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南の名探偵 くろぼう  作者: ぬるぬるめん
第1部 南の名探偵 編
5/24

No.1 楠虫財産殺人事件 part2

(ここが……黒一探偵事務所……なの…?)


そんな隠しきれない不安を募らせるのは

今回の依頼人こと【坂上静華(さかがみ しずか)】。


彼女は某大手企業の社長令嬢。


とある事情で黒一探偵事務所を訪れた。


さっきこのお店の店長にここまで案内されて

あとは目の前の扉を開けるだけなのだが………。


(【事務室】って書いてあるんだけど……)


扉のネームプレートにはそう書かれていた。


ここに、その道では名の知れた名探偵がいると聞き

やって来たのだが……。


自分が想像していたものとは異なり

どこの建物にもありそうな

どこか見慣れた扉がそこにあった。


しかもちょっと汚い……。


(うーん………やっぱりガセだったのかしら?

さっきの店長も何か のほほんとした人だったし…)


というより、どうして総合スーパーの中に

探偵事務所があるのだろうか。


普通、探偵社とかそういう別個の建物が

存在するものではないだろうか。


そんな疑問の数々が

彼女の歩みを止める要因となっている。


「大丈夫ですよ。静華さま」


静華に付いてきた 体格のよい

初老でハゲの使用人【(じん)】が

静華を優しく(さと)す。


「でも仁……私やっぱり不安だわ……」


「大丈夫ですって。ネットで検索したら

この場所が出てきたんです。

間違いありません」


「それって信用できるの?

それに評判とか聴いたことないんだけど……」


「大丈夫ですよ。ここの(くち)コミ

『すごい!』『やるじゃん!』『さすがだわ~』

って書いてあったんですから」


「そのSNSの【いいね!】みたいな

テキトウ感何なの?バカにしてるの?」


「静華さま、ネットを(あなど)ってはいけません。

今の時代、ネットを動かす者こそが

世界を動かすのです。

ほら、最近ネットで動画を配信して

有名になった方がいらっしゃるじゃ

ございませんか」


「あのコーラを鼻から噴射しながら

交番を襲撃した人?

ただの犯罪者じゃないの」


「いえ、逮捕はされてないみたいですよ?

それに、あの動画の撮影に加担した方々も

皆さん厳重注意で済んだみたいですし」


「それで、何か世の中に

変化でも起こったのかしら?」


「はい。コーラの売り上げが伸びたそうです。全国規模で」


「はぁ……世も末だわ………」



本当にどうでもいい話題だが

私は仁とこういう会話をするのがけっこう好きだ。



仁は私が不安な時はいつもこうやって

(なご)ませてくれる。


しかし、彼は私の使用人ではない。


楠虫製薬という

日用品メーカーの社長の

御曹司で次男【楠虫幸太(くすむし こうた)】の

使用人である。


楠虫幸太は私の恋人。


そして今回の依頼の件に大いに関係しているのだが

私は一人で行くって言ったのに

心配してわざわざ付いて来てくれたのだ。


何だか……申し訳ない。


「静華さま。そんなに不安でしたら

(わたくし)が扉をお開けいたしましょうか?」


「いえ、やっぱり私が開けるわ。ありがとね。」


そう言って再び扉の前に立つ。


(大丈夫……きっと探偵さんは素敵な人よ

……うん……そうに違いないわ……)


ーーそしてーードアノブを握ろうとした瞬間ーー


『ギィィィャァァァァァァアアアアアーーー!!!』


突然、ドアの向こうから

悲痛な叫び声が聴こえてきた。


「ひぃッ!なに!何なの!?」


心臓が跳び出る程驚いた。


「静華さま、御下がりくださいッ」


仁は静華の身の危険を感じ

自分の奥の方へやろうとする。


「だ……大丈夫……大丈夫よ……」


仁を静止させ、冷静に

さっきの叫び声について考察する。


あれは………男の声だった。


若そうな声。歳は……20歳ぐらいか?


20歳ぐらいの男が探偵事務所と呼ばれる

不審な場所で悲痛な叫び声をあげた。


もしかして……拷問!?


恐る恐る聞き耳をたてた。


男の苦しそうな(うめ)き声が聴こえる。


きっと中では、男が苦しみに耐えながらも

懸命に抗い続けているのだろう。


(大変………早く助けてあげないと………!!)


「静華さま、ここは一旦(いったん)引いて

助けをお呼びになられた方が………」


「駄目よ仁!あんな苦しそうなのに

ほっとけるわけないじゃない!!」


「しかしですな……」


「まずは中を確認しましょう!」


そう言ってドアノブを握る。


(………開いてる………!!)


これなら中を確認するのも容易(たやす)いだろう。


そっとドアを開ける……。


すると、中から異様な臭いがした。


(……何……この殺虫剤と線香を

混ぜ合わせた すごく残念な臭いは……)


やはり危険なところだったのだ。


早く中を………。



扉を少し開け、覗き見るように

部屋の中を確認すると

そこには椅子に座り

向かい合って何かしている女性2人が……。


あれ……女性2人……?


男がいない。


さっきまで叫んでた男を探してみたが

部屋の中は思ったよりも広くなく

部屋の中にいるのは女性2人だけだった。


(え……じゃあさっきの男の叫び声は何だったの……!?)


