……パーティー……

あ、もしかしてあの子か!!」


弘記には思い当たる節があった。


それは去年の夏に、大富豪の富酒氏が企画した

【世界的企業の社長】が集まるパーティーに

無理矢理参加させられ

そこで、いつものように事件が起き、巻き込まれた。


その時に、ある会社の社長令嬢と仲良くなったのだ。


「そうです。あの子です。

その子は高校の時の親友なんです。

黒一さまのことスゴく自慢してました!」


「あー……なるほど。

まさに類は友を呼ぶっていう ことわざ通りだ」



その子もこの子と同じように好奇心旺盛で

ちょっとやかましい、変わった感じの子だった。



「どういうことですか?」


「いえ、なんでもありません。

それよりも、あなたの名前を教えて下さい」


「あ、申し遅れました。

私はこの楠虫家の使用人【(あや)】と申します」


「よろしくお願いします。

僕は探偵の黒一南厶と言います

……ってもうご存知ですよね?」


「はい。ネットでも載ってますよね。

黒一さまのこと。

あ、敬語は使わないでください。

私の方が歳下ですし」


「分かりました……あ、いや、分かったよ彩ちゃん」



「やった!あの、かの有名な南の名探偵と

知り合いになれるなんて夢みたいです!」


(まぁ……僕……

あんまり大したこと出来ないんだけどね……)


「黒一さまは もうお屋敷は見て回りましたか?」


「ううん。これから行こうかなって」


「そうですか。ではその……よろしければ

私がご案内いたします!」


「え、いいの?仕事あるんじゃ……」


「ま、まぁ……これも立派なお仕事ですし

お気になさらないで下さい!」


「そ、そう?じゃあお願いします」


「任せて下さいッ!私、案内って得意なんです!」



(案内が得意ってどういうことなの……?)



弘記は彩に屋敷を案内してもらうことになった。



ーーー屋敷の地下室ーーー



弘記は彩に屋敷の地下室まで案内される。


そこには本棚に大量の本が

敷き詰められ、並んでいた。


それらを少し手に取って読んでみると

【蚊の幼虫であるボウフラ】のことや

【殺虫剤の製造】それに関する【薬品の調合方法】

などが記されていた。


そして所々に

【虫かご程度の大きさ】の【四角いガラスケース】が

置いてあった。


ガラスケースの中には

黒い物体が大量に飛び回り、うようよしている。


「うわ……このケースの中の奴って………」


「はい。【蚊】ですね。実験用の」


「う……ちょっと気分が悪い。

早くこの部屋を出よう」


弘記はあの3日間に及ぶ

蚊との攻防戦を思い出していた。


まさか……

また大量の蚊を目にすることになろうとは……。


弘記は2度と近寄らないと心に誓い

彩に別の場所を案内してもらうことにした。



ーーー屋敷の外、玄関前ーーー



屋敷の中を一通り案内してもらった弘記は

今度は屋敷の外を案内してもらうことに。


玄関までやって来た弘記は

そういえば と思い、彩に玄関に付いている

例の小さい子どもの形をしたヘンテコな呼び鈴に

ついて聞いてみることにした。


「ねぇ、あのヘンテコな呼び鈴のことなんだけどさ」


「え?……あっ、あの子どもの形をした呼び鈴の

ことでしょうか」


「うん。変わってるよね あれ。

特に呼び鈴の音とか」


「……一応あの音……私の声なんですが……」


「えっ!!あれ 君の声だったの!?」


「はい。【録音】出来るんです。あの呼び鈴。

因みに、ここにいる使用人全員の

声を録音しています」


「複数録音出来るんだね」


「はい。しかし、

もう録音出来なくなってしまいました」


「どうして?」


「少しおふざけが過ぎたと申しましょうか……。

容量がオーバーしてしまいまして」


「あ、分かった。君が調子にのって

たくさん録音したんでしょ?」


「いいえ、私ではありません。

一番ふざけていたのは仁さんです」



(何やってんだよ…あのハゲ……)



「その次にふざけていたのは愛さんです。

お二人とも、ああいうハイカラなものを

見ますと、つい気持ちが(たかぶ)ってしまう

みたいでして」


「何か、年長者の方たちが和気藹々と

していると こっちも気分が良いね」


「そうですね。しかし、あの呼び鈴の音は

当然ですが、屋敷中に響きます。

昔、少々【度が過ぎた音】を録音してしまい

旦那さまに注意されたこともあります」


「度が過ぎた音……?」


「【叫び声】です」


「誰の?」


「【仁さん】です」



(なにやってんだよ…あのハゲ……)



