6/19
005
と,ここまで書いたあたりで,エンミが布団から出てきた。
「何一つ真実がないと思えるけれど」
とても傷つく。――嘘だけれど。
「何一つ――というわけではないでしょ? これが確かに,3月21日のことであったのは嘘だし,わたしにとって,初の顔合わせであったということも嘘だけれど,一部エピソードは真実だったということはエンミも知っているじゃない」
「そもそも,前提である『出会いの話』ではないというところから,中身に真実が混じっていようとも真実にならないでしょう?」
無愛想にエンミが言う。怒っているわけではないのだろうけれど。
「じゃあ,真実を語ればいいのね? でも,そうなると,すこしつまらないと思う」
「そうとも限らないと思うけど」