疑問は残るが

取り敢えず様子を(うかが)ってみることにした。



「もう!弘記さん!さっきからやかましいですよ!」


片方の女性が声をあげた。


ひろき?


(……ひろきって男の名前よね?)


向かい合っていることから

たぶん、目の前の人間に言っているのだろう。


(え、じゃあ あの人男なの!?)


私が言っているのは

2人の内の小柄で黒い帽子を被って

後ろ髪を結っている方だった。


髪が長いため

てっきり女性なのだと思っていた。


「だってこの塗り薬、滅茶苦茶 染みるんだもん……」


黒い帽子の男が言葉を発する。


それを聴いて

本当に男だと確信する。


(あ、やっぱり私が聴いた男の声だわ……

あの人だったんだ……)


次に起こる疑問として

さっきの悲痛な叫びは何だったのか?

その原因を探ろうとする。


「ほら、つべこべ言わずさっさと腕を出して下さい。

あなたがお願いしてきたんじゃないですか」


「うーん、そうだけどさ……

やっぱり染みるんだよその塗り薬」


「かの有名な楠虫製薬の塗り薬ですからね。

そりゃ効果抜群ですよ」


「出来れば、()みない塗り薬を

開発してほしいなぁ…」


「弘記さんが蚊に刺されたところを

掻きむしるからですよ。

悔しくても、掻いてはいけないって

言ったじゃないですか」


「だって、依頼人を待ってたら

突然痒みが襲ってきたんだもん」


「だからってあんなに掻きむしったら駄目ですよ。

それに、『自分じゃ怖くて塗り薬塗れないー

結子ちゃんお願い塗ってー』なんて

言うんですから。

本当に困った人ですよ あなたは」


「ごめん。悪かったよ。

もう少し我慢するから

塗り薬塗って下さい。御願いします」


そう言って弘記は袖を(まく)り、腕を差し出した。


よっぽど怖いのだろう。

身体を()らせて

固く目を(つぶ)っている。


まるで、予防接種を受けに

連れてこられた子どものようだ。


「はいはい。それじゃあいきますよー」


結子は弘記の腕に塗り薬を塗る。


「ギィィィィィャァァァアアアーーー!!」


弘記が再び悲痛な叫び声をあげた。


「染みるゥーー!!ヤバい!ヤバい!染みるゥゥーー!!

やっぱ無理っす!やっぱ無理っす!アーー!!

無理ですから!!マジでーーー!!

ヤバいーーー!死んじゃう!死んじゃうからこれ!!

アーーーーーーーー!!!!!!」


弘記の叫び声が部屋中に反響する。


本当に苦しそうだ。拷問に近い。


「あーもう!うるさい!」


バシッ


結子が弘記の下顎のラインを狙って叩いた。


一見痛そうに見えるが

そこは、加減によっては叩かれても(ほとん)

痛みを感じず、叩かれた本人はちょっとした

振動を感じるだけである。


結子はその事を知っており

意図して叩いたのだ。



「ぐっ………痛い」



が、加減はしなかったようだ。



「あなたが騒ぐからです。

こっちは耳鳴りがすごいですよ」


「ごめん。でも本当に辛くて」


「そんなじゃいつまで経っても

終わらないですよ?

早くしてください」


「分かった。今度こそ大丈夫だから」


そう言って再び腕を差し出す弘記。


「じゃあ いきますよ?」


結子が塗り薬を塗る。




「ウンギャァァアアアーーーーーーーー!!!」



バシッ



「あ、ごめん。でも今度はーー」



バシッ



「痛って!いやちょっとまってーー」



バシッ



「ちょっと!!なにをーーー」



バシッ



「ねぇ、結子ちゃーーー」



バシッ



「ーーーーーー」



バシッ



バシッ



バシッ



バシッ




「いい加減にしろォォォォーー!!!」



弘記はおもわず立ち上がった。


「なんべんバシバシ叩いとんねん!!ワレッ!!!

顎が滅茶苦茶赤くなってんじゃボケがッ!」


「あ、そこも刺されたんですか?」


「叩かれたのォッ!!君にッ!!」


「じゃあそこも塗っといた方がいいですね」


「やめろぉ!!すんごいひりひりしてんの!

今すんごいひりひりしてんのッ!!

それ塗られたら死んじゃう!!マジでッ!!」


結子が塗り薬を弘記の顎に押し当てようとしている。


必死に抵抗する弘記だが

結子の力は思っていた以上に強いようだ。


「あの………静華さま」


後ろの方から仁が静華に話しかける。


「あ!ごめんなさい。つい見入ってしまって。

そうね、そろそろ話しかけましょうか。

何か面白い人たちのようだし」


静華は扉を開け

部屋の中に入った。


「あ、あのぅ………」


弘記と結子は激しい攻防を繰り広げており

こちらに全く気付かない。


(もっと近くに寄って話しかけるしかないか……)


部屋の奧に向かう。


「あ、あのぅ……

依頼人の坂上静華で………くっさ!!!」


部屋の奥はよりきつい臭いが充満しており

おもわず声を荒げてしまった。


その声に反応して弘記と結子が気づく。


「あの……どちら様ですか?」


弘記が尋ねる。


「わ、私は依頼人の坂上静華です」




part3へ続く……。

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