「あ、しかしそれは静華さまが

悪ノリして、仕方なくやってしまったことです」


「ああ、なるほど。大体想像つくよ」


「どんな感じだったかと申しますと

『のほほおおおおぉぉぉぉぉぉおおおんっ!!』

という感じでした」


「叫び声というより甘美の声だよね それ。

まぁ、そのことについてこれ以上は追求しないよ」


「そうして下さると仁さんも助かると思います。

一応、古傷として残っているようなので」




「ところでさ、どうしてあの呼び鈴を

取り付けることになったの?」


「えーとですね、あれは旦那さまが

お亡くなりになる一月程前に

旦那さま本人が 特注で ご購入されたものでして」


「え、なんか意味深だね それ」


「いえいえ、そのようなことはございませんよ。

ただ、呼び鈴が鳴らなくなってしまったのです。

それで旦那さまが

わざわざ取り付けて下さったのです。」


「録音出来る物にした理由は?」


「『面白いから』という理由以外に

お答えにはなりませんでした」


「そう……。けど、もう録音出来ないなんて

もったいないね」


「はい。私も楽しんでいたのですが……。

もう【今まで録音したものしか】再生出来ない

なんて本当にもったいないと思います」




呼び鈴の話で盛り上がった二人は

今度は屋敷の裏を見て回った。


そこには【資材置き場】があった。

【大量の木材】と【花に使う肥料袋】が

積まれている。


「おー、これはスゴく重そうだね」


弘記は木材と肥料袋を指しながら言う。


「そうなんですよ!これ運ぶの大変で……

あ、このことは皆さんに内緒なのですが

愛さん、最近、あの肥料袋を運ぼうとしたら

【ぎっくり腰】になったんですよ」


「え!じゃあ今もぎっくり腰で

大変ってことだよね?

そんな素振りは一切見せなかったな」


「愛さんのプロ根性はスゴいですから。

総合的なステータスだけでなく

単純な力比べでも仁さんより上です」


「それは凄いな……」


「あ、因みにその場にいた【私以外】

誰もこの事実を知りません。

口止めされてるんです。

周りに心配かけたくないって。

まぁ【20年】もここで働いているらしいですし」


「20年も!?じゃあ仁さんは?」


「仁さんは【40年】って言ってました。

そもそも仁さんは

亡くなられた旦那さまの

【大学時代のご友人】らしいです」


「え、そうなんだ……

友達の召使いを職業として

選んだってことだよね……なんでだろう?」


「うーん……それは存知あげません」


「あーそうだよね……

そうだ、彩ちゃんはここに勤めて何年になるの?」


「今年で2年目です」


「へぇ。じゃあ新人さんだ」


「はい。まだまだひよっこです」


「そうだね。まずは仕事を

サボらないようにしないとね」


「うっ……黒一さまは

意地悪なことを仰るのですね……」


「ごめんごめん。けど仕事をサボるための口実として

利用されている気がしてね」


「まぁ、うたぐり深いんですね?黒一さまは」


「長くこの仕事をしているとそうなるんだよ。

で、実際どうなの?」


「仰る通りでございます」


「隠す気ないんだね……」



そんな話をしながら

裏の資材置き場から表の庭に行く途中に

森へと続く一本の道を見つける。


「ん?この道の先には何があるの?」


「【倉庫】です。向こうにも

資材などが置かれています」


「そうなんだ。何か先が見えないんだけど。

いったいどのくらい続いているの?」


「【1km】です」


「1km!?」


「はい。そのぐらい離れてないと

危ないらしいのです。

詳しくは存知あげないのですが。

危険な薬品などが置かれているからだと思います」


「けど移動するの大変じゃない?

【徒歩で大体15分ぐらい】だよね?」


「確かにそのくらいかかりますが

普段は【車で移動している】ので大丈夫です」


「あ、なんだ、車で移動してるんだ。

軽トラックに積んで

資材を置きに行ってるって感じ?」


「その通りです。私は車の免許持っていないので

ほとんど関わりがありませんが……」




そこへ―――1人の使用人がやって来る―――




「あ、彩ちゃん。こんな所にいた~」



まだ会ったことのない女性の使用人だった。

見た目は若干小太りでのんびりしてそうなイメージ。

髪は長く、三つ編みにしている。


「あ、【あき】さん!どうしたんですか」


「どうしたじゃないよ~彩ちゃんから

仕事の報告がないから

またサボったんじゃないかって

愛さんカンカンだよ~?」


「え、それはヤバいです!早く報告しないと!」


「あと、もうすぐ夕食の時間だから

準備手伝って欲しいんですって~」


「分かりました。今すぐ行きます。

それでは黒一さま、名残惜しいですが

失礼いたします!」


「うん。案内してくれてありがとう。助かったよ」


彩と明は弘記に会釈して

足早にキッチンへと向かっていった。


「そろそろ部屋に戻っておくか

あんまり長い間ウロウロするのも良くないし」



弘記は夕食の時間になるまで

自分の部屋でゆっくりすることにした。




part7へと続く……。

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