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003

 出会いは,そんな感じだった。

 しかしその後が問題だったのだ。

 エンミがどういう存在かを思い出さなくてはならない。

 どういう未確認生命体かを思い出してほしい。


 例えばエンミが,居ない子扱いされているだとか,わかりやすければいいのだけれど,そう言うわけではないのだ。エンミは確認されない。確認されないのに,存在している。観測されないのに存在できている。そして,エンミにとって数少ない観測者が現れたのだ。


 それがわたし。

 世界一不幸なお姫様を演じていたわたし。

 それが宇宙一不幸なお姫様を見つけてしまったのだ。

 エンミは確認されないのに,何故か教室に席を与えられていた。どういう風に辻褄が合っているのかはわからない。そこにどれほどの難解な解釈が得られているのかはわからない。しかし,未確認生命体に与えられた,確認できる席は,自動的に転校生の席になってしまったのだ。


 転校生は困った。

 わたしはとても困った。

 ――先生,あの席には誰か座っています。

 そう言った。しかし,先生はお化けでも視たような――いや,お化けを視ているようなのはわたしなのだが――そんな表情でわたしを睨んだ。

 大人が嫌いで,まだ,不幸の世界に住んでいたわたしは,そんな先生を見てすぐに反抗的に睨み返したのだが,こうなると喧嘩のようなものである。


 そうやってわたしを試す気か。なら,やってやろうじゃないか。

 売り言葉に買い言葉。無言の間に交わされたコミュニケーション。

 わたしは怒りながら,その席に向かった。


 席にいたのが宇宙一不幸人――人形魘魅。

 銀色みたいな長い髪の毛が,まるで絹のようにさらさらとしていて,この世のものとは思えないような造形をしている人形。

 まず,人間ではない。

 そういうフォルムだった。


 しかし,同時に,人間であるという認識が,わたしのなかには存在していて,人間ではないと判断したのは〈認識〉ではなく〈思考〉だったのだと,思い至った。

 思考と認識の話なんて,このとき,まったくもって考えてはいないのだけれど。


 その時のわたしといえば,買った喧嘩をどう処理しようかと悩んでいた。

 レジを通って,お金を払った瞬間に,買わなきゃよかったと後悔していた。しかもクーリングオフがきかない,ときた。


 席にはエンミ。

 でも,そこはわたしの席でもある。

 エンミの席でもあるのだけれど,わたしの席でもあったのだ。

 考えても仕方のないことだったし,わたしは諦めて,エンミに直接交渉することにした。これは幽霊みたいなものだから,わたしが頼んだら,エンミが何処かへ行ってくれるかもしれない。

 エンミが何処へ行こうと,それを見て取れるのはわたしくらいだったし。


 それで,エンミに言った。

 ――もしもし。そこはわたくしの席でございます。

 いや,そんな言い方ではもちろん,なかったのだけれど。

 ――その席,わたしの席らしいの。

 呟くように,そう言った。


 するとエンミは,

「……そう」

 と言って,起立した。


 良かった。大変聞き分けのいい,よろしい人だ。人は見かけによらず――見かけないによらず,コミュニケーションもちゃんと取れる。

 わたしはそんな風に安心して,エンミから奪い取った――いいえ,譲り受けた席に座った。


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